聞いてみると、先輩のプレゼンはびっくりするほど面白かった。
前世はバナナのたたき売りだったんじゃないかってくらい流暢な語り口に、俺は途中から完全に聞き入っていた。
話をざっくりまとめると、先輩は一日一善アプリにゲーム性を持たせようとしていた。
生徒同士で善行を競えるようにするってわけだ。
そしてその方法が面白い。
ひとつの善行が一善とはならないのだ。
たとえば、空き缶を拾ったくらいじゃ〇・〇二善くらいにしかならない。
この数字は変動制で、多くの生徒が手掛けた善行ほどレートが下がっていく。
だから同じことを繰り返していてもどんどんレートが下がる。
結果、生半可な善行では一日一善を達成できない。
頑張ったけど今日は一日〇・五九善しか達成できなかったぜ……みたいな状況が多発する。
そうすることで、ゲーム好きな連中の心に火が付くだろうというのが先輩の目論見だった。
また一方で、ギルドを結成して同じ善行を同時に行うと、レートにボーナス倍率がかかるというルールもある。
たとえば人数を集めて集団で空き缶拾いをやれば、一人でやったときよりも多い善を稼げるというわけだ。
これは口コミで参加者を増やすのに役立つギミックだ。
そこまで乗り気でない生徒も、熱心な生徒に言われてちょっと手伝うところから始めてもらえる。
なるほど、よくできてる。
アプリに登録する項目は、善行の内容と証拠写真。
善行の内容は基本的には既存のリストから選ぶが、リストにない善行を思いついて実行した場合はフリー入力も可能になっている。
フリー善行の場合は審判の生徒|(具体的には先輩だろう)の審査が入るので反映されるまでに時間がかかるが、完全オリジナルの善行を達成できれば一発で一善を稼げる。
もしオリジナルの善行に認定されなくても、似たような項目にまとめられるだけなのでその善行は無駄にならない。
「アプリの説明は以上。というわけで、学園祭に合わせてこの上書きした一日一善アプリを大々的に公開しようと思ってるわけ」
「面白いですね。うん、それ、面白い」
思わずうなずいてしまう。
確かに俺が好きなタイプのイタズラだ。
「でしょ? スズノなら絶対そう言ってくれると思ってた。手伝う気になったよね?」
だが……
「いや、それとこれとは別。あと一カ月しかないのは論外。無理。やらない」
そう、今は十月の頭。学園祭の開かれる文化の日まであと一カ月しかない。
「どうしても?」
少しすねたように唇を尖らせる先輩。
やめろ美少女。そういうのは反則技だ。
「い、いや、どうしてもっていうなら、素直にコンピュータ部とかに応援を要請したらいいと思うんですが」
妥協案を提示してみるが、先輩は不満顔のままだ。
「むう。こういうイタズラってさ、少人数で秘かにやって、大舞台でバーンと公開するから楽しいんだよ。それを思えばこそ、準備もワクワクしながら頑張れるんだよ。わかんない?」
やめろ美少女。小さく首をかしげるな。その追い打ちは致命傷になる。
「わ、わかりますよ。わかりますけど、学園祭までに完成しなかったら意味ないじゃないですか」
と言いながらも、俺は頭の中で手早く工程を組んでみる。
実際、アプリの機能としてはそこまで複雑ではない。仕様もほとんど固まってる。
似たようなものを組んだことはあるし、できなくは……ないのかなあ。
「だいたい、もっと早く声をかけてくれればよかったんですよ」
「思いついたの、一昨日だから。でね、これを見て」
悪びれもせずにそう言う先輩は、『検討課題』というタイトルの新しいスライドを表示させる。
そうなんだよな。
単なる思い付きだけじゃなくて、実行するために本気で検討して準備もしてる。
その真剣さがわかるから、俺も鼻で笑い飛ばすような態度がとれないわけで。