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魔眼の悪鬼

ー/ー



 青木は悪鬼と目が合った。その直後、彼の右腕が勝手に動き出した。そして、彼の右腕は彼の首をつかんで絞めあげようとしていた。

 杉田が手を合わせる。それから右手で彼の背中を叩いた。すると、彼の腕から力がすっと抜けて、自分の意志で動かせるようになった。

 今度は悪鬼が杉田のほうを見た。

 その時、杉田の左手の周りに大量の手が一斉に湧き出してきたのを青木は見た。その手が彼女の腕をつかむと、手を無理やり動かして、両目をつぶさせるような動きをさせようとし始めた。

 彼はすぐさま杉田の背中を叩いて、解呪した。

「魔眼だ! あいつの目で見られると呪いにかかる!」

 危険な状況に陥っていると理解した堀田は、手を合わせると、ばっと両手を前に突き出して、結界を張った。

 さらに、左手の自由を取り戻した杉田が、結界をもう一つ、堀田のそれを覆うように張った。

 それで、三人が呪いにかかることはなくなった。

 青木は手を合わせてふっと息を吐くと、両手を前後に大きく広げて、青い火でできた矢を作り出した。そして、それを悪鬼めがけて放った。

 しかし、距離がありすぎた。悪鬼は、約五十メートルほど先から飛んでくるその矢を、あっさりとよけてしまった。

 悪鬼は動きを止めた。そのまま、近づいてこようとしない。遠く離れた距離を保ったまま、こちらの様子をうかがっていた。

「近づいたらやられるってわかってるみたいですね。全然来ようとしない」青木は言う。

「でも、向こうから来ないなら、こっちも夜まではやられることは――」そこで、彼女は悪鬼の狙いに気づく。

「そういうことだよ。夜まで時間稼ぎをするつもりだ。夜になれば向こうのほうが有利だってわかってるから」

「待って、それだけじゃない。周りにいる悪鬼の気配が増えてる!」彼女は言う。

「完全に囲まれましたね。それでも今なら倒せるかもしれませんが、夜になったら、ちょっと無理そうですね」堀田は言った。

 青木はあたりを見回す。そうして周りにいる悪鬼たちの様子を見てから、言う。

「まだ来る様子はないですね。でもこっちがピンチになったら、一斉に来ると思います」

 すると、杉田が手を合わせた。

「イーヒ ジン」

「麻奈、だめだ。天呪はまだ使っちゃまずい」青木は言った。

 彼女は唱えるのをやめて、彼を見る。

「精霊が力を使い切ったらまずい。絶対仕留められるっていうところまでは、とっておかないと」

「あ、そっか。ごめん」

「いいよ。焦るのもわかるわ。俺も今、マジで焦ってるし」

「とりあえず、まずはあれを仕留めないとだめですよね。微力ながら、僕もお手伝いさせていただきます」

「お願いします。ちょっと、この距離じゃ一人だと無理だ」

 彼は遠くにいる悪鬼を見据える。しかし悪鬼の距離はあまりに遠すぎるように思えた。

 これまで青木はおもに、除霊をメインに活動してきた。そういった事例では、どんなに遠くても数メートル程度しか離れていなかった。ところが今回の悪鬼は五十メートル以上は先にいる。

 彼には遠距離の敵を狙撃した経験などない。これまで、そんな技術はいらなかった。遠くにいるなら、結界を全身に張った状態で近づいて仕留めるだけでよかった。

 つい先ほども、そのようにしようとした。しかしあの悪鬼の呪いは、結界を無視して彼らに作用した。どういう呪いなのかはわからない。しかもそれを暴くような時間的余裕もあまりない。

「私が予知する」

 杉田の言葉で、彼は思考の渦から引き戻される。

「え?」

「私が、雅哉の未来を予知して、勝ち筋を見つける」

「そんなの、できるのか?」

「わからない。でもいつも占いでやってるから、たぶんできると思う」

 成功するかわからない。しかし、彼は彼女の力のすごさを知っていた。彼女は京都で起こったこのできごとも予知した。そして、七人をつなぎ合わせたのも彼女だ。その彼女なら、できるかもしれない。勝ち筋を視ることも。

「わかった、頼む」

 彼は彼女に左手を伸ばす。彼女は両手で彼の左手を包み込むように握ると、目をつぶった。

 彼は悪鬼のほうを見据えた。悪鬼の頭上に、黒い点のようなものが現れる。それは大きな黒い霊力の棘へと成長した。それが弾丸のような勢いでこちらに飛んできた。

 彼は右手を前に伸ばして、結界を張る。その結界に棘がぶつかって消える。一方、結界にはひびが入る。

 攻撃はそれでは終わらない。黒い棘が次々と生成されていって、それが五月雨(さみだれ)のように次々と飛んでくる。

 それに対して青木と堀田は、二枚三枚と、どんどん結界を張っていく。結界に棘が突き刺さって、結界が割れて、また結界が張られるというようなことが一瞬のあいだに何度も繰り返される。

