「えーと、俺に作ってほしいアプリがあるんでしたっけ」
話を聞くと約束したし、ここまで来て帰るのも逆に時間の浪費になる気がしたので、俺は素直に話を聞くつもりになっていた。
「そそ。じゃ、説明するよ」
そう言うと、吉荘先輩は自分のスマホを開いて俺に向ける。
「スズノはうちの学校の『一日一善アプリ』って知ってる?」
画面いっぱいに地味な起動画面が現れる。
白い画面の中央に黒の明朝体で『一日一善』と大きく書かれている。
あとはログインボタンと設定ボタンが下の方に小さくあるだけだ。
清々しいほど淡白なデザインだ。
「一応は。インストールした後、一度だけ起動してみて、それっきりですね」
「おそらくうちの学校の生徒のほとんどがそうだろうね」
小さく肩をすくめる先輩。
このアプリは文字通り一日一善を行うためのものだった。
その日の善行を記録する。
それだけだ。
もう一度言う。
それだけだ。
聞いた話だと、生徒の行った善行を紹介したり、善行を集計して校長先生が講評を行うとか、当初はそういう計画もあったらしい。
だがいかんせん、利用する生徒がまったくいなかった。
善行が集まらなければ紹介も講評もなにもできない。
学校が生徒に善行しろと要請したって、そうそう動くものじゃあない。
第一、善行ってのは自主的にやってこそ意味があるはずだし。
そんなわけで、アプリはあっという間に黒歴史と化した。
「県の予算をもらってサーバを借りてるらしくて、実績作りとかなんとかそういうのが発端だったみたいだね」
「なるほど、よくある話っぽいですね」
やめるにやめられないってところか。
「そこであたしは考えた!」
パタンとスマホカバーを閉じ、先輩は俺の目を見る。
「使ってないなら乗っ取ってもいいんじゃないかと!」
鼻息荒く言い切る先輩。
「待て、風紀委員」
率先して学校の風紀を壊す気か。
「ああ。あたし、風紀委員長ね」
「余計たちが悪いだろうが!」
「あっはっは。やっとため口になってくれた」
「……あ」
「ショータって呼んでくれてもいいんだが?」
「いやいや。学校で先輩にため口利いてたらまずいでしょうが」
「白い目で見られる? どうせ友達いないよね?」
「ぐ……」
だから放課後、教室で一人でゲームをやっている。
ショータを前には隠しようもない事実だ。
二年から転入してきた俺は、部活にも委員会にも所属していない。
「いや、別にね、学校に迷惑をかけようとかそういう話じゃなくてさ」
今度は壁の備品棚からノートPCを持ち出して操作し始めた。
どうやらプレゼンテーション用のアプリを起動している。
これ、たぶん、学校の備品なんだろうなあ。
「というわけで、聞いてほしい! 一日一善アプリ乗っ取り計画!」
カラオケでも歌い出しそうな勢いで先輩はプレゼンを始めた。
ていうかそのタイトルを無駄にアニメーション表示させるのやめろ。笑う。