1
ー/ー週末にコタローからいろいろ教わって、憂鬱な月曜日がきた。
でも……本来なら普通に登校するはずだったんだけど、その日だけは違ってた。
保護者である姉貴の連絡網に来たメールを見てたら、すっごい真剣な顔してたんだ。
「今日は臨時休校だって。代わりに宿題を出すから追ってタケルの方にメール来るってさ」
「え、どういうこと……?」
姉貴のスマホに出ていた理由は「校内に不審者出没」。
なんでも土日当直の先生が、夜の校内巡回の時に図書室の中を歩き回る巨大な影を見つけたんだとか。
でもって、今日と明日は警察が調査に来てるってことで1日お休み。
マジかよ。だったらコタローとまだ修行してた方のがよかったんじゃね? なんてため息が出ちまった。いけないなもう。
でも……ちょっと気になるな。その巨大な不審者って。
まあ俺は休みでも姉貴は普通に出勤。バイクのヘルメット片手に心配そうな顔で告げてきた。「分かってるとは思うけど」って。
「首突っ込むな。でしょ」
一応そう答えてはおいたが、今度は裏山とか公園なんかじゃない。俺の通ってる学校なんだ。スルーできるわけがない。
となると、夜中にこっそり忍び込もうかな……
「あのサムライの子だっけ? 泊まらせてもいいよ」
姉貴ありがと! チャンス到来ってやつだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
「今夜、学校に潜入しようと思うんだ」
「……もしかして、不審者とかですか?」
思わず俺はうんと答えちまった。けどコタローのやつ、まさかその不審者の正体を知ってるとか?
「なんとなく。タケルの目を見てそんな感じしましたから」
けど、一緒に行きたい理由はまだあるんだ。
「俺だけじゃ、誰もいない校舎に入るの怖くって」
「幽霊とか苦手な方ですか?」
やっぱり心読まれてる。なんだかなー、夜の散歩とかは全然大丈夫なのに、人気の無い学校ってだけでもうダメ。
俺はただ一緒に着いていってくれるだけでいい。もし例の不審者がこの前対峙したのと同じワーイノシシみたいな奴だったならば、その時はコタローが鵺斬りで成敗する。でも普通に泥棒だったりしたら……?
「その時は逃げましょう」
まあそれはしょうがないか。けどなんか、この前の自由研究の時とそっくりだな……俺はワーウルフになれないまま、ただただ守られたりするだけだったし。
⭐︎⭐︎⭐︎
学校の裏門に着く頃には、時計はもう夜の9時を過ぎていた
「不審者のこと、詳しく教えてもらえますか?」
「半月前から図書室の本が減ってきたらしいんだ」
図書室……うん、実は俺全然行ったことない。つーか一度も入ったことがない気さえするし。
「図書委員の6年生がまず異変に気付いたんだって」
「異変……?」
コタローが真剣な顔で聴き入ってる。
「……毎日数冊ずつネズミらしきものにかじられてたって」
ただ普通のかじり方じゃない。雑誌だろうが辞典クラスの分厚い本だろうが、糊のついた背表紙だけ残してほとんど食べてたみたい。後には食べカスだけ。
「だから変だなって俺は思ったんだ。これってバケモノの線もあるかな?」
「その線も無きにしも非ず……けどそれだけではまだまだ断定できませんしね」
真正面から行く道は鍵がかけられてるから、俺たちは裏口から入ることにした。下駄箱までは結構距離あるんで靴のままで。
「最初は一冊だけだったのが、日に日に増えてきたらしいんだ。先生たちはあえて俺たちには言わなかったみたいだけどね」
つまりはネズミの仕業と考えてた大人たちは、駆除業者を頼もうかって話になり、そして……」
昨晩、校内を徘徊しているバケモノを発見したってわけ。
「行き着くところは鵼なんですが……」
そう、もしそれがジンの話してた、スピリットに冒されたワーイノシシみたいな奴だとして、俺は今度こそ戦うことになるのだろうか。期待半分不安半分。
幸いにも俺たち以外校内には誰もいないみたいだし、この小学校は築数十年ってかなり年期が入ってるから、セキュリティに関しても全然だし。だからこそこうして俺たちもすんなり入れてとにかく運が良かった。