 いつしか、悪鬼はけたたましい笑い声をあげていた。しかし目は笑っていなくて、血走った目をかっと見開いて、青木たちを凝視していた。

 そして、ひときわ大きな黒い棘が生成される。巨木のような大きさのそれが、青木たちに向かって放たれる。

 青木たちは結界を七重に張った。そして、結界に棘がぶつかる。結界が立て続けに五枚割れる。しかし六枚目の結界が棘を止める。やがて、棘は霧散した。

「視えた」麻奈は言って、顔をあげる。

「天呪で、火の結界に悪鬼を閉じ込めて!」彼女は指示を出した。

「わかった!」青木は手を合わせて、ふっと息を吐いた。

「防御は僕に任せてください!」堀田は結界を張った。

「イーヒ ジン イバ アグチ ラクシトム イシュカ」青木は天呪を唱えてから、両手を前に突き出して、視界の先にいる相手を両手で囲うように動かした。

 悪鬼は逃げ出そうとする。しかし逃げ切る前に、悪鬼の周りを青い火の球体が囲む。悪鬼は火の壁にぶつかって、悲鳴をあげた。

 杉田が手を合わせる。そして、光の奔流を相手に向かって放った。光が当たると、悪鬼は苦しんだ。彼女の光は日光と似たような性質を持っていて、その光は邪悪の魂を焼く。

「雅哉、結界を縮めて、あいつを焼いて!」

「なるほど、そういうことか!」

 彼は結界を操作して、大きさを縮めていく。

 光で浄化されながらも燃え盛る火から逃げていた悪鬼だが、結界が小さくなるごとに火が迫ってきて、しだいに逃げ場がなくなっていく。そしてとうとう、火が悪鬼の体を焼き始めた。悪鬼は悲鳴をあげ、急速に白い粒子となって消え始めた。

