表示設定
表示設定
目次 目次




泣くぞ

ー/ー



「問題点としては、報酬系が弱いかなって思ってる」
 スライドを止めて、先輩が意見を求めるように俺を見る。
 報酬系というのは、いわゆる「ごほうび」だ。
 高得点を取ると特別なアイテムが手に入ったりランキングで表彰されたりといった、参加者のやる気を出すための仕掛けのことだ。
 先輩もゲーマーだから、皆がこの一日一善アプリをやる気になるにはどうしたらいいか考えてのことだろう。
 でも……
「俺は、そのままでいいと思います」
 きっぱりと断言する。
「え、なんで?」
「えっと、理由が二つあります」
 俺は右手の人差し指をぴしっと立てる。
「まず第一に、報酬を魅力的にするとルールの穴を突いたり、不正を働こうとする生徒が増えます。それはカジュアルに参加している生徒の不満につながります」
 やるからには「どんな手段を使ってでも高得点を取りたい」と考えるゲーマーは少なくない。
 俺はその気持ちがよくわかる。
 自分にできる全力を出したい、タブーやマナーで自らにブレーキをかけたくない、という感覚は共感できる。
 全力を出さずにお行儀よく遊ぶということは手抜きをするということで、それはすなわちゲームに対する侮辱なのだ、とまで言っている人もいた。
 だから、このアプリは報酬系を無理に高めないほうがいい。
「で、もしそれを防ごうとすると、確実に人手が必要になります。不正対策やルールのバランスを取る作業はそのまま運営の負荷になりますし、クレーム対処は神経がすり減ります」
「それは楽しくないねえ」
「そうですよね。イタズラは自分たちが楽しんでこそです。それに、カジュアルな参加者が減るのはこの企画の趣旨に反するんじゃないですか?」
「うん、そうだね。その通りだと思う。じゃあ、もう一つは?」
 俺はうなずくと中指をぴしっと持ち上げた。
「第二に、元のアプリに対する敬意を欠くことになると思うからです。一日一善アプリは、善行を奨励する目的のアプリです。でも報酬を得ることが最終目的になっちゃうと、それは偽善というラインさえ踏み越えて、『善とか悪とか関係なく、とにかくアプリの判定に合致する行動をとればいいんだろゲーム』になり果てます。そうなるともはや……」
「イタズラじゃなくて妨害行為になっちゃう、か」
 先輩は椅子の背にもたれ、上を向いた。
「はい」
「あー、そうか。たしかに、あたしがやりたいのは『一日一善アプリをちょっと過激にアレンジしてやったぜ』みたいなことなんだよね。元のアプリを暴力的に否定したいわけじゃない」
「ですよね。だから俺もこの企画を面白いって思ったわけですし」
 現行の一日一善アプリを使っている生徒がいないとしても、いや、いないからこそ、そこを掘り起こして盛り上げることがバカバカしくも面白いと感じるのだ。
「了解了解。完全にスズノの言う通りだ。ていうか、やっぱり君に声をかけて正解だったよ。前から、スズノのゲームに対するアプローチってシステムから理解して楽しむタイプだなって思ってたんだけど、これで確信したよ。君は作る側の人間だ。うん、きっとこの企画は面白くなる」
「やるって言ってませんが」
 真顔で先輩を見る。
「ここまで話を進めておいて?!」
「やらないとも言ってませんが」
 ニヤつきながら先輩を見る。
「泣くぞ」
 口をへの字に曲げる先輩。
 そんな脅し文句あるか?
 俺は思わず噴き出した。
「す、すみません。あんまり先輩の思い通りに話が進んじゃってるようなんで、ちょっと意地悪をしてみたくなりました」
「まあ、スズノの性格が悪いのはわかってたけどさ。でもあたしも、初めて面と向かって話して、すごく楽しいから、ちょっと感情が昂ってたみたいだ」
 くるりと表情を変える先輩。
 その笑顔、ずるい。美少女め! チートすぎるだろ!
 俺は耳が熱くなるのを感じた。
 そして、このイタズラに乗る覚悟を固めた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 一日一善


