同類
ー/ー 慚愧が振り返ったその場にいたのは、睨みを聞かせている男達の姿だった。睨み合っていると、その集団の奥から、一人の男が出てくる。
「その姿は、噂で聞く人だね」
黄赤色の小袖を着た男が言う。
「それは否定しないが、この先にはなにもねぇぞ?」
低い声で慚愧がいう。
その男はにっこりと笑った。
――なんでそこで笑えるんだ?
慚愧はそう思いながらも口には出さず、ただ威嚇する。
「それは構わないのさ。なにもないからこそ用があるんだよ。ここで出会えたのも何かの縁だ。仲よくしようじゃないか?」
微笑んだ男は手を差し出してくるが、慚愧は刀をおさめて、警戒をさらに跳ね上げる。
「こちらのことを知っているくせに、情報の提示を一切しない奴のことを、どう信用しろと?」
低い声で慚愧が言い放つ。
「元締めに向かって、なんて口聞いてんだ!」
――元締め?
慚愧は内心で首をかしげながらも、言ってきた男を睨みつける。
「ちょっと待ちな。黙るのはお前の方だよ?」
「へ?」
男は不思議そうな顔をする。
「おれは確かに、お前の言うとおりだけれど。偉ぶる気はさらさらないんだよねぇ。面の男の雰囲気が変わったの、分からないほど馬鹿なの?」
その言葉を受けて、男はあらためてこちらに視線を向けて、青ざめる。
かなり濃い殺気を感じ取ったらしく、男は黙っている。
「伝わったようでなにより。この場で新たな骸を見たいわけではないだろう?」
くつくつと慚愧が嗤う。
「それには、同意するよ。大事な仕事を任せる奴らだからね。些細なことで斬られたら、おれが困る」
黄赤の着物を着た男は、それでも笑みを崩さない。
「雰囲気にも呑まれねぇ。笑みは崩さねぇ。まったく不気味な奴だな」
「素顔を晒さず、人を斬り続けている君には言われたくないよ」
その言葉を受けて慚愧は思う。
――ずいぶんと口が達者なようだな。
「はっ」
慚愧は嘲笑うことしかできない。
「おれとあんたは多分、同類だよ」
「同類だと?」
慚愧は首をかしげる。
「闇の中でしか生きられないってところが同じだろ?」
「ならば、お前は?」
「〝捌き〟の元締め」
「噂でしか知らんが、実在したのだな」
慚愧は思わず言った。
その名しか浸透していないので、実際に目にしたのは初めてであった。
殺しの現場をなにもなかったかのように偽装するだけでなく、回収した骸を蒐集家らに分配する。
骸を売り捌くことから〝捌き〟という名がつけられたとか。
あくまで噂でしかないと思っていた。だから、調べた情報も信じてはいなかった。
「それは〝悪魔の翁〟も同じだろうに。おれは君と密約を結びたい」
真剣な表情で言う元締めに、慚愧は首をかしげる。
「どのような?」
「人を斬った後、その現場の偽装及び、骸の回収をおれらに任せてほしい。さっき、路地にあった骸を見させてもらったけれど、状態がすこぶるいいんでね。これには驚かされたよ」
元締めはにっこりと笑う。
「腕がいいって言われてる気がするな。だが、どうやってお前らを呼べばいいんだ?」
「指笛を吹くだけだよ。できるだけ長めに」
「次の機会に、な」
「一応言っておくけど、〝悪魔の翁〟についてこっちがうっかり話すことは一切ない。ただし、他の連中に骸を引き渡さないのであれば、だけど」
元締めが笑みを深くする。
「構わん。では」
慚愧は血塗れの右手を見下ろし、左手を差し出した。
「これで、密約はなった」
元締めが嬉しそうに笑みを浮かべて、その手を握った。
慚愧はひとつうなずくと、その場を後にした。
彼らだけが残された惨劇の場。
「さて、いつものように頼むよ」
元締めが声を張る。
がっしりした身体つきの男達が、骸を余すところなく拾い、出血源の元を完全に取り除く。
通りが広かったおかげで、建物に被害はなかった。
