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第二百十六話

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 多くの武器を生成し、立ち向かうも、成すすべなく斬り伏せられる。銘の力があっても、かすり傷以外を生まない。焼け石に水であった。
 どうしてだか、エヴァが生み出す新たな武器や、自分自身、そしてデュアルムラマサが齎す『銘』の力が、弱いように感じられたのだ。力を振るう対象に何も問題はない、恨みが募る相手である以上、申し分なく力を振るえる。そこに邪魔は存在しない。
 ただ、エヴァの『銘』を『与える』力ではなく、『与えられた』力に問題があったのだ。時間ではなく、その効力がどうも弱かったのだ。特効が掛かる衝撃に目を奪われたが、怒りを原動力に振るう力でごまかされているように思えたのだ。
『だが、どうも気に食わないなァ……その力は確かに末恐ろしいものだ、それこそ、圧倒的な力がそこに生じるのなら分かる――だが、まるで紛い物の力を振るっているような貴様が、どうも気に食わない!』
 その言葉を投げられたエヴァは、一瞬にして表情の色を変えた。戸惑い、苦悶、拒絶。あらゆるマイナスの感情が、そこに表れていたのだ。
『私が憎いのだろう? 私を踏み越えたいのだろう?? ――なら、殺すしかない。私たちはどうあっても相いれない存在同士だ!』
 デュアルムラマサの両刃と、物吉貞宗・真打が何度も交差する。そこに拳や蹴りも交えるも、有効打にはなり得ない。
『それぞれが持つ思想も、そして互いの英雄にまつわる『引力』も。全ての要素が噛み合った結果、全てがこの場で殺し合えと叫ぶのさ! そこに、崇高な考えも、殊勝なポリシーも! 意味を成さないんだよ!!』
「――ッ、黙れ! 黙れ黙れ!!」
 しかし、エヴァにはどうあっても殺せない理由がある。こればかりは礼安きっかけではないのだが、以前透に対し埼玉で怒った際、その時の怒りの原因は「グラトニーを、憎しみを以って殺そう」としていたから。多くの人を救う英雄的(ヒロイック)なものではない、実に復讐者(アヴェンジャー)じみた考えのもとに動こうとしていたからだ。
(先程よりも雰囲気が弱まっている! 何だ、結局『心身惨殺機構』は効いていた! ただの痩せ我慢だった!)
 もしここで、エヴァがその考えに少しでも浸り、万が一殺してしまったら。その時の怒りはとんだ眉唾(ウソッパチ)となってしまう。エヴァが心を籠めこちら側に戻ってくるよう叱ったあの時間が、全て無意味なものとなってしまう。
 それだけは、透のためにもやってはならないこととして念頭にあった。
 一対のデュアルムラマサを、魔力によって繋げ、雄叫びを上げながら善吉に迫る。
 力で敵わなくとも、変則的な戦い方によって突破口が開けるのなら、勝利への道筋が見えるのならよし。ある意味、特攻隊のような戦い方であった。
 しかし、何度も激しすぎる剣戟を繰り返していく中で、じわじわとエヴァの装甲が傷ついていくのを感じていた。
 それはデュアルムラマサによるものではない、善吉が今握りしめる脇差、物吉貞宗・真打によるものであった。あらゆる剣術を家業上習ったエヴァであったとしても、どの型にも当てはまらない無形(むぎょう)。だからこそどう戦うのが最高効率なのか、それを掴みあぐねていたのだ。
 さらに、振るっている獲物がたった一振りであるはずなのに、それによって齎される力が尋常ではなかったのだ。踏み込みからの両刃の受け止め、そこに大層な力を込めるのではなく、その後のカウンターに全力をぶち込む。
 どれほど剣戟の間に、隙を生むべく新たな武器を生成しようと、易々と斬っ飛ばすその傍若無人っぷりに、戦いながら辟易としていた。
(何で、こんなにスペックが出るのに……越えられない恐怖を感じるの)
 次第に、怒りは焦りに。徐々に軸のぶれた攻撃を繰り出していくうちに、元から労力少なく捌かれていく剣戟が、もはや赤子の手をひねるようにあしらわれていく感覚。
『どうしたどうした、私をどうにかするんじゃあなかった――のかな!!』
 一瞬の隙を突かれ、左小手を打たれ一本のムラマサを落としてしまう。しかし、その宙に放られた刃を、雷の魔力をブーストさせ一瞬の静止、そこから爆速で撃ち出す。
 光速までは到達しない、あくまで音速。しかしそれほどの速度であれば、元の物体が軽かろうと大の大人が持つ武器を弾くくらいはできる。
 咄嗟に防御するも、火花を散らしながら物吉貞宗・真打が善吉の右手を離れ、宙を舞う。
「ここだあぁァァァァァァッ!!」
 ライセンスを押し込んで、トリガーを引きムラマサ全体に膨大な魔力を帯びさせる。
『必殺承認!! 村正剣劇弐の段・雷電合亜流燕返し(ムラマサビギニング・スワローリバーサル・ライデンモード)!!』
 瞬き禁止、そう表現できるほどの速度で、筋肉や骨、脳から発される電気信号よりも早く、振り下ろされる一閃。それを躱そうとしても、雷の魔力により伸長した刃が胴体を捉え、人を焼き焦がすほどの超電流と共に振り下ろされる。
(行ける――これで全てが終わる……!!)
