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蜘蛛大将

ー/ー



「いやああああああ! まぢ無理いいいい!」

 彼女は叫びながら、子グモの群れを真っ白な火で燃やしていく。

「きもい、きもいって! きもいんつってんだよ、ゴラア!」

 彼女はパニックに陥っているようでいながらしかし、的確に子グモたちを燃やしていっていた。子グモたちの中には、彼女を無視して向こうへ行こうとしているものもいた。おそらく、堀田たちの方へ行こうとしているのだと思われた。

 彼らのもとへ子グモたちを行かせるわけにはいかない。後ろからの攻撃はないと思って油断しているところを襲われれば、一気に戦況が傾くことは容易に想像がついた。

 しかしいかんせん、数が多すぎた。彼女がざっと数えただけでも、百はいるように見えた。しかも、子グモの動きがゴキブリ並みに速い。そのうえ、こうして燃やしている今も、続々と子グモが悪鬼の背中から生まれていた。

 それを見た彼女は吐き気がしてきた。今すぐ逃げ出したい、と彼女は思う。しかし、逃げ出すことはできない。

 なんとか、子グモに触らずに倒したい。見てるだけでも無理なのに、触られたりしたら――

 そんなことを思っていた矢先だった。目の端で、黒い影がものすごい速度で飛んでくる様子をとらえた。目を向けた時そこには、こちらへとびかかってくる子グモの姿があった。

 伊賀はとっさに右手で子グモを弾き飛ばす。

「うぎゃー、触っちゃった!」

 叩き落とされた子グモは燃えて、そのまま地面の上で動かなくなった。

 次に彼女は、左足に違和感を覚えた。嫌な予感がして、彼女は左足を見る。

 子グモが彼女の左足に噛みついていた。その歯には呪いが宿っていた。噛みつかれたものは、呪いを注入されることになる。

 しかし、その呪いも彼女には効かない。なぜなら、彼女は体の表面に強力な結界をかけているからだった。悪鬼の攻撃を防ぐのはもちろん、結界に触れた悪鬼を燃やすコーティングまでかけてある。

 たちまち、左足に噛みついていた子グモが白いな火に包まれて、動かなくなる。その時、彼女の中で何かが吹っ切れた。

「あーもうだめだ、やるしかない」彼女は手を合わせる。子グモが次々と彼女に群がっていく。

「あああ、やっぱ無理無理無理! でも、やるしかない」彼女はぎゅっと目をつぶる。少しして、彼女の体の震えが収まる。

 彼女に触れた子グモたちはどんどんと白い火に包まれて燃えていく。

「イーヒ ジン イバ アグチ キラサ ラクシトム イシュカ」

 彼女は火と光の属性を併せ持った結界を張る。子グモを含めた悪鬼を自分ごと閉じ込めるような形で。

「頑張れ、私。これで終わりだから」

 彼女は再び大きく音を立てて手を合わせ、合わせた手に向かって息を吹きかけて、清める。

「イーヒ ジン アグチ キラサ バーム イシュカ」彼女は天呪を唱えると、両手をばっと左右に広げた。

 彼女の体の周りの四方八方へ向かって、無数の白い火の矢が飛んでいった。白い海のようにそれは周囲の悪鬼へ襲い掛かって、射貫いて、燃やした。

 もちろん、親玉の悪鬼も例外ではない。無数の矢によって全身を燃やし尽くされた結果、残っている箇所が少ないほどだった。

 まもなく、結界内にいた悪鬼すべてが、白い粒子となって消えた。その様子は圧巻で、まるで雪が地面から立ち上っているかのようだった。

「・・・・・・虫にビビってて遅くなったってばれたら、堀田くんたち怒るかな。ああもう、こんなことなら、初めからちゃんとやればよかった」彼女はげっそりした表情で言うと、堀田たちのもとへ急いだ。

