8

ー/ー



そんな時、耳の奥に、どっかで聞いたことのある音が響いてきた。
その音はだんだん大きくなってきている、ピーポーピーポー、って。
思いっきり大きくなった音は、俺のいる神社の直ぐ目の前で、ピタっと止まった。それと同時に自分の心臓も、大きくドキンと高なって、止まった。
壁の隙間の向こうからは、赤く回転する点滅が見える。
そうだ、やばい、この音……この光。
パトカーだ!!! 

小屋の中がパトカーのランプで赤くなったり、暗くなったりと。目がすごく痛くなってきた。
そして車のドアをあける音と、2,3人の駆け出す足音が聞こえてきた。

ーこの小屋で間違いはないんですね。
ーええ、犬みたいな着ぐるみ着た人が、足引きずってこの中に入っていったのを、私はっきりと見ました。
壁の隙間から声の主を確認してみる。白いトレーナー着た50代くらいのおばちゃんと、2人の警官だ。
おばちゃんの方は手にリードを持っていて、その先には白っぽい毛並みのチワワが繋がれている。
そのチワワは牙を思いっきりむき出しにしてたんだ。
今にも襲いかかってきそうな表情で、俺のいる小屋を睨みつけていて。
グルルル……と、喉を唸らせながら。やばい、完全にこっち見てる。
でも完全に警官をまいたと思ったんだけどな。まさか犬の散歩してる最中のおばちゃんに見られてしまうとは、不覚だった。
それと犬の存在。俺は狼とはいっても犬の仲間だし、ナワバリに立ち入った危険な存在だと思われてるんだろうな……あんなちっちゃいチワワみたいな犬でも。
「タケル、サイレンの音が聞こえたんだけど、なんかやらかしたの?」姉貴の心配そうな声が耳元から聞こえた。
そうだよ、やらかしちゃったよ、強盗とケンカをね。なんて言いたいところだけど、もう警官はすぐそばまできている、うかつに声も出せない。

ズキズキと痛む身体をもう一度起こし、俺は他に出口がないかどうかを探してみた……んだけど、正面の一箇所しか出入り口は存在しないみたいだ。
あとは、後ろの壁か床をぶち破るしか無いかな、もうそれ以外に方法はない、この足じゃ屋根の上までジャンプすることなんてもう無理だ。
俺は深呼吸して、扉と反対側の壁に思いきりパンチをした。
ゴン! という鈍い音…え、ぶち破れない、っつーかすっげえ拳が痛い!
殴った手を見てみると、俺の手が元の、人間の手に戻ってたんだ。
青い毛も、鋭い爪も全部引っ込んでる、おまけにゲンコツは真っ赤に腫れたし、なんてタイミングだ!
そしてそのうちだんだんと、顔も、身体も、そして足もいつもの俺の姿に戻ってしまった。
嘘だろおい、こんなタイミングで元に戻っちゃうなんて。
それと同時に身体からも一気に力が抜けていった。あとに残ったのは、いつもの副作用。激しい筋肉痛だ。
しかも狼の時に激しいバトルしたせいか、そのダメージも合わせて俺の身体を襲ってきた、熱さと激しい痛みで、もう立つことも出来ない。

もう……ダメだ。万事休すだ。
こんな最悪の状況で、それに警察に捕まるなんて。
「姉貴、ごめん…」最後の言葉を振り絞って、姉貴に謝ろうとしたときだった。
屋根の上から、トン! と何かが着地する音が聞こえたんだ。それほど重くないようだ、けど鳥みたいに軽くもない。
その音は、たったったと軽いステップで、俺の真上の屋根を横切っていった。

ーいた、あそこだ!!

警官の大声が聞こえる、何でだ? 俺はここにいるのに、もう狼じゃないのに。
そして足音は屋根の端まで来ると、またトンと軽いジャンプの音を立て、そして消えていった。

ネコ? カラス? それともタヌキか何かを見間違えたんだろうか。外を見てみようかとしたんだけど、やっぱり身体は動いてくれない。
そのうち、警官がパトカーにまた乗る音がして、サイレンはだんだんと遠ざかっていって……外はまた、いつもの静けさに戻ってくれた。