校舎の最上階に図書室はある。でもってその隣には古い作りのままの体育館。近いうちに建て替えるって話は聞いてるけど、予算がないからずっと延期したままだって担任の先生は話してたな。
話題も尽きて、俺もコタローも息を潜めるように歩いてて……そんな時だった。
ぞわっと、俺の背中に寒気が走ったんだ。
なんなんだ? 俗に言う霊感ってやつかな? いやまさかそんなことは。
ふと足元を見ると、なんかじゃりっとした感覚が。
なんだろう。目を凝らすと、土のついた動物みたいな足跡が先の方までずっと続いてたんだ。
けどそれを見て、2人で思わず「なんだこれ?」って言っちゃった。小さな声だけどね。
だってすげえ変な形なんだもん。5本指なのに、指の方向が半々で全然別方向に向いてて。こんな足跡で本当に歩けるのか? みたいな。
スマホのライトで照らすと、やはりその奇妙な足跡は図書室の中に入って行ってたんだ。
「タケルはここで待っててください」
「いや、俺も一緒に行くよ」
「ダメです、もし凶暴な獣だったりでもしたら、その……守れる自信が」
「あ、後ろになんか手が……!」
いゃあ! とコタローは突然俺に飛びついてきた。
こいつ意外と怖がりじゃねーか。強がり言うんじゃない。と結局は俺が後ろについて行くこととした。つーか……いきなり俺に抱きつくか普通?
非常灯しか点いていない廊下は、外履きの俺とコタローのはだしの足音しか聞こえない。ぺたぺたってなんかかわいい足音。
なんていろいろ考えてないとマジで怖くなりそうだった。この前の裏山の比じゃないくらい怖い。あの時はジンがいたからまだまだ心強かったけど……
図書室を目前にしたとき、前を行くコタローが、俺に「待て」と手で制してきた。
ビリッ
バリバリ……メキッ!
そうだ、俺の研ぎ澄まされた聴覚にはハッキリと聴こえる。
何かを引きちぎり、引き裂くような音が。
「聴こえますよね……」
「ああ、厚い本を破く音っぽい」
「やはり、図書室に……!?」
足音を立てずにそーっと。図書室の窓の隙間から、俺たちは中をのぞいてみた。
本棚をひっくり返し、散乱したたくさんの固い表紙の本を引き裂き、それをバリバリと食べている、グレーの毛に覆われた丸い背中。
間違いない、人間なんかじゃない、はるかに大きなその身体!
えっと、こいつ……図鑑で見たことある!
「「コアラ!?」」
そうだ、こいつはコアラだ。けどちっちゃなあの姿じゃない。おそらく俺たちよりはるかにデカくて……立ち上がったら恐らく2.3メートルはある。つまりこいつはワーコアラだ!
でも普通に考えたらおかしいだろ!? コアラって確かオーストラリアにしか住んでないって動物図鑑に載ってたし。ユーカリの葉しか食べれないからって。
けどここにいるワーコアラは、紙を……本を食ってるんだ。
さっき見た足跡みたいな、妙な生え方をした鋭い手の爪で器用に食べている。もうワケわからねーよ!
「やはり……」
いつの間にかコタローの手には、あの鵼斬りが鞘に入ったままで握られていた。
真っ向から戦いを挑むのか、それとも背後からこっそりとかな。いやそれはサムライらしくないか。まあここは全部あいつに任せて……
突然、ぎしっと古びた木の床が軋んだ音を上げた。
え、もしかして俺!?
足元からいま、音が?
その音に反応して、ワーコアラは素早く俺たちの方を……
小さなかわいい目で睨みつけてきたんだ。
まんまるい耳に、焦げたコッペパンを縦に貼り付けたみたいな大きく長く真っ黒な鼻。やっぱりコアラ!
けどその目は真っ赤な色だ。血の色のような……赤黒い目。
ゴゴゴ、グルルルル……と、その可愛さとは裏腹にライオンみたいに喉の奥が鳴っている。マジかよコアラって鳴くんだな。
「タケル、下がってて!」
コタローは図書室のドアを開けるやいなや、一瞬にしてコアラのところへと飛んで、斬りかかっていった。
違う、飛んだんじゃない。机を踏み台にしたんだ! それもすごい速さで。
俺が変身した時のスピードもそれなりにあるけど、コタローの瞬発力もかなりのものだ。これがサムライなのか!?
