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第2話 拙い善意は唐突に

ー/ー



 マナは、街を見下ろす木の上にいた。
 目の前には、握り拳大の銀色の球体が浮いている。ふろろろろ……という音はマナにとっては聞き慣れた、ドローンのプロペラ駆動音だった。

 マナがドローンと共有した視界には、ぼんやりと自身の顔が見えた。
 もっと笑った方が良い、とよく言われる愛想の無い顔は、少し緊張しているように見える。それをほぐすため、ふう、と息を吐き、マナはドローンを街へと飛ばした。

 まず、空から街の全景を見る。暗闇でも、城壁に囲まれた街の大きさがよく分かった。マナのいる林から見て反対側には、緩やかに流れる川が月光を反射している。水運があるから、発展できたのだろう。

 マナはドローンの高度を落とし、城壁から侵入経路を探す。城壁の上部には歩哨道が設けられ、数十メートルごとに監視塔らしきものもある。

 竜との派手ないざこざのせいか、篝火が焚かれた物々しい雰囲気は明らかに外部への警戒だ。

「――。――――?」
「――! ――――」

 たいまつを掲げた兵士二人が、歩哨道を歩きながら会話している。ドローンを通して聞こえてくる言葉は、マナにとって未知のものだ。

 ちょうどいい。

 と、マナは謎の言語に耳を澄ます。そして舌を打ち、右手の指を動かした。マナの頭と首の周りに、かすかに青い粒子が揺らめく。

 音の羅列に乗った“意思”を、後から“言葉”に変換する。そして、自分には逆の処理を。
 この時のために学んだ技術が、早速役に立つ。
 しばらく聞いていれば、()()の人たちとも会話できるようになるだろう。

 マナは会話を聞きながら、警備の手薄な所に目星をつける。目を開けて直接見れば、そこはマナのいる木の上から少し見下ろす、壁上の暗がりだ。

「……」

 マナは、銃に別の弾を装填した。城壁の上に狙いを付け、撃つ。

 がしゅん。

 ワイヤー付きアンカーの射撃音は、木々のさざめきに紛れて誰の耳にも届かなかった。
 マナはワイヤーが固定されたのを確認すると、銃床(ストック)……肩当ての部分を開いて中からワイヤーを引き出し、太い木の幹に巻き付けた。

「よし……」

 銃にぶら下がり、ジップラインのように城壁へ乗り移るマナを見ている者は、やはり誰もいなかった。



 ワイヤーごと銃を消し、マナは城壁から街の中へと飛び降りた。

「……」

 生ゴミと下水の混じり合ったような匂いに顔をしかめながらも、安堵に息をつく。
 
 街には入れた。あとは、朝を待つだけだ。
 
 マナは適当な、しかしあまり臭わない路地の物陰に身を潜め、ドローンで歩哨たちの会話をただ聞いた。

「――だろ? ――りゅう――?」
「ウソ――! 俺は――――たんだ!」

 会話は、少しずつ理解できるようになっていた。

■ 

 夜が明ける頃には、警戒は解かれたようだった。

「肩透かしかよぉ」
「早くベッドに入りたいぜ」
「それより酒だ。やけ酒だ!」

 睡眠時間を削られた歩哨たちの文句も、マナは理解できるようになっていた。
 ドローンを消し、路地から街の様子をうかがう。

 朝の市街は、すでに活気に満ちていた。開店準備をする店員、荷車で何かを運ぶ男性、はしゃぐ子供を叱る母親。そこには、生活があった。

 行き交う人々は簡素な服を着た街の住民と、荷物を持った旅人がほとんど。ずんぐりした馬が、馬車を引いているのも見える。そこに時折、やたらと奇抜な格好をした人が混じっていた。

 ボロ切れのような服を何枚も重ね着したり、あるいは少ししか着ていなかったり。色使いも“毒々しい”という表現が当てはまるであろう、奇妙な組み合わせが多い。

 マナは、その奇抜な人々が長い杖をついていると気付いた。宗教関係か何かだろうか? だが周囲からの視線は、異物を見るそれだ。

 マナは自分の身体を見下ろした。迷彩服などいるわけがないし、手足のラインが出る服装も、半裸の杖持ちくらいしかいない。

 ……目立つのは避けよう。

 マナは手元に、迷彩柄のポンチョを出した。それを裏返し、深緑色の裏地を表にして羽織る。
 脚は出ているが、まだマシだろう。
 マナは路地から出ると、通りを行き交う人々に紛れ込んだ。