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「問題点としては、報酬系が弱いかなって思ってる」
 スライドを止めて、先輩が意見を求めるように俺を見る。
 報酬系というのは、いわゆる「ごほうび」だ。
 高得点を取ると特別なアイテムが手に入ったりランキングで表彰されたりといった、参加者のやる気を出すための仕掛けのことだ。
 先輩もゲーマーだから、皆がこの一日一善アプリをやる気になるにはどうしたらいいか考えてのことだろう。
 でも……
「俺は、そのままでいいと思います」
 きっぱりと断言する。
「え、なんで?」
「えっと、理由が二つあります」
 俺は右手の人差し指をぴしっと立てる。
「まず第一に、報酬を魅力的にするとルールの穴を突いたり、不正を働こうとする生徒が増えます。それはカジュアルに参加している生徒の不満につながります」
 やるからには「どんな手段を使ってでも高得点を取りたい」と考えるゲーマーは少なくない。
 俺はその気持ちがよくわかる。
 自分にできる全力を出したい、タブーやマナーで自らにブレーキをかけたくない、という感覚は共感できる。
 全力を出さずにお行儀よく遊ぶということは手抜きをするということで、それはすなわちゲームに対する侮辱なのだ、とまで言っている人もいた。
 だから、このアプリは報酬系を無理に高めないほうがいい。
「で、もしそれを防ごうとすると、確実に人手が必要になります。不正対策やルールのバランスを取る作業はそのまま運営の負荷になりますし、クレーム対処は神経がすり減ります」
「それは楽しくないねえ」
「そうですよね。イタズラは自分たちが楽しんでこそです。それに、カジュアルな参加者が減るのはこの企画の趣旨に反するんじゃないですか?」
「うん、そうだね。その通りだと思う。じゃあ、もう一つは?」
 俺はうなずくと中指をぴしっと持ち上げた。
「第二に、元のアプリに対する敬意を欠くことになると思うからです。一日一善アプリは、善行を奨励する目的のアプリです。でも報酬を得ることが最終目的になっちゃうと、それは偽善というラインさえ踏み越えて、『善とか悪とか関係なく、とにかくアプリの判定に合致する行動をとればいいんだろゲーム』になり果てます。そうなるともはや……」
「イタズラじゃなくて妨害行為になっちゃう、か」
 先輩は椅子の背にもたれ、上を向いた。
「はい」
「あー、そうか。たしかに、あたしがやりたいのは『一日一善アプリをちょっと過激にアレンジしてやったぜ』みたいなことなんだよね。元のアプリを暴力的に否定したいわけじゃない」
「ですよね。だから俺もこの企画を面白いって思ったわけですし」
 現行の一日一善アプリを使っている生徒がいないとしても、いや、いないからこそ、そこを掘り起こして盛り上げることがバカバカしくも面白いと感じるのだ。
「了解了解。完全にスズノの言う通りだ。ていうか、やっぱり君に声をかけて正解だったよ。前から、スズノのゲームに対するアプローチってシステムから理解して楽しむタイプだなって思ってたんだけど、これで確信したよ。君は作る側の人間だ。うん、きっとこの企画は面白くなる」
「やるって言ってませんが」
 真顔で先輩を見る。
「ここまで話を進めておいて?!」
「やらないとも言ってませんが」
 ニヤつきながら先輩を見る。
「泣くぞ」
 口をへの字に曲げる先輩。
 そんな脅し文句あるか?
 俺は思わず噴き出した。
「す、すみません。あんまり先輩の思い通りに話が進んじゃってるようなんで、ちょっと意地悪をしてみたくなりました」
「まあ、スズノの性格が悪いのはわかってたけどさ。でもあたしも、初めて面と向かって話して、すごく楽しいから、ちょっと感情が昂ってたみたいだ」
 くるりと表情を変える先輩。
 その笑顔、ずるい。美少女め! チートすぎるだろ!
 俺は耳が熱くなるのを感じた。
 そして、このイタズラに乗る覚悟を固めた。