「覚悟!」
抜いていない刀を上段から思いきり振りおろす。赤い目のコアラに向けて。
だけど、図鑑や動画で見る鈍重そうなその姿とは裏腹に、このワーコアラは軽いステップで難なくコタローのジャンプ斬りをかわしたんだ。
そのままあいつは刀を返し、下段から斬りあげるも……やっぱりコアラの素早さの方が上手だった。
「お前の動きは見切った!」
ぱらぱらと、静寂の中に何か固いものが散らばる音が。
よく見ると、コタローの足元に黒い種のようなものが散らばっている……なんだろあれ、コアラの糞か?
いやそうじゃねーよ、爪だ! コアラのやつ、呆然とした顔で自分の手を交互に見つめている。その指先には本を引き裂いたときの爪が無かったんだ。
つまりコタローは一瞬のうちに刀で手の爪全部切り落としたってこと? つーかあいつまだ刀抜いてねーし!
ってことはアレって抜き身じゃなくてもそれなりの切れ味があるのかな。
でも手の爪がなくったってやはり相手は野生動物だ。逃げることはしない。獲物を狙う肉食動物みたいに、じっとコタローの小さな身体を見据えていた。
隙を狙っているのかな、けどそれはコタローも同じだ。
お互いにピクリとも動かないまま、じわじわと時間だけが過ぎていく……
ふと窓の隙間から、夜の風が吹き込んできた。
破れた本のかけらが、宙を舞う。
先に気を取られたのは、コタローだった。
顔に張りつきそうになった紙を手で払おうとした、その瞬間をコアラは見逃さなかった。
その身体と同じくらい大きな頭から来る突進。あまりにも速すぎてあいつも捉えられなかった。
ドン! と激しい音と共に壁に叩きつけられた小さなコタローの身体。
ウソだろ……こんなとこで終わっちゃうのかよ。
遠目で見ていた俺の身体を、一迅の風にも似たざわっとした感覚が駆け抜けていった。
あ、これは……もしかして。
俺はあの時、コタローが教えてくれた言葉を思い出した。
はやる心をぐっとおさえるんだ。ひたすら心を落ち着かせろ、俺!
まず何をしたい? あそこに倒れているコタローを助けて、そして……
でも……本来なら普通に登校するはずだったんだけど、その日だけは違ってた。
保護者である姉貴の連絡網に来たメールを見てたら、すっごい真剣な顔してたんだ。
「今日は臨時休校だって。代わりに宿題を出すから追ってタケルの方にメール来るってさ」
「え、どういうこと……?」
姉貴のスマホに出ていた理由は「校内に不審者出没」。
なんでも土日当直の先生が、夜の校内巡回の時に図書室の中を歩き回る巨大な影を見つけたんだとか。
でもって、今日と明日は警察が調査に来てるってことで1日お休み。
マジかよ。だったらコタローとまだ修行してた方のがよかったんじゃね? なんてため息が出ちまった。いけないなもう。
でも……ちょっと気になるな。その巨大な不審者って。
まあ俺は休みでも姉貴は普通に出勤。バイクのヘルメット片手に心配そうな顔で告げてきた。「分かってるとは思うけど」って。
「首突っ込むな。でしょ」
一応そう答えてはおいたが、今度は裏山とか公園なんかじゃない。俺の通ってる学校なんだ。スルーできるわけがない。
となると、夜中にこっそり忍び込もうかな……
「あのサムライの子だっけ? 泊まらせてもいいよ」
姉貴ありがと! チャンス到来ってやつだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
「今夜、学校に潜入しようと思うんだ」
「……もしかして、不審者とかですか?」
思わず俺はうんと答えちまった。けどコタローのやつ、まさかその不審者の正体を知ってるとか?
「なんとなく。タケルの目を見てそんな感じしましたから」
けど、一緒に行きたい理由はまだあるんだ。
「俺だけじゃ、誰もいない校舎に入るの怖くって」
「幽霊とか苦手な方ですか?」
やっぱり心読まれてる。なんだかなー、夜の散歩とかは全然大丈夫なのに、人気の無い学校ってだけでもうダメ。
俺はただ一緒に着いていってくれるだけでいい。もし例の不審者がこの前対峙したのと同じワーイノシシみたいな奴だったならば、その時はコタローが鵺斬りで成敗する。でも普通に泥棒だったりしたら……?