続いて男達がいっせいに駆け出し、血糊を土と混ぜて、なにもなかったかのように偽装工作をしていく。
足で踏み固めてしまえば、誰もそこに惨劇があった場所と気づく者はいない。しかも証拠となる血糊は隠すだけでなく、それ自体を消し去っているのだ。
それに、この工程を目にしているのは〝捌き〟の者達だけ。この作業中には邪魔が入らないよう、目隠し要員もいる。
気取らせず、なにごともなかったと信じ込ませる。そのふたつを掟として〝捌き〟を動かしている。
あちこちで人が死んでいるという、事実を闇の中に葬ることで、町の仮初めの平穏に一役買っている。ただそれだけなのである。
斬った本人と〝捌き〟の連中以外に、闇を見る者を独りでも減らすために創ったと言っても過言ではないのだ。
おれらは、覆い隠す幕のような役目を担っていると、元締めはよく口にする。
運び出された骸は、血が滲まぬように幾重にも重ねられた麻袋に放り込む。
麻袋は大中小と三種類あり、骸の大きさによって使い分けられている。
藁を引いた荷車にのせて、がっしりした男二人がそれを曳く。
すべての工程がすんだところで、元締めの男がその場を違和感が一切ないかを見て回る。
きちんと偽装できているのか、ボロはないか、その目で確認していく。
しばらく見て回った後、元締めが声を張る。
「この場はこれにて幕引き!」
荷車をゴロゴロ曳きながら〝捌き〟の者達は根城へと帰った。
「その姿は、噂で聞く人だね」
黄赤色の小袖を着た男が言う。
「それは否定しないが、この先にはなにもねぇぞ?」
低い声で慚愧がいう。
その男はにっこりと笑った。
――なんでそこで笑えるんだ?
慚愧はそう思いながらも口には出さず、ただ威嚇する。
「それは構わないのさ。なにもないからこそ用があるんだよ。ここで出会えたのも何かの縁だ。仲よくしようじゃないか?」
微笑んだ男は手を差し出してくるが、慚愧は刀をおさめて、警戒をさらに跳ね上げる。
「こちらのことを知っているくせに、情報の提示を一切しない奴のことを、どう信用しろと?」
低い声で慚愧が言い放つ。
「元締めに向かって、なんて口聞いてんだ!」
――元締め?
慚愧は内心で首をかしげながらも、言ってきた男を睨みつける。
「ちょっと待ちな。黙るのはお前の方だよ?」
「へ?」
男は不思議そうな顔をする。
「おれは確かに、お前の言うとおりだけれど。偉ぶる気はさらさらないんだよねぇ。面の男の雰囲気が変わったの、分からないほど馬鹿なの?」
その言葉を受けて、男はあらためてこちらに視線を向けて、青ざめる。
かなり濃い殺気を感じ取ったらしく、男は黙っている。
「伝わったようでなにより。この場で新たな骸を見たいわけではないだろう?」
くつくつと慚愧が嗤う。
「それには、同意するよ。大事な仕事を任せる奴らだからね。些細なことで斬られたら、おれが困る」
黄赤の着物を着た男は、それでも笑みを崩さない。
「雰囲気にも呑まれねぇ。笑みは崩さねぇ。まったく不気味な奴だな」
「素顔を晒さず、人を斬り続けている君には言われたくないよ」
その言葉を受けて慚愧は思う。
――ずいぶんと口が達者なようだな。
「はっ」
慚愧は嘲笑うことしかできない。
「おれとあんたは多分、同類だよ」
「同類だと?」
慚愧は首をかしげる。
「闇の中でしか生きられないってところが同じだろ?」
「ならば、お前は?」
「〝捌き〟の元締め」
「噂でしか知らんが、実在したのだな」
慚愧は思わず言った。
その名しか浸透していないので、実際に目にしたのは初めてであった。
殺しの現場をなにもなかったかのように偽装するだけでなく、回収した骸を蒐集家らに分配する。
骸を売り捌くことから〝捌き〟という名がつけられたとか。