 時折視線は感じるものの、問題はなさそうだった。
 石畳を歩きながら、考える。

 やるべきことは情報収集と、水と食料の確保。野生動物を狩ってサバイバルするとしても、この場所の食文化は知っておきたい。食堂か、酒場のような場所を探そう。

 そう思った矢先、がたんっ、ぎぎっ、という音と、悪態が聞こえた。

「ああっ!? クソ! なんだこりゃ!?」

 見れば、馬車の車輪が石畳の隙間に嵌まり込んでいる。
 
 ――無意識に踏み出しそうになった足を、マナは堪えた。

 無関係な人助けなど、している場合ではない。
 それに、馬車の回りにはもう数人の男性が集まっている。

「おうおう、大変だな!」
「こりゃあ出るの大変だぜ?」
「出すもん出してくれりゃ、俺たちが助けてやってもいいんだが?」

 立ち去ろうとしたマナは、足を止めた。どうも様子がおかしい。周囲の人々も何事かと、馬車を遠巻きにしている。

「あいつら、またあんなイタズラして……」
「警備兵呼んだ方がいいんじゃないか?」

 マナは、おおよその事態を察した。細工した石畳で馬車を止め、助けるフリをして金をせびろうという手口らしい。

 思わず顔をしかめた。
 堪えたはずの足が踏み出しそうになったその時、野次馬から若い女性の声が上がった。

「わ、私ならなんとかできるかも!」

 言いながら、誰かが馬車のそばに駆け寄ってきた。御者に詰め寄っていたならず者たちが、怪訝な顔で振り向く。

 その女性は長い杖を持ち、旅人なのかリュックを背負っていた。杖持ちだが、奇抜な格好ではない。淡い緑のワンピースに赤帯を締め、白いボレロを羽織った姿は、むしろその顔と同様に整った服装だ。
 長い金髪を揺らし、浅葱色の大きな目が印象深いその表情は、明らかにこわばっていた。

「あんだ? 俺たちは大事な話をしてんだ」
「女はすっこんでな」
「で、でも私ならま……」
「うるせぇなあ」

 善意の申し出をすげなく遮られ、女性は杖を両手で抱くように握った。その表情が、ますます曇る。
 気弱そうに見えるが、この場に躊躇無く出てくるなんてずいぶん勇気がある。それとも、恐喝だと気づいていない世間知らずか。
 
 ――どちらにしろ、今なら。

 マナは男たちが気を取られている隙に馬車へと近づき、嵌った車輪に手をかけた。
 いつも持ち上げているバーベルよりも、幾ぶんか軽そうだ。

 ぎぎっ。

 急に動き出した馬車に、揉めていた一同が言葉を失う。

「外しましたよ」

 事も無げなマナのセリフに、御者は礼を言って去っていく。だが当然、男たちはそれで済まなかった。

「おいなんだお前! 勝手なことしやがって。……あ、お前らもしかしてグルか?」
「おい、でもあれ一人で外せるか?」
「それより落とし前だ。ちょっと来い」

 顎をしゃくった男のそばから、杖持ちの女性がそろりと離れようとする。

「じゃ、じゃあ私はこれで……」
「お前もだ!」
「ひえっ」

 関係ない人も巻き込んでしまった。
 なんとか穏便に済ませたいが……。
 そう思いながら、マナは女性と二人、人気(ひとけ)のない路地裏に連れ込まれた。

 ……あまり、いい雰囲気とは言えない。早めにこの場を離れるべきだが、さすがに女性を残していくのは気が引けた。
 話し合いを試みるしかない。

「見ての通り、自分はお金も何も持っていません。何か気に障ることがあったのなら謝ります」
「謝られても腹は膨れねえ。そっちのお前は何か持ってるだろ? 金目のもんなら何でもいい。出せ!」

