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死ぬ前に伝えたいこと

ー/ー



 解散したあと、伊沢と村山は二人で食堂へと行った。食堂の厨房には、こんな時でも働いている人たちがいた。いや、こんな時だからこそ、村山たちを支えるためにヤタガラスが手を回しておいてくれたのか。

 いずれにしても彼らは料理を作ってくれていた。しかも、何を頼んでも村山たちはお金を支払わなくていいという。代金はぜんぶ、ヤタガラスがもってくれるそうだ。

 そんなわけで、伊沢はでかいいちごパフェを注文した。

「パフェだけですか?」

「うん。霊力消費しちゃったから、甘いものいっぱい食べて回復しないと」彼女は言う。

「いや、夕飯なんだからパフェだけじゃなくて、ご飯とか頼んだ方がいいんじゃ」

「うーん、でもそんなにいっぱい食べられないから」

「まあ、確かにそれもそうかもしれませんね」彼はいちごパフェを見て、言う。

 それから彼は、骨付きチキンのあぶり焼きとフライドポテト、それと伊沢が薦めてくれたエビピラフを注文した。さらに、取り皿も頼んでおいた。

 やがて、パフェがやってくると、彼女は目を輝かせながらパフェを食べ始めた。

「うまあっ。このパフェ、めっちゃおいしいよ、村山君。一口あげようか?」

「えっ⁉」

「冗談だって。欲しかったら村山君も注文すれば? タダだし。大丈夫、村山君は男の子だからきっと全部食べられるよ」

「そ、そうですね。せっかくですし、食べてみます」彼は伊沢の食べているものと同じものを注文した。

 やがて、フライドポテトと骨付きチキンのあぶり焼きがやってきた。

「伊沢さん、どれか食べます?」

 彼は、伊沢が途中でしょっぱいものを食べたくなることをあらかじめわかっていた。だからこそ、シェアしやすいものを注文しておいた。

「いいの? じゃあ、ちょっともらうね」なお、伊沢は村山が最初から分けてくれるつもりでこれらを注文していたことをわかっていた。

 そして村山は、伊沢がそれをわかっていることをわかっていた。それくらい、二人は互いを知り尽くしていた。

 ある一つの気持ちを除いて。

 彼のこの気持ちだけは、伊沢も知らないはずだ。それというのも、彼がずっと胸に秘めてきて、口に出してこなかったからだ。

 だが、彼は今日、伊沢にはっきりと「あなたのことが好きです」と伝えようと決めていた。京都でこういうことが起こると分かったその時から、それが起こった日に告白しようと決めていたのだ。

 これまででもっとも危険な戦いであり、お互いどちらが死んでもおかしくない状況。言えるチャンスはこれが最後かもしれない。それが彼の決意を後押しするきっかけとなっていた。

 そのため、彼は食事している最中も緊張しっぱなしだった。いつ言おうかと、ずっとタイミングをうかがっていたが、楽しそうにパフェを食べながら、思い出したように村山のぶんをとっていく彼女を見ていると、なかなか言い出せない。

 しかし今言わなければ、明日死ぬかもしれない。告白するような雰囲気ではない、などと言っている場合ではない。

 顔をあげて、前を見る。その時、伊沢の後ろにいる青木と杉田の姿が目に入る。二人は、ハイテンションでいちごパフェを堪能している伊沢を見て、伊沢ってこんなかんじだったっけ、みたいな表情を浮かべている。

