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起死回生

ー/ー



 迫ってくる悪鬼を目にした堀田は、素早く手を合わせる。しかし悪鬼の動きは素早く、その頃にはすでに太刀が届く距離まで近づいていて、太刀を振り上げていた。

 そんな危機的な状況にいてなお臆することなく、彼は手を前に突き出した。すると、一瞬で悪鬼の全身が凍りついた。

 近くならば照準を合わせずとも、冷気の奔流を浴びせるだけで悪鬼を凍らせることができる。それをわかっていたからこそ、彼はこのような行動をとったのだった。

 小野田は大きく跳躍する。そして、今度は鎧のない頭のところに鋭い蹴りをいれた。

 鎧がなければ攻撃は通るはずだった。ところが、悪鬼の頭は砕けもしなかったし、ひびすらも入らなかった。

 なにこれ、全然効いてないじゃん。彼女の全身を無力感が貫く。

 悪鬼の体を覆う氷にひびが入る。直後、悪鬼を覆っている氷が砕けた。悪鬼は太刀を堀田に向かって振り下ろす。

 堀田はとっさに左腕に結界をまとわせて、太刀を受け止める。結界のおかげで腕を斬られることはなかったが、あまりの威力に堀田の体が吹き飛ばされる。彼は並木に衝突した。

 悪鬼が小野田のほうを向いた。しかし彼女は、どうすればいいのかわからない。攻撃が一切通じないのに、どうやって倒せばいいのか。唯一、対抗手段を持っていた堀田も、今は動けない。

 悪鬼が剣を振り上げた。

 その時、彼女の脳裏に過去の映像が流れる。これが走馬灯ってやつか、と彼女はぼんやりと思う。私死ぬのかな、と彼女は心の中でつぶやく。

 昨日のできごとが、脳裏に映像として現れる。それは、堀田との何気ない会話の一場面だった。人生の最期になんであいつの顔が出てくるんだよ、と彼女はじゃっかん嫌な気持ちになる。


「なんかうちら今日、すごい動きましたよね。悪鬼と戦って、修行までしてるし」走馬灯の中の彼女は言った。

「ええまあ、そうですね」

「明日起きたら私、体重一キロくらい減ってるかも」

「ああ、それはないですね」

「え、運動したら痩せるんじゃないんですか?」

「それが痩せないんですよ、なかなか。たとえば運動してカロリーを消費したとして、そしたら消費されるカロリーのぶん、免疫系とかほかのところのカロリー消費を体が自動で抑えるんですよ。そうやって、運動してるときと何もしてない時とで、カロリー消費が均一になるようにするんで、運動しても痩せないんですよね」

「へえ」彼女は興味なさそうに相槌をうった。しかしその様子をガン無視して、堀田は続ける。

「人の体って、無意識のうちに手を抜いたりするんですよ。そうやって、消費するカロリーをなるべく節約することで、食物が豊富に採れない環境でも生き残ってきたというわけなんです。だから人間は運動しても簡単には痩せないんです」

 それを聞いて、私の体も無意識のうちに手抜きしてるのかな、と思った記憶があった。

 そう、私もたぶん、霊力の使い方で手抜きしてるんだ。そのことに無意識のうちに気づいてたから、走馬灯でこの時のことが出たのかも。

 ほかのところの霊力消費を抑えて、必要なところで霊力を使う。

 悪鬼もきっと、同じことをしているのだろう。霊力を集中させて、凝縮して、あの武器を作っている。悪鬼が武器など持てるわけがないのだから、もとは霊力だったに違いないのだ。

 突き詰めれば、悪鬼も私も、やってることは同じだ。霊力を集中させて、強く固める。悪鬼にできるなら、私にもできるはず。

 いや、やる。やらなきゃ死ぬだけだ。

 霊力の集中。全身には最低限の霊力だけを残して、残りをすべて左腕に集中させる。そして、強く固める。

 すると、できた。かつてないほどの霊力が彼女の左腕に集中している。しかも、あふれでる霊力が赤色の透明な光となって、彼女の左腕から放たれている。

 彼女は左腕を鋭く薙ぎ払った。

 振り下ろされた鈍色の刃と、彼女の左腕が衝突した。そして甲高い音を立てて、太刀が真っ二つに折れた。

 悪鬼の動きが一瞬、固まる。しかしすぐにまた、悪鬼は左手の太刀を彼女に向かって振り下ろす。

 彼女は右腕に霊力を集中して、拳でその太刀も叩き折った。

 悪鬼は折れた太刀を捨てた。そして、また新たに太刀を二本、霊力で作り出した。それをまた彼女に向かって振り下ろす。

 しかし新しく作られた太刀も、彼女は拳で叩き折る。悪鬼はまた、太刀を捨てざるを得なくなる。そうして生じた一瞬の隙をついて、彼女は悪鬼の懐へ入り込む。

 悪鬼の手に太刀が現れる。しかしそのころにはもう、彼女は右腕の拳を悪鬼の腹の真ん中にぶつけていた。拳が悪鬼の腹を打ち抜いた。腕が引き抜かれた後には、風穴があいていた。