 武器も放らせ、胴体もがら空き。勝利を確信したエヴァであったが、善吉はそんな状況でも笑っていたのだ。
 今まで何も握られていなかったはずの左手に、見たこともない長さであり、見知った銘の打たれた刀……否、薙刀が握られていたのだ。
 しかし、体はすでに燕返しの一撃目を放ったがために、今更動きをどうこうすることが出来ず。
『この程度で、勝ちを確信するとは――馬鹿の見本市かな??』
 崩れた体勢が、足を踏ん張ったことで上体をわずかに反らした状態へ。そのまま全力が込めやすい体勢で、存在するはずのない薙刀をムラマサの必殺技に合わせるのだった。
 これまでにないほど生じる火花、それは二人の目を細めさせるには十分であった。
「有り得ない……それがその姿で存在するなんて有り得ない!!」
『だが、ライセンスに秘められた可能性なら、何だって有り得る。例えそれが、大坂夏の陣によって焼けた『幻の薙刀』であったとしても』
 必殺の魔力を纏ったムラマサを当人ごと遠くに弾き飛ばし、強制的に距離を取らされる。多少の遠目であったが、エヴァが見たものは。
「――元々は薙刀、でも大坂夏の陣で大凡が焼け、刀工・越前康継によって再刃された、現短刀……『鯰尾藤四郎』……!!」
『それが、現代に元ある形で蘇った。因縁深き村正を殺戮するべく……名刀であり薙刀、『鯰尾藤四郎・真打』。私の、もう一つの兵装さ』
 全力をたった今放ち、魔力が霧散し刃毀れしたデュアルムラマサの両刃が、迫った善吉の持つ薙刀、鯰尾藤四郎・真打の一振りによって呆気なく砕かれる。これまで様々な戦いを経験してきた三代目が、圧倒的な武力の前に敗北したのだ。
「――嘘、でしょ……」
『悔いるがいい、これで徳川殺しの妖刀を造った、などと持て囃された存在は――今日この時を以って終わりを迎えるのだ』
 装甲すらぶった斬る、容赦なき一閃。右肩口から左胴体に渡るまで、実に美しい斬撃であった。臓物をいくつか負傷するほどにまで傷は深く、血飛沫が辺りに飛び散る。まるで、春も終わりを告げるころ、悲しげに新天地へ向かう人々を見送る、薄桃色の桜の花弁のようであった。
 多くの後悔を残しながら、エヴァ・クリストフという人間は、その場に倒れ伏したのだった。装甲も光の粒子となり消え、ただ血溜まりの中で美しい金髪が染められていくのみであったのだ。
『実に、実に呆気ない。英雄という存在を――気にしすぎた結果がこれか』
 しかし、事はこれで終わらなかった。怪人と化した善吉は、ある者の可能性を考慮の外に置いていたがゆえに、無力な刃に心の臓を貫かれるのだった。
 背後から、実に美しい無銘の刀が、善吉の心臓部を貫く。その刃に一切の迷いはなく、当人を徹底的に恨む者によって齎された、『現状維持』を拒む勇敢な女の刃であった。
「――ありがとう、エヴァさん」
 思わず、喀血する善吉。その存在をこの世に生まれさせたことを、今この時心の底から恨んでいた。
『く、(クソガキ)――――!!』



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 多くの武器を生成し、立ち向かうも、成すすべなく斬り伏せられる。銘の力があっても、かすり傷以外を生まない。焼け石に水であった。
 どうしてだか、エヴァが生み出す新たな武器や、自分自身、そしてデュアルムラマサが齎す『銘』の力が、弱いように感じられたのだ。力を振るう対象に何も問題はない、恨みが募る相手である以上、申し分なく力を振るえる。そこに邪魔は存在しない。
 ただ、エヴァの『銘』を『与える』力ではなく、『与えられた』力に問題があったのだ。時間ではなく、その効力がどうも弱かったのだ。特効が掛かる衝撃に目を奪われたが、怒りを原動力に振るう力でごまかされているように思えたのだ。
『だが、どうも気に食わないなァ……その力は確かに末恐ろしいものだ、それこそ、圧倒的な力がそこに生じるのなら分かる――だが、まるで紛い物の力を振るっているような貴様が、どうも気に食わない!』