 言うなり、男の一人が女性の腕を強引に掴んだ。
 
「きゃっ!?」

 悲鳴に、考えるより先に体が動いた。

「いててててっ!」
「てめぇ! 何しやがる!」

 捻り上げた男の腕を離し、マナは女性とならず者の間に立った。

「無抵抗の相手に、一方的に暴力を振るうのは見過ごせません」
「はあ……!? 何なんだてめぇ、さっきから邪魔しやがって……」

 男たちが身構える。
 こうなったらもう、やるしかない。
 マナは目線を正面に向けたまま、女性に問うた。

「確認します。自分が反撃したら罪に問われますか?」
「えっ? け、ケンカは、捕まると思うけど……」

 なら素早く、手早くだ。
 
「……分かりました。ありがとうございます」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」

 男の一人が掴みかかってきた。マナの両肩を掴んだはずのその手は、ポンチョと空気だけを握りつぶした。
 直後、屈んだマナの脚が地を薙いで、男の脚を払った。

「うお!?」

 よろめいた男の顎を、マナは掌底で下から打ち抜く。ぱんっ、という破裂音とともに男は崩れ落ちた。
 
 ポンチョがふぁさりと地に落ちる。その場の全員があっけにとられる中、マナは立ち上がった。そして倒れた男を見下ろして、こう言った。

「……気絶しているだけです。どこかで寝かせてあげて下さい」

 その言葉を挑発と捉えたのか、狼狽えていた男たちの眉がつり上がった。

「んだとぉ!」
「なっ、舐めやがって!」

 一人は木製の棍棒を、もう一人はナイフを抜いた。
 ……危険だ。
 マナは顔をしかめつつ身構える。舌の音と共に青い粒子が渦巻き、左手に棒状の何かが現れた。
 棍棒男が襲いかかってくる。

「うおおっ!」

 かっ。
 振り下ろされた棍棒を、マナは左手の棒……トンファーで受け流した。勢い余った男の側頭部に、回し蹴りを叩き込む。

「ごげっ!?」

 土壁にめり込んだ男は、そのまま動かなくなった。

「ぶっ殺してやる!」

 最後に残ったナイフ男が腕を振り回す。
 ――だが軌道は単純だ。
 マナは、最小限の動きでナイフをかわし、回旋させたトンファーで男の手首を打った。

「いでえっ!?」

 ナイフを落とし、怯んだ男。マナはその懐へ瞬時に踏み込み、男の服を固く掴んだ。

「せいっ!」

 掛け声とともに体を返し、男の体が浮いた。マナの体を軸に、テコの原理が完璧なタイミングで重心を跳ね上げる。
 背負い投げで宙を舞った男の体が、地面に叩きつけられた。