 悪鬼の動きが止まった。風穴の空いた部分から、白い粒子となってじょじょに消えていく。

 そのまま消えていくかと思われた。ところがそうはならなかった。なんと、悪鬼の体が縦に裂け始めたのだ。

 悪鬼の体が二つに裂けたあと、右半身と左半身とでそれぞれ姿かたちが変化していく。やがて、刀を持っていて、人間の姿に限りなく近い形の、まったく同じ姿をした悪鬼が二体生まれた。

 その悪鬼が前後で彼女を挟み込む。これでは、霊力の集中をしても意味がない。片方を相手している間に、霊力の薄いところを斬られたらおしまいだからだ。

「ああ、それは悪手ですね」堀田は言った。

 彼女は声のしたほうを見た。いつの間にか、彼は立ち上がっていた。彼は素早く手を合わせて、右手を前に突き出す。直後、悪鬼のうち彼の近くに立っていたほうの一体が氷漬けになる。

「半分に分かれたら力も半減するわけだから、凍らされたらおしまいでしょう」

 彼の言う通りだった。凍らされた悪鬼は氷漬けにされたまま、動けなくなっていた。

 堀田は手を合わせた。残りの悪鬼は逃げようとしたが、手遅れだった。堀田が右手を向けると、冷気の奔流がたちまち悪鬼に追いついて、悪鬼を氷漬けにした。

「これ、あとはもう、砕けばオッケーですか?」彼女は尋ねた。

「そうですね。別に放置していても勝手に消滅するんですけどね」

「いや、砕きます。こいつには恩があるんで」

「恩?」

「私を大きく成長させてくれた恩ですよ」

 彼女は言って、蹴りでもって悪鬼二体の氷像を砕いた。凍った悪鬼の破片がダイヤモンドの欠片のように地面に飛び散る。そして飛び散ったそばから、白い粒子となって消滅した。 


