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第二百十五話

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 善吉の怪人態は、他の支部長たちの怪人態と比べ、人間然としていた。現在の善吉自身、因子を持った存在ではあったが、それはあくまで後天的かつ『手術』によって齎された非合法の産物。
 複数の腕を肩口から生やしており、その姿はまさに阿修羅。しかし顔が三面備わっているわけではなく、それぞれの手には医薬書を持っていた。開くごとに、無条件で傷はいえていく、実に厄介な代物。しかもそれに限度はなく、常に開き続けることで些細な傷は無かったことになる。長命であった本来の家康らしさが垣間見える。
 しかし肉体各所が、実に見る者によっては嫌悪感を抱くほどに捩じれており、立派な甲冑の大きな隙間から覗く胴体部は、臓物が全て丸見えと言えるような状態。骨も露呈し、頭部は三つ目の髑髏。眼球は血走ったまま備わっており、さながら呪われた落武者のよう。
 しかし、元となった英雄が歴史の教科書でもお馴染みである「徳川家康」であるため、関ケ原の戦いでも用いられた、漆黒の鎧兜。名を「伊予札黒糸威胴丸具足(いよざねくろいとおどしどうまるぐそく)」。高名な鎧であったはずなのに、ドライバーの影響もあり一部が歪み、黒紫色の家紋意匠が施されている。
 右手には元の刀剣に歪んだ魔力を注ぎ込み、負のオーラに満ちた物吉貞宗の変化形、『物吉貞宗・真打』が、鞘に収まらずむき身のまま握られていた。本来すらりとした見た目の脇差であるはずなのに、刃の部分がソードブレイカーのようにいくつもの溝が掘られており、対刀剣において無類の強さを発揮する。
 その畏怖を煽り立てる出で立ちが、エヴァにとってたまらなく不快であった。
 武者震いをかき消すように、雄叫びを上げながら一対の刃で切りかかる。しかし、真打の刃部分の溝に囚われる。
 そのまま力づくで圧し折ろうとする善吉であったが、刃全体に超電流を流し込み危険を察知させ攻撃を中断させる。
(何とか、『作戦通り』にこなすしかない――!! このクソ野郎に……一矢報いる!!)
 両刃を振るい、徹底的に攻めの姿勢を崩さずに迫りながら、高速で支部を離れる。
 刹那、そこらの建物にかろうじて残っている違法銃火器や刃物が目に付く。すぐさま小鎚を振るって、即席の武器を作り上げ戦い方に幅を生み出す。
 まるで生き物のように、脈動しながら即席パルチザンを生成。片腕で振るうも、すぐさま防がれてしまう。
 しかし、その攻撃を受けた善吉はすぐさま感づいた。その忌まわしき『気配』に。
『――ほお、自分自身が新たに作り上げた武器……そこに、『村正』の銘、そこに生じる名前の力を利用するか』
 怒りの咆哮を上げ、数多の武器を生成。そこに村正の銘の力を込め、善吉とその内に眠る徳川家康への特効を付与する。
 さらに武器だけではない。これまで簡易生成してきた、地面による無数の腕もそこに付きまとう。無数の手段こそが、エヴァ・クリストフという存在の武器であるのだ。
「何をどう使おうとも、私が勝つ!! レイジーの――仇だ!!」
 無言の号令をかけると、それらが善吉を害するために独自に動き出す。それぞれに人間以上の頭脳があるようであった。
『――怒りに満ちた存在というものは、実に分かりやすい! 愚直で、ただの阿呆だ!!』
 高速移動しながら、それぞれを手に持つ物吉貞宗・真打にて斬り伏せる。重機関車を思わせる黒武者が、エヴァを殺害するべく刃を振るうのだ。
 しかしエヴァは、それらに超電流を流し込むばかり。一辺倒な戦い方であったが、そこには必ず策があった。
 怒りの感情で脳の全てを支配されていたわけではない。徹底的に未知の敵、善吉とどう向き合うか。策士であった彼女は、すでに織り込み済みであった。
 大勢の腕が、一斉に善吉に向かっていくも、全て破壊。その瞬間に土煙が生まれる。
