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第3章〜汚れた聖地巡礼について〜④

ー/ー



 7月28日(金)

 図書室で情報収集が行われた翌日の午後、オレは壮馬、緑川とともに、最後のライブ配信を行う予定の地である夫婦岩(めおといわ)を目指した。

 夏の真っ盛りに自転車(しかもロードバイクではない)で行うヒルクライムは、拷問ではないかと感じるくらいの過酷さだ。
 ちなみに、オレは、小学生の頃、この長い登り坂の途中までは、何度か来たことがあった。そのうちの一度は、今年、クラスメートになった女子生徒と一緒だったのだが、いま考えれば、登山と言っても良いほどの険しい山道にシロは、良く付き合ってくれたモノだと思う。

 ガキの頃のこととは言え、女子に対する自分の空気の読めなさを後悔しながら、長い長い山道を登ると、SOS団の面々が活躍する高校を過ぎたあたりで、道は少し平坦になり、なだらかな道をしばらく進むと、目の前に異様な光景が広がった。

「あっ!」

 オレだけでなく、ここまで一緒に自転車を漕いで山道を登ってきた壮馬と緑川も同時に声をあげる。
 住宅街から県道に入る曲がり角を左折すると、そこには、アフリカゾウの何倍もの大きさの巨石が、上下1車線づつの道路のど真ん中に居座っていた。

 一度、自転車を降りて手押しで進むことにしたオレたちは、その光景の異様さに目を奪われたまま、しばらく声を出せないでいた。

「これが、例の夫婦岩か……近くで見ると、ウワサに違わぬ異質ぶりだな……」

 絶句したように言葉を吐き出す緑川に、「あぁ……」と、オレも短く同調する。
 クラスメートの言うとおり、県道を遮るように鎮座するその巨石は、これまで訪問してきたホラー・スポットに比べても、ケタ違いの特異さを感じてしまう。

 鉄橋そばの踏み切りや、市民プールが併設された公園、さらに自分の父親が眠っている墓地など、これまでの訪問地は、昼間に訪れたとすれば、特別なものを感じることのない場所だったと言えるが、この夫婦岩だけは、真夏の炎天下というロケーションでさえ、現実離れした異様さを醸し出していた。

「これだ! これだよ!! ボクが求めていたのは! そうだ、いいじゃないか! こういうのでいいんだよ、こういうので」
 
 巨石の超現実的な存在感に言葉を失うオレと緑川の一方で、親友は興奮したようすで感慨に浸っている。

「夜になったら、いかにも、牛女が出てきそうな雰囲気じゃない?」

 歩道に自転車を停めて、夫婦岩を見上げながら、壮馬はそう付け足した。
 そんな親友に、いつまでも雰囲気に飲まれていてはいけない、と思い直したオレはたずねる。
 
「今回は、ライブ配信と言っても、色々と仕掛けを施すんだろ? 撮影や編集のイメージは出来てきたか?」

 こちらの質問に、壮馬は、不敵な笑みを浮かべながら、「あぁ! どんどんアイデアが湧いてくるね」と応じる。
 そして、早速デジカメで夫婦岩や周辺の風景を撮影しはじめた親友を横目に、緑川がオレに声をかけてきた。

「黒田は、牛女の言い伝えについて、調べてるんだよな? この夫婦岩にも牛女が出現するのか?」

「あぁ、色んな話しが錯綜しているが、夫婦岩と牛女が絡むウワサ話しは多いな。夜に夫婦岩に触れると牛女が追いかけてくるとか、牛女は夫婦岩の亀裂の間に住んでいるとか、極端なものになると、夫婦岩の上で踊っている牛女を見た、とかな……」

