「キーンコーンカーンコーン」
チャイム先生が授業の始まりを伝える。
チャイム先生は女性らしい。
らしい、というのは常に顔を隠しているから分からない、という意味である。
黒の布で顔を覆った先生って意外と不気味だ。
この学校、仙芽市立第二中学校は教科担任制ではない。
体育だけ教科の先生がいるけど。
一時間目は…数学か。
「ここが+になり、するとここが解けるわけです」
僕はチラリと横を見た。
この学校は隣同士で机はくっついている。
なので左を見るとすぐ栗花落さんが見れるわけだ。
怖い。
まあこのクラスは四十人。
一列縦に五人なので、列は八列。
一列目と二列目、三列目と四列目、のように席はくっついているため、唯一の友達である倉津とはあまり喋れない。
栗花落さんを見ると、彼女はあまり授業を聞いていないようだ。
もしかすると頭は悪いのかも知れない。
彼女のiPadを見てみると、何かを打っているようだ。
この学校ではiPadが一人一台支給されている。
目を凝らして見てみると、それは恋愛小説だった。
栗花落さんが書いているのだろう。
彼女はタイピングが早い。
僕は栗花落さんの小説に没頭していた。
「ねぇ、何してるの?」
気づくと栗花落さんが不機嫌そうな顔で僕を見ていた。
見ていたというより、睨んでいた。
「いや、栗花落さんの小説」
僕は栗花落さんのiPadを指差した。
「すごく面白いよ」
と伝える。
面白い小説は賞賛されるべきだという信念を持つ僕は素直に褒めた。
実際、彼女の小説は面白かったんだし。
栗花落さんは一瞬満更でもなさそうな表情を浮かべたものの、次の瞬間、
「見ないでくれる?」
と態度を豹変させた。
「は、はい」
僕はしゅん、と項垂れた。
隣の席なんだからもう少し話しやすくしてくれたっていいじゃん、と思って視線をチャイム先生に戻すと、ボソボソっと何か聞こえた。
「え?」
僕は栗花落さんの方を向いて聞き返した。
「苗字で呼ばないで、嫌だから。麗香って呼んで。さん付けされるのも嫌いなの」
栗花落さ、いや、麗香は少し顔を赤ながらそう言った。
小説はあとで見せてもらおう、と思い、チャイム先生の方を向き直った時、
「お〜い最上、何栗花落を見てるんだ〜。授業に集中しろ〜。いくら栗花落が美人だとはいえ、見つめるのはどうかと思うぞ」
ぐぬぬ、余計なことを。
僕はチラリ、と麗香見る。
麗香は、イタズラが成功した子供のような顔で笑っていた。
ドクンッ!
僕は改めて数学に集中しようとした。
何だ?今のは。
僕は数学の授業の間ずっと考えた。
まさか…。
麗香が怖いのか?
僕は、そんな的外れな答えに辿り着き、授業を終えた。