 新たに小鎚が打たれる音がしたため、四方八方を瞬時に警戒するものの、何も飛来してこない。
 土煙から出でたのは、エヴァ自身。しかし、このタイミングはまさに好機≪チャンス≫であった。
(……馬鹿がのこのことやってきた。ノーガードで)
 右肩口から、装甲一切を貫通する斬撃を袈裟に振り下ろす。少し前まで、藤吉に能力の断片を貸与していた能力、まさに『心身惨殺機構(ペイン=ペイン・リフレイン)』であった。
 物吉貞宗によって斬り付けた瞬間、善吉は勝利を確信した。感情を玩具にする能力である『心身惨殺機構』が発動した証であったのだ。
 傷つけられた瞬間、心身問わず痛みの記憶が実際の痛みもろとも蘇る。身動きすら取れないままに、自分に逆らった報いとして臓物を弄んでやろうとしていた。
 しかし。善吉の顔面を捉えたのは、エヴァの渾身の右ストレート。
 斬られたはずの右肩口からは確かに出血が装甲越しでも見て取れる。それでも、その瞳の色は変わらない。善吉に対する激情の炎が、揺らめくままであったのだ。
(――!? 有り得ない!! こいつはれっきとした人間!! 今まで生きてきた中で、多くの痛みを背負ってきたはずだ!!)
 灰崎だけではない、このグレープに攻め入った存在全ての弱みを事前調査済みである。その中には、無論エヴァも含まれる。『親を喪った事件』に関する記憶や、これまで受けてきた痛みも知っている。
『それなのに……なぜ……!?』
「――何を企んでいるかは分からないけれど、私は……私だ!!」
 一息に振り抜かれた拳と、壁に超高速で叩きつけられる善吉。その瞬間、初めて彼に対して、明確なダメージを与えることが出来たことが、エヴァにとっての進歩であった。
「――私は、煙に巻かれた時、『自分の装甲』に小鎚を打った! この装甲に『名前の力』を齎したんだ!! 贋作のようなちゃちなものじゃあない、本人の因子を持った私じゃあなきゃできない策だ!!」
 小鎚の効果は確かにあらゆるものの『武器生成』であるが、エヴァの能力は違う。そこに『名前の力』を付与することである。
 元々の時代で見るのなら、対象としては実に狭いもの。代表的なものは徳川家などの戦国の世で生きた英雄たちが特効対象ではあるが、『村正』の名は今や世界的にも有名である。後世に妖刀の名として残した力の根源は、現継承者であるエヴァの思うままであった。
『――実に面倒であるが、これはある種の運命だった。私と貴様が、いつか引き合わされる、神の思し召しであった。天敵である貴様が……凄まじく憎たらしい』
 今まで、物語の共通点のある存在とそうそう戦ったことの無い存在は忘れかけた、英雄と怪人共通の弱点(ウィーク・ポイント)。そう、それこそ『同じ時代、あるいは因縁のある存在が戦ったとき、ドライバー本来のリミッターが解除される』点にある。
 元来、チーティングドライバーはライセンスのポテンシャルを十二分に引き出すため、体にある程度の負担を強要する。それによって本来存在するリミッターが半分壊れ、より凶暴性の高い怪人が生まれる。
 しかし、デバイスドライバーもチーティングドライバーも、結局のところフルスペックを出せているかどうか、という問いが生まれる。無論、それはNO。より力を引き出せているのはチーティングだが、安定性に富んだのはデバイス。
 だが、ここに『因子の持つ同類への引力』が付きまとうと、途端に本来のスペックの二倍は超えるほどの力を発揮できる。実際問題、礼安たちが入学する前の三月後半、クランは死に場所を求め礼安に殺されることを望んだ。その理由こそ、その『引力』にまつわるものであった。
 力が高まれば、リミッターも壊れる。同じ時代を生きた英雄だからこそ、互いに互いを殺し合う。意図せぬ暴走を防ぐデバイスであっても、その『引力』には抑止力は敵わないのだ。
『……今まで生きてきて、こうも複雑な感情を抱いたのは初めてだ。大概塵を見るような、何でも下に見るような感覚で生きてきた私に――初めて、憎しみを抱かせてくれた貴様に感謝しようじゃあないか!!』