 火の結界がボール大になった頃、悪鬼は完全に消滅した。火の結界が消えたあとには、何も残っていなかった。

「終わったね」彼は言う。

「うん、しかも、周りの悪鬼も逃げてったみたい」麻奈は言った。

 安全であることを確信すると、彼らは車に乗り込んだ。そして車を走らせて結界の境界線へと向かう。そして車が結界の中から抜け出した。

 そのまま車は本部へと向かって行った。


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 青木は悪鬼と目が合った。その直後、彼の右腕が勝手に動き出した。そして、彼の右腕は彼の首をつかんで絞めあげようとしていた。
 杉田が手を合わせる。それから右手で彼の背中を叩いた。すると、彼の腕から力がすっと抜けて、自分の意志で動かせるようになった。
 今度は悪鬼が杉田のほうを見た。
 その時、杉田の左手の周りに大量の手が一斉に湧き出してきたのを青木は見た。その手が彼女の腕をつかむと、手を無理やり動かして、両目をつぶさせるような動きをさせようとし始めた。
 彼はすぐさま杉田の背中を叩いて、解呪した。
「魔眼だ! あいつの目で見られると呪いにかかる!」
 危険な状況に陥っていると理解した堀田は、手を合わせると、ばっと両手を前に突き出して、結界を張った。
 さらに、左手の自由を取り戻した杉田が、結界をもう一つ、堀田のそれを覆うように張った。
 それで、三人が呪いにかかることはなくなった。
 青木は手を合わせてふっと息を吐くと、両手を前後に大きく広げて、青い火でできた矢を作り出した。そして、それを悪鬼めがけて放った。
 しかし、距離がありすぎた。悪鬼は、約五十メートルほど先から飛んでくるその矢を、あっさりとよけてしまった。
 悪鬼は動きを止めた。そのまま、近づいてこようとしない。遠く離れた距離を保ったまま、こちらの様子をうかがっていた。
「近づいたらやられるってわかってるみたいですね。全然来ようとしない」青木は言う。
「でも、向こうから来ないなら、こっちも夜まではやられることは――」そこで、彼女は悪鬼の狙いに気づく。
「そういうことだよ。夜まで時間稼ぎをするつもりだ。夜になれば向こうのほうが有利だってわかってるから」
「待って、それだけじゃない。周りにいる悪鬼の気配が増えてる!」彼女は言う。
「完全に囲まれましたね。それでも今なら倒せるかもしれませんが、夜になったら、ちょっと無理そうですね」堀田は言った。
 青木はあたりを見回す。そうして周りにいる悪鬼たちの様子を見てから、言う。
「まだ来る様子はないですね。でもこっちがピンチになったら、一斉に来ると思います」
 すると、杉田が手を合わせた。
「イーヒ ジン」
「麻奈、だめだ。天呪はまだ使っちゃまずい」青木は言った。
 彼女は唱えるのをやめて、彼を見る。
「精霊が力を使い切ったらまずい。絶対仕留められるっていうところまでは、とっておかないと」
「あ、そっか。ごめん」
「いいよ。焦るのもわかるわ。俺も今、マジで焦ってるし」
「とりあえず、まずはあれを仕留めないとだめですよね。微力ながら、僕もお手伝いさせていただきます」
「お願いします。ちょっと、この距離じゃ一人だと無理だ」
 彼は遠くにいる悪鬼を見据える。しかし悪鬼の距離はあまりに遠すぎるように思えた。
 これまで青木はおもに、除霊をメインに活動してきた。そういった事例では、どんなに遠くても数メートル程度しか離れていなかった。ところが今回の悪鬼は五十メートル以上は先にいる。
 彼には遠距離の敵を狙撃した経験などない。これまで、そんな技術はいらなかった。遠くにいるなら、結界を全身に張った状態で近づいて仕留めるだけでよかった。
 つい先ほども、そのようにしようとした。しかしあの悪鬼の呪いは、結界を無視して彼らに作用した。どういう呪いなのかはわからない。しかもそれを暴くような時間的余裕もあまりない。
「私が予知する」
 杉田の言葉で、彼は思考の渦から引き戻される。
「え?」
「私が、雅哉の未来を予知して、勝ち筋を見つける」
「そんなの、できるのか?」
「わからない。でもいつも占いでやってるから、たぶんできると思う」
 成功するかわからない。しかし、彼は彼女の力のすごさを知っていた。彼女は京都で起こったこのできごとも予知した。そして、七人をつなぎ合わせたのも彼女だ。その彼女なら、できるかもしれない。勝ち筋を視ることも。
「わかった、頼む」
 彼は彼女に左手を伸ばす。彼女は両手で彼の左手を包み込むように握ると、目をつぶった。
 彼は悪鬼のほうを見据えた。悪鬼の頭上に、黒い点のようなものが現れる。それは大きな黒い霊力の棘へと成長した。それが弾丸のような勢いでこちらに飛んできた。
 彼は右手を前に伸ばして、結界を張る。その結界に棘がぶつかって消える。一方、結界にはひびが入る。
 攻撃はそれでは終わらない。黒い棘が次々と生成されていって、それが|五月雨《さみだれ》のように次々と飛んでくる。
 それに対して青木と堀田は、二枚三枚と、どんどん結界を張っていく。結界に棘が突き刺さって、結界が割れて、また結界が張られるというようなことが一瞬のあいだに何度も繰り返される。
 いつしか、悪鬼はけたたましい笑い声をあげていた。しかし目は笑っていなくて、血走った目をかっと見開いて、青木たちを凝視していた。
 そして、ひときわ大きな黒い棘が生成される。巨木のような大きさのそれが、青木たちに向かって放たれる。
 青木たちは結界を七重に張った。そして、結界に棘がぶつかる。結界が立て続けに五枚割れる。しかし六枚目の結界が棘を止める。やがて、棘は霧散した。
「視えた」麻奈は言って、顔をあげる。
「天呪で、火の結界に悪鬼を閉じ込めて!」彼女は指示を出した。
「わかった!」青木は手を合わせて、ふっと息を吐いた。
「防御は僕に任せてください!」堀田は結界を張った。
「イーヒ ジン イバ アグチ ラクシトム イシュカ」青木は天呪を唱えてから、両手を前に突き出して、視界の先にいる相手を両手で囲うように動かした。
 悪鬼は逃げ出そうとする。しかし逃げ切る前に、悪鬼の周りを青い火の球体が囲む。悪鬼は火の壁にぶつかって、悲鳴をあげた。
 杉田が手を合わせる。そして、光の奔流を相手に向かって放った。光が当たると、悪鬼は苦しんだ。彼女の光は日光と似たような性質を持っていて、その光は邪悪の魂を焼く。
「雅哉、結界を縮めて、あいつを焼いて!」
「なるほど、そういうことか!」
 彼は結界を操作して、大きさを縮めていく。
 光で浄化されながらも燃え盛る火から逃げていた悪鬼だが、結界が小さくなるごとに火が迫ってきて、しだいに逃げ場がなくなっていく。そしてとうとう、火が悪鬼の体を焼き始めた。悪鬼は悲鳴をあげ、急速に白い粒子となって消え始めた。
 火の結界がボール大になった頃、悪鬼は完全に消滅した。火の結界が消えたあとには、何も残っていなかった。
「終わったね」彼は言う。
「うん、しかも、周りの悪鬼も逃げてったみたい」麻奈は言った。
 安全であることを確信すると、彼らは車に乗り込んだ。そして車を走らせて結界の境界線へと向かう。そして車が結界の中から抜け出した。
 そのまま車は本部へと向かって行った。