 参道のほうへ来た頃には、ちょうど小野田が悪鬼の氷像を蹴り壊しているところだった。

「あ、堀田君、小野田ちゃん! やったの?」

「あ、伊賀さん! 大丈夫でしたか? なんか、悲鳴聞こえましたけど?」小野田が尋ねる。

「それがね、ちょっとクモみたいな悪鬼が出てきちゃって。私、虫がすごく苦手で、怖くて触りたくなくて、本当はもっとはやく倒せたのに、それでつい時間かけちゃって。ほんとにごめんね」彼女は半泣きで謝る。

「全然大丈夫ですよ。うちらのほうはなんとか倒せたんで」

「ごめんね。なんか、でっかい蜘蛛みたいな姿してて、背中からちっちゃい蜘蛛がわーって出てくるようなやつで、本当にキモ過ぎて無理だったの。ごめんね」

「ええ、ガチでキモすぎるやつじゃないですか。私だったら、絶対無理でしたよ」小野田は悲鳴じみた声をあげる。

「伊賀さん、そんなに蜘蛛怖いんですか?」堀田は尋ねる。

「え、うん」

「そうだったんですね。それだったら、僕がそっち行けばよかったかもわかりませんね。僕は蜘蛛、平気なので」

 彼女は少し思案する。確かに、あれが蜘蛛だとわかった段階で、結界で閉じ込めてから堀田と交代すれば、あんな嫌な目には合わずに済んだ気もする。

「堀田君さ、今度から私と一緒に行動しよう」

「いいですけど」

「で、虫出たら堀田君がやって、虫以外は私が全部倒すっていうやり方にしよう。もちろん、小野田ちゃんは私と一緒に虫以外を倒すってことで」

「え、それって僕一人・・・・・・」

「だって、虫平気なの堀田君しかいないじゃん。大丈夫、本当にやばい時はちゃんと助けに行くから! でも、できるだけ一人で倒してほしい、虫系は。お願い、虫だけはまじで無理なの!」