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 マナは、街を見下ろす木の上にいた。
 目の前には、握り拳大の銀色の球体が浮いている。ふろろろろ……という音はマナにとっては聞き慣れた、ドローンのプロペラ駆動音だった。
 マナがドローンと共有した視界には、ぼんやりと自身の顔が見えた。
 もっと笑った方が良い、とよく言われる愛想の無い顔は、少し緊張しているように見える。それをほぐすため、ふう、と息を吐き、マナはドローンを街へと飛ばした。
 まず、空から街の全景を見る。暗闇でも、城壁に囲まれた街の大きさがよく分かった。マナのいる林から見て反対側には、緩やかに流れる川が月光を反射している。水運があるから、発展できたのだろう。
 マナはドローンの高度を落とし、城壁から侵入経路を探す。城壁の上部には歩哨道が設けられ、数十メートルごとに監視塔らしきものもある。
 竜との派手ないざこざのせいか、篝火が焚かれた物々しい雰囲気は明らかに外部への警戒だ。
「――。――――?」
「――! ――――」
 たいまつを掲げた兵士二人が、歩哨道を歩きながら会話している。ドローンを通して聞こえてくる言葉は、マナにとって未知のものだ。
 ちょうどいい。
 と、マナは謎の言語に耳を澄ます。そして舌を打ち、右手の指を動かした。マナの頭と首の周りに、かすかに青い粒子が揺らめく。
 音の羅列に乗った“意思”を、後から“言葉”に変換する。そして、自分には逆の処理を。
 この時のために学んだ技術が、早速役に立つ。
 しばらく聞いていれば、|こ《・》|こ《・》の人たちとも会話できるようになるだろう。
 マナは会話を聞きながら、警備の手薄な所に目星をつける。目を開けて直接見れば、そこはマナのいる木の上から少し見下ろす、壁上の暗がりだ。
「……」
 マナは、銃に別の弾を装填した。城壁の上に狙いを付け、撃つ。
 がしゅん。
 ワイヤー付きアンカーの射撃音は、木々のさざめきに紛れて誰の耳にも届かなかった。
 マナはワイヤーが固定されたのを確認すると、|銃床《ストック》……肩当ての部分を開いて中からワイヤーを引き出し、太い木の幹に巻き付けた。
「よし……」
 銃にぶら下がり、ジップラインのように城壁へ乗り移るマナを見ている者は、やはり誰もいなかった。
 ワイヤーごと銃を消し、マナは城壁から街の中へと飛び降りた。
「……」
 生ゴミと下水の混じり合ったような匂いに顔をしかめながらも、安堵に息をつく。
 街には入れた。あとは、朝を待つだけだ。
 マナは適当な、しかしあまり臭わない路地の物陰に身を潜め、ドローンで歩哨たちの会話をただ聞いた。
「――だろ? ――りゅう――?」
「ウソ――! 俺は――――たんだ!」
 会話は、少しずつ理解できるようになっていた。
■ 
 夜が明ける頃には、警戒は解かれたようだった。
「肩透かしかよぉ」
「早くベッドに入りたいぜ」
「それより酒だ。やけ酒だ!」
 睡眠時間を削られた歩哨たちの文句も、マナは理解できるようになっていた。
 ドローンを消し、路地から街の様子をうかがう。
 朝の市街は、すでに活気に満ちていた。開店準備をする店員、荷車で何かを運ぶ男性、はしゃぐ子供を叱る母親。そこには、生活があった。
 行き交う人々は簡素な服を着た街の住民と、荷物を持った旅人がほとんど。ずんぐりした馬が、馬車を引いているのも見える。そこに時折、やたらと奇抜な格好をした人が混じっていた。
 ボロ切れのような服を何枚も重ね着したり、あるいは少ししか着ていなかったり。色使いも“毒々しい”という表現が当てはまるであろう、奇妙な組み合わせが多い。
 マナは、その奇抜な人々が長い杖をついていると気付いた。宗教関係か何かだろうか? だが周囲からの視線は、異物を見るそれだ。
 マナは自分の身体を見下ろした。迷彩服などいるわけがないし、手足のラインが出る服装も、半裸の杖持ちくらいしかいない。
 ……目立つのは避けよう。
 マナは手元に、迷彩柄のポンチョを出した。それを裏返し、深緑色の裏地を表にして羽織る。
 脚は出ているが、まだマシだろう。
 マナは路地から出ると、通りを行き交う人々に紛れ込んだ。
 時折視線は感じるものの、問題はなさそうだった。
 石畳を歩きながら、考える。
 やるべきことは情報収集と、水と食料の確保。野生動物を狩ってサバイバルするとしても、この場所の食文化は知っておきたい。食堂か、酒場のような場所を探そう。
 そう思った矢先、がたんっ、ぎぎっ、という音と、悪態が聞こえた。
「ああっ!? クソ! なんだこりゃ!?」
 見れば、馬車の車輪が石畳の隙間に嵌まり込んでいる。
 ――無意識に踏み出しそうになった足を、マナは堪えた。
 無関係な人助けなど、している場合ではない。
 それに、馬車の回りにはもう数人の男性が集まっている。
「おうおう、大変だな!」
「こりゃあ出るの大変だぜ?」
「出すもん出してくれりゃ、俺たちが助けてやってもいいんだが?」
 立ち去ろうとしたマナは、足を止めた。どうも様子がおかしい。周囲の人々も何事かと、馬車を遠巻きにしている。
