「どうした、顔を見せるんだ!」ジリジリと間合いを詰めてくるお巡りさん。
考えろ、考えるんだタケル! 俺は俺の心に精一杯言い聞かせた。これは俺の最大最強のピンチなんだ。
これで捕まったりでもしたらもう今までの生活なんて出来ない、姉貴だって同様だ、もう普通に生活することだって不可能だろう。
ならば捕まらないためにはどうするか、答えはひとつ。逃げるだけだ。
でも逃げるっていったってどうすればいい?
俺は、踏みしめた右足にグッと力を込めてみた。
「!!!」痛みに思わず大声を上げそうになった。
やっぱりダメだ。折れてる。ヤバいこれ!
だけど今はもう泣き事なんて言ってるわけには行かないんだ。何も感じちゃいけない、何も考えちゃいけない。思いきり我慢して走るんだ!
俺は頭の中で、今日行くはずだったルートを検索しなおした。
本来だったらコンビニへと至る道をまっすぐ、100m行った小道を抜けると、その奥にある神社に辿り着く。
神社って言っても、もう人がいるのかどうかもわからない、ボロボロのお社が建ってるだけ。
そこまでうまくお巡りさんを……いや、警官をまいていけば、きっと何とかなる。いやきっと大丈夫。
警官はゆっくりと迫ってきている、飛びつかれたらもうアウトだ。
もう後がない、ならば俺の方から飛んで逃げてやる!
俺はグッと牙を食いしばり、コンビニの裏道を猛ダッシュした。
とは言っても、ダッシュとも思えないくらいの走りっぷり。ぴょんぴょん跳ねながらの情けない走り方だけどね。でも今の俺にとってはこれが精一杯だった。
あまりの痛さに涙が出た。泣いたことなんて何年ぶりだろう、きっと3年くらいは泣いたことなかったはずだ。
こんな走りだけど、人間に比べればそこそこ速いみたいだ、俺のずっと後ろの方から「待てー!」って警官の怒鳴り声が聞こえてきてるし。
大丈夫、これならきっと逃げられるはずだ。これで神社で隠れることが出来たら、あとは警官をじっとやり過ごす。そしたら姉貴が起きる頃だから、呼んで送って行ってもらうなりして家に帰ろう。
追手に見つからないように山の中を走り、そこから細い路地のような小道を抜けると、目の前に砂利を敷き詰めた広場が見えてきた、神社だ!
きっと10年くらいまえには普通にみんなお参りに来てたにちがいない、だけど見てくれる人が誰もいなくなったみたいで、今は風雨にさらされてボロボロになった本殿の小屋がぽつんと真ん中に建っているだけだ。
入るにしてもちょっと怖かったんで、俺は「失礼します」って言って小屋の中に入った。扉はそっと開けないと、俺のバカ力じゃすぐに壊れちゃいそうだ。
足元はホコリが分厚く積もっているし、中は何本かの大きな芯材が転がっているだけで、それ以外には何もない。壁はところどころに隙間ができていて、うっすらと夜明けの光が差し込もうとしている。
俺はじっと扉の向こうで耳を澄ました。だけど警官の声も、足音も聞こえない。大丈夫だ、うまく逃げられた!!
と同時に、今まで我慢していた疲れとか、身体中の痛みとかが一斉に俺にのしかかって来る。
俺はホコリがあまり積もってないところを探して、そこに倒れ込んだ……もう歩くことも走る事も限界だった。
やばい、姉貴を呼ばないと。
大丈夫だ、頭にしっかりと固定してあったイヤホンは失くしてなかった。
すごく便利……っていうか、もっと早く使っておけばよかったって後悔。
しばらくして、ピーッという甲高い音とともに、姉貴の聞き慣れた声が聞こえてきた。
「タケル、お散歩終わったの?どこらへんにいるのか教えてちょうだい」姉貴はやっぱり何も知らなそうだ、まぁしょうがないけど。
でも散歩ってなんだよ散歩って、俺は犬じゃないっつーの。狼だぞ、ワーウルフだぞ。
「今コンビニをまっすぐ行ったとこの神社にいるんだ……悪ぃ姉貴、迎えに来てくれるかな、バイクで」
姉貴のハァ? って驚きの声が、通信機から聞こえた。
走って帰ってくればいいじゃない、って姉貴は返してきたんだけど、今の俺にはもう言葉を返す気力もだんだん無くなってきそうだった。
もう、ここでバッタリ寝ちゃいたいくらい……