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七人目の霊媒師

ー/ー



 朝、村山は食堂に行った。食堂の中にいたのは、青木と杉田だけだった。伊沢はまだ来ていなかった。

「村山君、おはよう」杉田が声をかける。彼女の前にはトーストとベーコンエッグ、ブラックコーヒーが置いてあった。

「おはようございます」

「朝ごはん、一緒に食べようよ」

 村山は炊き込みご飯とみそ汁、煮魚を注文すると席に着いた。

「伊賀さん、もう来てるらしいよ」青木は言った。

「そうなんですか。いつの間に」

「夜中の二時とかにようやく着いたらしい。だからまだ寝てるんだけど、でもこれでようやく七人そろった」

「いや、よかったです。たぶん、伊賀さんがいるかいないかで全然違いますからね」

「うん。間違いなく、あの人がうちらの中では一番強いからね」青木は言った。

 それから少しして、伊沢、堀田、小野田も起きてきて、食事が終わったあとは伊賀を待つかたちとなった。

 伊賀が食堂にやってきたのは、十一時を少し過ぎた頃だった。彼女は金髪に軽くウェーブをかけていて、赤い琉装(りゅうそう)を着ていた。(琉装は沖縄の伝統衣装で、和服に似た衣装に沖縄独自の紋様が入ったものである)

「おはよーみんな。遅れちゃってごめんね」

「いやだって、伊賀さんは沖縄から来たんだからしょうがないでしょ」青木は言う。

 彼女はユタと呼ばれる、沖縄のシャーマンだ。その仕事との兼ね合いもあって本土に来ることができず、結局、沖縄からここまで来る羽目になってしまった。

「うん。でもね、遅れた代わりにね、みんなの役に立つような情報を持ってきたから」

 よく見ると、彼女は手に一冊のノートを持っていた。

「飛行機で京都の上空近くを通った時に、すごく強い悪鬼の気配を感じ取ったから、そいつらの情報を霊視して、名前と姿をノートに描いてきたから。これ、私が朝ごはん食べてるあいだに読んでみて」

 彼女は青木にノートを渡すと、朝食を注文しにいった。

 そして六人はノートを囲むようにして覗き込んで読み始めた。

「・・・・・・伊賀さん!」

「なに?」

「絵がヘタクソすぎて、何書いてるのかわかんない!」

「はあ! うっせえな、直感で察しろ!」

「無茶苦茶言うなよ、おい。これでどう察しろってんだよ」彼は言いながら、ひとつの絵を指さす。それは、髪の長い人の下半身が、足のない幽霊みたいにひょろひょろっとなっていて、それの後ろから毛みたいなものがいくつも生えている、という絵だった。絵の上には、『ウワバミ』と書いてある。

「ウワバミっていうのが、蛇のことをいうんじゃありませんでしたっけ、確か? 特に大蛇とかをさす言葉だったはずです」堀田は言う。

「ああ、なるほど。じゃあこのひょろひょろっとしたやつは、蛇の下半身ってこと? 背中から生えてる、この毛みたいなのはよくわかんないけど」青木は言う。

「ウワバミ、って名前の人なんているの?」杉田は尋ねる。霊ももとは人である。霊の名前といったら、一般的には生前の名前を指すものだ。

「いや、あだ名だと思いますよ。たぶん、悪鬼たちはチームを組んでるんじゃないんですかね。だから、称号とかコードネーム的なものがつけられてるんだと思います」村山は杉田の疑問に答えた。

「それはありえない」しかし伊沢が彼の説を否定する。「悪霊が群れることは絶対にない。悪霊は同じ悪霊にすら忌み嫌われる存在だから、互いに利用しあうことはあっても、仲間になるなんてありえない」

 悪霊は悪霊同士で共食いをすることもある、非常におぞましい存在だ。その悪霊の進化系である悪鬼も同様で、いつ寝首をかかれるかわからないせいで、悪鬼同士はけっして仲間になることはできないはずなのだ。

「そいつらはね、九将って呼ばれてる」いつの間にか彼らのそばに来ていた伊賀が言った。

「九将?」伊沢が聞きかえす。

「うん。伊沢ちゃんの言う通り、仲間ってわけじゃないんだけど、悪鬼のボスみたいのがいるのね。こいつなんだけど」

 彼女はノートをめくって、あるページを指でさす。そこには、冬にめちゃくちゃ厚着をして着ぶくれしたような姿をしていて、頭に烏帽子のようなものが載っている人が描かれていた。