あくまで噂でしかないと思っていた。だから、調べた情報も信じてはいなかった。
「それは〝悪魔の翁〟も同じだろうに。おれは君と密約を結びたい」
真剣な表情で言う元締めに、慚愧は首をかしげる。
「どのような?」
「人を斬った後、その現場の偽装及び、骸の回収をおれらに任せてほしい。さっき、路地にあった骸を見させてもらったけれど、状態がすこぶるいいんでね。これには驚かされたよ」
元締めはにっこりと笑う。
「腕がいいって言われてる気がするな。だが、どうやってお前らを呼べばいいんだ?」
「指笛を吹くだけだよ。できるだけ長めに」
「次の機会に、な」
「一応言っておくけど、〝悪魔の翁〟についてこっちがうっかり話すことは一切ない。ただし、他の連中に骸を引き渡さないのであれば、だけど」
元締めが笑みを深くする。
「構わん。では」
慚愧は血塗れの右手を見下ろし、左手を差し出した。
「これで、密約はなった」
元締めが嬉しそうに笑みを浮かべて、その手を握った。
慚愧はひとつうなずくと、その場を後にした。
彼らだけが残された惨劇の場。
「さて、いつものように頼むよ」
元締めが声を張る。
がっしりした身体つきの男達が、骸を余すところなく拾い、出血源の元を完全に取り除く。
通りが広かったおかげで、建物に被害はなかった。
続いて男達がいっせいに駆け出し、血糊を土と混ぜて、なにもなかったかのように偽装工作をしていく。
足で踏み固めてしまえば、誰もそこに惨劇があった場所と気づく者はいない。しかも証拠となる血糊は隠すだけでなく、それ自体を消し去っているのだ。
それに、この工程を目にしているのは〝捌き〟の者達だけ。この作業中には邪魔が入らないよう、目隠し要員もいる。
気取らせず、なにごともなかったと信じ込ませる。そのふたつを掟として〝捌き〟を動かしている。
あちこちで人が死んでいるという、事実を闇の中に葬ることで、町の仮初めの平穏に一役買っている。ただそれだけなのである。
斬った本人と〝捌き〟の連中以外に、闇を見る者を独りでも減らすために創ったと言っても過言ではないのだ。
おれらは、覆い隠す幕のような役目を担っていると、元締めはよく口にする。
運び出された骸は、血が滲まぬように幾重にも重ねられた麻袋に放り込む。
麻袋は大中小と三種類あり、骸の大きさによって使い分けられている。
藁を引いた荷車にのせて、がっしりした男二人がそれを曳く。
すべての工程がすんだところで、元締めの男がその場を違和感が一切ないかを見て回る。
きちんと偽装できているのか、ボロはないか、その目で確認していく。
しばらく見て回った後、元締めが声を張る。
「この場はこれにて幕引き!」
荷車をゴロゴロ曳きながら〝捌き〟の者達は根城へと帰った。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
慚愧が振り返ったその場にいたのは、睨みを聞かせている男達の姿だった。睨み合っていると、その集団の奥から、一人の男が出てくる。
「その姿は、噂で聞く人だね」
黄赤色の小袖を着た男が言う。
「それは否定しないが、この先にはなにもねぇぞ?」
低い声で慚愧がいう。
その男はにっこりと笑った。
――なんでそこで笑えるんだ?
慚愧はそう思いながらも口には出さず、ただ威嚇する。
「それは構わないのさ。なにもないからこそ用があるんだよ。ここで出会えたのも何かの縁だ。仲よくしようじゃないか?」
微笑んだ男は手を差し出してくるが、慚愧は刀をおさめて、警戒をさらに跳ね上げる。
「こちらのことを知っているくせに、情報の提示を一切しない奴のことを、どう信用しろと?」
低い声で慚愧が言い放つ。
「元締めに向かって、なんて口聞いてんだ!」
――元締め?
