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うつらない異能

ー/ー



 ビームが通ったあとには、悪鬼の胸から胴体にかけて広がる大きな穴が開いていた。金色の炎に焼かれている悪鬼の体が、白い粒子となって消え始めた。

 悪鬼がわずかに手をあげるようなそぶりを見せた。それを見た村山と伊沢は身構える。しかしそのあげた手も白い粒子をなって消えてしまった。やがて悪鬼は完全に消失した。

 悪鬼の消失を見届けた村山は、小野田のほうを振り返る。

「すみません、すぐに治します」

 彼は手を合わせる。

「イーヒ ジン イダ ハリハリ イシュカ」村山は呪文を唱えて、彼女の傷を治した。

「あの、ひとついいですか?」撮影者が伊沢に声をかける。

「なんでしょうか?」

「先ほどからずっとカメラで撮っていて、目でも見ていたんですけど、みなさんが何をしているのか、私にはちょっとわからなくて。正直、小野田さんが人間にはとてもできないような動きをしていたのと、悪鬼が白い粒になって消えたところしか見えてないんですよ」

 伊沢達の使う能力は、神の気を帯びている。それゆえに霊力の波長が高く、霊力の低い人の目には見えないのだ。

「そもそも、悪鬼はなんで消えたんですか?」

「それは、霊的な火で燃やしたからです。霊的な火で燃やされた悪霊は強制的にあの世へ送られます。そしてあの世で、神様の審判を受けるんです」

「じゃあ、この手を合わせたりとかなんかしたりしてるのは、霊的な火で悪鬼を焼いてたってことなんですね?」

「そうなりますね」

「あと、あのお経みたいなものはなんだったんでしょうか? ちょっと、聞いたことのないものでしたが」

 それは、天呪(てんしゅ)と呼ばれる呪文だった。その呪文を、霊力を声にのせて唱えると、精霊たちの力を借りて技を作り出すことができる。

 しかしそうした情報はもちろん、言えないことのひとつとなっていた。

「それは言えません」

「なるほど、これも言えないことのひとつなんですね」

「あとあれを唱えたりとかはしないでください。下手するとやばいことになるので」

「どうなるんですか?」

「それは、唱えた人の霊力にもよりますけど、強すぎるとものが燃えたりすると思います」

 それを聞いた撮影者は、ごくっと生唾を飲み込んだ。

「気をつけます」

「質問はもうないですか?」

「はい、もう大丈夫です」

「では、行きましょう。まだ倒さなければならない悪鬼がいるので」

 そう言うと、彼らは元来た道を戻り始めた。

 〇

 彼女たちが巨人の悪鬼と戦ってから三十分ほど経った頃、堀田の元に青木雅哉と杉田麻奈がやってきた。

 青木雅哉は、金髪をツーブロックにしていて、黒い袈裟を着ていた。

 杉田麻奈は、黒い髪に金色のメッシュをいれていて、黒のワンピースに白のフレアスカートという恰好をしていた。

「青木さんって、僧侶だったんですか?」堀田は尋ねた。

「いや、資格は持ってるってだけですね。この袈裟は父親のやつです。父親が住職で、ここへ来る前にこれをくれたんで、着てきました」

「もう、伊賀さん以外の方は来てるんですね」堀田が何も言っていないにもかかわらず、杉田は言い当てた。

 伊賀、というのは彼らの仲間の一人だ。彼女はユタで、沖縄にいるため、ここへ来るのはかなり遅くなるはずだった。

「あ、視えました?」

「はい。なんか、燃え尽きかけてる大きな悪鬼の前に伊沢さんたちがいるイメージが頭に湧いてきたんです。一人、知らない人がいましたけど」

「あ、そんなところまで。じゃあさっそく、悪鬼を一体、倒したんだ。あ、ちなみにその知らない人っていうのは、我々の協力者です。ヤタガラスっていう組織でして・・・・・・」

 彼は今の状況を説明した。

「じゃあ、とりあえず俺らも京都へ行くとして、伊沢さんたちに加勢するか、それとも別のところへ行くかって話になるんだけど、どっちがいいかちょっと、占ってもらってもいい?」青木は杉田に頼んだ。