そしてもう誰も外にいないことを願いながら、俺はまた通信機のスイッチを入れた。
「姉貴……ごめん、身体がもう動かない……」


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 9


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



そんな時、耳の奥に、どっかで聞いたことのある音が響いてきた。
その音はだんだん大きくなってきている、ピーポーピーポー、って。
思いっきり大きくなった音は、俺のいる神社の直ぐ目の前で、ピタっと止まった。それと同時に自分の心臓も、大きくドキンと高なって、止まった。
壁の隙間の向こうからは、赤く回転する点滅が見える。
そうだ、やばい、この音……この光。
パトカーだ!!! 
小屋の中がパトカーのランプで赤くなったり、暗くなったりと。目がすごく痛くなってきた。
そして車のドアをあける音と、2,3人の駆け出す足音が聞こえてきた。
ーこの小屋で間違いはないんですね。
ーええ、犬みたいな着ぐるみ着た人が、足引きずってこの中に入っていったのを、私はっきりと見ました。
壁の隙間から声の主を確認してみる。白いトレーナー着た50代くらいのおばちゃんと、2人の警官だ。
おばちゃんの方は手にリードを持っていて、その先には白っぽい毛並みのチワワが繋がれている。
そのチワワは牙を思いっきりむき出しにしてたんだ。
今にも襲いかかってきそうな表情で、俺のいる小屋を睨みつけていて。
グルルル……と、喉を唸らせながら。やばい、完全にこっち見てる。
でも完全に警官をまいたと思ったんだけどな。まさか犬の散歩してる最中のおばちゃんに見られてしまうとは、不覚だった。
それと犬の存在。俺は狼とはいっても犬の仲間だし、ナワバリに立ち入った危険な存在だと思われてるんだろうな……あんなちっちゃいチワワみたいな犬でも。
「タケル、サイレンの音が聞こえたんだけど、なんかやらかしたの?」姉貴の心配そうな声が耳元から聞こえた。
そうだよ、やらかしちゃったよ、強盗とケンカをね。なんて言いたいところだけど、もう警官はすぐそばまできている、うかつに声も出せない。
ズキズキと痛む身体をもう一度起こし、俺は他に出口がないかどうかを探してみた……んだけど、正面の一箇所しか出入り口は存在しないみたいだ。
あとは、後ろの壁か床をぶち破るしか無いかな、もうそれ以外に方法はない、この足じゃ屋根の上までジャンプすることなんてもう無理だ。
俺は深呼吸して、扉と反対側の壁に思いきりパンチをした。
ゴン! という鈍い音…え、ぶち破れない、っつーかすっげえ拳が痛い!
殴った手を見てみると、俺の手が元の、人間の手に戻ってたんだ。
青い毛も、鋭い爪も全部引っ込んでる、おまけにゲンコツは真っ赤に腫れたし、なんてタイミングだ!
そしてそのうちだんだんと、顔も、身体も、そして足もいつもの俺の姿に戻ってしまった。
嘘だろおい、こんなタイミングで元に戻っちゃうなんて。
それと同時に身体からも一気に力が抜けていった。あとに残ったのは、いつもの副作用。激しい筋肉痛だ。
しかも狼の時に激しいバトルしたせいか、そのダメージも合わせて俺の身体を襲ってきた、熱さと激しい痛みで、もう立つことも出来ない。
もう……ダメだ。万事休すだ。
こんな最悪の状況で、それに警察に捕まるなんて。
「姉貴、ごめん…」最後の言葉を振り絞って、姉貴に謝ろうとしたときだった。
屋根の上から、トン! と何かが着地する音が聞こえたんだ。それほど重くないようだ、けど鳥みたいに軽くもない。
その音は、たったったと軽いステップで、俺の真上の屋根を横切っていった。
ーいた、あそこだ!!
警官の大声が聞こえる、何でだ? 俺はここにいるのに、もう狼じゃないのに。
そして足音は屋根の端まで来ると、またトンと軽いジャンプの音を立て、そして消えていった。
ネコ? カラス? それともタヌキか何かを見間違えたんだろうか。外を見てみようかとしたんだけど、やっぱり身体は動いてくれない。
そのうち、警官がパトカーにまた乗る音がして、サイレンはだんだんと遠ざかっていって……外はまた、いつもの静けさに戻ってくれた。
そしてもう誰も外にいないことを願いながら、俺はまた通信機のスイッチを入れた。
「姉貴……ごめん、身体がもう動かない……」