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慚愧の結論

ー/ー



 慚愧はその日は家にいて、まだ日も高いのに、厨の棚から徳利と盃を引っ張り出す。
 徳利を軽く振り、酒の量を確認。板の間のいつもの場所に座り、無言で呑み始める。慚愧にとって酒は水と同じである。いくら呑んでも顔が赤くなることもなければ、酔い潰れもしない。気が向いたときだけ外に出る。傍から見れば、遊び人と言われても仕方がないのだが、本人は一切気にしていない。
 言いたい奴には言わせておけばいい、と思っているせいもあるかもしれないが。
 しかし、鎖那の様子を思い出して苦笑する。
 ――まったく。人がよすぎるぞ、あの娘。それに、あの舞扇……。かなり年季が入っていたな。大事なものなのだろうとは思うが。あまり聞かぬ方がいいかもしれねぇな。
 酒を呑みながら、慚愧は思った。

 鎖那は家に帰ってふっと息を吐いた。
「呀嵜慚愧ねぇ……」
 鎖那は板の間に腰かけ、難しい顔をして考え込む。
 まさに、美男子ではあった。雰囲気がすべてを台無しにしてはいたけれど。
 ――なんで、あんなにも暗くて、人を拒絶するような雰囲気を放ち続けていたのかしら? まあ、あたしの読みが外れてるってこともあると思うけれど。
 鎖那は舞扇を広げて弄ぶ。
 誰彼構わず〝悪魔の翁〟について聞こうかとも考えた。しかし、そんなことをしたら、悪戯に時がすぎる可能性が拭いきれなかった。
 それに、その名を出すこと自体、あまりよしとされていないと分かっていたからだ。
 ――結局一番欲しい情報は、手に入れられないままかぁ。あたしもまだまだね。
 そんなことを思いながら鎖那は苦笑するしかなかった。

 夕方になっても慚愧は徳利をかたむけていた。
 鎖那との会話を思い出しながら思う。
 必要なものはすべて揃った、と。
 
 この乱世では正義の味方と言われている〝悪魔の翁〟。何でも屋のような噂がひっきりなしに聞こえてくるが、それが正しいかどうかは不明。依頼したことのある人間はとくに、その内容については何も語らぬよう、強い口止めをされるとか。
 なにもかもが謎で埋め尽くされている。
 ――さて、動かすとするか。〝もうひとつの俺〟を。
 慚愧はそう思いながら、隣にある棚を一瞥した。


次のエピソードへ進む もう一つの俺とは?


みんなのリアクション

 慚愧はその日は家にいて、まだ日も高いのに、厨の棚から徳利と盃を引っ張り出す。
 徳利を軽く振り、酒の量を確認。板の間のいつもの場所に座り、無言で呑み始める。慚愧にとって酒は水と同じである。いくら呑んでも顔が赤くなることもなければ、酔い潰れもしない。気が向いたときだけ外に出る。傍から見れば、遊び人と言われても仕方がないのだが、本人は一切気にしていない。
 言いたい奴には言わせておけばいい、と思っているせいもあるかもしれないが。
 しかし、鎖那の様子を思い出して苦笑する。
 ――まったく。人がよすぎるぞ、あの娘。それに、あの舞扇……。かなり年季が入っていたな。大事なものなのだろうとは思うが。あまり聞かぬ方がいいかもしれねぇな。
 酒を呑みながら、慚愧は思った。
 鎖那は家に帰ってふっと息を吐いた。
「呀嵜慚愧ねぇ……」
 鎖那は板の間に腰かけ、難しい顔をして考え込む。
 まさに、美男子ではあった。雰囲気がすべてを台無しにしてはいたけれど。
 ――なんで、あんなにも暗くて、人を拒絶するような雰囲気を放ち続けていたのかしら? まあ、あたしの読みが外れてるってこともあると思うけれど。
 鎖那は舞扇を広げて弄ぶ。
 誰彼構わず〝悪魔の翁〟について聞こうかとも考えた。しかし、そんなことをしたら、悪戯に時がすぎる可能性が拭いきれなかった。
 それに、その名を出すこと自体、あまりよしとされていないと分かっていたからだ。
 ――結局一番欲しい情報は、手に入れられないままかぁ。あたしもまだまだね。
 そんなことを思いながら鎖那は苦笑するしかなかった。
 夕方になっても慚愧は徳利をかたむけていた。
 鎖那との会話を思い出しながら思う。
 必要なものはすべて揃った、と。
 この乱世では正義の味方と言われている〝悪魔の翁〟。何でも屋のような噂がひっきりなしに聞こえてくるが、それが正しいかどうかは不明。依頼したことのある人間はとくに、その内容については何も語らぬよう、強い口止めをされるとか。
 なにもかもが謎で埋め尽くされている。
 ――さて、動かすとするか。〝もうひとつの俺〟を。
 慚愧はそう思いながら、隣にある棚を一瞥した。