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悪鬼を喰らう侍

ー/ー



 伊賀たちは南禅寺に来ていた。

「ここだね。二体、悪鬼がいる」伊賀は言った。

 三人は法堂へとつながる参道を進んでいく。

「まって、来る」参道の真ん中あたりまで来たところで、彼女は言う。

 伊賀の言葉で、堀田と小野田は立ち止まった。

 やがて、悪鬼が姿を現わした。全身を火に包まれた馬の悪鬼で、首に矢が刺さっていた。その悪鬼はよろよろとした足取りで法堂の前を横切っていく。ところがその悪鬼はこちらには目もくれようとしなかった。

 何かが変だ、と彼が思った時、物陰からもう一体の悪鬼が現れた。上半身は人、下半身は馬という姿で、体長は三メートルほどもある。両手に太刀を持っていて、武士が身に着けるような鎧を身に着けている。

 侍と馬が合体したような姿の悪鬼が、火の馬の悪鬼の首をはねた。火の馬の動きが止まった。それから、火の馬の魂が侍の悪鬼の口へ向かって吸い込まれていく。やがて、火の馬の悪鬼はすべて、侍の悪鬼に吸収されてしまった。

 共食いの現場を目の当たりにした三人は、驚きをもってそれを見ていた。一人だけを除いて。伊賀だけはまったく別のことを感じ取っていた。

「まって、嘘でしょ」伊賀は言う。

「どうかしたんですか?」堀田は尋ねる。

「もう一体来た。こんな時に限って、もう」彼女は舌打ちをする。「後ろからやってくるやつは私一人で何とかする。悪いけど、そっちは二人にお願いできる?」

「大丈夫です」彼は言った。

「ごめん、ありがとう」

 伊賀は今来た道を戻っていって、もう一体の悪鬼のほうへと向かっていった。

 そして彼女は三門を出たあたりでもう一体の悪鬼と遭遇した。

 その悪鬼は、体が巨大な黒色の蜘蛛のそれで、頭があるはずの場所には、無数のしゃれこうべが集まり一体となって、ぶどうのような見た目の頭を形作っていた。

「嘘でしょ! 私、虫まじで無理なんですけど」彼女は怯えた表情を浮かべた。彼女は大の虫嫌いだった。

 悪鬼の背中にある無数の穴から、しゃれこうべの頭をもつ子グモが無数に湧き出してきた。彼女は悲鳴をあげた。

 その悲鳴は堀田と小野田の耳にも届いていた。しかし、彼らに伊賀を心配する余裕はなかった。油断すればすぐにでも斬られる。そのことを彼らは理解していた。

 堀田は手を合わせた。そして、冷気の矢を作り出すと、狙いを定めた。それとほぼ同時に、侍の悪鬼が走り出した。

 堀田は氷の矢を放った。冷気の矢が悪鬼の胸あたりに向かって飛んでいく。悪鬼は、刀を構えた。

「ああ、それは悪手だね」堀田はつぶやいた。

 悪鬼は冷気の矢を刀で斬った。しかし刃が冷気の矢に触れたとたん、触れたところから凍りついていった。

「冷気なんだから、触れれば凍るに決まってるでしょう」

 あっという間に、悪鬼の右腕が凍りついた。

 そして、小野田が悪鬼の右側から悪鬼へ向かって素早く接近した。悪鬼にとってみれば、右腕が凍っているため、右側から来る攻撃を迎え撃つのは難しい。

 彼女は手刀を作る。昨日の修行で、あの悪鬼がやっていたのと同じ攻撃ができるようになるまでになった。普通に殴るのと違って、手刀にした分、一点への威力が大きくなった。

 彼女は手刀による攻撃を、悪鬼の脇腹にくらわせた。しかし手刀は、鎧によって阻まれた。鎧ごと切り裂けるか、と思って放った一撃だったが、そんなことはなかった。

 悪鬼が左手の太刀で突きを放つ。彼女は後ろに跳んでそれをよける。その直後、悪鬼の右腕を包んでいた氷がはじけ飛ぶ。悪鬼の右腕から闇の力があふれ出した。悪鬼は闇の力で無理やり氷を砕いたのだ。

