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姉貴からのメールは結局来なかった。こうなるとヘタすれば2.3日帰ってこないパターンとかあるんだよな。慣れてるとはいってもやっぱり淋しい。

……と思ってたのは昨日までの話で。今日は時代錯誤な同い年のサムライ、明日香コタローがいる……んだけど。

コタローは土下座した俺の前に正座で向き合って、照れながら応えてくれた。気を悪くしたらごめんなさいって。
いや、初対面のコタローにストレートに言われた時点でもう精神的ダメージでかいんだけどな。

確かにそう。俺の足ってめちゃくちゃ臭いんだ……それはもうクラスの連中みーんな知ってるし。
なので、それが原因で友達の家に上がるのも遠慮してるってわけ。

「あ……そういえばいつの間にか人間の姿に戻れたんですね」
「うん、自分じゃどうにもならなくって。結局自然に戻るのを待つしかないってわけ」
そっかあ、ってコタローは突然腕組みしてなにか考えはじめた。なんなんだ一体?

「でしたら、自分の意思で変身できるように訓練しませんか?」
え。俺は思わず二度聞きしちゃってた。
「変身できるきっかけとか、周期とかは絶対にあるはずです。それさえ見極めることができれば、自由自在に狼に変身したり、人間に簡単に戻れるようになるはずです」
「できる……かな?」
できます! ってあいつは俺の両肩に勢いよくポンと手を置いた。昨日と違ってあまりにも距離感近過ぎて俺もビックリしちゃった。

まあそれは置いといてまずは朝ごはんだ、お腹ぺこぺこだ。
幸いにも冷蔵庫に買い置きしといた食材がかなりあった。卵があるから目玉焼きかな? いや夜と朝で洋食ってのもサムライのコタローには失礼な気もするし、となるとTKG……卵かけご飯にする? いやいやそんな質素なのもやっぱり失礼だし。
って、ああ……納豆があった。豆腐とねぎもある。魚はないから我慢してもらうしかないな。

「よかった……?僕、ちょっと魚介類は苦手なんです」
おいおいおいおい、コタローそれでもサムライかよ!
「師匠はベジタリアンっていうか、ヴィーガン主義だったんで」
思わずマジかよと言い返しそうになっちゃった。
「なのでスクランブルエッグとか反動で大好きになっちゃって」
うむ。レシピ大幅変更。
チーズ乗せたトーストにスクランブルエッグ、そしてホットミルクにした。つーかその方がコスト抑えられるし。

⭐︎⭐︎⭐︎

本来だったら外の駐車場なんかがそこそこ広いから、そっちで修行しようと思ったんだけど……俺が万が一もしワーウルフ化しちゃったりでもしたらそれこそ大事件だ。それにコタローも足の裏ケガしてるからね。
ということで、俺の部屋で始めることにしたんだ。

まずはゆっくり目を閉じて……
「想像するんです。自分がオオカミになった姿を」
いわゆるイメージトレーニングってやつ。
「しっぽが生えて、鼻と耳が伸びて、だんだんと爪が長く鋭くなっていくのを思い浮かべるんです」
そうは言ってもなあ。よくよく考えたらワーウルフ状態の俺の姿って、自分自身きちんと目にしたことがなかったのを思い出した。大抵手で触って気がついたようなものだし。だから容姿が変わったっていうのもイマイチ分からないんだ。

「タケル、弱気にならないで。坐禅とか瞑想とかと変わらないですよ。頭の中にふわっと浮かんだあの姿を自分に重ね合わせるんです」
「結構難しいぞそれ……今までは突然変身しちゃってたんだし」
「そっかあ、ならばあとは……感情の変化にともなうやつですかね」
コタローいわく、激しい怒りとかが引き金になって姿が変わるパターンだとか。
なるほどね、ゲームに出てきたヒーローでもそんなのいた感じするなぁ。仲間を殺された怒りで変身しちゃうの。
でも、日常生活でもまともに怒ったことがないんだぜ? そっちの方が難度高そうな感じするんだけど。

「ならば、タケルをカンカンに怒らせるには……」また空を見上げながらあいつはうーんと悩みはじめた。でもそんなに悩まれちゃうと俺も気になっちゃうし。

「そういえば……」
コタローのやつ、俺の顔をじーっと見つめながら言ってきたんだ。すっげ真面目に。

「タケルってなんであんなに足が臭いんですか?」
待てオイ、あからさまに言われてムカッときた。
「いきなりそれ言うか? つーかそんなに臭い臭いって言わなくてもいいじゃねーか!」
「いやよくないです。もしこれから変身しちゃったりでもしたら、それこそタケルはカッコいいけど足が臭いオオカミ……いや、ワーウルフだって、一生陰口叩かれてしまいますよ!」
「だだ、誰がそんなひでえ陰口叩くんだよ!」
コタローは自信に満ちた顔で僕です、って答えた。
言われてみたらそうだ、今んとこ俺の正体を知ってるのって姉貴とコタローしかいねえし。
「いいんですか? これからずーっと足の臭いワーウルフって二つ名つけられて。タケルはそれでも恥ずかしくないんですか!?」
「だからそんなに言わねーでも!」あああもうすっげムカつく!