慚愧は内心で首をかしげながらも、言ってきた男を睨みつける。
「ちょっと待ちな。黙るのはお前の方だよ?」
「へ?」
男は不思議そうな顔をする。
「おれは確かに、お前の言うとおりだけれど。偉ぶる気はさらさらないんだよねぇ。面の男の雰囲気が変わったの、分からないほど馬鹿なの?」
その言葉を受けて、男はあらためてこちらに視線を向けて、青ざめる。
かなり濃い殺気を感じ取ったらしく、男は黙っている。
「伝わったようでなにより。この場で新たな骸を見たいわけではないだろう?」
くつくつと慚愧が嗤う。
「それには、同意するよ。大事な仕事を任せる奴らだからね。些細なことで斬られたら、おれが困る」
黄赤の着物を着た男は、それでも笑みを崩さない。
「雰囲気にも呑まれねぇ。笑みは崩さねぇ。まったく不気味な奴だな」
「素顔を晒さず、人を斬り続けている君には言われたくないよ」
その言葉を受けて慚愧は思う。
――ずいぶんと口が達者なようだな。
「はっ」
慚愧は嘲笑うことしかできない。
「おれとあんたは多分、同類だよ」
「同類だと?」
慚愧は首をかしげる。
「闇の中でしか生きられないってところが同じだろ?」
「ならば、お前は?」
「〝捌き〟の元締め」
「噂でしか知らんが、実在したのだな」
慚愧は思わず言った。
その名しか浸透していないので、実際に目にしたのは初めてであった。
殺しの現場をなにもなかったかのように偽装するだけでなく、回収した骸を|蒐集《しゅうしゅう》家らに分配する。
骸を売り捌くことから〝捌き〟という名がつけられたとか。
あくまで噂でしかないと思っていた。だから、調べた情報も信じてはいなかった。
「それは〝悪魔の翁〟も同じだろうに。おれは君と密約を結びたい」
真剣な表情で言う元締めに、慚愧は首をかしげる。
「どのような?」
「人を斬った後、その現場の偽装及び、骸の回収をおれらに任せてほしい。さっき、路地にあった骸を見させてもらったけれど、状態がすこぶるいいんでね。これには驚かされたよ」
元締めはにっこりと笑う。
「腕がいいって言われてる気がするな。だが、どうやってお前らを呼べばいいんだ?」
「指笛を吹くだけだよ。できるだけ長めに」
「次の機会に、な」
「一応言っておくけど、〝悪魔の翁〟についてこっちがうっかり話すことは一切ない。ただし、他の連中に骸を引き渡さないのであれば、だけど」
元締めが笑みを深くする。
「構わん。では」
慚愧は血塗れの右手を見下ろし、左手を差し出した。
「これで、密約はなった」
元締めが嬉しそうに笑みを浮かべて、その手を握った。
慚愧はひとつうなずくと、その場を後にした。
「その姿は、噂で聞く人だね」
黄赤色の小袖を着た男が言う。
「それは否定しないが、この先にはなにもねぇぞ?」
低い声で慚愧がいう。
その男はにっこりと笑った。
――なんでそこで笑えるんだ?
慚愧はそう思いながらも口には出さず、ただ威嚇する。
「それは構わないのさ。なにもないからこそ用があるんだよ。ここで出会えたのも何かの縁だ。仲よくしようじゃないか?」
微笑んだ男は手を差し出してくるが、慚愧は刀をおさめて、警戒をさらに跳ね上げる。
「こちらのことを知っているくせに、情報の提示を一切しない奴のことを、どう信用しろと?」
低い声で慚愧が言い放つ。
「元締めに向かって、なんて口聞いてんだ!」
――元締め?
慚愧は内心で首をかしげながらも、言ってきた男を睨みつける。
「ちょっと待ちな。黙るのはお前の方だよ?」
「へ?」
男は不思議そうな顔をする。
「おれは確かに、お前の言うとおりだけれど。偉ぶる気はさらさらないんだよねぇ。面の男の雰囲気が変わったの、分からないほど馬鹿なの?」
その言葉を受けて、男はあらためてこちらに視線を向けて、青ざめる。
かなり濃い殺気を感じ取ったらしく、男は黙っている。
「伝わったようでなにより。この場で新たな骸を見たいわけではないだろう?」
くつくつと慚愧が嗤う。
「それには、同意するよ。大事な仕事を任せる奴らだからね。些細なことで斬られたら、おれが困る」
黄赤の着物を着た男は、それでも笑みを崩さない。
「雰囲気にも呑まれねぇ。笑みは崩さねぇ。まったく不気味な奴だな」
「素顔を晒さず、人を斬り続けている君には言われたくないよ」
その言葉を受けて慚愧は思う。
――ずいぶんと口が達者なようだな。
「はっ」
慚愧は嘲笑うことしかできない。
「おれとあんたは多分、同類だよ」
「同類だと?」
慚愧は首をかしげる。
「闇の中でしか生きられないってところが同じだろ?」
「ならば、お前は?」
「〝捌き〟の元締め」
「噂でしか知らんが、実在したのだな」
慚愧は思わず言った。
