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第三十四話:オータムフラワー祝勝回

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 オータムフラワーを制した翌日。
 フリアノンは、木星圏・白雷ジムの厩舎エリアで朝の光を浴びながら、まだ信じられないような面持ちで空を見上げていた。

 

 (私……勝ったんだ……。)

 

 昨日のことを思い出すたび、胸の奥が温かくなって、そして少しだけ苦しくなる。
 スレイプニルの笑顔。
 母・エポナのこと。
 そして、オーナーである菊乃のこと。

 

 「ノンちゃん、おはよー。」

 

 背後からかけられた明るい声に振り返ると、そこにはミオがいた。
 いつものようにツナギを着て、片手にタブレットを持ちながら笑っている。

 

 「……ミオさん。」

 

 「どないしたん? なんや浮かない顔やん。」

 

 「えっ……そんなこと……ないよ……。」

 

 フリアノンは慌てて笑顔を作った。
 でも、ミオには全てお見通しだった。

 

 「昨日はよう頑張ったなぁ。ほんま、おばちゃん泣きそうやったわ。」

 

 「泣かないで……。」

 

 くすぐったそうに笑うフリアノンを見て、ミオは「ほな」と軽く手を振った。

 

 「今日は祝勝会やで。ちゃんと着替えて待っとき。」

 

 「……うん。」

 

 

 ◇

 

 祝勝会は、白雷ジムの食堂を借り切って行われた。
 スタッフや整備士、トレーナー、そして同じジムに所属するサイドールたちが集まり、簡単なパーティーが用意されていた。

 

 「ほな、乾杯や!」

 

 ミオの号令で、全員がジュースの紙コップを掲げた。

 

 「フリアノン、オータムフラワー優勝、おめでとーっ!」

 

 「おめでとう!」

 

 「おめでと、ノンちゃん!」

 

 響き渡る歓声と拍手に、フリアノンの頬は赤くなった。
 こんなにも多くの人が、自分のために笑ってくれている。
 それだけで胸がいっぱいになる。

 

 「ノンちゃん、ほれ、ケーキやで。優勝記念や。」

 

 ミオが差し出したのは、大きなショートケーキだった。
 苺の上には「祝優勝 フリアノン」とチョコレートで書かれている。

 

 「わ……ありがとう……。」

 

 「ささ、写真撮るで!」

 

 ミオがカメラを構えると、周囲からもスマホが向けられた。

 

 「え、ちょっと……恥ずかしい……。」

 

 「ええから笑いや~。」

 

 慌てて笑顔を作るフリアノン。
 その横で、ジムのスタッフたちは満足げに頷いていた。

 

 

 ◇

 

 祝勝会がひと段落すると、フリアノンは自分の部屋に戻った。
 そして、引き出しの奥から一枚の写真を取り出す。

 

 (スレイ……私、やったよ。)

 

 そこには、幼い頃のフリアノンとスレイプニルが並んで笑っている姿が写っていた。

 

 (でも……まだ終わりじゃないよね。)

 

 オータムフラワーを勝って、クラシック三冠の一角を制した。
 けれど、スレイプニルが目指していた頂は、まだ遥か先にある。

 

 (次は……アースグランプリ……。)

 

 年末に行われる、地球圏最高峰のレース。
 3歳、4歳、男女関係なく出走することができる、サイドール界最大の祭典。

 

 (スレイ……おばあちゃん……見ててね。私、絶対にそこでも勝ってみせるから。)

 

 

 ◇

 

 その夜。
 部屋のベッドに入ったフリアノンは、いつもよりも静かな夜を感じながら、瞼を閉じた。

 

 (ありがとう……みんな……。)

 

 浮かぶのは、スレイプニルの笑顔、ミオの声、ユリウスの横顔。
 そして、母エポナの幻影。

 

 (私、走るよ……これからも……ずっと。)

 

 月明かりが差し込む静かな部屋で、フリアノンはそっと微笑み、深い眠りへと落ちていった。


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 オータムフラワーを制した翌日。
 フリアノンは、木星圏・白雷ジムの厩舎エリアで朝の光を浴びながら、まだ信じられないような面持ちで空を見上げていた。
 (私……勝ったんだ……。)
 昨日のことを思い出すたび、胸の奥が温かくなって、そして少しだけ苦しくなる。
 スレイプニルの笑顔。
 母・エポナのこと。
 そして、オーナーである菊乃のこと。
 「ノンちゃん、おはよー。」
 背後からかけられた明るい声に振り返ると、そこにはミオがいた。
 いつものようにツナギを着て、片手にタブレットを持ちながら笑っている。
 「……ミオさん。」
 「どないしたん? なんや浮かない顔やん。」
 「えっ……そんなこと……ないよ……。」
 フリアノンは慌てて笑顔を作った。
 でも、ミオには全てお見通しだった。
 「昨日はよう頑張ったなぁ。ほんま、おばちゃん泣きそうやったわ。」
 「泣かないで……。」
 くすぐったそうに笑うフリアノンを見て、ミオは「ほな」と軽く手を振った。
 「今日は祝勝会やで。ちゃんと着替えて待っとき。」
 「……うん。」
 ◇
 祝勝会は、白雷ジムの食堂を借り切って行われた。
 スタッフや整備士、トレーナー、そして同じジムに所属するサイドールたちが集まり、簡単なパーティーが用意されていた。
 「ほな、乾杯や!」
 ミオの号令で、全員がジュースの紙コップを掲げた。
 「フリアノン、オータムフラワー優勝、おめでとーっ!」
 「おめでとう!」
 「おめでと、ノンちゃん!」
 響き渡る歓声と拍手に、フリアノンの頬は赤くなった。
 こんなにも多くの人が、自分のために笑ってくれている。
 それだけで胸がいっぱいになる。
 「ノンちゃん、ほれ、ケーキやで。優勝記念や。」
 ミオが差し出したのは、大きなショートケーキだった。
 苺の上には「祝優勝 フリアノン」とチョコレートで書かれている。
 「わ……ありがとう……。」
 「ささ、写真撮るで!」
 ミオがカメラを構えると、周囲からもスマホが向けられた。
 「え、ちょっと……恥ずかしい……。」
 「ええから笑いや~。」
 慌てて笑顔を作るフリアノン。
 その横で、ジムのスタッフたちは満足げに頷いていた。
 ◇
 祝勝会がひと段落すると、フリアノンは自分の部屋に戻った。
 そして、引き出しの奥から一枚の写真を取り出す。
 (スレイ……私、やったよ。)
 そこには、幼い頃のフリアノンとスレイプニルが並んで笑っている姿が写っていた。
 (でも……まだ終わりじゃないよね。)
 オータムフラワーを勝って、クラシック三冠の一角を制した。
 けれど、スレイプニルが目指していた頂は、まだ遥か先にある。
 (次は……アースグランプリ……。)
 年末に行われる、地球圏最高峰のレース。
 3歳、4歳、男女関係なく出走することができる、サイドール界最大の祭典。
 (スレイ……おばあちゃん……見ててね。私、絶対にそこでも勝ってみせるから。)
 ◇
 その夜。
 部屋のベッドに入ったフリアノンは、いつもよりも静かな夜を感じながら、瞼を閉じた。
 (ありがとう……みんな……。)
 浮かぶのは、スレイプニルの笑顔、ミオの声、ユリウスの横顔。
 そして、母エポナの幻影。
 (私、走るよ……これからも……ずっと。)
 月明かりが差し込む静かな部屋で、フリアノンはそっと微笑み、深い眠りへと落ちていった。