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遠い日の約束

ー/ー



 大富豪と大貧民。


メジャーリーグと草野球。


月とスッポン。


舘ひろしと猫ひろし。


そして、人気作家『青川 次郎』と俺、『夏目 漱一郎』………



 そんな例えからもわかるように、青川と今の俺にはその境遇に雲泥の差があった。
かたや青川次郎は、『デブ猫コナン』シリーズを始めとするベストセラーを連発し、
今やの人気ミステリー作家。それに比べ、俺…夏目 漱一郎は、いまだヒット作を持たない売れない作家だ。

 俺と青川は同郷で同じ中学の同級生である。互いに小説家を目指し、二十歳で上京して安いボロアパートにルームシェアし、小説の執筆に明け暮れた仲だ。

 意気込んで最初に応募したのは、とあるメジャー出版社主宰の『S-1グランプリ』。
 二人共惨敗、一次選考にも引っ掛からなくて、その夜は居酒屋で潰れるまで酒をあおった。二人で肩を組み「いつか絶対、直木賞を獲るぞ!」と、拳を振り上げて叫んだ事もあったっけ。

 俺と青川の執筆スタイルには、独自のこだわりがあった。青川は、とにかく作品を量産した。片っ端から、書いて、書いてその作品の出来、不出来に関わらず全てを出版社に応募した。

「夏目、とにかく書くんだよ! 書いて、書いて、片っ端から応募するんだ。作品が良いかどうかなんて読む人間が決めればいい事だ!」

 それが、青川の口癖だった。

 だが、俺は違った。作品を書いても、自分が納得出来るものでなければ絶対に世に出してはいけないと思った。だから、応募もしない。未だに手書きで原稿用紙に書いている俺の部屋は、ボツになった原稿の山で埋めつくされている始末だ。

 ボロアパート時代(俺は今でもそうだが)青川は、俺のボツ作品のひとつを手にとりながらこう言った。

「夏目、これなんか全然いいんじゃないのか? これより駄作を平気で出してる作家なんて、ごまんといるぜ」

「いや、それは失敗作だ。だから応募はしない!」

「まったく頑固な奴だな。せっかく書いても読んでもらわなければ仕方がないだろうに………それじゃ、いつまで経っても売れないぜ」

「お前こそ、ただ数だけ応募すりゃいいってもんじゃないぞ!」

 時にそんな対立をしても、俺と青川は互いの実力を認めていた。

 そんなある日、ふとしたきっかけで青川の書いた小説が陽の目を浴びる時がやって来た。青川の作品のひとつが、出版社から書籍化する事になったのだ。書店に並ぶ小説の多くには『帯』というものが付くが、幸運な事に、青川のその小説には帯が付いたのだ。

 その宣伝効果抜群の帯のおかげもあって、青川の小説は飛ぶように売れ瞬く間に彼はベストセラー作家の仲間入りをするまでにのしあがった。
そんな訳で、今となっては青川にすっかり差をつけられてしまった俺ではあるが、こんな俺にも遂に千載一遇のチャンスが舞い込んで来たのだ!


 去年の年末、遂に俺の理想とする長編小説が完成したのだ!

 500ページの本格長編ミステリー。
 主人公の探偵は資産家の御曹司。
 その明晰な頭脳に加え潤沢な資金力と人脈を駆使して、迷宮入りしそうな難事件を鮮やかに解決していく。

 難解な密室殺人………

 複雑な人間関係………

 その中で繰り広げられる愛憎劇………

 奇抜なトリック………

 30年前の失踪事件との意外な繋がり………

 異世界から転生してきた謎の美女との甘いロマンス、そして溺愛!

 因縁のライバル暴走族総長との激しいカーチェイス!

 そして、ラスト50ページのあっと驚く大どんでん返し!


 今まで俺が書きたかったエッセンスをすべて詰め込んだ、夏目漱一郎の集大成とも言える傑作だ!