その名しか浸透していないので、実際に目にしたのは初めてであった。
殺しの現場をなにもなかったかのように偽装するだけでなく、回収した骸を|蒐集《しゅうしゅう》家らに分配する。
骸を売り捌くことから〝捌き〟という名がつけられたとか。
あくまで噂でしかないと思っていた。だから、調べた情報も信じてはいなかった。
「それは〝悪魔の翁〟も同じだろうに。おれは君と密約を結びたい」
真剣な表情で言う元締めに、慚愧は首をかしげる。
「どのような?」
「人を斬った後、その現場の偽装及び、骸の回収をおれらに任せてほしい。さっき、路地にあった骸を見させてもらったけれど、状態がすこぶるいいんでね。これには驚かされたよ」
元締めはにっこりと笑う。
「腕がいいって言われてる気がするな。だが、どうやってお前らを呼べばいいんだ?」
「指笛を吹くだけだよ。できるだけ長めに」
「次の機会に、な」
「一応言っておくけど、〝悪魔の翁〟についてこっちがうっかり話すことは一切ない。ただし、他の連中に骸を引き渡さないのであれば、だけど」
元締めが笑みを深くする。
「構わん。では」
慚愧は血塗れの右手を見下ろし、左手を差し出した。
「これで、密約はなった」
元締めが嬉しそうに笑みを浮かべて、その手を握った。
慚愧はひとつうなずくと、その場を後にした。
彼らだけが残された惨劇の場。
「さて、いつものように頼むよ」
元締めが声を張る。
がっしりした身体つきの男達が、骸を余すところなく拾い、出血源の元を完全に取り除く。
通りが広かったおかげで、建物に被害はなかった。
続いて男達がいっせいに駆け出し、血糊を土と混ぜて、なにもなかったかのように偽装工作をしていく。
足で踏み固めてしまえば、誰もそこに惨劇があった場所と気づく者はいない。しかも証拠となる血糊は隠すだけでなく、それ自体を消し去っているのだ。
それに、この工程を目にしているのは〝捌き〟の者達だけ。この作業中には邪魔が入らないよう、目隠し要員もいる。
気取らせず、なにごともなかったと信じ込ませる。そのふたつを掟として〝捌き〟を動かしている。
あちこちで人が死んでいるという、事実を闇の中に葬ることで、町の仮初めの平穏に一役買っている。ただそれだけなのである。
斬った本人と〝捌き〟の連中以外に、闇を見る者を独りでも減らすために創ったと言っても過言ではないのだ。
おれらは、覆い隠す幕のような役目を担っていると、元締めはよく口にする。
運び出された骸は、血が滲まぬように幾重にも重ねられた麻袋に放り込む。
麻袋は大中小と三種類あり、骸の大きさによって使い分けられている。
藁を引いた荷車にのせて、がっしりした男二人がそれを|曳《ひ》く。
すべての工程がすんだところで、元締めの男がその場を違和感が一切ないかを見て回る。
きちんと偽装できているのか、ボロはないか、その目で確認していく。
しばらく見て回った後、元締めが声を張る。
「この場はこれにて幕引き!」
荷車をゴロゴロ曳きながら〝捌き〟の者達は根城へと帰った。
「さて、いつものように頼むよ」
元締めが声を張る。
がっしりした身体つきの男達が、骸を余すところなく拾い、出血源の元を完全に取り除く。
通りが広かったおかげで、建物に被害はなかった。
続いて男達がいっせいに駆け出し、血糊を土と混ぜて、なにもなかったかのように偽装工作をしていく。
足で踏み固めてしまえば、誰もそこに惨劇があった場所と気づく者はいない。しかも証拠となる血糊は隠すだけでなく、それ自体を消し去っているのだ。
それに、この工程を目にしているのは〝捌き〟の者達だけ。この作業中には邪魔が入らないよう、目隠し要員もいる。
気取らせず、なにごともなかったと信じ込ませる。そのふたつを掟として〝捌き〟を動かしている。
あちこちで人が死んでいるという、事実を闇の中に葬ることで、町の仮初めの平穏に一役買っている。ただそれだけなのである。
斬った本人と〝捌き〟の連中以外に、闇を見る者を独りでも減らすために創ったと言っても過言ではないのだ。
おれらは、覆い隠す幕のような役目を担っていると、元締めはよく口にする。
運び出された骸は、血が滲まぬように幾重にも重ねられた麻袋に放り込む。
麻袋は大中小と三種類あり、骸の大きさによって使い分けられている。
藁を引いた荷車にのせて、がっしりした男二人がそれを|曳《ひ》く。
すべての工程がすんだところで、元締めの男がその場を違和感が一切ないかを見て回る。
きちんと偽装できているのか、ボロはないか、その目で確認していく。
しばらく見て回った後、元締めが声を張る。
「この場はこれにて幕引き!」
荷車をゴロゴロ曳きながら〝捌き〟の者達は根城へと帰った。