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第十七話:鬱金香杯の決意

ー/ー



 白雷ジムの談話室は、早朝にも関わらず慌ただしかった。

 

 「D2鬱金香杯……?」

 

 村瀬の口から出た言葉に、フリアノンの瞳が輝く。

 

 「はいっ……!わたし、出られるんですか……!?」

 

 村瀬は書類をパラパラとめくりながら、少し笑った。

 

 「お前がBクラスに上がったばかりで、この切符を掴めたのは大したもんだ。
 鬱金香杯は春のチェリーブロッサムカップのトライアル戦や。
 ここで3位以内に入れば、本番出走が確定する。」

 

 「……チェリーブロッサムカップ……!」

 

 クラシック三冠のひとつ。
 短距離であれば、今の自分でも勝負になるかもしれない。
 スレイの夢を叶えるためにも、ここで結果を残さなくては――。

 

 

 ◇

 

 だが、その興奮はすぐに打ち砕かれた。

 

 「……悪いけど、その日は乗れないよ。」

 

 控え室でユリウスは柔らかく笑いながらそう告げた。

 

 「え……?」

 

 フリアノンの声が震える。

 

 「その日は地球圏でレースがあるんだ。
 しかも……どっちにしろ、本番には乗れないからね。」

 

 「ど、どういう……こと……?」

 

 ユリウスは優しい目で、しかしはっきりと言った。

 

 「チェリーブロッサムカップでは、マーメルスのナビゲーターをすることが決まってるんだ。」

 

 

 ◇

 

 心臓がズキンと痛む。

 

 (そっか……ユリウスさんは……マーメルスさんの……。)

 

 今まで練習でも公式戦でも、いつも自分を導いてくれたユリウス。
 淡い恋心を抱いていた。
 でも、それは叶わない恋で――そして、現実としても。

 

 

 ◇

 

 「ごめんね。
 でも……大丈夫。ノンちゃんにはノンちゃんの道がある。
 君はまだ成長している途中だ。
 それに……この距離、この舞台……君に合ってるよ。」

 

 優しい声。
 でも、その優しさが今は痛かった。

 

 

 ◇

 

 「……ナビ……どうする?」

 

 事務所に戻り、村瀬が頭を抱える。

 

 「ユリウスさんに頼れないとなると……ガイはスレイがいなくなってから、短距離より中距離の育成担当だし……。」

 

 フリアノンは俯いていた。
 スレイプニルを失った悲しみの上に、またひとつ、大きな穴が空いていく気がした。

 

 

 ◇

 

 その時――

 

 「なんやなんや~?また暗ぁ~なっとるやないか、白雷さんよ?」

 

 廊下から響く明るい声。
 入ってきたのは、赤いパイロットスーツを着た女性だった。

 

 「お、お前……春日井ミオ……!」

 

 「せやで~。なんや、ウチ呼ばれた気ぃしてなぁ?」

 

 ミオはユリウスと同じくフリーのナビゲーターで、木星圏では知らぬ者のいない実力者。
 関西弁とコテコテの明るさで、サイドールたちからは「ミオ姉」と呼ばれていた。

 

 

 ◇

 

 「ユリウスから聞いとるで?
 この娘、フリアノンちゃんやろ?」

 

 ミオがニカッと笑う。
 フリアノンは戸惑いながらも小さく頷いた。

 

 「ユリウスが頼んどったわ。
 “ノンちゃんは追い込みが最適だから、もし俺が乗れんかったら頼む”ってな。」

 

 「ユリウスさんが……?」

 

 驚くフリアノンに、ミオは軽く頭を撫でた。

 

 「大丈夫やで。ウチに任しとき。
 ウチは女子サイドールの扱いには定評あるんやからな~!」

 

 

 ◇

 

 その声に、胸の奥の冷たさが少しだけ溶けていく気がした。

 

 (ユリウスさん……わたしの事、ちゃんと考えてくれてたんだ……。)

 

 そして、新しいナビゲーター。
 ミオ姉のその明るい笑顔に、不思議と勇気が湧いてきた。

 

 

 ◇

 

 「さぁて……鬱金香杯、暴れたろかいっ!!」

 

 その声に、フリアノンは思わず笑顔になった。

 

 (わたし……やれる……!
 スレイ……見ててね……。
 わたし……チェリーブロッサムカップに……行くから……!)