 最後のウワサ話しについては、その姿を想像すると、なんだか愛らしく感じてしまい、苦笑を噛み殺しながら答えると、オレの感情が伝わったのか、クラスメートは、

「岩の上で踊る牛女は、怪談と言うより可愛らしい感じがするな(bixiv)とかでイラスト化したら人気になるんじゃないか?」

と冗談めかした口調で語る。

「たしかに、八尺(はっしゃく)様も、イラスト化されて、いつの間にか少年好きのお姉さんキャラになってしまったしな」

 今度は、表情を崩して返答すると、緑川もニヤリと笑いながら、「日本の二次元文化は偉大だな」と、つぶやいた。

 気持ちが和んだところで、オレは、再びクラスメートに声をかける。

「週末にライブ配信が終わったら、オレと壮馬は、しばらく()()()()()()()()()だから、あとのことは頼んだぞ」

「あぁ、任せてくれ! スマホの位置情報が消えた地点まで二人を探しに来た僕が、ビデオカメラを発見して、白草のところに持って行くという手順で良いんだよな?」

 以前のライブ配信終了後に、緑川が、壮馬とシロから非難されたとき、「今回の企画では、緑川のチカラが必要になるときが来ると思うから、その時は、協力してもらえると助かる」と伝えたのだが、これが、彼に協力してもらいたいことだった。

 壮馬の企画のキモである「第三者によって発見された未編集の映像(ファウンド・フッテージ)」を実現するには、映像の発見者の存在が必要である。

 直前までオレたちと行動をともにしていて、夫婦岩周辺まで、一人で同級生を探しに来ても不自然ではない、という条件から、緑川には()()()()()()になってもらうことにした。

 撮影地の候補になっていた柔琳寺からは、撮影の許可が降りなかったものの、当初の日程どおりに進んでいるスケジュールに満足しつつも、天竹葵と約束した「牛女の調査」について、なぜ、自分たちの住む地域だけに、この言い伝えが存在しているのかということは、やはり気になる。
 そのことを気に留めながら、オレは、夫婦岩の周辺で熱心に写真を撮り続けている親友に目を向けた。


