第119話 彼の気持ち 高慢な疎外感
ー/ー 向かった先は意外にも、新入部員歓迎会で花火をしたあの公園だった。
日曜日だというのに公園内には大槻と夏村の二人しかいなかった。
俺と増倉はベンチに腰かけている二人のもとに向かう。
「よお、珍しい組み合わせだな」
「お互い様だろ」
大槻は立ち上がり、笑いながら話しかけてきた。
その様子に俺は少し安堵する。少なくとも冗談を言えるぐらいの余裕が大槻にはある。
夏村と二人っきりで何を話していたのかは分からないが、そこまで深刻な話をしていたわけではなさそうだ。
「ごめん、待たせた?」
「大丈夫」
増倉は夏村に話しかけ、そのまま大槻が座っていた場所に腰を掛ける。ああ、そのために立ったのか。
ベンチに座る夏村と増倉。そしてその前に立つ俺と大槻。
俺達だけの静かな公園。
最初に口を開いたのは、増倉だった。
「どうする? こっちで話したことを言う? って言ってもそんなにないけど……」
「いや、大槻にさっき話したことを二人にも話してほしい」
夏村がそう言うと、視線が大槻に集まった。
大槻は困ったような顔になっていた。
「さっきのって山路のことか?」
「うん」
夏村が即答すると大槻は更に困ったのか、額に手を当て考え出した。
様子から想像するに、山路のことについて大槻は何か知っているのだろう。
「お願い、大槻」
「分かったよ……」
大槻は夏村の言葉にため息交じりに返事をした。
そのままあんまり乗り気でない顔で増倉を見て確認する。
「増倉は杉野からどこまで聞いたん?」
「全然聞いてないよ。でも山路が宣戦布告したって話は聞いた」
「そっか。それが分かるならいいか…………正直、俺もいつから山路が辞める気だったのかは分からない。けど杉野への宣戦布告、あれは山路なりの義理を通すってことだったんだと思う」
義理を通す? 俺のその言い方が気になった。
増倉もいまいちピンと来ていないのか、曖昧な顔をしていた。
それを察したのか、大槻は言葉を紡いで詳しく話す。
「義理を通すっていうのは、なんつーか、杉野と正面切って戦いたかったんだよ。一人の演劇部員として、役者として。その上で……負けて辞める理由が欲しかったんだと思う」
増倉はその言葉を聞いて、何かを考えだした。
何かが分かったのかもしれないが、俺は理解できず大槻に聞く。
「山路は、その、演劇部を辞めたかったのか?」
「いや、違う。辞めたくなんてないだろ」
「? どういうことだ?」
「あー、えっと……」
俺の質問に大槻は言葉に詰まった。
なんて言えばいいのか、どう伝えればいいのか迷っているようだった。
大槻からの言葉を待っていると、夏村が口を開いた。
「山路は、演劇部の一員になりたかったんだと思う」
「そう! そんな感じ!」
勢いよく同意する大槻。
俺は余計に分からなくなった。
だって、山路は演劇部に一員だろ。
そんな俺を真っ直ぐに見ながら、夏村は悲しい顔をした。
「たぶん、杉野には難しい。時折感じる疎外感。自分だけ違うんじゃないかという不和」
「…………」
夏村の言葉に大槻が顔を暗くする。
その様子を見て俺は、俺の理解できないことがあることを実感する。
きっとそれは俺が感じたことのない、俺の知らない演劇部の側面だ。
「……だから、演劇部の青春について」
さっきまで黙っていた増倉が一人そんなことを言った。
みんなの視線が集まる中、増倉は大槻を見て続けた。
「山路が感じていた疎外感。そしてそれでも演劇部の一員でいたいっていう気持ち…………私は分かっていなかった」
「増倉……」
「でも分からないこともあるの。山路にとって――」
「ちょっと待ってくれ!」
俺が声を上げると三人はこっちを向いた。
このまま話し続けると置いていかれる。
「話が見えない。何で山路が疎外感を感じるんだよ」
「それはね杉野……大槻、言える?」
増倉は何かを言おうとして話を大槻に振った。
俺が大槻を見ると、真剣な表情で話し出す。
「さっき夏村が言った通り杉野には難しい話なんだよ」
「どうして?」
「そりゃ、お前が……いやお前と椎名がいつも演劇部の中心にいるからだよ」
「中心……?」
困惑する俺に、大槻は優しく説明する。
「お前ら二人が何か企んでいるってなったとき、俺や山路がどんな気持ちを抱いたと思う?」
「どんな気持ちって」
言われて、その想像が出来ていないことに気づく。
大槻は少し寂しげな表情をした。
「まぁ、俺や山路はサボり魔だからな。大切な話に入れないのは理解できる。理解はできるけどさ、疎外感を覚えないわけじゃないんだぜ? それに俺たち視点だと、ひょっとして俺だけが知らないんじゃないか、俺だけがハブられているんじゃないかって」
「それは……」