 右腕が自由になったことで、両手から斬撃が繰り出される。そこから彼女は攻撃をよけるのでせいいっぱいになる。

 堀田が、冷気の矢を放つ。それで悪鬼の左腕を凍らせる。しかしそれも、ほんの一瞬だけ動きを止める程度の効果しかない。

「少しのあいだ、時間を稼いでください!」堀田は叫ぶ。

 彼女は返事をしない。立て続けに襲ってくる斬撃をよけるのに必死で、返事をする余裕すらないのだ。

 体をひねったり、跳んだりして、刃渡り二メートル近くある太刀からなんとか逃れ続ける。しかしとうとう、斬撃をよけきれなくなる瞬間が訪れた。

 右腕から放たれた斬撃をよけた先に、左腕から繰り出される斬撃がきていた。彼女はとっさに結界で全身を防御しつつ、体をひねる。刃が彼女の右肩をかすった。少し遅れて、右肩が斬れて、出血する。

「イーヒ ジン イバ アプナ ラクシトム イシュカ」その時、堀田が天呪を唱えた。

 大量の水が悪鬼の体の周りを覆った。やがてそれは大きな水の玉ととなって悪鬼を閉じ込めた。

 悪鬼は必死に刀を振るうが、水を斬ることなどできない。

「これで終わりです!」

 水の玉が凍って、氷の玉となった。

 氷の中に閉じ込められた悪鬼が動く気配はないように思われた。小野田は堀田の元まで戻ってくる。

 堀田はじっと氷の玉を見守る。封印に成功したなら、このままあの悪鬼が動くことはないはずだ。

 しばらく見守ってみて、成功したか、と思いかけた時、氷の玉の表面にひびが入る。そしてあっという間に、ひびが全体に大きく広がった。

「これでもだめか」堀田はつぶやく。

 やがて、氷の玉が壊れた。そして、氷の戒めから自由になった悪鬼が、再び小野田たちへ迫ってきた。 


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 伊賀たちは南禅寺に来ていた。
「ここだね。二体、悪鬼がいる」伊賀は言った。
 三人は法堂へとつながる参道を進んでいく。
「まって、来る」参道の真ん中あたりまで来たところで、彼女は言う。
 伊賀の言葉で、堀田と小野田は立ち止まった。
 やがて、悪鬼が姿を現わした。全身を火に包まれた馬の悪鬼で、首に矢が刺さっていた。その悪鬼はよろよろとした足取りで法堂の前を横切っていく。ところがその悪鬼はこちらには目もくれようとしなかった。
 何かが変だ、と彼が思った時、物陰からもう一体の悪鬼が現れた。上半身は人、下半身は馬という姿で、体長は三メートルほどもある。両手に太刀を持っていて、武士が身に着けるような鎧を身に着けている。
 侍と馬が合体したような姿の悪鬼が、火の馬の悪鬼の首をはねた。火の馬の動きが止まった。それから、火の馬の魂が侍の悪鬼の口へ向かって吸い込まれていく。やがて、火の馬の悪鬼はすべて、侍の悪鬼に吸収されてしまった。
 共食いの現場を目の当たりにした三人は、驚きをもってそれを見ていた。一人だけを除いて。伊賀だけはまったく別のことを感じ取っていた。
「まって、嘘でしょ」伊賀は言う。
「どうかしたんですか?」堀田は尋ねる。
「もう一体来た。こんな時に限って、もう」彼女は舌打ちをする。「後ろからやってくるやつは私一人で何とかする。悪いけど、そっちは二人にお願いできる?」
「大丈夫です」彼は言った。
「ごめん、ありがとう」
 伊賀は今来た道を戻っていって、もう一体の悪鬼のほうへと向かっていった。
 そして彼女は三門を出たあたりでもう一体の悪鬼と遭遇した。