「わかった」

 彼女はオラクルカードを取り出すと、シャッフルしはじめた。カードをシャッフルしおえると、それを真ん中で半分にわけて、その二つの束を上と下でそれぞれ、扇形に広げた。

 そして左手をカードの上にかざして、何かを探すようにゆっくりと手を動かしていった。

 そして、三枚のカードを選び出して、取った順で左から並べていった。左から順に、過去、現在、未来をそれぞれ示している。

 彼女はそれらのカードをめくって、占いをする。そして、結果を伝えた。

「分かれていったほうがいい。カードから視えたのは、パニックになってる人たちの姿。みんな、毒ガスが撒かれたっていう警報を聞いて必死に逃げようとしてるんだけど、目の前でありえないことが起こっちゃって、絶対毒ガスなんかじゃないよねなんなのこれ、ってかんじでパニックに陥ってる」

「ありえないこと?」

「目の前で突然、人が腐り始めるっていうのを目の当たりにしちゃったりとか」

「腐る?」

「うん。腐る、としかいいようがない。すごく気持ち悪いし・・・・・・すごく恐ろしい。これには、一人で近づいちゃだめ。絶対に」

「これっていうのは、その悪鬼ってことか? どんなやつだ?」

「ごめん、姿は見えない。ただ、すごく怖いっていうのは感じる。

 あと、トンネルの前に立ってる三体の人みたいなのが見える。でも生きてる人じゃないし、恰好も現代のそれじゃない。なんか、平安時代の人みたいな恰好してる。たぶん、悪鬼だと思う。これを倒さなきゃ、っていう気持ちがすごく出てくる」

「三体か」

「数的には負けてる。でも、これは私たちだけで倒さなきゃいけない。とおせんぼしてる悪鬼が多すぎるから、それらを倒せるだけ倒さないと、逃げ道が作れない」

「なるほど、わかった。そのトンネルがある場所へ行けばいいってことだよね?」

「このあたりで一番近くにあるトンネルだと、東山トンネルだと思います。ちょっと遠いですけど、行けないことはないです。さすがにトンネルがカーナビに出るとは思えないので、案内だけします。戦えないのは申し訳ないですけど」


