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第3章〜汚れた聖地巡礼について〜②

ー/ー



 なるほど……。 これで、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスにまつわる話しは、だいたいのことが、把握できたと思う。
 
 古美術堂の怪しげな店主から話しを聞いてから、わずか、数日の間に良くまとめてくれた――――――、と感謝するとともに、天竹の情報収集力の高さと簡潔にまとめる編集能力には感心するのだが……。

「ありがとう、天竹」

 感謝の言葉を述べつつ、

「でも、これが、牛女の伝承となんの関係があるんだ?」

と、オレは、立ちはだかる大きな疑問に頭を抱える。

 図書館の机に片方の肘を突いて、「う~ん……」と唸っていると、文芸部の代表者であるクラスメートは、補足情報を紹介してくれた。

「建物そのものの不可思議さだけではなく、この館では数々の怪奇現象の噂がまことしやかにささやかれているそうです」

 彼女が例に挙げたウワサとはこのようなものだ。

 ・屋敷の中は方位磁石が狂う
 ・ボールが上に転がる
 ・ラジオが勝手に鳴りだす
 ・地下室でいつも同じ幽霊が目撃される
 ・心霊写真が撮れる

 などなど……。

「1989年に起きたロマ・プリータ地震、1906年に起きたサンフランシスコ地震などで、屋敷の一部は消失したそうですが、増築に増築を繰り返したため、基礎がバラバラだったことが幸いし、全倒壊を免れたようです。2018年には、この屋敷を題材にした映画も作られていて、実は、ディズニーランドのホーンテッドマンションのモデルにもなったとも言われているみたいです」

 補足説明を行った天竹が提示した資料によると、現在は観光名所となっており、最盛期は650,000平方メートルの敷地を誇り、7階建てだった建物も、今は24,000平方メートル、4階建てに縮小されているそうだ。そうした経緯も含めて、たしかに、この異様さは、注目に値するのだが――――――。

「ウワサされているような幽霊屋敷としての側面だけを見ていても、牛女の言い伝えとつながるナニかが見つかるわけじゃ無さそうだなぁ……」

 まるで、モヤの中で探し物をするような漠然として、落ち着かない感覚を覚えながら答えると、文芸部の代表者は、

「たしかにそうですけど……それでは、もう一度、月曜日に感じたウィンチェスター・ミステリー・ハウスと、牛女……いえ、『くだんのはは』との共通点を確認してみては、どうでしょう?」

という提案をしてきた。

 そこで、週初めのことを思い出しながら、ウワサのミステリー・ハウスと『くだんのはは』の共通項を洗い出してみる。

 古美術堂の(あるじ)の話しを聞きながら、オレと天竹が感じた両者の共通点は、以下の三つだ。

 ・呪われた屋敷
 ・未亡人となった女性主人
 ・一家の過去の行いから降りかかる災い

「祟りがあるとされる広大な屋敷、そこに住む富豪の女性主人、そして、屋敷に住む一家の過去の行いによってもたらされる災厄……私たちが追いかけようとしている牛女の伝承……と言うより、小松左京の『くだんのはは』との共通点が多いですね。――――――と言うより、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのエピソードが、すんなりと自分たちの頭に入ってきたのも、『くだんのはは』という前提知識があったからでは無いでしょうか?」

 天竹葵は、店主の話をふまえた上で、こんな考えを披露していたと記憶している。

 こうして、情報を整理してみると、解決の糸口が見えてきそうな気もするのだが……。

「ウワサの原点にさかのぼって、このミステリー・ハウスが、当時のアメリカでどのように報じられていたか調べてみましょう」

 文芸部の部長は、そう言って手元のタブレットPCで検索を始めた。

(100年以上も前の新聞・雑誌の記事なんて検索できるのか?)

 と思っていたが、優秀な調査員は、すぐに必要な情報に行き着いたようだ。

「ありましたよ! サラ・ウィンチェスターの夫、ウィリアム・ウィンチェスターが亡くなった1881年の記事のあと、20世紀に入ってから、幽霊屋敷のことを報じる新聞記事が見つかりました!」

「1881年だって!?」

 オレと壮馬の共通のお気に入り作品である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作の第三作でも、マーティーやドクがタイムスリップするのは、1885年だ。それよりも古い時期の新聞記事が、ネット上に公開されているとは!

 ()の国の情報の保管に対する熱意に頭が下がる思いがする。

「その次の記事は、1908年……『サンフランシスコ・エグザミナー』という新聞で、幽霊屋敷のことが報じられていますね。この新聞は、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのことを頻繁に報じているようですね」

「そうなのか……」

 100年以上前の新聞報道のあり方が、どんなものなのか詳しくわからないのだが、幽霊屋敷のウワサを報道するとは、ニュースが少ない時期に紙面埋めにマスコミ業界で使われる、いわゆる『暇ネタ』と言うやつか?
 今の日本では、さすがに、一般の新聞紙上で幽霊屋敷のウワサが取り上げられることは無いと思うが、これが雑誌やウェブの記事だとすれば、大いに有り得る内容ではある。

