第三十五話:敗北の残響
ー/ー ゴールを駆け抜けた後、マーメルスはただ虚空を見つめていた。
(負けた……私が……。)
どこからか聞こえてくる歓声も、表彰台で名前を呼ぶアナウンスも、遠い蜃気楼のように霞んでいく。
脚の震えが止まらない。
肺は酸素を求めて焼けつくように熱く、心臓は今にも張り裂けそうに痛んでいた。
(あれほど差をつけていたのに……なんで……なんで追いつかれるの……。)
脚が止まった。
念動力を振り絞っても、もう推進力が出なかった。
フリアノンの追い込みは、恐ろしくも、美しかった。
「マーメルス。」
ピットに戻ったマーメルスの前に、ユリウスが立っていた。
いつも通り柔らかな微笑みを浮かべるその顔が、今はただ痛かった。
「……笑わないで……。」
絞り出すように呟く。
悔しくて、悔しくて、涙が込み上げてくる。
「私……負けたのに……なんで笑ってるの……。」
「君は最後まで諦めなかった。それが素晴らしいことだからさ。」
優しい声。
その優しさが、今はたまらなく辛い。
「諦めるわけない……私が……誰だと思ってるの……。」
母、アンダームスペリウール。
祖母、ファステスト。
血統に恥じないように、負けてはいけないと教えられてきた。
「私が……負けるなんて……。」
悔しさで奥歯を噛み締める。
唇から血の味が滲んだ。
「……マーメルス。」
ユリウスは少しだけ視線を伏せた後、静かに告げた。
「アースグランプリ……やめよう。」
「……え?」
「君は短距離向きだ。この結果を見て確信した。アースグランプリより、短距離走杯を狙うべきだ。」
マーメルスは目を見開いた。
今度は悔しさではない、別の感情が込み上げてきた。
「ふざけないで……!」
思わず声を荒げる。
周囲にいたスタッフたちが振り返ったが、そんなことはどうでもよかった。
「私は……至高の血族よ? 長距離だって勝ってみせる……!」
「無理はしない方がいい。」
ユリウスの声は静かで、しかし決して揺るがなかった。
「君の念動力は瞬発型だ。長距離ではどうしても消耗が激しい。短距離走杯なら、君の能力を最大限に発揮できる。」
「でも……!」
マーメルスは言い返そうとしたが、ユリウスの真剣な眼差しに言葉を失った。
「君を勝たせたいんだ。」
その一言が、胸の奥を突き刺した。
(勝たせたい……私を……。)
それがただの戦術論だとしても、ユリウスの言葉は優しかった。
でも、それが逆に辛かった。
「……わかった……。」
やっとの思いで答えると、脚の力が抜けて、その場にへたり込みそうになった。
必死で堪えて、ユリウスから顔を背ける。
(私……こんなんじゃだめ……。)
今まで積み上げてきた誇りが、少しずつ崩れていくようだった。
(でも……勝たなきゃ……。)
何よりも怖いのは、負けることではない。
負けたまま、誰にも必要とされなくなることだった。
◇
その夜、マーメルスは宿舎の自室でひとり膝を抱えていた。
窓の外には、木星圏の夜空が広がっている。
(短距離走杯……。)
アースグランプリではない。
でも、D1のタイトルであることには変わりない。
(絶対に……勝つ……。)
静かに目を閉じた。
フリアノンの笑顔が浮かぶ。
悔しさと共に、胸の奥に黒い炎が灯るのを感じた。
(次は……絶対に、私が勝つ……!)
握り締めた手が震えているのに気付き、さらに力を込めた。
血が滲んでも構わないと思った。
勝つことこそが、自分が生きる意味。
そう信じてきたし、これからも変わらない。
そして、次こそは――
その信念を、結果として世界に示してみせるのだ。
(負けた……私が……。)
どこからか聞こえてくる歓声も、表彰台で名前を呼ぶアナウンスも、遠い蜃気楼のように霞んでいく。
脚の震えが止まらない。
肺は酸素を求めて焼けつくように熱く、心臓は今にも張り裂けそうに痛んでいた。
(あれほど差をつけていたのに……なんで……なんで追いつかれるの……。)
脚が止まった。
念動力を振り絞っても、もう推進力が出なかった。
フリアノンの追い込みは、恐ろしくも、美しかった。
「マーメルス。」
ピットに戻ったマーメルスの前に、ユリウスが立っていた。
いつも通り柔らかな微笑みを浮かべるその顔が、今はただ痛かった。
「……笑わないで……。」
絞り出すように呟く。
悔しくて、悔しくて、涙が込み上げてくる。
「私……負けたのに……なんで笑ってるの……。」
「君は最後まで諦めなかった。それが素晴らしいことだからさ。」
優しい声。
その優しさが、今はたまらなく辛い。
「諦めるわけない……私が……誰だと思ってるの……。」
母、アンダームスペリウール。
祖母、ファステスト。
血統に恥じないように、負けてはいけないと教えられてきた。
「私が……負けるなんて……。」
悔しさで奥歯を噛み締める。
唇から血の味が滲んだ。
「……マーメルス。」
ユリウスは少しだけ視線を伏せた後、静かに告げた。
「アースグランプリ……やめよう。」
「……え?」
「君は短距離向きだ。この結果を見て確信した。アースグランプリより、短距離走杯を狙うべきだ。」
マーメルスは目を見開いた。
今度は悔しさではない、別の感情が込み上げてきた。
「ふざけないで……!」
思わず声を荒げる。
周囲にいたスタッフたちが振り返ったが、そんなことはどうでもよかった。
「私は……至高の血族よ? 長距離だって勝ってみせる……!」
「無理はしない方がいい。」
ユリウスの声は静かで、しかし決して揺るがなかった。
「君の念動力は瞬発型だ。長距離ではどうしても消耗が激しい。短距離走杯なら、君の能力を最大限に発揮できる。」
「でも……!」
マーメルスは言い返そうとしたが、ユリウスの真剣な眼差しに言葉を失った。
「君を勝たせたいんだ。」
その一言が、胸の奥を突き刺した。
(勝たせたい……私を……。)
それがただの戦術論だとしても、ユリウスの言葉は優しかった。
でも、それが逆に辛かった。
「……わかった……。」
やっとの思いで答えると、脚の力が抜けて、その場にへたり込みそうになった。
必死で堪えて、ユリウスから顔を背ける。
(私……こんなんじゃだめ……。)
今まで積み上げてきた誇りが、少しずつ崩れていくようだった。
(でも……勝たなきゃ……。)
何よりも怖いのは、負けることではない。
負けたまま、誰にも必要とされなくなることだった。
◇
その夜、マーメルスは宿舎の自室でひとり膝を抱えていた。
窓の外には、木星圏の夜空が広がっている。
(短距離走杯……。)
アースグランプリではない。
でも、D1のタイトルであることには変わりない。
(絶対に……勝つ……。)
静かに目を閉じた。
フリアノンの笑顔が浮かぶ。
悔しさと共に、胸の奥に黒い炎が灯るのを感じた。
(次は……絶対に、私が勝つ……!)
握り締めた手が震えているのに気付き、さらに力を込めた。
血が滲んでも構わないと思った。
勝つことこそが、自分が生きる意味。
そう信じてきたし、これからも変わらない。
そして、次こそは――
その信念を、結果として世界に示してみせるのだ。
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