「その時は逃げましょう」
まあそれはしょうがないか。けどなんか、この前の自由研究の時とそっくりだな……俺はワーウルフになれないまま、ただただ守られたりするだけだったし。
⭐︎⭐︎⭐︎
学校の裏門に着く頃には、時計はもう夜の9時を過ぎていた
「不審者のこと、詳しく教えてもらえますか?」
「半月前から図書室の本が減ってきたらしいんだ」
図書室……うん、実は俺全然行ったことない。つーか一度も入ったことがない気さえするし。
「図書委員の6年生がまず異変に気付いたんだって」
「異変……?」
コタローが真剣な顔で聴き入ってる。
「……毎日数冊ずつネズミらしきものにかじられてたって」
ただ普通のかじり方じゃない。雑誌だろうが辞典クラスの分厚い本だろうが、糊のついた背表紙だけ残してほとんど食べてたみたい。後には食べカスだけ。
「だから変だなって俺は思ったんだ。これってバケモノの線もあるかな?」
「その線も無きにしも非ず……けどそれだけではまだまだ断定できませんしね」
真正面から行く道は鍵がかけられてるから、俺たちは裏口から入ることにした。下駄箱までは結構距離あるんで靴のままで。
「最初は一冊だけだったのが、日に日に増えてきたらしいんだ。先生たちはあえて俺たちには言わなかったみたいだけどね」
つまりはネズミの仕業と考えてた大人たちは、駆除業者を頼もうかって話になり、そして……」
昨晩、校内を徘徊しているバケモノを発見したってわけ。
「行き着くところは鵼なんですが……」
そう、もしそれがジンの話してた、スピリットに冒されたワーイノシシみたいな奴だとして、俺は今度こそ戦うことになるのだろうか。期待半分不安半分。
幸いにも俺たち以外校内には誰もいないみたいだし、この小学校は築数十年ってかなり年期が入ってるから、セキュリティに関しても全然だし。だからこそこうして俺たちもすんなり入れてとにかく運が良かった。
校舎の最上階に図書室はある。でもってその隣には古い作りのままの体育館。近いうちに建て替えるって話は聞いてるけど、予算がないからずっと延期したままだって担任の先生は話してたな。
話題も尽きて、俺もコタローも息を潜めるように歩いてて……そんな時だった。
ぞわっと、俺の背中に寒気が走ったんだ。
なんなんだ? 俗に言う霊感ってやつかな? いやまさかそんなことは。
ふと足元を見ると、なんかじゃりっとした感覚が。
なんだろう。目を凝らすと、土のついた動物みたいな足跡が先の方までずっと続いてたんだ。
けどそれを見て、2人で思わず「なんだこれ?」って言っちゃった。小さな声だけどね。
だってすげえ変な形なんだもん。5本指なのに、指の方向が半々で全然別方向に向いてて。こんな足跡で本当に歩けるのか? みたいな。
スマホのライトで照らすと、やはりその奇妙な足跡は図書室の中に入って行ってたんだ。
「タケルはここで待っててください」
「いや、俺も一緒に行くよ」
「ダメです、もし凶暴な獣だったりでもしたら、その……守れる自信が」
「あ、後ろになんか手が……!」
いゃあ! とコタローは突然俺に飛びついてきた。
こいつ意外と怖がりじゃねーか。強がり言うんじゃない。と結局は俺が後ろについて行くこととした。つーか……いきなり俺に抱きつくか普通?
非常灯しか点いていない廊下は、外履きの俺とコタローのはだしの足音しか聞こえない。ぺたぺたってなんかかわいい足音。
なんていろいろ考えてないとマジで怖くなりそうだった。この前の裏山の比じゃないくらい怖い。あの時はジンがいたからまだまだ心強かったけど……
図書室を目前にしたとき、前を行くコタローが、俺に「待て」と手で制してきた。
ビリッ
バリバリ……メキッ!
そうだ、俺の研ぎ澄まされた聴覚にはハッキリと聴こえる。
何かを引きちぎり、引き裂くような音が。
「聴こえますよね……」
「ああ、厚い本を破く音っぽい」
「やはり、図書室に……!?」
足音を立てずにそーっと。図書室の窓の隙間から、俺たちは中をのぞいてみた。
本棚をひっくり返し、散乱したたくさんの固い表紙の本を引き裂き、それをバリバリと食べている、グレーの毛に覆われた丸い背中。
間違いない、人間なんかじゃない、はるかに大きなその身体!