「樫田はそこら辺しっかりケアしてくれてたけど、それでも俺も山路も思うわけだよ。何で俺は演劇部員なのにその話の外にいるんだろうって」
「違う! そんなつもりは!」
「いや、いいんだよ。サボり魔な俺らが悪い。悪いのは分かっているに、高慢にもそう思ってしまうわけだよ」
自虐的な大槻の笑いが、俺の胸に刺さる。
言われてようやく俺は自分の至らなさを知る。
それに思い出す、新入部員歓迎会の時に山路と二人でボールペンを買っていた時の話を。
ああそうだ。山路も部活のことを真剣に考えていたじゃないか。
それなのに俺は。
「別に杉野が悪いわけじゃない」
夏村が優しい言葉をかけてくる。
けど、俺の体から苛立ちが取れない。
「よせよ、慰めなんて」
「違う。これは部活の問題」
「夏村?」
「だって、香奈と杉野が全国を目指すって分かっていたのに私は傍観していた。ちゃんとみんなで考えて決めないといけない部活の未来のことを、私はただ傍観していた」
悔い改めるかのように、夏村は苦しそうにしていた。
その言葉に増倉が頷く。
「そうね。山路があの時言っていたのは、そういうことだったのかもね」
覚えている。『演劇部の青春』って言葉を出す前に言っていた話だ。
あれは山路なりの演劇部員としての言葉。
「…………」
沈黙が流れた。それぞれが何を考えているか分からない。
ただ俺は自分のしていたことが知らぬ間に誰かを傷つけていたことに衝撃を受けていた。
暗い雰囲気が漂う中、増倉が口を開いた。
「疎外感は確かに問題だけど、今の問題はどうすれば山路が辞めることを阻止できるかでしょ」
「そうだけどよ。そんな案があるならこんなに話してないだろ」
「ないなら考えないと。何かない?」
簡単に言ってくれるな、と俺と大槻は頭を悩ませる。
すると夏村が提案する。
「一回、山路以外のみんなで集まらない? それが出来ないと話が始まらない気がする」
「なるほど」
確かにこの問題は個人個人がどうのというより集団として在り方の問題な気もする。
夏村の言う通り、みんなで話し合わないといけない。
大槻と増倉もそう思ったのか、二人も頷いた。
「なんなら今から集まれないかな」
「そうだな。善は急げってやつだ」
同意を確認すると夏村はスマホを取り出した。
「じゃあ樫田は私が連絡するから、香奈は杉野からお願い」
「分かった」
俺もスマホを取り出し椎名に連絡した。
日曜日だというのに公園内には大槻と夏村の二人しかいなかった。
俺と増倉はベンチに腰かけている二人のもとに向かう。
「よお、珍しい組み合わせだな」
「お互い様だろ」
大槻は立ち上がり、笑いながら話しかけてきた。
その様子に俺は少し安堵する。少なくとも冗談を言えるぐらいの余裕が大槻にはある。
夏村と二人っきりで何を話していたのかは分からないが、そこまで深刻な話をしていたわけではなさそうだ。
「ごめん、待たせた?」
「大丈夫」
増倉は夏村に話しかけ、そのまま大槻が座っていた場所に腰を掛ける。ああ、そのために立ったのか。
ベンチに座る夏村と増倉。そしてその前に立つ俺と大槻。
俺達だけの静かな公園。
最初に口を開いたのは、増倉だった。
「どうする? こっちで話したことを言う? って言ってもそんなにないけど……」
「いや、大槻にさっき話したことを二人にも話してほしい」
夏村がそう言うと、視線が大槻に集まった。
大槻は困ったような顔になっていた。
「さっきのって山路のことか?」
「うん」
夏村が即答すると大槻は更に困ったのか、額に手を当て考え出した。
様子から想像するに、山路のことについて大槻は何か知っているのだろう。
「お願い、大槻」
「分かったよ……」
大槻は夏村の言葉にため息交じりに返事をした。
そのままあんまり乗り気でない顔で増倉を見て確認する。
「増倉は杉野からどこまで聞いたん?」
「全然聞いてないよ。でも山路が宣戦布告したって話は聞いた」
「そっか。それが分かるならいいか…………正直、俺もいつから山路が辞める気だったのかは分からない。けど杉野への宣戦布告、あれは山路なりの義理を通すってことだったんだと思う」
義理を通す? 俺のその言い方が気になった。
増倉もいまいちピンと来ていないのか、曖昧な顔をしていた。
それを察したのか、大槻は言葉を紡いで詳しく話す。
「義理を通すっていうのは、なんつーか、杉野と正面切って戦いたかったんだよ。一人の演劇部員として、役者として。その上で……負けて辞める理由が欲しかったんだと思う」
増倉はその言葉を聞いて、何かを考えだした。
何かが分かったのかもしれないが、俺は理解できず大槻に聞く。
「山路は、その、演劇部を辞めたかったのか?」
「いや、違う。辞めたくなんてないだろ」
「? どういうことだ?」
「あー、えっと……」
