第122話 お前ら、本気で部活やれよ
ー/ー
「まずは樫田。言える範囲のことをお願い」
椎名の言葉に樫田は頷き、飲み物を手に取って少し飲んだ。
まるで長い話になると言わんばかりに喉を潤したのだ。
そして、樫田はゆっくりと話し出す。
「そうだな。なんて言おうか正直今も迷っているが、誤解を恐れずに言うならば……山路はみんなの覚悟を試しているんだ」
「覚悟を試す? それって香奈たちの全国を目指すことについて?」
「いいや、それだけじゃないよ増倉。試されているのは俺たち全員だ」
全員? それに覚悟を試すって……。
話が見えないのは俺だけではなかったのか、椎名が質問する。
「覚悟を試すっていうのは具体的にどういうことかしら」
「順を追って話すよ。まず、椎名と杉野については全国を目指すことだな。これについては山路も言っていただろう」
あの時、確かに山路は椎名に全国を目指すことについて聞いていた。
それが覚悟を試すためなら、他の人の覚悟とは?
「増倉と夏村は部内の不和……要するに楽しい雰囲気だけじゃ今後いけないってことだな。俺と大槻については……まぁ、分かっているからいいか」
「……」
樫田の言葉に、各々が複雑な表情をする。
思い当たることがあるのだろう。俺自身がそうであるように。
「で、だ。じゃあ何故山路は覚悟を試したのか。分かるか?」
俺はその問いを言われて気づく。
確かに何の理由があって山路はみんなの覚悟を試しているのだろうか。
その疑問を抱いたのは俺だけではなかった。
みんな顔を見合わせる。誰もこれといった答えに辿り着かない。
そんな中、夏村が樫田に質問する。
「昨日山路は『そろそろはっきりと部活のことを考えて、行動しないといけない時期に差し掛かった』って言ってた。それが理由?」
「そうだな。それも理由の一つになるかもしれないが、動機かと言われれば違う。分かるはずだ。お前さんらはそれじゃあ納得できないだろ?」
樫田の言う通りだった。山路の動機かと聞かれればしっくりこない。
もっと根本的な行動理由が知りたかった。
「じゃあ樫田、動機って何? それは言えないこと?」
増倉の質問に樫田は悩んでいた。
一瞬視線を大槻に送り、その表情を確認した後に言葉を選ぶ。
「そうだな。なぜ覚悟を試したのかってことなら、俺はこう表現しよう」
樫田はそこで言葉を区切るとみんなを見渡した。
個人個人と視線を合わせ何かを確認する。
そしてはっきりとした口調で、力強く言った。
「お前ら、本気で部活やれよ」
樫田の言葉に俺は雷に打たれたような衝撃を受ける。
予想外の言葉に驚いたからじゃない。その言葉がまるで山路に言われている気がして体が怯んだからだ。
一瞬、空気が固まった。
だが次の瞬間にはそれぞれの感情が混ざり合い、膨張する。
始めに反応したのは椎名だった。
怒気混じる声で樫田に聞く。
「それは、どういう意味かしら?」
「言ったままの意味だよ。そんな深い言葉じゃない」
「私が! いつ部活に本気じゃなかったのかしら!」
「……」
睨みつける椎名に動じることなく、樫田は飲み物を一口飲む。
表情一つ変えず、答える。
「それは山路に聞いてほしいところだが……まぁ、言える範囲で俺視点の話をしようか。まず、全国目指すことを杉野と二人で画策していたこと」
「それのどこが……!」
「何でみんなと正面切って話し合おうとしなかったんだ?」
「っ!」
「大方、部長になってから色々動こうとしていたのだろうが…………なぁ椎名。そりゃちょっと悠長じゃないか? 分かっているはずだ。俺達みたいな部活が全国目指すならそれ以外の全てを捧げるぐらいのことをしないと辿り着けないことぐらい」
「そ、れは……」
「お前さんが誰よりも真面目に部活をしていたことはみんなが認めることだろう。だが、本気じゃない。本気でみんなを巻き込んで全国目指していない」
静かに重く断言する樫田。
いつの間にか、椎名の表情から怒りは消えていた。
顔面蒼白とはこういうことを言うのだろう。
椎名が言葉を失うと、樫田は視線を増倉に移した。
「増倉。お前さんはみんなが楽しいことが大切だったな」
「う、うん。そうだけど……」
「じゃあ、楽しいって何だ?」
「……」
「目標を持ったり、必死になったり、出来ないことが出来るようになった時に人は楽しいと感じるんじゃないか?」
「別に、みんなと仲良く喋ったり練習したりすることも楽しいと思うけど」
「そうだな。そういう側面もある。じゃあ、増倉の思い描く部活はただ日常を楽しく消費するだけの部活なのか?」
「そんなことはないよ。大会には真剣に臨むし、練習だってちゃんとやる……ただ、喧嘩したり険悪になったりしないで楽しく部活をやりたいだけ」
「立派だな。けど知っているはずだ。楽しいだけの部活は衰退することを」
「……それは嫌味?」
「いいや、本音さ」
意味深な樫田の言葉に増倉は黙った。
俺にはその意味は分からなかったが、楽しいだけの部活は衰退するという言葉がやけに重く感じた。
会話はそこで終わり、樫田は次に俺へと視線を向けた。
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「まずは樫田。言える範囲のことをお願い」
椎名の言葉に樫田は頷き、飲み物を手に取って少し飲んだ。
まるで長い話になると言わんばかりに喉を潤したのだ。
そして、樫田はゆっくりと話し出す。
「そうだな。なんて言おうか正直今も迷っているが、誤解を恐れずに言うならば……山路はみんなの覚悟を試しているんだ」
「覚悟を試す? それって香奈たちの全国を目指すことについて?」
「いいや、それだけじゃないよ増倉。試されているのは俺たち全員だ」
全員? それに覚悟を試すって……。
話が見えないのは俺だけではなかったのか、椎名が質問する。
「覚悟を試すっていうのは具体的にどういうことかしら」
「順を追って話すよ。まず、椎名と杉野については全国を目指すことだな。これについては山路も言っていただろう」
あの時、確かに山路は椎名に全国を目指すことについて聞いていた。
それが覚悟を試すためなら、他の人の覚悟とは?