「あ……」そしたらコタローのやつ、驚いた顔で俺の顔……じゃなくて頭の上を指差してたんだ。
「出てますよ、耳」
マジかよホントかよと思って頭をわしわし触ってみたら……超マジだ! ぴーんと立ってる三角形の大きな狼の耳!
「いまタケルが怒ったとき、ぴょんと耳が飛び出てきたんです。すごい!」
だけど鼻は? 手足は? あちこち触ってみたけれど、残念ながらそこ以外の変化はなかった。

こうなるとコタローのやつも調子づいてきたのか、今度は俺を見下すような軽蔑の目つきで、というかニヤけたジト目でさらにキツい言葉で畳み掛けてきた。
「タケルの足って普通の人と違ってすごい酸っぱい臭いがしたんですよね。きちんと足は洗ってるんですか?」
「頼むからもうそれ以上臭いって言うんじゃねえええ! お前だって!」

「よし! 大成功!!」今度は飛び上がって喜ぶもんだから、俺は居間に置いてあった大きな姿見を覗き込んだら……
マジかよ! 一瞬のうちに全身があの姿に、ワーウルフに変身してた!

いやその、嬉しかったことは嬉しかったけど、そのキーワードでブチ切れて変身するっていうのもなあ、どうにかならないモンかな。
だって、これからワーウルフに変身したい時には周りから足が臭いって言われなきゃいけないだなんて……
まあ、俺がマジギレしそうなことって今のところそれくらいしかないのも確かなんだけど、でもやっぱり昨晩初めて知り合ったばかりのあいつに、面と向かって足が臭いと言われるのもめちゃくちゃ悔しいというか、クッソ恥ずかしいというか……うん。


