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第二百二十話

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 あの一件から三日後。けがの治療や野暮用を済ませるため、そして本来の予定では七泊八日であるため、消化する目的も含めあれから四日間山梨で滞在した一行。
 現在時刻は、朝の四時半。徐々に朝日が昇る中、五人は車内にて揺られていた。
 しかし、山梨から東京に向かう帰りの車内の空気感は、地獄そのものであった。沈黙ばかりで、ここに訪れた時のような賑やかさは欠片もなかった。全員が、一通り傷の手当てを施された状態ではあったものの、それぞれがそれぞれの痛みを胸中に抱えていたのだ。
「が、学園長……私だけ大した被害なかったんですけど……」
 あの決戦後、部屋にこもっていた明石はしっかり救出された。不自然なほど、その周囲が一切被害に遭っていなかったことが、どうも信一郎の中で引っかかっていたものの、それは本人が頑張った証、であると思うことにした。
「――それは、運が良かったと胸を撫で下ろすべきではないかな?」
「で、でも……」
 山梨支部との戦いによって、深い傷を負った三人を後ろに乗せ、自分だけが何ともなかった事実が、一般人である明石にとって何とももどかしかったのだ。
「――とりあえず、絢爛豪華ガールズに少しでも生気を取り戻してもらうために、学園へ戻ろう。きっと、凄まじく成長した我が愛娘が見られることだろうね」
 あえて、後列の三人にも聞こえるように語ったものの、三人の表情の色は変わらない。
 目を伏せ、嘆息すると、それ以上口を開くことは無かった。
 善吉率いる山梨支部との戦いは、結局のところ引き分けに終わった。形だけ見れば現状のトップがどこかへ雲隠れ、事実上の支部崩壊まで追い詰めたものの、それ以上に失うものが多すぎたのだ。
 しのびの里の被害は、御庭番衆手前の忍者、その大人複数名。そして葵以外の子供たち、そして頭目であるレイジー。次期頭目はこれから考える、と残された御庭番衆は語っていたが、圧倒的に人数の減った中で何を成せるかは、当人たちにも分からなかった。
 山梨県民は、今回の一件によって『流転の呪い』に関する事柄を知り、軽いパニック状態に陥っている。その事実を知れたことに安堵した者がいれば、そんな事実を知りたくは無かったと憤る者もいる。何ならば、後者が大多数であった。忍者だけでなく、責任追及の矛先が向かった山梨県庁は対応に追われていた。
 大半の存在が、グレープの存在すら知らなかった中で、そして多くの騒ぎが知らぬ間に起こっていた中で、身勝手にも事実を知らされ、事実上救われたことに怒っていたのだ。
 清志郎は、「後々学園で話し合いたい」とだけ言い残し、信一郎たちとは完全別行動。
 エヴァたちが追求し続けた「山梨の闇」。それを明かした代償というものは、とても大きかったのだ。年月をかけ、深く根付いた結果、その植物を引っこ抜いた瞬間に大切な地盤すら持って行ったような感覚であった。
 真実は、時に人を傷つける。全てを知った時どう動くかは当人次第だが、それを知った時のダメージはつきものである。いわば、諸刃の剣であったのだ。

 学園に帰還した五人を出迎えたのは、トレーニングウェア(という名のジャージ)を着用した礼安であった。無邪気に飛び跳ねながら、手を振るのだった。傍にいるのは、まさかの武器科二年二組、加賀美陽。彼女のサポートとして馳せ参じていた。あの合同演習会以来、仲は非常にいいようだ。彼女も、おそろいのトレーニングウェアを着用していた。
「お帰りなさい、皆さん」
「皆お帰りー! 待ってたよ……って、皆……元気ない?」
「――申し訳ありませんわ、礼安。今夜は貴女を抱っこして眠ります」
「……辛いこと、あったんだね」