「うーん、わかりました」

 堀田は複雑な表情を浮かべながらも、うなずいた。



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「いやああああああ! まぢ無理いいいい!」
 彼女は叫びながら、子グモの群れを真っ白な火で燃やしていく。
「きもい、きもいって! きもいんつってんだよ、ゴラア!」
 彼女はパニックに陥っているようでいながらしかし、的確に子グモたちを燃やしていっていた。子グモたちの中には、彼女を無視して向こうへ行こうとしているものもいた。おそらく、堀田たちの方へ行こうとしているのだと思われた。
 彼らのもとへ子グモたちを行かせるわけにはいかない。後ろからの攻撃はないと思って油断しているところを襲われれば、一気に戦況が傾くことは容易に想像がついた。
 しかしいかんせん、数が多すぎた。彼女がざっと数えただけでも、百はいるように見えた。しかも、子グモの動きがゴキブリ並みに速い。そのうえ、こうして燃やしている今も、続々と子グモが悪鬼の背中から生まれていた。
 それを見た彼女は吐き気がしてきた。今すぐ逃げ出したい、と彼女は思う。しかし、逃げ出すことはできない。
 なんとか、子グモに触らずに倒したい。見てるだけでも無理なのに、触られたりしたら――
 そんなことを思っていた矢先だった。目の端で、黒い影がものすごい速度で飛んでくる様子をとらえた。目を向けた時そこには、こちらへとびかかってくる子グモの姿があった。
 伊賀はとっさに右手で子グモを弾き飛ばす。
「うぎゃー、触っちゃった!」
 叩き落とされた子グモは燃えて、そのまま地面の上で動かなくなった。
 次に彼女は、左足に違和感を覚えた。嫌な予感がして、彼女は左足を見る。
 子グモが彼女の左足に噛みついていた。その歯には呪いが宿っていた。噛みつかれたものは、呪いを注入されることになる。
 しかし、その呪いも彼女には効かない。なぜなら、彼女は体の表面に強力な結界をかけているからだった。悪鬼の攻撃を防ぐのはもちろん、結界に触れた悪鬼を燃やすコーティングまでかけてある。
 たちまち、左足に噛みついていた子グモが白いな火に包まれて、動かなくなる。その時、彼女の中で何かが吹っ切れた。
「あーもうだめだ、やるしかない」彼女は手を合わせる。子グモが次々と彼女に群がっていく。
「あああ、やっぱ無理無理無理! でも、やるしかない」彼女はぎゅっと目をつぶる。少しして、彼女の体の震えが収まる。
 彼女に触れた子グモたちはどんどんと白い火に包まれて燃えていく。
「イーヒ ジン イバ アグチ キラサ ラクシトム イシュカ」
 彼女は火と光の属性を併せ持った結界を張る。子グモを含めた悪鬼を自分ごと閉じ込めるような形で。
「頑張れ、私。これで終わりだから」
 彼女は再び大きく音を立てて手を合わせ、合わせた手に向かって息を吹きかけて、清める。
「イーヒ ジン アグチ キラサ バーム イシュカ」彼女は天呪を唱えると、両手をばっと左右に広げた。
 彼女の体の周りの四方八方へ向かって、無数の白い火の矢が飛んでいった。白い海のようにそれは周囲の悪鬼へ襲い掛かって、射貫いて、燃やした。
 もちろん、親玉の悪鬼も例外ではない。無数の矢によって全身を燃やし尽くされた結果、残っている箇所が少ないほどだった。
 まもなく、結界内にいた悪鬼すべてが、白い粒子となって消えた。その様子は圧巻で、まるで雪が地面から立ち上っているかのようだった。
「・・・・・・虫にビビってて遅くなったってばれたら、堀田くんたち怒るかな。ああもう、こんなことなら、初めからちゃんとやればよかった」彼女はげっそりした表情で言うと、堀田たちのもとへ急いだ。
 参道のほうへ来た頃には、ちょうど小野田が悪鬼の氷像を蹴り壊しているところだった。
「あ、堀田君、小野田ちゃん! やったの?」
「あ、伊賀さん! 大丈夫でしたか? なんか、悲鳴聞こえましたけど?」小野田が尋ねる。
「それがね、ちょっとクモみたいな悪鬼が出てきちゃって。私、虫がすごく苦手で、怖くて触りたくなくて、本当はもっとはやく倒せたのに、それでつい時間かけちゃって。ほんとにごめんね」彼女は半泣きで謝る。
「全然大丈夫ですよ。うちらのほうはなんとか倒せたんで」
「ごめんね。なんか、でっかい蜘蛛みたいな姿してて、背中からちっちゃい蜘蛛がわーって出てくるようなやつで、本当にキモ過ぎて無理だったの。ごめんね」
「ええ、ガチでキモすぎるやつじゃないですか。私だったら、絶対無理でしたよ」小野田は悲鳴じみた声をあげる。
「伊賀さん、そんなに蜘蛛怖いんですか?」堀田は尋ねる。
「え、うん」
「そうだったんですね。それだったら、僕がそっち行けばよかったかもわかりませんね。僕は蜘蛛、平気なので」
 彼女は少し思案する。確かに、あれが蜘蛛だとわかった段階で、結界で閉じ込めてから堀田と交代すれば、あんな嫌な目には合わずに済んだ気もする。
「堀田君さ、今度から私と一緒に行動しよう」
「いいですけど」
「で、虫出たら堀田君がやって、虫以外は私が全部倒すっていうやり方にしよう。もちろん、小野田ちゃんは私と一緒に虫以外を倒すってことで」
「え、それって僕一人・・・・・・」
「だって、虫平気なの堀田君しかいないじゃん。大丈夫、本当にやばい時はちゃんと助けに行くから! でも、できるだけ一人で倒してほしい、虫系は。お願い、虫だけはまじで無理なの!」
「うーん、わかりました」
 堀田は複雑な表情を浮かべながらも、うなずいた。