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 ビームが通ったあとには、悪鬼の胸から胴体にかけて広がる大きな穴が開いていた。金色の炎に焼かれている悪鬼の体が、白い粒子となって消え始めた。
 悪鬼がわずかに手をあげるようなそぶりを見せた。それを見た村山と伊沢は身構える。しかしそのあげた手も白い粒子をなって消えてしまった。やがて悪鬼は完全に消失した。
 悪鬼の消失を見届けた村山は、小野田のほうを振り返る。
「すみません、すぐに治します」
 彼は手を合わせる。
「イーヒ ジン イダ ハリハリ イシュカ」村山は呪文を唱えて、彼女の傷を治した。
「あの、ひとついいですか?」撮影者が伊沢に声をかける。
「なんでしょうか?」
「先ほどからずっとカメラで撮っていて、目でも見ていたんですけど、みなさんが何をしているのか、私にはちょっとわからなくて。正直、小野田さんが人間にはとてもできないような動きをしていたのと、悪鬼が白い粒になって消えたところしか見えてないんですよ」
 伊沢達の使う能力は、神の気を帯びている。それゆえに霊力の波長が高く、霊力の低い人の目には見えないのだ。
「そもそも、悪鬼はなんで消えたんですか?」
「それは、霊的な火で燃やしたからです。霊的な火で燃やされた悪霊は強制的にあの世へ送られます。そしてあの世で、神様の審判を受けるんです」
「じゃあ、この手を合わせたりとかなんかしたりしてるのは、霊的な火で悪鬼を焼いてたってことなんですね?」
「そうなりますね」
「あと、あのお経みたいなものはなんだったんでしょうか? ちょっと、聞いたことのないものでしたが」
 それは、|天呪《てんしゅ》と呼ばれる呪文だった。その呪文を、霊力を声にのせて唱えると、精霊たちの力を借りて技を作り出すことができる。
 しかしそうした情報はもちろん、言えないことのひとつとなっていた。
「それは言えません」
「なるほど、これも言えないことのひとつなんですね」
「あとあれを唱えたりとかはしないでください。下手するとやばいことになるので」
「どうなるんですか?」
「それは、唱えた人の霊力にもよりますけど、強すぎるとものが燃えたりすると思います」
 それを聞いた撮影者は、ごくっと生唾を飲み込んだ。
「気をつけます」
「質問はもうないですか?」
「はい、もう大丈夫です」
「では、行きましょう。まだ倒さなければならない悪鬼がいるので」
 そう言うと、彼らは元来た道を戻り始めた。
 〇
 彼女たちが巨人の悪鬼と戦ってから三十分ほど経った頃、堀田の元に青木雅哉と杉田麻奈がやってきた。
 青木雅哉は、金髪をツーブロックにしていて、黒い袈裟を着ていた。
 杉田麻奈は、黒い髪に金色のメッシュをいれていて、黒のワンピースに白のフレアスカートという恰好をしていた。
「青木さんって、僧侶だったんですか?」堀田は尋ねた。
「いや、資格は持ってるってだけですね。この袈裟は父親のやつです。父親が住職で、ここへ来る前にこれをくれたんで、着てきました」
「もう、伊賀さん以外の方は来てるんですね」堀田が何も言っていないにもかかわらず、杉田は言い当てた。
 伊賀、というのは彼らの仲間の一人だ。彼女はユタで、沖縄にいるため、ここへ来るのはかなり遅くなるはずだった。
「あ、視えました?」
「はい。なんか、燃え尽きかけてる大きな悪鬼の前に伊沢さんたちがいるイメージが頭に湧いてきたんです。一人、知らない人がいましたけど」
「あ、そんなところまで。じゃあさっそく、悪鬼を一体、倒したんだ。あ、ちなみにその知らない人っていうのは、我々の協力者です。ヤタガラスっていう組織でして・・・・・・」
 彼は今の状況を説明した。
「じゃあ、とりあえず俺らも京都へ行くとして、伊沢さんたちに加勢するか、それとも別のところへ行くかって話になるんだけど、どっちがいいかちょっと、占ってもらってもいい?」青木は杉田に頼んだ。
「わかった」
 彼女はオラクルカードを取り出すと、シャッフルしはじめた。カードをシャッフルしおえると、それを真ん中で半分にわけて、その二つの束を上と下でそれぞれ、扇形に広げた。
 そして左手をカードの上にかざして、何かを探すようにゆっくりと手を動かしていった。
 そして、三枚のカードを選び出して、取った順で左から並べていった。左から順に、過去、現在、未来をそれぞれ示している。
 彼女はそれらのカードをめくって、占いをする。そして、結果を伝えた。
「分かれていったほうがいい。カードから視えたのは、パニックになってる人たちの姿。みんな、毒ガスが撒かれたっていう警報を聞いて必死に逃げようとしてるんだけど、目の前でありえないことが起こっちゃって、絶対毒ガスなんかじゃないよねなんなのこれ、ってかんじでパニックに陥ってる」
「ありえないこと?」
「目の前で突然、人が腐り始めるっていうのを目の当たりにしちゃったりとか」
「腐る?」
「うん。腐る、としかいいようがない。すごく気持ち悪いし・・・・・・すごく恐ろしい。これには、一人で近づいちゃだめ。絶対に」
「これっていうのは、その悪鬼ってことか? どんなやつだ?」
「ごめん、姿は見えない。ただ、すごく怖いっていうのは感じる。
 あと、トンネルの前に立ってる三体の人みたいなのが見える。でも生きてる人じゃないし、恰好も現代のそれじゃない。なんか、平安時代の人みたいな恰好してる。たぶん、悪鬼だと思う。これを倒さなきゃ、っていう気持ちがすごく出てくる」
「三体か」
「数的には負けてる。でも、これは私たちだけで倒さなきゃいけない。とおせんぼしてる悪鬼が多すぎるから、それらを倒せるだけ倒さないと、逃げ道が作れない」
「なるほど、わかった。そのトンネルがある場所へ行けばいいってことだよね?」
「このあたりで一番近くにあるトンネルだと、東山トンネルだと思います。ちょっと遠いですけど、行けないことはないです。さすがにトンネルがカーナビに出るとは思えないので、案内だけします。戦えないのは申し訳ないですけど」