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 善吉の怪人態は、他の支部長たちの怪人態と比べ、人間然としていた。現在の善吉自身、因子を持った存在ではあったが、それはあくまで後天的かつ『手術』によって齎された非合法の産物。
 複数の腕を肩口から生やしており、その姿はまさに阿修羅。しかし顔が三面備わっているわけではなく、それぞれの手には医薬書を持っていた。開くごとに、無条件で傷はいえていく、実に厄介な代物。しかもそれに限度はなく、常に開き続けることで些細な傷は無かったことになる。長命であった本来の家康らしさが垣間見える。
 しかし肉体各所が、実に見る者によっては嫌悪感を抱くほどに捩じれており、立派な甲冑の大きな隙間から覗く胴体部は、臓物が全て丸見えと言えるような状態。骨も露呈し、頭部は三つ目の髑髏。眼球は血走ったまま備わっており、さながら呪われた落武者のよう。
 しかし、元となった英雄が歴史の教科書でもお馴染みである「徳川家康」であるため、関ケ原の戦いでも用いられた、漆黒の鎧兜。名を「|伊予札黒糸威胴丸具足《いよざねくろいとおどしどうまるぐそく》」。高名な鎧であったはずなのに、ドライバーの影響もあり一部が歪み、黒紫色の家紋意匠が施されている。
 右手には元の刀剣に歪んだ魔力を注ぎ込み、負のオーラに満ちた物吉貞宗の変化形、『物吉貞宗・真打』が、鞘に収まらずむき身のまま握られていた。本来すらりとした見た目の脇差であるはずなのに、刃の部分がソードブレイカーのようにいくつもの溝が掘られており、対刀剣において無類の強さを発揮する。
 その畏怖を煽り立てる出で立ちが、エヴァにとってたまらなく不快であった。
 武者震いをかき消すように、雄叫びを上げながら一対の刃で切りかかる。しかし、真打の刃部分の溝に囚われる。
 そのまま力づくで圧し折ろうとする善吉であったが、刃全体に超電流を流し込み危険を察知させ攻撃を中断させる。
(何とか、『作戦通り』にこなすしかない――!! このクソ野郎に……一矢報いる!!)
 両刃を振るい、徹底的に攻めの姿勢を崩さずに迫りながら、高速で支部を離れる。
 刹那、そこらの建物にかろうじて残っている違法銃火器や刃物が目に付く。すぐさま小鎚を振るって、即席の武器を作り上げ戦い方に幅を生み出す。
 まるで生き物のように、脈動しながら即席パルチザンを生成。片腕で振るうも、すぐさま防がれてしまう。
 しかし、その攻撃を受けた善吉はすぐさま感づいた。その忌まわしき『気配』に。
『――ほお、自分自身が新たに作り上げた武器……そこに、『村正』の銘、そこに生じる名前の力を利用するか』
 怒りの咆哮を上げ、数多の武器を生成。そこに村正の銘の力を込め、善吉とその内に眠る徳川家康への特効を付与する。
 さらに武器だけではない。これまで簡易生成してきた、地面による無数の腕もそこに付きまとう。無数の手段こそが、エヴァ・クリストフという存在の武器であるのだ。
「何をどう使おうとも、私が勝つ!! レイジーの――仇だ!!」
 無言の号令をかけると、それらが善吉を害するために独自に動き出す。それぞれに人間以上の頭脳があるようであった。
『――怒りに満ちた存在というものは、実に分かりやすい! 愚直で、ただの阿呆だ!!』
 高速移動しながら、それぞれを手に持つ物吉貞宗・真打にて斬り伏せる。重機関車を思わせる黒武者が、エヴァを殺害するべく刃を振るうのだ。
 しかしエヴァは、それらに超電流を流し込むばかり。一辺倒な戦い方であったが、そこには必ず策があった。
 怒りの感情で脳の全てを支配されていたわけではない。徹底的に未知の敵、善吉とどう向き合うか。策士であった彼女は、すでに織り込み済みであった。
 大勢の腕が、一斉に善吉に向かっていくも、全て破壊。その瞬間に土煙が生まれる。