 

 次なる舞台、鬱金香杯――。
 フリアノンの新たな挑戦が、今始まろうとしていた。


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 白雷ジムの談話室は、早朝にも関わらず慌ただしかった。
 「D2鬱金香杯……?」
 村瀬の口から出た言葉に、フリアノンの瞳が輝く。
 「はいっ……!わたし、出られるんですか……!?」
 村瀬は書類をパラパラとめくりながら、少し笑った。
 「お前がBクラスに上がったばかりで、この切符を掴めたのは大したもんだ。
 鬱金香杯は春のチェリーブロッサムカップのトライアル戦や。
 ここで3位以内に入れば、本番出走が確定する。」
 「……チェリーブロッサムカップ……!」
 クラシック三冠のひとつ。
 短距離であれば、今の自分でも勝負になるかもしれない。
 スレイの夢を叶えるためにも、ここで結果を残さなくては――。
 ◇
 だが、その興奮はすぐに打ち砕かれた。
 「……悪いけど、その日は乗れないよ。」
 控え室でユリウスは柔らかく笑いながらそう告げた。
 「え……?」
 フリアノンの声が震える。
 「その日は地球圏でレースがあるんだ。
 しかも……どっちにしろ、本番には乗れないからね。」
 「ど、どういう……こと……?」
 ユリウスは優しい目で、しかしはっきりと言った。
 「チェリーブロッサムカップでは、マーメルスのナビゲーターをすることが決まってるんだ。」
 ◇
 心臓がズキンと痛む。
 (そっか……ユリウスさんは……マーメルスさんの……。)
 今まで練習でも公式戦でも、いつも自分を導いてくれたユリウス。
 淡い恋心を抱いていた。
 でも、それは叶わない恋で――そして、現実としても。
 ◇
 「ごめんね。
 でも……大丈夫。ノンちゃんにはノンちゃんの道がある。
 君はまだ成長している途中だ。
 それに……この距離、この舞台……君に合ってるよ。」
 優しい声。
 でも、その優しさが今は痛かった。
 ◇
 「……ナビ……どうする?」
 事務所に戻り、村瀬が頭を抱える。
 「ユリウスさんに頼れないとなると……ガイはスレイがいなくなってから、短距離より中距離の育成担当だし……。」
 フリアノンは俯いていた。
 スレイプニルを失った悲しみの上に、またひとつ、大きな穴が空いていく気がした。
 ◇
 その時――
 「なんやなんや~?また暗ぁ~なっとるやないか、白雷さんよ?」
 廊下から響く明るい声。
 入ってきたのは、赤いパイロットスーツを着た女性だった。
 「お、お前……春日井ミオ……!」
 「せやで~。なんや、ウチ呼ばれた気ぃしてなぁ?」
 ミオはユリウスと同じくフリーのナビゲーターで、木星圏では知らぬ者のいない実力者。
 関西弁とコテコテの明るさで、サイドールたちからは「ミオ姉」と呼ばれていた。
 ◇
 「ユリウスから聞いとるで?
 この娘、フリアノンちゃんやろ?」
 ミオがニカッと笑う。
 フリアノンは戸惑いながらも小さく頷いた。
 「ユリウスが頼んどったわ。
 “ノンちゃんは追い込みが最適だから、もし俺が乗れんかったら頼む”ってな。」
 「ユリウスさんが……?」
 驚くフリアノンに、ミオは軽く頭を撫でた。
 「大丈夫やで。ウチに任しとき。
 ウチは女子サイドールの扱いには定評あるんやからな~!」
 ◇
 その声に、胸の奥の冷たさが少しだけ溶けていく気がした。
 (ユリウスさん……わたしの事、ちゃんと考えてくれてたんだ……。)
 そして、新しいナビゲーター。
 ミオ姉のその明るい笑顔に、不思議と勇気が湧いてきた。
 ◇
 「さぁて……鬱金香杯、暴れたろかいっ!!」
 その声に、フリアノンは思わず笑顔になった。
 (わたし……やれる……!
 スレイ……見ててね……。
 わたし……チェリーブロッサムカップに……行くから……!)
 次なる舞台、鬱金香杯――。
 フリアノンの新たな挑戦が、今始まろうとしていた。