 その悪鬼は、体が巨大な黒色の蜘蛛のそれで、頭があるはずの場所には、無数のしゃれこうべが集まり一体となって、ぶどうのような見た目の頭を形作っていた。
「嘘でしょ! 私、虫まじで無理なんですけど」彼女は怯えた表情を浮かべた。彼女は大の虫嫌いだった。
 悪鬼の背中にある無数の穴から、しゃれこうべの頭をもつ子グモが無数に湧き出してきた。彼女は悲鳴をあげた。
 その悲鳴は堀田と小野田の耳にも届いていた。しかし、彼らに伊賀を心配する余裕はなかった。油断すればすぐにでも斬られる。そのことを彼らは理解していた。
 堀田は手を合わせた。そして、冷気の矢を作り出すと、狙いを定めた。それとほぼ同時に、侍の悪鬼が走り出した。
 堀田は氷の矢を放った。冷気の矢が悪鬼の胸あたりに向かって飛んでいく。悪鬼は、刀を構えた。
「ああ、それは悪手だね」堀田はつぶやいた。
 悪鬼は冷気の矢を刀で斬った。しかし刃が冷気の矢に触れたとたん、触れたところから凍りついていった。
「冷気なんだから、触れれば凍るに決まってるでしょう」
 あっという間に、悪鬼の右腕が凍りついた。
 そして、小野田が悪鬼の右側から悪鬼へ向かって素早く接近した。悪鬼にとってみれば、右腕が凍っているため、右側から来る攻撃を迎え撃つのは難しい。
 彼女は手刀を作る。昨日の修行で、あの悪鬼がやっていたのと同じ攻撃ができるようになるまでになった。普通に殴るのと違って、手刀にした分、一点への威力が大きくなった。
 彼女は手刀による攻撃を、悪鬼の脇腹にくらわせた。しかし手刀は、鎧によって阻まれた。鎧ごと切り裂けるか、と思って放った一撃だったが、そんなことはなかった。
 悪鬼が左手の太刀で突きを放つ。彼女は後ろに跳んでそれをよける。その直後、悪鬼の右腕を包んでいた氷がはじけ飛ぶ。悪鬼の右腕から闇の力があふれ出した。悪鬼は闇の力で無理やり氷を砕いたのだ。
 右腕が自由になったことで、両手から斬撃が繰り出される。そこから彼女は攻撃をよけるのでせいいっぱいになる。
 堀田が、冷気の矢を放つ。それで悪鬼の左腕を凍らせる。しかしそれも、ほんの一瞬だけ動きを止める程度の効果しかない。
「少しのあいだ、時間を稼いでください!」堀田は叫ぶ。
 彼女は返事をしない。立て続けに襲ってくる斬撃をよけるのに必死で、返事をする余裕すらないのだ。
 体をひねったり、跳んだりして、刃渡り二メートル近くある太刀からなんとか逃れ続ける。しかしとうとう、斬撃をよけきれなくなる瞬間が訪れた。
 右腕から放たれた斬撃をよけた先に、左腕から繰り出される斬撃がきていた。彼女はとっさに結界で全身を防御しつつ、体をひねる。刃が彼女の右肩をかすった。少し遅れて、右肩が斬れて、出血する。
「イーヒ ジン イバ アプナ ラクシトム イシュカ」その時、堀田が天呪を唱えた。
 大量の水が悪鬼の体の周りを覆った。やがてそれは大きな水の玉ととなって悪鬼を閉じ込めた。
 悪鬼は必死に刀を振るうが、水を斬ることなどできない。
「これで終わりです!」
 水の玉が凍って、氷の玉となった。
 氷の中に閉じ込められた悪鬼が動く気配はないように思われた。小野田は堀田の元まで戻ってくる。
 堀田はじっと氷の玉を見守る。封印に成功したなら、このままあの悪鬼が動くことはないはずだ。
 しばらく見守ってみて、成功したか、と思いかけた時、氷の玉の表面にひびが入る。そしてあっという間に、ひびが全体に大きく広がった。
「これでもだめか」堀田はつぶやく。
 やがて、氷の玉が壊れた。そして、氷の戒めから自由になった悪鬼が、再び小野田たちへ迫ってきた。