 その言葉を投げられたエヴァは、一瞬にして表情の色を変えた。戸惑い、苦悶、拒絶。あらゆるマイナスの感情が、そこに表れていたのだ。
『私が憎いのだろう? 私を踏み越えたいのだろう?? ――なら、殺すしかない。私たちはどうあっても相いれない存在同士だ!』
 デュアルムラマサの両刃と、物吉貞宗・真打が何度も交差する。そこに拳や蹴りも交えるも、有効打にはなり得ない。
『それぞれが持つ思想も、そして互いの英雄にまつわる『引力』も。全ての要素が噛み合った結果、全てがこの場で殺し合えと叫ぶのさ! そこに、崇高な考えも、殊勝なポリシーも! 意味を成さないんだよ!!』
「――ッ、黙れ! 黙れ黙れ!!」
 しかし、エヴァにはどうあっても殺せない理由がある。こればかりは礼安きっかけではないのだが、以前透に対し埼玉で怒った際、その時の怒りの原因は「グラトニーを、憎しみを以って殺そう」としていたから。多くの人を救う|英雄的《ヒロイック》なものではない、実に|復讐者《アヴェンジャー》じみた考えのもとに動こうとしていたからだ。
(先程よりも雰囲気が弱まっている! 何だ、結局『心身惨殺機構』は効いていた! ただの痩せ我慢だった!)
 もしここで、エヴァがその考えに少しでも浸り、万が一殺してしまったら。その時の怒りはとんだ|眉唾《ウソッパチ》となってしまう。エヴァが心を籠めこちら側に戻ってくるよう叱ったあの時間が、全て無意味なものとなってしまう。
 それだけは、透のためにもやってはならないこととして念頭にあった。
 一対のデュアルムラマサを、魔力によって繋げ、雄叫びを上げながら善吉に迫る。
 力で敵わなくとも、変則的な戦い方によって突破口が開けるのなら、勝利への道筋が見えるのならよし。ある意味、特攻隊のような戦い方であった。
 しかし、何度も激しすぎる剣戟を繰り返していく中で、じわじわとエヴァの装甲が傷ついていくのを感じていた。
 それはデュアルムラマサによるものではない、善吉が今握りしめる脇差、物吉貞宗・真打によるものであった。あらゆる剣術を家業上習ったエヴァであったとしても、どの型にも当てはまらない|無形《むぎょう》。だからこそどう戦うのが最高効率なのか、それを掴みあぐねていたのだ。
 さらに、振るっている獲物がたった一振りであるはずなのに、それによって齎される力が尋常ではなかったのだ。踏み込みからの両刃の受け止め、そこに大層な力を込めるのではなく、その後のカウンターに全力をぶち込む。
 どれほど剣戟の間に、隙を生むべく新たな武器を生成しようと、易々と斬っ飛ばすその傍若無人っぷりに、戦いながら辟易としていた。
(何で、こんなにスペックが出るのに……越えられない恐怖を感じるの)
 次第に、怒りは焦りに。徐々に軸のぶれた攻撃を繰り出していくうちに、元から労力少なく捌かれていく剣戟が、もはや赤子の手をひねるようにあしらわれていく感覚。
『どうしたどうした、私をどうにかするんじゃあなかった――のかな!!』
 一瞬の隙を突かれ、左小手を打たれ一本のムラマサを落としてしまう。しかし、その宙に放られた刃を、雷の魔力をブーストさせ一瞬の静止、そこから爆速で撃ち出す。
 光速までは到達しない、あくまで音速。しかしそれほどの速度であれば、元の物体が軽かろうと大の大人が持つ武器を弾くくらいはできる。
 咄嗟に防御するも、火花を散らしながら物吉貞宗・真打が善吉の右手を離れ、宙を舞う。
「ここだあぁァァァァァァッ!!」
 ライセンスを押し込んで、トリガーを引きムラマサ全体に膨大な魔力を帯びさせる。
『必殺承認!! |村正剣劇弐の段・雷電合亜流燕返し《ムラマサビギニング・スワローリバーサル・ライデンモード》!!』
 瞬き禁止、そう表現できるほどの速度で、筋肉や骨、脳から発される電気信号よりも早く、振り下ろされる一閃。それを躱そうとしても、雷の魔力により伸長した刃が胴体を捉え、人を焼き焦がすほどの超電流と共に振り下ろされる。
(行ける――これで全てが終わる……!!)