 心の『色』を見る第六感により、皆の色が見えてしまい、共感してしまった結果、陽気なテンションは消え失せてしまった。無いはずの犬の耳と尻尾がしょげているのが空見してしまう。
 しかし、そんなお通夜じみた雰囲気を何とか振り払うべく、信一郎が話題を切り出す。
「そう言えば、礼安は何していたんだい? 今一応早朝だよ??」
 それもそのはず、現在時刻朝五時半。事件が一応解決してから、諸々の処理を終わらせすぐに帰還しているため、荷物こそしっかりまとめて帰ってきたものの、バカンス後の帰宅という感覚ではない。
「学園長、それに関しては……」
「そうそう、私これからお風呂入りに行こうと思ってたんだ!」
「――え、それって……今までどっかでトレーニングしてた、ってことかよ?」
「そうだよ? お勉強した後にずっと体を動かすの、気持ちいいよ!」
 補習で拘束される時間が朝九時から一日当たり四時間、少なくとも解放されるのは午後一時。そこから午前五時頃まで熱心にトレーニング。今日丁度解放された中で、何とびっくり丸十六時間そこで過ごしていたのだ。ちなみに礼安はがっつりショートスリーパーであるため、三時間はおろか、二時間も寝れば睡眠時間は十分である。
「あの重力空間、面白いね! 結構ハマっちゃって補習終わった後ずーっとやっちゃうんだ!」
「それって俺と剣崎、橘の三人、そして学園長と五日間過ごした奴じゃあねえか?」
 使用する生徒は数少ない、かなり不人気な超重力操作空間。あの一件から「透、橘、剣崎の三人が強くなった」という実績から多少評判になったものの、あまりにものハードさにまず一年次は音をあげリタイア者続出。二年次以降もそもそもハードすぎるがゆえに利用者がいないため、未だほぼ新品同然の施設のままであった。
「あれ使ってくれて感謝……じゃあなくて、何倍でやったの? あれ設定間違えると死ぬ奴なんだけど」
「ンな奴さらっと置くなよだから不人気なんだよ!」
 透の鋭いツッコミが炸裂するも、礼安は実に当たり前のように呟いた。
「よく分からなかったから二十倍? か三十倍? にした!」
「……それ、俺らがやってたときの単純計算二倍なんだが」



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 現在時刻は、朝の四時半。徐々に朝日が昇る中、五人は車内にて揺られていた。
 しかし、山梨から東京に向かう帰りの車内の空気感は、地獄そのものであった。沈黙ばかりで、ここに訪れた時のような賑やかさは欠片もなかった。全員が、一通り傷の手当てを施された状態ではあったものの、それぞれがそれぞれの痛みを胸中に抱えていたのだ。
「が、学園長……私だけ大した被害なかったんですけど……」
 あの決戦後、部屋にこもっていた明石はしっかり救出された。不自然なほど、その周囲が一切被害に遭っていなかったことが、どうも信一郎の中で引っかかっていたものの、それは本人が頑張った証、であると思うことにした。
「――それは、運が良かったと胸を撫で下ろすべきではないかな?」
「で、でも……」
 山梨支部との戦いによって、深い傷を負った三人を後ろに乗せ、自分だけが何ともなかった事実が、一般人である明石にとって何とももどかしかったのだ。
「――とりあえず、絢爛豪華ガールズに少しでも生気を取り戻してもらうために、学園へ戻ろう。きっと、凄まじく成長した我が愛娘が見られることだろうね」
 あえて、後列の三人にも聞こえるように語ったものの、三人の表情の色は変わらない。
 目を伏せ、嘆息すると、それ以上口を開くことは無かった。
 善吉率いる山梨支部との戦いは、結局のところ引き分けに終わった。形だけ見れば現状のトップがどこかへ雲隠れ、事実上の支部崩壊まで追い詰めたものの、それ以上に失うものが多すぎたのだ。
 しのびの里の被害は、御庭番衆手前の忍者、その大人複数名。そして葵以外の子供たち、そして頭目であるレイジー。次期頭目はこれから考える、と残された御庭番衆は語っていたが、圧倒的に人数の減った中で何を成せるかは、当人たちにも分からなかった。