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姉貴からのメールは結局来なかった。こうなるとヘタすれば2.3日帰ってこないパターンとかあるんだよな。慣れてるとはいってもやっぱり淋しい。
……と思ってたのは昨日までの話で。今日は時代錯誤な同い年のサムライ、明日香コタローがいる……んだけど。
コタローは土下座した俺の前に正座で向き合って、照れながら応えてくれた。気を悪くしたらごめんなさいって。
いや、初対面のコタローにストレートに言われた時点でもう精神的ダメージでかいんだけどな。
確かにそう。俺の足ってめちゃくちゃ臭いんだ……それはもうクラスの連中みーんな知ってるし。
なので、それが原因で友達の家に上がるのも遠慮してるってわけ。
「あ……そういえばいつの間にか人間の姿に戻れたんですね」
「うん、自分じゃどうにもならなくって。結局自然に戻るのを待つしかないってわけ」
そっかあ、ってコタローは突然腕組みしてなにか考えはじめた。なんなんだ一体?
「でしたら、自分の意思で変身できるように訓練しませんか?」
え。俺は思わず二度聞きしちゃってた。
「変身できるきっかけとか、周期とかは絶対にあるはずです。それさえ見極めることができれば、自由自在に狼に変身したり、人間に簡単に戻れるようになるはずです」
「できる……かな?」
できます! ってあいつは俺の両肩に勢いよくポンと手を置いた。昨日と違ってあまりにも距離感近過ぎて俺もビックリしちゃった。
まあそれは置いといてまずは朝ごはんだ、お腹ぺこぺこだ。
幸いにも冷蔵庫に買い置きしといた食材がかなりあった。卵があるから目玉焼きかな? いや夜と朝で洋食ってのもサムライのコタローには失礼な気もするし、となるとTKG……卵かけご飯にする? いやいやそんな質素なのもやっぱり失礼だし。
って、ああ……納豆があった。豆腐とねぎもある。魚はないから我慢してもらうしかないな。
「よかった……?僕、ちょっと魚介類は苦手なんです」
おいおいおいおい、コタローそれでもサムライかよ!
「師匠はベジタリアンっていうか、ヴィーガン主義だったんで」
思わずマジかよと言い返しそうになっちゃった。
「なのでスクランブルエッグとか反動で大好きになっちゃって」
うむ。レシピ大幅変更。
チーズ乗せたトーストにスクランブルエッグ、そしてホットミルクにした。つーかその方がコスト抑えられるし。
⭐︎⭐︎⭐︎
本来だったら外の駐車場なんかがそこそこ広いから、そっちで修行しようと思ったんだけど……俺が万が一もしワーウルフ化しちゃったりでもしたらそれこそ大事件だ。それにコタローも足の裏ケガしてるからね。
ということで、俺の部屋で始めることにしたんだ。
まずはゆっくり目を閉じて……
「想像するんです。自分がオオカミになった姿を」
いわゆるイメージトレーニングってやつ。
「しっぽが生えて、鼻と耳が伸びて、だんだんと爪が長く鋭くなっていくのを思い浮かべるんです」
そうは言ってもなあ。よくよく考えたらワーウルフ状態の俺の姿って、自分自身きちんと目にしたことがなかったのを思い出した。大抵手で触って気がついたようなものだし。だから容姿が変わったっていうのもイマイチ分からないんだ。
「タケル、弱気にならないで。坐禅とか瞑想とかと変わらないですよ。頭の中にふわっと浮かんだあの姿を自分に重ね合わせるんです」
「結構難しいぞそれ……今までは突然変身しちゃってたんだし」
「そっかあ、ならばあとは……感情の変化にともなうやつですかね」
コタローいわく、激しい怒りとかが引き金になって姿が変わるパターンだとか。
なるほどね、ゲームに出てきたヒーローでもそんなのいた感じするなぁ。仲間を殺された怒りで変身しちゃうの。
でも、日常生活でもまともに怒ったことがないんだぜ? そっちの方が難度高そうな感じするんだけど。
「ならば、タケルをカンカンに怒らせるには……」また空を見上げながらあいつはうーんと悩みはじめた。でもそんなに悩まれちゃうと俺も気になっちゃうし。
「そういえば……」
コタローのやつ、俺の顔をじーっと見つめながら言ってきたんだ。すっげ真面目に。
「タケルってなんであんなに足が臭いんですか?」
待てオイ、あからさまに言われてムカッときた。
「いきなりそれ言うか? つーかそんなに臭い臭いって言わなくてもいいじゃねーか!」
「いやよくないです。もしこれから変身しちゃったりでもしたら、それこそタケルはカッコいいけど足が臭いオオカミ……いや、ワーウルフだって、一生陰口叩かれてしまいますよ!」
「だだ、誰がそんなひでえ陰口叩くんだよ!」
コタローは自信に満ちた顔で僕です、って答えた。
言われてみたらそうだ、今んとこ俺の正体を知ってるのって姉貴とコタローしかいねえし。
「いいんですか? これからずーっと足の臭いワーウルフって二つ名つけられて。タケルはそれでも恥ずかしくないんですか!?」
「だからそんなに言わねーでも!」あああもうすっげムカつく!
「あ……」そしたらコタローのやつ、驚いた顔で俺の顔……じゃなくて頭の上を指差してたんだ。
「出てますよ、耳」
マジかよホントかよと思って頭をわしわし触ってみたら……超マジだ! ぴーんと立ってる三角形の大きな狼の耳!
「いまタケルが怒ったとき、ぴょんと耳が飛び出てきたんです。すごい!」
だけど鼻は? 手足は? あちこち触ってみたけれど、残念ながらそこ以外の変化はなかった。
こうなるとコタローのやつも調子づいてきたのか、今度は俺を見下すような軽蔑の目つきで、というかニヤけたジト目でさらにキツい言葉で畳み掛けてきた。
「タケルの足って普通の人と違ってすごい酸っぱい臭いがしたんですよね。きちんと足は洗ってるんですか?」
「頼むからもうそれ以上臭いって言うんじゃねえええ! お前だって!」
「よし! 大成功!!」今度は飛び上がって喜ぶもんだから、俺は居間に置いてあった大きな姿見を覗き込んだら……
マジかよ! 一瞬のうちに全身があの姿に、ワーウルフに変身してた!
いやその、嬉しかったことは嬉しかったけど、そのキーワードでブチ切れて変身するっていうのもなあ、どうにかならないモンかな。
だって、これからワーウルフに変身したい時には周りから足が臭いって言われなきゃいけないだなんて……
まあ、俺がマジギレしそうなことって今のところそれくらいしかないのも確かなんだけど、でもやっぱり昨晩初めて知り合ったばかりのあいつに、面と向かって足が臭いと言われるのもめちゃくちゃ悔しいというか、クッソ恥ずかしいというか……うん。