 武器も放らせ、胴体もがら空き。勝利を確信したエヴァであったが、善吉はそんな状況でも笑っていたのだ。
 今まで何も握られていなかったはずの左手に、見たこともない長さであり、見知った銘の打たれた刀……否、薙刀が握られていたのだ。
 しかし、体はすでに燕返しの一撃目を放ったがために、今更動きをどうこうすることが出来ず。
『この程度で、勝ちを確信するとは――馬鹿の見本市かな??』
 崩れた体勢が、足を踏ん張ったことで上体をわずかに反らした状態へ。そのまま全力が込めやすい体勢で、存在するはずのない薙刀をムラマサの必殺技に合わせるのだった。
 これまでにないほど生じる火花、それは二人の目を細めさせるには十分であった。
「有り得ない……それがその姿で存在するなんて有り得ない!!」
『だが、ライセンスに秘められた可能性なら、何だって有り得る。例えそれが、大坂夏の陣によって焼けた『幻の薙刀』であったとしても』
 必殺の魔力を纏ったムラマサを当人ごと遠くに弾き飛ばし、強制的に距離を取らされる。多少の遠目であったが、エヴァが見たものは。
「――元々は薙刀、でも大坂夏の陣で大凡が焼け、刀工・越前康継によって再刃された、現短刀……『鯰尾藤四郎』……!!」
『それが、現代に元ある形で蘇った。因縁深き村正を殺戮するべく……名刀であり薙刀、『鯰尾藤四郎・真打』。私の、もう一つの兵装さ』
 全力をたった今放ち、魔力が霧散し刃毀れしたデュアルムラマサの両刃が、迫った善吉の持つ薙刀、鯰尾藤四郎・真打の一振りによって呆気なく砕かれる。これまで様々な戦いを経験してきた三代目が、圧倒的な武力の前に敗北したのだ。
「――嘘、でしょ……」
『悔いるがいい、これで徳川殺しの妖刀を造った、などと持て囃された存在は――今日この時を以って終わりを迎えるのだ』
 装甲すらぶった斬る、容赦なき一閃。右肩口から左胴体に渡るまで、実に美しい斬撃であった。臓物をいくつか負傷するほどにまで傷は深く、血飛沫が辺りに飛び散る。まるで、春も終わりを告げるころ、悲しげに新天地へ向かう人々を見送る、薄桃色の桜の花弁のようであった。
 多くの後悔を残しながら、エヴァ・クリストフという人間は、その場に倒れ伏したのだった。装甲も光の粒子となり消え、ただ血溜まりの中で美しい金髪が染められていくのみであったのだ。
『実に、実に呆気ない。英雄という存在を――気にしすぎた結果がこれか』
 しかし、事はこれで終わらなかった。怪人と化した善吉は、ある者の可能性を考慮の外に置いていたがゆえに、無力な刃に心の臓を貫かれるのだった。
 背後から、実に美しい無銘の刀が、善吉の心臓部を貫く。その刃に一切の迷いはなく、当人を徹底的に恨む者によって齎された、『現状維持』を拒む勇敢な女の刃であった。
「――ありがとう、エヴァさん」
 思わず、喀血する善吉。その存在をこの世に生まれさせたことを、今この時心の底から恨んでいた。
『く、|葵《クソガキ》――――!!』