 新たに小鎚が打たれる音がしたため、四方八方を瞬時に警戒するものの、何も飛来してこない。
 土煙から出でたのは、エヴァ自身。しかし、このタイミングはまさに好機≪チャンス≫であった。
(……馬鹿がのこのことやってきた。ノーガードで)
 右肩口から、装甲一切を貫通する斬撃を袈裟に振り下ろす。少し前まで、藤吉に能力の断片を貸与していた能力、まさに『|心身惨殺機構《ペイン=ペイン・リフレイン》』であった。
 物吉貞宗によって斬り付けた瞬間、善吉は勝利を確信した。感情を玩具にする能力である『心身惨殺機構』が発動した証であったのだ。
 傷つけられた瞬間、心身問わず痛みの記憶が実際の痛みもろとも蘇る。身動きすら取れないままに、自分に逆らった報いとして臓物を弄んでやろうとしていた。
 しかし。善吉の顔面を捉えたのは、エヴァの渾身の右ストレート。
 斬られたはずの右肩口からは確かに出血が装甲越しでも見て取れる。それでも、その瞳の色は変わらない。善吉に対する激情の炎が、揺らめくままであったのだ。
(――!? 有り得ない!! こいつはれっきとした人間!! 今まで生きてきた中で、多くの痛みを背負ってきたはずだ!!)
 灰崎だけではない、このグレープに攻め入った存在全ての弱みを事前調査済みである。その中には、無論エヴァも含まれる。『親を喪った事件』に関する記憶や、これまで受けてきた痛みも知っている。
『それなのに……なぜ……!?』
「――何を企んでいるかは分からないけれど、私は……私だ!!」
 一息に振り抜かれた拳と、壁に超高速で叩きつけられる善吉。その瞬間、初めて彼に対して、明確なダメージを与えることが出来たことが、エヴァにとっての進歩であった。
「――私は、煙に巻かれた時、『自分の装甲』に小鎚を打った! この装甲に『名前の力』を齎したんだ!! 贋作のようなちゃちなものじゃあない、本人の因子を持った私じゃあなきゃできない策だ!!」
 小鎚の効果は確かにあらゆるものの『武器生成』であるが、エヴァの能力は違う。そこに『名前の力』を付与することである。
 元々の時代で見るのなら、対象としては実に狭いもの。代表的なものは徳川家などの戦国の世で生きた英雄たちが特効対象ではあるが、『村正』の名は今や世界的にも有名である。後世に妖刀の名として残した力の根源は、現継承者であるエヴァの思うままであった。
『――実に面倒であるが、これはある種の運命だった。私と貴様が、いつか引き合わされる、神の思し召しであった。天敵である貴様が……凄まじく憎たらしい』
 今まで、物語の共通点のある存在とそうそう戦ったことの無い存在は忘れかけた、英雄と怪人共通の|弱点《ウィーク・ポイント》。そう、それこそ『同じ時代、あるいは因縁のある存在が戦ったとき、ドライバー本来のリミッターが解除される』点にある。
 元来、チーティングドライバーはライセンスのポテンシャルを十二分に引き出すため、体にある程度の負担を強要する。それによって本来存在するリミッターが半分壊れ、より凶暴性の高い怪人が生まれる。
 しかし、デバイスドライバーもチーティングドライバーも、結局のところフルスペックを出せているかどうか、という問いが生まれる。無論、それはNO。より力を引き出せているのはチーティングだが、安定性に富んだのはデバイス。
 だが、ここに『因子の持つ同類への引力』が付きまとうと、途端に本来のスペックの二倍は超えるほどの力を発揮できる。実際問題、礼安たちが入学する前の三月後半、クランは死に場所を求め礼安に殺されることを望んだ。その理由こそ、その『引力』にまつわるものであった。
 力が高まれば、リミッターも壊れる。同じ時代を生きた英雄だからこそ、互いに互いを殺し合う。意図せぬ暴走を防ぐデバイスであっても、その『引力』には抑止力は敵わないのだ。
『……今まで生きてきて、こうも複雑な感情を抱いたのは初めてだ。大概塵を見るような、何でも下に見るような感覚で生きてきた私に――初めて、憎しみを抱かせてくれた貴様に感謝しようじゃあないか!!』