「こいつがボスをやってて、こいつが中心になって京都を荒らしてる。悪鬼たちに名前をつけたのもこいつ。あのね、陰陽師の姿をしてるんだよね、こいつ」

「あっこれ服か」堀田が言う。

 伊賀が堀田をにらむ。

「え、いやその、すみません。絵が下手くそとか、化け物に見えたとか、そういうことを言うつもりではなかったんですけど」堀田は謝った。

「まあまあまあ! とりあえず分かったよ。ようするに、こいつらに気をつければいいってことだよね。もし会ったら、逃げるか、倒せそうだったら倒すかするってことでいいんでしょ?」青木は不自然なほど大きな声で言う。

 そこで、料理を注文した人を呼ぶ声が聞こえる。伊賀は返事をする。

「うん、そういうこと。みんなこいつらと会ったら、全然逃げていいから。じゃあちょっと行ってくるね」彼女はそう言って離れる。

「じゃあ、それはそれでいいとして、どう分かれるか、だよね。俺と麻奈、村山君と伊沢さん、堀田さんと小野田ちゃんってのはいいとしてさ、伊賀さんをどうするか」

 この三組のあいだでは、そこまで大きな実力差はない。そうなると重要になるのは、今日誰が一番厄介な敵に出会うか、になってくる。

「ちょっとみんな、一列になってみてくれる?」杉田は言う。

「私も並ぶ?」伊賀は尋ねる。

「いや、大丈夫です」彼女は答える。

 五人が一列に並ぶ。杉田は左手をみんなのほうへ向けた状態で、ゆっくりと五人の前を歩く。

 一番端にいる小野田のところまでいくと、また戻っていく。それから、また小野田のいるほうへ進んでいく。

「二人が一番やばいです」杉田は小野田と堀田をさして言う。

「じゃあ、堀田君と小野田ちゃんのペアについてくよ。それで大丈夫になると思うから」いちごジャムを塗ったトーストを食べながら占いの様子を見守っていた伊賀が言う。

「ちなみに、どう危ないかっていうのはわかるものなんですか?」堀田は尋ねる。

「それは・・・・・・わからないです。ごめんなさい」彼女は謝る。

「いや、全然問題ありませんよ。たぶん、伊賀さんがいてくれれば大丈夫だと思いますし、大丈夫ですよ」彼は言う。

 ともあれ、伊賀・堀田・小野田と、青木・杉田と、そして伊沢・村山というかたちで分かれて動くことが決まった。



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 朝、村山は食堂に行った。食堂の中にいたのは、青木と杉田だけだった。伊沢はまだ来ていなかった。
「村山君、おはよう」杉田が声をかける。彼女の前にはトーストとベーコンエッグ、ブラックコーヒーが置いてあった。
「おはようございます」
「朝ごはん、一緒に食べようよ」
 村山は炊き込みご飯とみそ汁、煮魚を注文すると席に着いた。
「伊賀さん、もう来てるらしいよ」青木は言った。
「そうなんですか。いつの間に」
「夜中の二時とかにようやく着いたらしい。だからまだ寝てるんだけど、でもこれでようやく七人そろった」
「いや、よかったです。たぶん、伊賀さんがいるかいないかで全然違いますからね」
「うん。間違いなく、あの人がうちらの中では一番強いからね」青木は言った。
 それから少しして、伊沢、堀田、小野田も起きてきて、食事が終わったあとは伊賀を待つかたちとなった。
 伊賀が食堂にやってきたのは、十一時を少し過ぎた頃だった。彼女は金髪に軽くウェーブをかけていて、赤い|琉装《りゅうそう》を着ていた。(琉装は沖縄の伝統衣装で、和服に似た衣装に沖縄独自の紋様が入ったものである)
「おはよーみんな。遅れちゃってごめんね」
「いやだって、伊賀さんは沖縄から来たんだからしょうがないでしょ」青木は言う。
 彼女はユタと呼ばれる、沖縄のシャーマンだ。その仕事との兼ね合いもあって本土に来ることができず、結局、沖縄からここまで来る羽目になってしまった。
「うん。でもね、遅れた代わりにね、みんなの役に立つような情報を持ってきたから」
 よく見ると、彼女は手に一冊のノートを持っていた。
「飛行機で京都の上空近くを通った時に、すごく強い悪鬼の気配を感じ取ったから、そいつらの情報を霊視して、名前と姿をノートに描いてきたから。これ、私が朝ごはん食べてるあいだに読んでみて」
 彼女は青木にノートを渡すと、朝食を注文しにいった。
 そして六人はノートを囲むようにして覗き込んで読み始めた。