 そんなことを考えていると、

「あら、珍しい取り合わせね? 興味深いワードが聞こえてきたけど、何を調べているのかしら?」

と、問いかける上級生の声が耳に入ってきた。


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 なるほど……。 これで、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスにまつわる話しは、だいたいのことが、把握できたと思う。 
 古美術堂の怪しげな店主から話しを聞いてから、わずか、数日の間に良くまとめてくれた――――――、と感謝するとともに、天竹の情報収集力の高さと簡潔にまとめる編集能力には感心するのだが……。
「ありがとう、天竹」
 感謝の言葉を述べつつ、
「でも、これが、牛女の伝承となんの関係があるんだ?」
と、オレは、立ちはだかる大きな疑問に頭を抱える。
 図書館の机に片方の肘を突いて、「う~ん……」と唸っていると、文芸部の代表者であるクラスメートは、補足情報を紹介してくれた。
「建物そのものの不可思議さだけではなく、この館では数々の怪奇現象の噂がまことしやかにささやかれているそうです」
 彼女が例に挙げたウワサとはこのようなものだ。
 ・屋敷の中は方位磁石が狂う
 ・ボールが上に転がる
 ・ラジオが勝手に鳴りだす
 ・地下室でいつも同じ幽霊が目撃される
 ・心霊写真が撮れる
 などなど……。
「1989年に起きたロマ・プリータ地震、1906年に起きたサンフランシスコ地震などで、屋敷の一部は消失したそうですが、増築に増築を繰り返したため、基礎がバラバラだったことが幸いし、全倒壊を免れたようです。2018年には、この屋敷を題材にした映画も作られていて、実は、ディズニーランドのホーンテッドマンションのモデルにもなったとも言われているみたいです」
 補足説明を行った天竹が提示した資料によると、現在は観光名所となっており、最盛期は650,000平方メートルの敷地を誇り、7階建てだった建物も、今は24,000平方メートル、4階建てに縮小されているそうだ。そうした経緯も含めて、たしかに、この異様さは、注目に値するのだが――――――。
「ウワサされているような幽霊屋敷としての側面だけを見ていても、牛女の言い伝えとつながるナニかが見つかるわけじゃ無さそうだなぁ……」
 まるで、モヤの中で探し物をするような漠然として、落ち着かない感覚を覚えながら答えると、文芸部の代表者は、
「たしかにそうですけど……それでは、もう一度、月曜日に感じたウィンチェスター・ミステリー・ハウスと、牛女……いえ、『くだんのはは』との共通点を確認してみては、どうでしょう?」
という提案をしてきた。
 そこで、週初めのことを思い出しながら、ウワサのミステリー・ハウスと『くだんのはは』の共通項を洗い出してみる。
 古美術堂の|主《あるじ》の話しを聞きながら、オレと天竹が感じた両者の共通点は、以下の三つだ。
 ・呪われた屋敷
 ・未亡人となった女性主人
 ・一家の過去の行いから降りかかる災い
「祟りがあるとされる広大な屋敷、そこに住む富豪の女性主人、そして、屋敷に住む一家の過去の行いによってもたらされる災厄……私たちが追いかけようとしている牛女の伝承……と言うより、小松左京の『くだんのはは』との共通点が多いですね。――――――と言うより、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのエピソードが、すんなりと自分たちの頭に入ってきたのも、『くだんのはは』という前提知識があったからでは無いでしょうか?」
 天竹葵は、店主の話をふまえた上で、こんな考えを披露していたと記憶している。
 こうして、情報を整理してみると、解決の糸口が見えてきそうな気もするのだが……。
「ウワサの原点にさかのぼって、このミステリー・ハウスが、当時のアメリカでどのように報じられていたか調べてみましょう」
 文芸部の部長は、そう言って手元のタブレットPCで検索を始めた。
(100年以上も前の新聞・雑誌の記事なんて検索できるのか?)
 と思っていたが、優秀な調査員は、すぐに必要な情報に行き着いたようだ。
「ありましたよ! サラ・ウィンチェスターの夫、ウィリアム・ウィンチェスターが亡くなった1881年の記事のあと、20世紀に入ってから、幽霊屋敷のことを報じる新聞記事が見つかりました!」
「1881年だって!?」
 オレと壮馬の共通のお気に入り作品である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作の第三作でも、マーティーやドクがタイムスリップするのは、1885年だ。それよりも古い時期の新聞記事が、ネット上に公開されているとは!
 |彼《か》の国の情報の保管に対する熱意に頭が下がる思いがする。
「その次の記事は、1908年……『サンフランシスコ・エグザミナー』という新聞で、幽霊屋敷のことが報じられていますね。この新聞は、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスのことを頻繁に報じているようですね」
「そうなのか……」
 100年以上前の新聞報道のあり方が、どんなものなのか詳しくわからないのだが、幽霊屋敷のウワサを報道するとは、ニュースが少ない時期に紙面埋めにマスコミ業界で使われる、いわゆる『暇ネタ』と言うやつか?
 今の日本では、さすがに、一般の新聞紙上で幽霊屋敷のウワサが取り上げられることは無いと思うが、これが雑誌やウェブの記事だとすれば、大いに有り得る内容ではある。
 そんなことを考えていると、
「あら、珍しい取り合わせね? 興味深いワードが聞こえてきたけど、何を調べているのかしら?」
と、問いかける上級生の声が耳に入ってきた。