 山梨県民は、今回の一件によって『流転の呪い』に関する事柄を知り、軽いパニック状態に陥っている。その事実を知れたことに安堵した者がいれば、そんな事実を知りたくは無かったと憤る者もいる。何ならば、後者が大多数であった。忍者だけでなく、責任追及の矛先が向かった山梨県庁は対応に追われていた。
 大半の存在が、グレープの存在すら知らなかった中で、そして多くの騒ぎが知らぬ間に起こっていた中で、身勝手にも事実を知らされ、事実上救われたことに怒っていたのだ。
 清志郎は、「後々学園で話し合いたい」とだけ言い残し、信一郎たちとは完全別行動。
 エヴァたちが追求し続けた「山梨の闇」。それを明かした代償というものは、とても大きかったのだ。年月をかけ、深く根付いた結果、その植物を引っこ抜いた瞬間に大切な地盤すら持って行ったような感覚であった。
 真実は、時に人を傷つける。全てを知った時どう動くかは当人次第だが、それを知った時のダメージはつきものである。いわば、諸刃の剣であったのだ。
 学園に帰還した五人を出迎えたのは、トレーニングウェア(という名のジャージ)を着用した礼安であった。無邪気に飛び跳ねながら、手を振るのだった。傍にいるのは、まさかの武器科二年二組、加賀美陽。彼女のサポートとして馳せ参じていた。あの合同演習会以来、仲は非常にいいようだ。彼女も、おそろいのトレーニングウェアを着用していた。
「お帰りなさい、皆さん」
「皆お帰りー! 待ってたよ……って、皆……元気ない?」
「――申し訳ありませんわ、礼安。今夜は貴女を抱っこして眠ります」
「……辛いこと、あったんだね」
 心の『色』を見る第六感により、皆の色が見えてしまい、共感してしまった結果、陽気なテンションは消え失せてしまった。無いはずの犬の耳と尻尾がしょげているのが空見してしまう。
 しかし、そんなお通夜じみた雰囲気を何とか振り払うべく、信一郎が話題を切り出す。
「そう言えば、礼安は何していたんだい? 今一応早朝だよ??」
 それもそのはず、現在時刻朝五時半。事件が一応解決してから、諸々の処理を終わらせすぐに帰還しているため、荷物こそしっかりまとめて帰ってきたものの、バカンス後の帰宅という感覚ではない。
「学園長、それに関しては……」
「そうそう、私これからお風呂入りに行こうと思ってたんだ!」
「――え、それって……今までどっかでトレーニングしてた、ってことかよ?」
「そうだよ? お勉強した後にずっと体を動かすの、気持ちいいよ!」
 補習で拘束される時間が朝九時から一日当たり四時間、少なくとも解放されるのは午後一時。そこから午前五時頃まで熱心にトレーニング。今日丁度解放された中で、何とびっくり丸十六時間そこで過ごしていたのだ。ちなみに礼安はがっつりショートスリーパーであるため、三時間はおろか、二時間も寝れば睡眠時間は十分である。
「あの重力空間、面白いね! 結構ハマっちゃって補習終わった後ずーっとやっちゃうんだ!」
「それって俺と剣崎、橘の三人、そして学園長と五日間過ごした奴じゃあねえか?」
 使用する生徒は数少ない、かなり不人気な超重力操作空間。あの一件から「透、橘、剣崎の三人が強くなった」という実績から多少評判になったものの、あまりにものハードさにまず一年次は音をあげリタイア者続出。二年次以降もそもそもハードすぎるがゆえに利用者がいないため、未だほぼ新品同然の施設のままであった。
「あれ使ってくれて感謝……じゃあなくて、何倍でやったの? あれ設定間違えると死ぬ奴なんだけど」
「ンな奴さらっと置くなよだから不人気なんだよ!」
 透の鋭いツッコミが炸裂するも、礼安は実に当たり前のように呟いた。
「よく分からなかったから二十倍? か三十倍? にした!」
「……それ、俺らがやってたときの単純計算二倍なんだが」