えっと、こいつ……図鑑で見たことある!
「「コアラ!?」」
そうだ、こいつはコアラだ。けどちっちゃなあの姿じゃない。おそらく俺たちよりはるかにデカくて……立ち上がったら恐らく2.3メートルはある。つまりこいつはワーコアラだ!
でも普通に考えたらおかしいだろ!? コアラって確かオーストラリアにしか住んでないって動物図鑑に載ってたし。ユーカリの葉しか食べれないからって。
けどここにいるワーコアラは、紙を……本を食ってるんだ。
さっき見た足跡みたいな、妙な生え方をした鋭い手の爪で器用に食べている。もうワケわからねーよ!
「やはり……」
いつの間にかコタローの手には、あの鵼斬りが鞘に入ったままで握られていた。
真っ向から戦いを挑むのか、それとも背後からこっそりとかな。いやそれはサムライらしくないか。まあここは全部あいつに任せて……
突然、ぎしっと古びた木の床が軋んだ音を上げた。
え、もしかして俺!?
足元からいま、音が?
その音に反応して、ワーコアラは素早く俺たちの方を……
小さなかわいい目で睨みつけてきたんだ。
まんまるい耳に、焦げたコッペパンを縦に貼り付けたみたいな大きく長く真っ黒な鼻。やっぱりコアラ!
けどその目は真っ赤な色だ。血の色のような……赤黒い目。
ゴゴゴ、グルルルル……と、その可愛さとは裏腹にライオンみたいに喉の奥が鳴っている。マジかよコアラって鳴くんだな。
「タケル、下がってて!」
コタローは図書室のドアを開けるやいなや、一瞬にしてコアラのところへと飛んで、斬りかかっていった。
違う、飛んだんじゃない。机を踏み台にしたんだ! それもすごい速さで。
俺が変身した時のスピードもそれなりにあるけど、コタローの瞬発力もかなりのものだ。これがサムライなのか!?
「覚悟!」
抜いていない刀を上段から思いきり振りおろす。赤い目のコアラに向けて。
だけど、図鑑や動画で見る鈍重そうなその姿とは裏腹に、このワーコアラは軽いステップで難なくコタローのジャンプ斬りをかわしたんだ。
そのままあいつは刀を返し、下段から斬りあげるも……やっぱりコアラの素早さの方が上手だった。
「お前の動きは見切った!」
ぱらぱらと、静寂の中に何か固いものが散らばる音が。
よく見ると、コタローの足元に黒い種のようなものが散らばっている……なんだろあれ、コアラの糞か?
いやそうじゃねーよ、爪だ! コアラのやつ、呆然とした顔で自分の手を交互に見つめている。その指先には本を引き裂いたときの爪が無かったんだ。
つまりコタローは一瞬のうちに刀で手の爪全部切り落としたってこと? つーかあいつまだ刀抜いてねーし!
ってことはアレって抜き身じゃなくてもそれなりの切れ味があるのかな。
でも手の爪がなくったってやはり相手は野生動物だ。逃げることはしない。獲物を狙う肉食動物みたいに、じっとコタローの小さな身体を見据えていた。
隙を狙っているのかな、けどそれはコタローも同じだ。
お互いにピクリとも動かないまま、じわじわと時間だけが過ぎていく……
ふと窓の隙間から、夜の風が吹き込んできた。
破れた本のかけらが、宙を舞う。
先に気を取られたのは、コタローだった。
顔に張りつきそうになった紙を手で払おうとした、その瞬間をコアラは見逃さなかった。
その身体と同じくらい大きな頭から来る突進。あまりにも速すぎてあいつも捉えられなかった。
ドン! と激しい音と共に壁に叩きつけられた小さなコタローの身体。
ウソだろ……こんなとこで終わっちゃうのかよ。
遠目で見ていた俺の身体を、一迅の風にも似たざわっとした感覚が駆け抜けていった。
あ、これは……もしかして。
俺はあの時、コタローが教えてくれた言葉を思い出した。
はやる心をぐっとおさえるんだ。ひたすら心を落ち着かせろ、俺!
まず何をしたい? あそこに倒れているコタローを助けて、そして……
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。