俺の質問に大槻は言葉に詰まった。
なんて言えばいいのか、どう伝えればいいのか迷っているようだった。
大槻からの言葉を待っていると、夏村が口を開いた。
「山路は、演劇部の一員になりたかったんだと思う」
「そう! そんな感じ!」
勢いよく同意する大槻。
俺は余計に分からなくなった。
だって、山路は演劇部に一員だろ。
そんな俺を真っ直ぐに見ながら、夏村は悲しい顔をした。
「たぶん、杉野には難しい。時折感じる疎外感。自分だけ違うんじゃないかという不和」
「…………」
夏村の言葉に大槻が顔を暗くする。
その様子を見て俺は、俺の理解できないことがあることを実感する。
きっとそれは俺が感じたことのない、俺の知らない演劇部の側面だ。
「……だから、演劇部の青春について」
さっきまで黙っていた増倉が一人そんなことを言った。
みんなの視線が集まる中、増倉は大槻を見て続けた。
「山路が感じていた疎外感。そしてそれでも演劇部の一員でいたいっていう気持ち…………私は分かっていなかった」
「増倉……」
「でも分からないこともあるの。山路にとって――」
「ちょっと待ってくれ!」
俺が声を上げると三人はこっちを向いた。
このまま話し続けると置いていかれる。
「話が見えない。何で山路が疎外感を感じるんだよ」
「それはね杉野……大槻、言える?」
増倉は何かを言おうとして話を大槻に振った。
俺が大槻を見ると、真剣な表情で話し出す。
「さっき夏村が言った通り杉野には難しい話なんだよ」
「どうして?」
「そりゃ、お前が……いやお前と椎名がいつも演劇部の中心にいるからだよ」
「中心……?」
困惑する俺に、大槻は優しく説明する。
「お前ら二人が何か企んでいるってなったとき、俺や山路がどんな気持ちを抱いたと思う?」
「どんな気持ちって」
言われて、その想像が出来ていないことに気づく。
大槻は少し寂しげな表情をした。
「まぁ、俺や山路はサボり魔だからな。大切な話に入れないのは理解できる。理解はできるけどさ、疎外感を覚えないわけじゃないんだぜ? それに俺たち視点だと、ひょっとして俺だけが知らないんじゃないか、俺だけがハブられているんじゃないかって」
「それは……」
「樫田はそこら辺しっかりケアしてくれてたけど、それでも俺も山路も思うわけだよ。何で俺は演劇部員なのにその話の外にいるんだろうって」
「違う! そんなつもりは!」
「いや、いいんだよ。サボり魔な俺らが悪い。悪いのは分かっているに、高慢にもそう思ってしまうわけだよ」
自虐的な大槻の笑いが、俺の胸に刺さる。
言われてようやく俺は自分の至らなさを知る。
それに思い出す、新入部員歓迎会の時に山路と二人でボールペンを買っていた時の話を。
ああそうだ。山路も部活のことを真剣に考えていたじゃないか。
それなのに俺は。
「別に杉野が悪いわけじゃない」
夏村が優しい言葉をかけてくる。
けど、俺の体から苛立ちが取れない。
「よせよ、慰めなんて」
「違う。これは部活の問題」
「夏村?」
「だって、香奈と杉野が全国を目指すって分かっていたのに私は傍観していた。ちゃんとみんなで考えて決めないといけない部活の未来のことを、私はただ傍観していた」
悔い改めるかのように、夏村は苦しそうにしていた。
その言葉に増倉が頷く。
「そうね。山路があの時言っていたのは、そういうことだったのかもね」
覚えている。『演劇部の青春』って言葉を出す前に言っていた話だ。
あれは山路なりの演劇部員としての言葉。
「…………」
沈黙が流れた。それぞれが何を考えているか分からない。
ただ俺は自分のしていたことが知らぬ間に誰かを傷つけていたことに衝撃を受けていた。
暗い雰囲気が漂う中、増倉が口を開いた。
「疎外感は確かに問題だけど、今の問題はどうすれば山路が辞めることを阻止できるかでしょ」
「そうだけどよ。そんな案があるならこんなに話してないだろ」
「ないなら考えないと。何かない?」
簡単に言ってくれるな、と俺と大槻は頭を悩ませる。
すると夏村が提案する。
「一回、山路以外のみんなで集まらない? それが出来ないと話が始まらない気がする」
「なるほど」
確かにこの問題は個人個人がどうのというより集団として在り方の問題な気もする。
夏村の言う通り、みんなで話し合わないといけない。
大槻と増倉もそう思ったのか、二人も頷いた。
「なんなら今から集まれないかな」
「そうだな。善は急げってやつだ」
同意を確認すると夏村はスマホを取り出した。
「じゃあ樫田は私が連絡するから、香奈は杉野からお願い」
「分かった」
俺もスマホを取り出し椎名に連絡した。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。