「増倉と夏村は部内の不和……要するに楽しい雰囲気だけじゃ今後いけないってことだな。俺と大槻については……まぁ、分かっているからいいか」
「……」
樫田の言葉に、各々が複雑な表情をする。
思い当たることがあるのだろう。俺自身がそうであるように。
「で、だ。じゃあ何故山路は覚悟を試したのか。分かるか?」
俺はその問いを言われて気づく。
確かに何の理由があって山路はみんなの覚悟を試しているのだろうか。
その疑問を抱いたのは俺だけではなかった。
みんな顔を見合わせる。誰もこれといった答えに辿り着かない。
そんな中、夏村が樫田に質問する。
「昨日山路は『そろそろはっきりと部活のことを考えて、行動しないといけない時期に差し掛かった』って言ってた。それが理由?」
「そうだな。それも理由の一つになるかもしれないが、動機かと言われれば違う。分かるはずだ。お前さんらはそれじゃあ納得できないだろ?」
樫田の言う通りだった。山路の動機かと聞かれればしっくりこない。
もっと根本的な行動理由が知りたかった。
「じゃあ樫田、動機って何? それは言えないこと?」
増倉の質問に樫田は悩んでいた。
一瞬視線を大槻に送り、その表情を確認した後に言葉を選ぶ。
「そうだな。なぜ覚悟を試したのかってことなら、俺はこう表現しよう」
樫田はそこで言葉を区切るとみんなを見渡した。
個人個人と視線を合わせ何かを確認する。
そしてはっきりとした口調で、力強く言った。
「お前ら、《《本気で部活やれよ》》」
樫田の言葉に俺は雷に打たれたような衝撃を受ける。
予想外の言葉に驚いたからじゃない。その言葉がまるで山路に言われている気がして体が怯んだからだ。
一瞬、空気が固まった。
だが次の瞬間にはそれぞれの感情が混ざり合い、膨張する。
始めに反応したのは椎名だった。
怒気混じる声で樫田に聞く。
「それは、どういう意味かしら?」
「言ったままの意味だよ。そんな深い言葉じゃない」
「私が! いつ部活に本気じゃなかったのかしら!」
「……」
睨みつける椎名に動じることなく、樫田は飲み物を一口飲む。
表情一つ変えず、答える。
「それは山路に聞いてほしいところだが……まぁ、言える範囲で俺視点の話をしようか。まず、全国目指すことを杉野と二人で画策していたこと」
「それのどこが……!」
「何でみんなと正面切って話し合おうとしなかったんだ?」
「っ!」
「大方、部長になってから色々動こうとしていたのだろうが…………なぁ椎名。そりゃちょっと悠長じゃないか? 分かっているはずだ。俺達みたいな部活が全国目指すならそれ以外の全てを捧げるぐらいのことをしないと辿り着けないことぐらい」
「そ、れは……」
「お前さんが誰よりも真面目に部活をしていたことはみんなが認めることだろう。だが、本気じゃない。本気でみんなを巻き込んで全国目指していない」
静かに重く断言する樫田。
いつの間にか、椎名の表情から怒りは消えていた。
顔面蒼白とはこういうことを言うのだろう。
椎名が言葉を失うと、樫田は視線を増倉に移した。
「増倉。お前さんはみんなが楽しいことが大切だったな」
「う、うん。そうだけど……」
「じゃあ、楽しいって何だ?」
「……」
「目標を持ったり、必死になったり、出来ないことが出来るようになった時に人は楽しいと感じるんじゃないか?」
「別に、みんなと仲良く喋ったり練習したりすることも楽しいと思うけど」
「そうだな。そういう側面もある。じゃあ、増倉の思い描く部活はただ日常を楽しく消費するだけの部活なのか?」
「そんなことはないよ。大会には真剣に臨むし、練習だってちゃんとやる……ただ、喧嘩したり険悪になったりしないで楽しく部活をやりたいだけ」
「立派だな。けど知っているはずだ。楽しいだけの部活は衰退することを」
「……それは嫌味?」
「いいや、本音さ」
意味深な樫田の言葉に増倉は黙った。
俺にはその意味は分からなかったが、楽しいだけの部活は衰退するという言葉がやけに重く感じた。
会話はそこで終わり、樫田は次に俺へと視線を向けた。