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 7月28日(金)
 図書室で情報収集が行われた翌日の午後、オレは壮馬、緑川とともに、最後のライブ配信を行う予定の地である|夫婦岩《めおといわ》を目指した。
 夏の真っ盛りに自転車(しかもロードバイクではない)で行うヒルクライムは、拷問ではないかと感じるくらいの過酷さだ。
 ちなみに、オレは、小学生の頃、この長い登り坂の途中までは、何度か来たことがあった。そのうちの一度は、今年、クラスメートになった女子生徒と一緒だったのだが、いま考えれば、登山と言っても良いほどの険しい山道にシロは、良く付き合ってくれたモノだと思う。
 ガキの頃のこととは言え、女子に対する自分の空気の読めなさを後悔しながら、長い長い山道を登ると、SOS団の面々が活躍する高校を過ぎたあたりで、道は少し平坦になり、なだらかな道をしばらく進むと、目の前に異様な光景が広がった。
「あっ!」
 オレだけでなく、ここまで一緒に自転車を漕いで山道を登ってきた壮馬と緑川も同時に声をあげる。
 住宅街から県道に入る曲がり角を左折すると、そこには、アフリカゾウの何倍もの大きさの巨石が、上下1車線づつの道路のど真ん中に居座っていた。
 一度、自転車を降りて手押しで進むことにしたオレたちは、その光景の異様さに目を奪われたまま、しばらく声を出せないでいた。
「これが、例の夫婦岩か……近くで見ると、ウワサに違わぬ異質ぶりだな……」
 絶句したように言葉を吐き出す緑川に、「あぁ……」と、オレも短く同調する。
 クラスメートの言うとおり、県道を遮るように鎮座するその巨石は、これまで訪問してきたホラー・スポットに比べても、ケタ違いの特異さを感じてしまう。
 鉄橋そばの踏み切りや、市民プールが併設された公園、さらに自分の父親が眠っている墓地など、これまでの訪問地は、昼間に訪れたとすれば、特別なものを感じることのない場所だったと言えるが、この夫婦岩だけは、真夏の炎天下というロケーションでさえ、現実離れした異様さを醸し出していた。
「これだ! これだよ!! ボクが求めていたのは! そうだ、いいじゃないか! こういうのでいいんだよ、こういうので」
 巨石の超現実的な存在感に言葉を失うオレと緑川の一方で、親友は興奮したようすで感慨に浸っている。
「夜になったら、いかにも、牛女が出てきそうな雰囲気じゃない?」
 歩道に自転車を停めて、夫婦岩を見上げながら、壮馬はそう付け足した。
 そんな親友に、いつまでも雰囲気に飲まれていてはいけない、と思い直したオレはたずねる。
「今回は、ライブ配信と言っても、色々と仕掛けを施すんだろ? 撮影や編集のイメージは出来てきたか?」
 こちらの質問に、壮馬は、不敵な笑みを浮かべながら、「あぁ! どんどんアイデアが湧いてくるね」と応じる。
 そして、早速デジカメで夫婦岩や周辺の風景を撮影しはじめた親友を横目に、緑川がオレに声をかけてきた。
「黒田は、牛女の言い伝えについて、調べてるんだよな? この夫婦岩にも牛女が出現するのか?」
「あぁ、色んな話しが錯綜しているが、夫婦岩と牛女が絡むウワサ話しは多いな。夜に夫婦岩に触れると牛女が追いかけてくるとか、牛女は夫婦岩の亀裂の間に住んでいるとか、極端なものになると、夫婦岩の上で踊っている牛女を見た、とかな……」
 最後のウワサ話しについては、その姿を想像すると、なんだか愛らしく感じてしまい、苦笑を噛み殺しながら答えると、オレの感情が伝わったのか、クラスメートは、
「岩の上で踊る牛女は、怪談と言うより可愛らしい感じがするな。《bixiv》とかでイラスト化したら人気になるんじゃないか?」
と冗談めかした口調で語る。
「たしかに、|八尺《はっしゃく》様も、イラスト化されて、いつの間にか少年好きのお姉さんキャラになってしまったしな」
 今度は、表情を崩して返答すると、緑川もニヤリと笑いながら、「日本の二次元文化は偉大だな」と、つぶやいた。
 気持ちが和んだところで、オレは、再びクラスメートに声をかける。
「週末にライブ配信が終わったら、オレと壮馬は、しばらく|音《・》|信《・》|不《・》|通《・》|に《・》|な《・》|る《・》|予《・》|定《・》だから、あとのことは頼んだぞ」
「あぁ、任せてくれ! スマホの位置情報が消えた地点まで二人を探しに来た僕が、ビデオカメラを発見して、白草のところに持って行くという手順で良いんだよな?」
 以前のライブ配信終了後に、緑川が、壮馬とシロから非難されたとき、「今回の企画では、緑川のチカラが必要になるときが来ると思うから、その時は、協力してもらえると助かる」と伝えたのだが、これが、彼に協力してもらいたいことだった。
 壮馬の企画のキモである「|第三者によって発見された未編集の映像《ファウンド・フッテージ》」を実現するには、映像の発見者の存在が必要である。
 直前までオレたちと行動をともにしていて、夫婦岩周辺まで、一人で同級生を探しに来ても不自然ではない、という条件から、緑川には|映《・》|像《・》|の《・》|発《・》|見《・》|者《・》になってもらうことにした。
 撮影地の候補になっていた柔琳寺からは、撮影の許可が降りなかったものの、当初の日程どおりに進んでいるスケジュールに満足しつつも、天竹葵と約束した「牛女の調査」について、なぜ、自分たちの住む地域だけに、この言い伝えが存在しているのかということは、やはり気になる。
 そのことを気に留めながら、オレは、夫婦岩の周辺で熱心に写真を撮り続けている親友に目を向けた。