「青木さん、麻奈さん。お二人も夕飯を食べに来たんですか?」

 彼が青木の名前を出したとたん、伊沢の顔からすっと笑顔が消える。

「ん? ああいや、ちょっと麻奈と散歩に行こうかなって」

「そうなんですね」

 彼は、この二人は付き合ってるのかな、などと思ったりしたが、とくに聞いたりはしなかった。

「ここっていつまでやってるの?」青木は尋ねた。

「夜の九時までらしいです」

「意外と遅くまでやってるんだね、ありがと。てかさ、二人って付き合ってるの?」

「え、え⁉」彼は予想外の質問に動揺してしまう。

「付き合ってません」伊沢が、青木たちのほうを見ずに答える。

「そうなんだ。なんかすごい仲良さげだったから、付き合ってるのかなって思ってたんだけど」

「いいえ」

「そうなんだ。あー、なんかごめんね、邪魔しちゃって。邪魔者はもう行くから、二人でごゆっくり」

 そうして二人は去っていった。

 一瞬、沈黙が訪れる。しかも二人きり。チャンスはこの瞬間しかないと思って、彼は話を切り出す。

「伊沢さん、死ぬ前に言いたいことがあるんですけど」

 彼女が目を丸くする。

「なに? 死ぬって、なんで? 病気とかケガはないはずだけど」

「いやほら、明日から、悪鬼の討伐に行くじゃないですか。それでどっちか死ぬかもしれないから」

「死なないよ」彼女は断言する。「だって、二人で生きて帰るんだから」彼女はとんでもないことを当たり前のように言う。

「え、いやでも」

「少なくとも私は、それを絶対に実現するつもりでいる。村山君はそうじゃないの?」

「いや、僕も努力はするつもりで、二人で生きて帰りたいです」

「帰りたい、じゃだめ。二人で生きて帰るの。わかった?」

「はい」

 彼女の力強い言葉が、まるで光明のようにすっと彼の胸に差し込んだような気がした。

 そもそもよく考えたら、ここで告白して「この戦いが終わったら付き合ってください」なんて言ったりするのは、完全な死亡フラグである。こういう時に一番言っちゃいけない類のセリフだ。

 だがそうなると、思いを伝えるタイミングは戦いが終わった後になってしまう。どうやら、伊沢を守り抜いて自分も生き残って、すべてが終わったあとで告白するしかないようだ。