「あいつら、またあんなイタズラして……」
「警備兵呼んだ方がいいんじゃないか?」
 マナは、おおよその事態を察した。細工した石畳で馬車を止め、助けるフリをして金をせびろうという手口らしい。
 思わず顔をしかめた。
 堪えたはずの足が踏み出しそうになったその時、野次馬から若い女性の声が上がった。
「わ、私ならなんとかできるかも!」
 言いながら、誰かが馬車のそばに駆け寄ってきた。御者に詰め寄っていたならず者たちが、怪訝な顔で振り向く。
 その女性は長い杖を持ち、旅人なのかリュックを背負っていた。杖持ちだが、奇抜な格好ではない。淡い緑のワンピースに赤帯を締め、白いボレロを羽織った姿は、むしろその顔と同様に整った服装だ。
 長い金髪を揺らし、浅葱色の大きな目が印象深いその表情は、明らかにこわばっていた。
「あんだ? 俺たちは大事な話をしてんだ」
「女はすっこんでな」
「で、でも私ならま……」
「うるせぇなあ」
 善意の申し出をすげなく遮られ、女性は杖を両手で抱くように握った。その表情が、ますます曇る。
 気弱そうに見えるが、この場に躊躇無く出てくるなんてずいぶん勇気がある。それとも、恐喝だと気づいていない世間知らずか。
 ――どちらにしろ、今なら。
 マナは男たちが気を取られている隙に馬車へと近づき、嵌った車輪に手をかけた。
 いつも持ち上げているバーベルよりも、幾ぶんか軽そうだ。
 ぎぎっ。
 急に動き出した馬車に、揉めていた一同が言葉を失う。
「外しましたよ」
 事も無げなマナのセリフに、御者は礼を言って去っていく。だが当然、男たちはそれで済まなかった。
「おいなんだお前! 勝手なことしやがって。……あ、お前らもしかしてグルか?」
「おい、でもあれ一人で外せるか?」
「それより落とし前だ。ちょっと来い」
 顎をしゃくった男のそばから、杖持ちの女性がそろりと離れようとする。
「じゃ、じゃあ私はこれで……」
「お前もだ!」
「ひえっ」
 関係ない人も巻き込んでしまった。
 なんとか穏便に済ませたいが……。
 そう思いながら、マナは女性と二人、|人気《ひとけ》のない路地裏に連れ込まれた。
 ……あまり、いい雰囲気とは言えない。早めにこの場を離れるべきだが、さすがに女性を残していくのは気が引けた。
 話し合いを試みるしかない。
「見ての通り、自分はお金も何も持っていません。何か気に障ることがあったのなら謝ります」
「謝られても腹は膨れねえ。そっちのお前は何か持ってるだろ? 金目のもんなら何でもいい。出せ!」
 言うなり、男の一人が女性の腕を強引に掴んだ。
「きゃっ!?」
 悲鳴に、考えるより先に体が動いた。
「いててててっ!」
「てめぇ! 何しやがる!」
 捻り上げた男の腕を離し、マナは女性とならず者の間に立った。
「無抵抗の相手に、一方的に暴力を振るうのは見過ごせません」
「はあ……!? 何なんだてめぇ、さっきから邪魔しやがって……」
 男たちが身構える。
 こうなったらもう、やるしかない。
 マナは目線を正面に向けたまま、女性に問うた。
「確認します。自分が反撃したら罪に問われますか?」
「えっ? け、ケンカは、捕まると思うけど……」
 なら素早く、手早くだ。
「……分かりました。ありがとうございます」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
 男の一人が掴みかかってきた。マナの両肩を掴んだはずのその手は、ポンチョと空気だけを握りつぶした。
 直後、屈んだマナの脚が地を薙いで、男の脚を払った。
「うお!?」
 よろめいた男の顎を、マナは掌底で下から打ち抜く。ぱんっ、という破裂音とともに男は崩れ落ちた。
 ポンチョがふぁさりと地に落ちる。その場の全員があっけにとられる中、マナは立ち上がった。そして倒れた男を見下ろして、こう言った。
「……気絶しているだけです。どこかで寝かせてあげて下さい」
 その言葉を挑発と捉えたのか、狼狽えていた男たちの眉がつり上がった。
「んだとぉ!」
「なっ、舐めやがって!」
 一人は木製の棍棒を、もう一人はナイフを抜いた。
 ……危険だ。
 マナは顔をしかめつつ身構える。舌の音と共に青い粒子が渦巻き、左手に棒状の何かが現れた。
 棍棒男が襲いかかってくる。
「うおおっ!」
 かっ。
 振り下ろされた棍棒を、マナは左手の棒……トンファーで受け流した。勢い余った男の側頭部に、回し蹴りを叩き込む。
「ごげっ!?」
 土壁にめり込んだ男は、そのまま動かなくなった。
「ぶっ殺してやる!」
 最後に残ったナイフ男が腕を振り回す。
 ――だが軌道は単純だ。
 マナは、最小限の動きでナイフをかわし、回旋させたトンファーで男の手首を打った。
「いでえっ!?」
 ナイフを落とし、怯んだ男。マナはその懐へ瞬時に踏み込み、男の服を固く掴んだ。
「せいっ!」
 掛け声とともに体を返し、男の体が浮いた。マナの体を軸に、テコの原理が完璧なタイミングで重心を跳ね上げる。
 背負い投げで宙を舞った男の体が、地面に叩きつけられた。