 そのタイトルは


















【お坊っちゃん探偵】









 2024年10月、その俺の小説の書籍化が決まった。

 その発売日も決まったある日、出版社の編集担当者から電話があった。

『夏目先生、朗報ですよ!先生のお坊っちゃん探偵の帯なんですが、なんとあの人気作家の青川次郎先生が書いて下さる事に決定しました!』

 青川が帯を書くと聞いて、俺は遠い昔に青川と交わしたあの約束の事を思い出した。

 あいつ、んだ………



◇◇◇


 二人共まだ売れない作家の卵だった俺と青川が、酔っ払ってくすんだ東京の空に向かって交わした約束………

「もし、俺かお前のどちらかが先に売れて人気作家になったら、というのはどうかな」

「ああ、それはいいな。そうしよう!」

 それが、俺と青川が交わした約束だった。


◇◇◇


 青川が俺の本にどんな帯を書いてくれるのか、本当に楽しみだ。出来れば、それは書店で実際に並んでいる自分の小説を手に取って確認したい。だから、俺は敢えてその帯の内容について担当者に聞く事はしなかった。

 そして、いよいよ『お坊ちゃん探偵』の発売日がやって来た。

 都内でもわりと大きな部類の書店の新刊コーナーの一角………そこに、俺の『お坊ちゃん探偵』が並んでいた。
 苦節二十年、遂に俺の夢が叶ったのだ!勿論、まだこの小説が売れると決まった訳ではない。しかし、作品の内容に関しては俺は十分過ぎる程の自信を持っている。

 それに、あの青川次郎が帯を飾ってくれているのだ!はたしてこれ以上の宣伝があるだろうか。俺の小説に、青川はどんなレビューを寄せてくれたのだろう………
 俺は、興奮しながら並んでいる自分の小説を手に取りその帯を確認した。









 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お坊ちゃん探偵【青川次郎氏 評】

『犯人は運転手の安田という男だ!』


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アイツ……マジで殺ス!