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 迫ってくる悪鬼を目にした堀田は、素早く手を合わせる。しかし悪鬼の動きは素早く、その頃にはすでに太刀が届く距離まで近づいていて、太刀を振り上げていた。
 そんな危機的な状況にいてなお臆することなく、彼は手を前に突き出した。すると、一瞬で悪鬼の全身が凍りついた。
 近くならば照準を合わせずとも、冷気の奔流を浴びせるだけで悪鬼を凍らせることができる。それをわかっていたからこそ、彼はこのような行動をとったのだった。
 小野田は大きく跳躍する。そして、今度は鎧のない頭のところに鋭い蹴りをいれた。
 鎧がなければ攻撃は通るはずだった。ところが、悪鬼の頭は砕けもしなかったし、ひびすらも入らなかった。
 なにこれ、全然効いてないじゃん。彼女の全身を無力感が貫く。
 悪鬼の体を覆う氷にひびが入る。直後、悪鬼を覆っている氷が砕けた。悪鬼は太刀を堀田に向かって振り下ろす。
 堀田はとっさに左腕に結界をまとわせて、太刀を受け止める。結界のおかげで腕を斬られることはなかったが、あまりの威力に堀田の体が吹き飛ばされる。彼は並木に衝突した。
 悪鬼が小野田のほうを向いた。しかし彼女は、どうすればいいのかわからない。攻撃が一切通じないのに、どうやって倒せばいいのか。唯一、対抗手段を持っていた堀田も、今は動けない。
 悪鬼が剣を振り上げた。
 その時、彼女の脳裏に過去の映像が流れる。これが走馬灯ってやつか、と彼女はぼんやりと思う。私死ぬのかな、と彼女は心の中でつぶやく。
 昨日のできごとが、脳裏に映像として現れる。それは、堀田との何気ない会話の一場面だった。人生の最期になんであいつの顔が出てくるんだよ、と彼女はじゃっかん嫌な気持ちになる。
「なんかうちら今日、すごい動きましたよね。悪鬼と戦って、修行までしてるし」走馬灯の中の彼女は言った。
「ええまあ、そうですね」
「明日起きたら私、体重一キロくらい減ってるかも」
「ああ、それはないですね」
「え、運動したら痩せるんじゃないんですか?」
「それが痩せないんですよ、なかなか。たとえば運動してカロリーを消費したとして、そしたら消費されるカロリーのぶん、免疫系とかほかのところのカロリー消費を体が自動で抑えるんですよ。そうやって、運動してるときと何もしてない時とで、カロリー消費が均一になるようにするんで、運動しても痩せないんですよね」
「へえ」彼女は興味なさそうに相槌をうった。しかしその様子をガン無視して、堀田は続ける。
「人の体って、無意識のうちに手を抜いたりするんですよ。そうやって、消費するカロリーをなるべく節約することで、食物が豊富に採れない環境でも生き残ってきたというわけなんです。だから人間は運動しても簡単には痩せないんです」
 それを聞いて、私の体も無意識のうちに手抜きしてるのかな、と思った記憶があった。
 そう、私もたぶん、霊力の使い方で手抜きしてるんだ。そのことに無意識のうちに気づいてたから、走馬灯でこの時のことが出たのかも。
 ほかのところの霊力消費を抑えて、必要なところで霊力を使う。
 悪鬼もきっと、同じことをしているのだろう。霊力を集中させて、凝縮して、あの武器を作っている。悪鬼が武器など持てるわけがないのだから、もとは霊力だったに違いないのだ。
 突き詰めれば、悪鬼も私も、やってることは同じだ。霊力を集中させて、強く固める。悪鬼にできるなら、私にもできるはず。
 いや、やる。やらなきゃ死ぬだけだ。
 霊力の集中。全身には最低限の霊力だけを残して、残りをすべて左腕に集中させる。そして、強く固める。
 すると、できた。かつてないほどの霊力が彼女の左腕に集中している。しかも、あふれでる霊力が赤色の透明な光となって、彼女の左腕から放たれている。
 彼女は左腕を鋭く薙ぎ払った。
 振り下ろされた鈍色の刃と、彼女の左腕が衝突した。そして甲高い音を立てて、太刀が真っ二つに折れた。
 悪鬼の動きが一瞬、固まる。しかしすぐにまた、悪鬼は左手の太刀を彼女に向かって振り下ろす。
 彼女は右腕に霊力を集中して、拳でその太刀も叩き折った。
 悪鬼は折れた太刀を捨てた。そして、また新たに太刀を二本、霊力で作り出した。それをまた彼女に向かって振り下ろす。
 しかし新しく作られた太刀も、彼女は拳で叩き折る。悪鬼はまた、太刀を捨てざるを得なくなる。そうして生じた一瞬の隙をついて、彼女は悪鬼の懐へ入り込む。
 悪鬼の手に太刀が現れる。しかしそのころにはもう、彼女は右腕の拳を悪鬼の腹の真ん中にぶつけていた。拳が悪鬼の腹を打ち抜いた。腕が引き抜かれた後には、風穴があいていた。
 悪鬼の動きが止まった。風穴の空いた部分から、白い粒子となってじょじょに消えていく。
 そのまま消えていくかと思われた。ところがそうはならなかった。なんと、悪鬼の体が縦に裂け始めたのだ。
 悪鬼の体が二つに裂けたあと、右半身と左半身とでそれぞれ姿かたちが変化していく。やがて、刀を持っていて、人間の姿に限りなく近い形の、まったく同じ姿をした悪鬼が二体生まれた。
 その悪鬼が前後で彼女を挟み込む。これでは、霊力の集中をしても意味がない。片方を相手している間に、霊力の薄いところを斬られたらおしまいだからだ。
「ああ、それは悪手ですね」堀田は言った。
 彼女は声のしたほうを見た。いつの間にか、彼は立ち上がっていた。彼は素早く手を合わせて、右手を前に突き出す。直後、悪鬼のうち彼の近くに立っていたほうの一体が氷漬けになる。
「半分に分かれたら力も半減するわけだから、凍らされたらおしまいでしょう」
 彼の言う通りだった。凍らされた悪鬼は氷漬けにされたまま、動けなくなっていた。
 堀田は手を合わせた。残りの悪鬼は逃げようとしたが、手遅れだった。堀田が右手を向けると、冷気の奔流がたちまち悪鬼に追いついて、悪鬼を氷漬けにした。
「これ、あとはもう、砕けばオッケーですか?」彼女は尋ねた。
「そうですね。別に放置していても勝手に消滅するんですけどね」
「いや、砕きます。こいつには恩があるんで」
「恩?」
「私を大きく成長させてくれた恩ですよ」
 彼女は言って、蹴りでもって悪鬼二体の氷像を砕いた。凍った悪鬼の破片がダイヤモンドの欠片のように地面に飛び散る。そして飛び散ったそばから、白い粒子となって消滅した。