「・・・・・・伊賀さん!」
「なに?」
「絵がヘタクソすぎて、何書いてるのかわかんない!」
「はあ! うっせえな、直感で察しろ!」
「無茶苦茶言うなよ、おい。これでどう察しろってんだよ」彼は言いながら、ひとつの絵を指さす。それは、髪の長い人の下半身が、足のない幽霊みたいにひょろひょろっとなっていて、それの後ろから毛みたいなものがいくつも生えている、という絵だった。絵の上には、『ウワバミ』と書いてある。
「ウワバミっていうのが、蛇のことをいうんじゃありませんでしたっけ、確か? 特に大蛇とかをさす言葉だったはずです」堀田は言う。
「ああ、なるほど。じゃあこのひょろひょろっとしたやつは、蛇の下半身ってこと? 背中から生えてる、この毛みたいなのはよくわかんないけど」青木は言う。
「ウワバミ、って名前の人なんているの?」杉田は尋ねる。霊ももとは人である。霊の名前といったら、一般的には生前の名前を指すものだ。
「いや、あだ名だと思いますよ。たぶん、悪鬼たちはチームを組んでるんじゃないんですかね。だから、称号とかコードネーム的なものがつけられてるんだと思います」村山は杉田の疑問に答えた。
「それはありえない」しかし伊沢が彼の説を否定する。「悪霊が群れることは絶対にない。悪霊は同じ悪霊にすら忌み嫌われる存在だから、互いに利用しあうことはあっても、仲間になるなんてありえない」
 悪霊は悪霊同士で共食いをすることもある、非常におぞましい存在だ。その悪霊の進化系である悪鬼も同様で、いつ寝首をかかれるかわからないせいで、悪鬼同士はけっして仲間になることはできないはずなのだ。
「そいつらはね、九将って呼ばれてる」いつの間にか彼らのそばに来ていた伊賀が言った。
「九将?」伊沢が聞きかえす。
「うん。伊沢ちゃんの言う通り、仲間ってわけじゃないんだけど、悪鬼のボスみたいのがいるのね。こいつなんだけど」
 彼女はノートをめくって、あるページを指でさす。そこには、冬にめちゃくちゃ厚着をして着ぶくれしたような姿をしていて、頭に烏帽子のようなものが載っている人が描かれていた。
「こいつがボスをやってて、こいつが中心になって京都を荒らしてる。悪鬼たちに名前をつけたのもこいつ。あのね、陰陽師の姿をしてるんだよね、こいつ」
「あっこれ服か」堀田が言う。
 伊賀が堀田をにらむ。
「え、いやその、すみません。絵が下手くそとか、化け物に見えたとか、そういうことを言うつもりではなかったんですけど」堀田は謝った。
「まあまあまあ! とりあえず分かったよ。ようするに、こいつらに気をつければいいってことだよね。もし会ったら、逃げるか、倒せそうだったら倒すかするってことでいいんでしょ?」青木は不自然なほど大きな声で言う。
 そこで、料理を注文した人を呼ぶ声が聞こえる。伊賀は返事をする。
「うん、そういうこと。みんなこいつらと会ったら、全然逃げていいから。じゃあちょっと行ってくるね」彼女はそう言って離れる。
「じゃあ、それはそれでいいとして、どう分かれるか、だよね。俺と麻奈、村山君と伊沢さん、堀田さんと小野田ちゃんってのはいいとしてさ、伊賀さんをどうするか」
 この三組のあいだでは、そこまで大きな実力差はない。そうなると重要になるのは、今日誰が一番厄介な敵に出会うか、になってくる。
「ちょっとみんな、一列になってみてくれる?」杉田は言う。
「私も並ぶ?」伊賀は尋ねる。
「いや、大丈夫です」彼女は答える。
 五人が一列に並ぶ。杉田は左手をみんなのほうへ向けた状態で、ゆっくりと五人の前を歩く。
 一番端にいる小野田のところまでいくと、また戻っていく。それから、また小野田のいるほうへ進んでいく。
「二人が一番やばいです」杉田は小野田と堀田をさして言う。
「じゃあ、堀田君と小野田ちゃんのペアについてくよ。それで大丈夫になると思うから」いちごジャムを塗ったトーストを食べながら占いの様子を見守っていた伊賀が言う。
「ちなみに、どう危ないかっていうのはわかるものなんですか?」堀田は尋ねる。
「それは・・・・・・わからないです。ごめんなさい」彼女は謝る。
「いや、全然問題ありませんよ。たぶん、伊賀さんがいてくれれば大丈夫だと思いますし、大丈夫ですよ」彼は言う。
 ともあれ、伊賀・堀田・小野田と、青木・杉田と、そして伊沢・村山というかたちで分かれて動くことが決まった。