 だがそれでも、悪い気はしない。少なくとも、死ぬことを考えていたさっきよりは、気持ちが晴れ晴れとしていた。

「で、死ぬ前に言いたかったことってなに?」彼女は尋ねる。

「え? ああいや、それは、死なないなら言う必要がないので、もう大丈夫です」

「ふうん、あっそう」彼女はそう言うと、再び食事に戻った。



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 解散したあと、伊沢と村山は二人で食堂へと行った。食堂の厨房には、こんな時でも働いている人たちがいた。いや、こんな時だからこそ、村山たちを支えるためにヤタガラスが手を回しておいてくれたのか。
 いずれにしても彼らは料理を作ってくれていた。しかも、何を頼んでも村山たちはお金を支払わなくていいという。代金はぜんぶ、ヤタガラスがもってくれるそうだ。
 そんなわけで、伊沢はでかいいちごパフェを注文した。
「パフェだけですか?」
「うん。霊力消費しちゃったから、甘いものいっぱい食べて回復しないと」彼女は言う。
「いや、夕飯なんだからパフェだけじゃなくて、ご飯とか頼んだ方がいいんじゃ」
「うーん、でもそんなにいっぱい食べられないから」
「まあ、確かにそれもそうかもしれませんね」彼はいちごパフェを見て、言う。
 それから彼は、骨付きチキンのあぶり焼きとフライドポテト、それと伊沢が薦めてくれたエビピラフを注文した。さらに、取り皿も頼んでおいた。
 やがて、パフェがやってくると、彼女は目を輝かせながらパフェを食べ始めた。
「うまあっ。このパフェ、めっちゃおいしいよ、村山君。一口あげようか?」
「えっ⁉」
「冗談だって。欲しかったら村山君も注文すれば? タダだし。大丈夫、村山君は男の子だからきっと全部食べられるよ」
「そ、そうですね。せっかくですし、食べてみます」彼は伊沢の食べているものと同じものを注文した。
 やがて、フライドポテトと骨付きチキンのあぶり焼きがやってきた。
「伊沢さん、どれか食べます?」
 彼は、伊沢が途中でしょっぱいものを食べたくなることをあらかじめわかっていた。だからこそ、シェアしやすいものを注文しておいた。
「いいの? じゃあ、ちょっともらうね」なお、伊沢は村山が最初から分けてくれるつもりでこれらを注文していたことをわかっていた。
 そして村山は、伊沢がそれをわかっていることをわかっていた。それくらい、二人は互いを知り尽くしていた。
 ある一つの気持ちを除いて。
 彼のこの気持ちだけは、伊沢も知らないはずだ。それというのも、彼がずっと胸に秘めてきて、口に出してこなかったからだ。
 だが、彼は今日、伊沢にはっきりと「あなたのことが好きです」と伝えようと決めていた。京都でこういうことが起こると分かったその時から、それが起こった日に告白しようと決めていたのだ。
 これまででもっとも危険な戦いであり、お互いどちらが死んでもおかしくない状況。言えるチャンスはこれが最後かもしれない。それが彼の決意を後押しするきっかけとなっていた。
 そのため、彼は食事している最中も緊張しっぱなしだった。いつ言おうかと、ずっとタイミングをうかがっていたが、楽しそうにパフェを食べながら、思い出したように村山のぶんをとっていく彼女を見ていると、なかなか言い出せない。
 しかし今言わなければ、明日死ぬかもしれない。告白するような雰囲気ではない、などと言っている場合ではない。
 顔をあげて、前を見る。その時、伊沢の後ろにいる青木と杉田の姿が目に入る。二人は、ハイテンションでいちごパフェを堪能している伊沢を見て、伊沢ってこんなかんじだったっけ、みたいな表情を浮かべている。
「青木さん、麻奈さん。お二人も夕飯を食べに来たんですか?」
 彼が青木の名前を出したとたん、伊沢の顔からすっと笑顔が消える。
「ん? ああいや、ちょっと麻奈と散歩に行こうかなって」
「そうなんですね」
 彼は、この二人は付き合ってるのかな、などと思ったりしたが、とくに聞いたりはしなかった。
「ここっていつまでやってるの?」青木は尋ねた。
「夜の九時までらしいです」
「意外と遅くまでやってるんだね、ありがと。てかさ、二人って付き合ってるの?」
「え、え⁉」彼は予想外の質問に動揺してしまう。
「付き合ってません」伊沢が、青木たちのほうを見ずに答える。
「そうなんだ。なんかすごい仲良さげだったから、付き合ってるのかなって思ってたんだけど」
「いいえ」
「そうなんだ。あー、なんかごめんね、邪魔しちゃって。邪魔者はもう行くから、二人でごゆっくり」
 そうして二人は去っていった。
 一瞬、沈黙が訪れる。しかも二人きり。チャンスはこの瞬間しかないと思って、彼は話を切り出す。
「伊沢さん、死ぬ前に言いたいことがあるんですけど」
 彼女が目を丸くする。
「なに? 死ぬって、なんで? 病気とかケガはないはずだけど」
「いやほら、明日から、悪鬼の討伐に行くじゃないですか。それでどっちか死ぬかもしれないから」
「死なないよ」彼女は断言する。「だって、二人で生きて帰るんだから」彼女はとんでもないことを当たり前のように言う。
「え、いやでも」
「少なくとも私は、それを絶対に実現するつもりでいる。村山君はそうじゃないの?」
「いや、僕も努力はするつもりで、二人で生きて帰りたいです」
「帰りたい、じゃだめ。二人で生きて帰るの。わかった?」
「はい」
 彼女の力強い言葉が、まるで光明のようにすっと彼の胸に差し込んだような気がした。
 そもそもよく考えたら、ここで告白して「この戦いが終わったら付き合ってください」なんて言ったりするのは、完全な死亡フラグである。こういう時に一番言っちゃいけない類のセリフだ。
 だがそうなると、思いを伝えるタイミングは戦いが終わった後になってしまう。どうやら、伊沢を守り抜いて自分も生き残って、すべてが終わったあとで告白するしかないようだ。
 だがそれでも、悪い気はしない。少なくとも、死ぬことを考えていたさっきよりは、気持ちが晴れ晴れとしていた。
「で、死ぬ前に言いたかったことってなに?」彼女は尋ねる。
「え? ああいや、それは、死なないなら言う必要がないので、もう大丈夫です」
「ふうん、あっそう」彼女はそう言うと、再び食事に戻った。