――おわり――



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 大富豪と大貧民。
メジャーリーグと草野球。
月とスッポン。
舘ひろしと猫ひろし。
そして、人気作家『青川 次郎』と俺、『夏目 漱一郎』………
 そんな例えからもわかるように、青川と今の俺にはその境遇に雲泥の差があった。
かたや青川次郎は、『デブ猫コナン』シリーズを始めとするベストセラーを連発し、
今や《《飛ぶ鳥を落とす勢い》》の人気ミステリー作家。それに比べ、俺…夏目 漱一郎は、いまだヒット作を持たない売れない作家だ。
 俺と青川は同郷で同じ中学の同級生である。互いに小説家を目指し、二十歳で上京して安いボロアパートにルームシェアし、小説の執筆に明け暮れた仲だ。
 意気込んで最初に応募したのは、とあるメジャー出版社主宰の『S-1グランプリ』。
 二人共惨敗、一次選考にも引っ掛からなくて、その夜は居酒屋で潰れるまで酒をあおった。二人で《《ぐでんぐでんになりながら》》肩を組み「いつか絶対、直木賞を獲るぞ!」と、拳を振り上げて叫んだ事もあったっけ。
 俺と青川の執筆スタイルには、独自のこだわりがあった。青川は、とにかく作品を量産した。片っ端から、書いて、書いてその作品の出来、不出来に関わらず全てを出版社に応募した。
「夏目、とにかく書くんだよ! 書いて、書いて、片っ端から応募するんだ。作品が良いかどうかなんて読む人間が決めればいい事だ!」
 それが、青川の口癖だった。
 だが、俺は違った。作品を書いても、自分が納得出来るものでなければ絶対に世に出してはいけないと思った。だから、応募もしない。未だに手書きで原稿用紙に書いている俺の部屋は、ボツになった原稿の山で埋めつくされている始末だ。
 ボロアパート時代(俺は今でもそうだが)青川は、俺のボツ作品のひとつを手にとりながらこう言った。
「夏目、これなんか全然いいんじゃないのか? これより駄作を平気で出してる作家なんて、ごまんといるぜ」
「いや、それは失敗作だ。だから応募はしない!」
「まったく頑固な奴だな。せっかく書いても読んでもらわなければ仕方がないだろうに………それじゃ、いつまで経っても売れないぜ」
「お前こそ、ただ数だけ応募すりゃいいってもんじゃないぞ!」
 時にそんな対立をしても、俺と青川は互いの実力を認めていた。
 そんなある日、ふとしたきっかけで青川の書いた小説が陽の目を浴びる時がやって来た。青川の作品のひとつが、出版社から書籍化する事になったのだ。書店に並ぶ小説の多くには『帯』というものが付くが、幸運な事に、青川のその小説には《《当時人気急上昇中のベストセラー作家が書いた》》帯が付いたのだ。
 その宣伝効果抜群の帯のおかげもあって、青川の小説は飛ぶように売れ瞬く間に彼はベストセラー作家の仲間入りをするまでにのしあがった。
そんな訳で、今となっては青川にすっかり差をつけられてしまった俺ではあるが、こんな俺にも遂に千載一遇のチャンスが舞い込んで来たのだ!
 去年の年末、遂に俺の理想とする長編小説が完成したのだ!
 500ページの本格長編ミステリー。
 主人公の探偵は資産家の御曹司。
 その明晰な頭脳に加え潤沢な資金力と人脈を駆使して、迷宮入りしそうな難事件を鮮やかに解決していく。
 難解な密室殺人………
 複雑な人間関係………
 その中で繰り広げられる愛憎劇………
 奇抜なトリック………
 30年前の失踪事件との意外な繋がり………
 異世界から転生してきた謎の美女との甘いロマンス、そして溺愛!
 因縁のライバル暴走族総長との激しいカーチェイス!
 そして、ラスト50ページのあっと驚く大どんでん返し!
 今まで俺が書きたかったエッセンスをすべて詰め込んだ、夏目漱一郎の集大成とも言える傑作だ!
 そのタイトルは
【お坊っちゃん探偵】
 2024年10月、その俺の小説の書籍化が決まった。
 その発売日も決まったある日、出版社の編集担当者から電話があった。
『夏目先生、朗報ですよ!先生のお坊っちゃん探偵の帯なんですが、なんとあの人気作家の青川次郎先生が書いて下さる事に決定しました!』
 青川が帯を書くと聞いて、俺は遠い昔に青川と交わしたあの約束の事を思い出した。
 あいつ、《《あの約束をまだ覚えてた》》んだ………
◇◇◇
 二人共まだ売れない作家の卵だった俺と青川が、酔っ払ってくすんだ東京の空に向かって交わした約束………
「もし、俺かお前のどちらかが先に売れて人気作家になったら、《《後から出す方の小説の帯を書く》》というのはどうかな」
「ああ、それはいいな。そうしよう!」
 それが、俺と青川が交わした約束だった。
◇◇◇
 青川が俺の本にどんな帯を書いてくれるのか、本当に楽しみだ。出来れば、それは書店で実際に並んでいる自分の小説を手に取って確認したい。だから、俺は敢えてその帯の内容について担当者に聞く事はしなかった。
 そして、いよいよ『お坊ちゃん探偵』の発売日がやって来た。
 都内でもわりと大きな部類の書店の新刊コーナーの一角………そこに、俺の『お坊ちゃん探偵』が並んでいた。
 苦節二十年、遂に俺の夢が叶ったのだ!勿論、まだこの小説が売れると決まった訳ではない。しかし、作品の内容に関しては俺は十分過ぎる程の自信を持っている。
 それに、あの青川次郎が帯を飾ってくれているのだ!はたしてこれ以上の宣伝があるだろうか。俺の小説に、青川はどんなレビューを寄せてくれたのだろう………
 俺は、興奮しながら並んでいる自分の小説を手に取りその帯を確認した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お坊ちゃん探偵【青川次郎氏 評】
『犯人は運転手の安田という男だ!』
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アイツ……マジで殺ス!
――おわり――