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第3章〜汚れた聖地巡礼について〜⑤

ー/ー



 7月30日(日)

 日がとっぷりと暮れて、あたりが暗闇に包まれると、夫婦岩(めおといわ)の周囲からは、いよいよ怪しげな雰囲気が漂うようになってきた。

 県道の南側から現地に向かうと、巨大な岩の前には、「左へ」という指示が書かれた大きな看板とともに、「ブリンカーライト」と呼ばれる中央分離帯などでよく目にする縦型の黄色い点滅ライトが目に入る。

 上下のライトが点滅を繰り返す二灯式の照明が明滅を繰り返すようすは、寂しく儚げで、心霊スポットと呼ばれるに相応しい気配をいやでも感じ取ってしまう。

 これまでと違って、男子のみ三人となった参加人数の少なさが、その想いをより一層、強くさせた。

 時刻は、午後7時30分――――――。

 周囲がすっかり暗くなるのを待って、オレと壮馬は、最後となる予定のライブ配信をスタートさせる。

「こんばんは、竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号です」

「ホーネッツ2号です」

「ヨツバちゃんの『クローバー・フィールド』との合同企画『夏の心霊スポット・ツアー』も、いよいよ最終回。今回は、県内最恐(さいきょう)の心霊スポットして知られる兜山(かぶとやま)の裏側にある夫婦岩にやってきました」

「ここは、これまで訪問してきたスポットの中でも、特に異様さを感じるね」

「そうだな……数日前にも下見に来たんだが……昼間でも、一目で異質な空気が感じられたもんな」

「というわけで、万が一のことを考えて、ヨツバちゃんには、今回の訪問は遠慮してもらったんだけど――――――」

「その選択は正解だったかもな。今までと違って、ここは街中でもなければ、自動車や二輪車以外となると交通手段も限られてしまうな……」

 オレは、バスの運行ダイヤを調べてくれていた緑川の言葉を念頭に返答する。
 鉄道に限らず公共交通機関の情報に詳しいクラスメートからは、

「夫婦岩の最寄りのバス停、「柔琳寺(じゅうりんじ)南口」と「柔琳寺(じゅうりんじ)」の土日のダイヤだと、午後8時半に最終のバスが出るから、歩いて帰りたくなければ、それまでに配信を終えておく方が良いと思う」

と、事前にアドバイスをもらっていた。
 
 その時間までに無事(?)に配信を終えて、バスで光陽園の駅に戻れば、午後10時までには、自宅のマンションに帰り着いているだろう――――――。
 
 そんなことを考えながら、柔琳寺(じゅうりんじ)南口のバス停の方面から、カメラには映らない照明係の緑川の先導を頼りに、オレと壮馬は夫婦岩に向かって歩みを進める。

 鉄橋そばの踏み切りから、市民プール併設の公園、そして、夜中の墓地での撮影と暗がりでの動画配信にも慣れてきているつもりではあったが、さまざまなウワサと怪談が飛び交うこの場所は、やはり、これまでと比べても緊張感がケタ違いだ。

「この場所での体験談や目撃談は、どんなものがあるんだったっけ?」

 親友から自撮り棒を受け取って、撮影役を引き受けたオレは、壮馬にたずねる。
 すると、前回と同じように胸ポケットからスマホを取り出した友人は、心霊系のサイトにアクセスして、怪談の内容を紹介しはじめる。

「色んな話しが入り混じっているんだけど……ここは、怪異の目撃談が段違いに多いね。この岩の前では、白い着物姿の女の人、男の人、赤ちゃんを抱いた若い女性などを見たという話、白い人影が見えたので避けようとしてハンドル操作を誤り事故を起こしたという話、深夜この岩の裂け目から女性の生首が浮かびあがるという話、この岩には目のような模様があって、その模様と目が合うと事故を起こすなんて話もあったり、この大岩にまつわる怪談は調べればいくらでも出てくるみたいだ」

「そんなにバリエーションがあるのか……まさに、怪談のオールスター勢揃いって感じだな。でも、そもそも、夫婦岩は、どうしてここまで有名になったんだ?」

 オレがたずねると、壮馬は、別のページを表示させながら返答する。
 
「うん……近隣の神社のブログには、こんな内容が掲載されていたよ」

 その内容を抜粋すると、こんな感じだ。

・昭和13年のH地方を襲った大水害で市内界隈も大きな打撃を受けた。復興計画が持ち上がった時に、これを機に従来の県道を拡張しようということになり、拡張工事が行われた。その時、県道通過予定地の真中を占拠していたのがこの夫婦岩だった。当然、県道通過の妨げとなるこの夫婦岩は爆破するという事に決定される。

・爆破の準備は進められ、いよいよ明日爆破作業という日、突然今回の工事に携わっている工事主任が急死した。あまりに突然の事に、これはタタリに違いないということになり爆破作業は急遽中止。以来、誰もが祟りを恐れて夫婦岩を撤去しないようになった。

・しかし、数年後、そんなものは迷信だと言って、夫婦岩の撤去作業を申し出た建設会社の人間が居たが、その人物も、爆破作業の前日に急死してしまう。

・また、撤去作業を計画した県担当者が二人つづけて病気になり、結局は夫婦岩の周辺の整備のみで終わってしまったという話もある。

・さらに、戦後、日本に駐留していたGHQ(連合国軍最高司令部)が軍事物資の輸送用にこの道路を整備しようとしたが、その時にも怪事が起き結局この岩は撤去できなかった。

・市内周辺の土木事業者の方々の中でも、不慮の事故が起こるこの夫婦岩の工事については祟りがあるので請け負いたくはないという声が多い。

 そこまで内容を読み上げた壮馬は、フッと笑みをもらしながら、つぶやく。

「これが、触らぬ神に祟りなしってヤツなのかな?」

 そして、口角を吊り上げながら、こう付け足した。

「まあ、今日は、その『触らぬ神』に実際に触れてみよう、と思うんだけど……」


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 7月30日(日)
 日がとっぷりと暮れて、あたりが暗闇に包まれると、|夫婦岩《めおといわ》の周囲からは、いよいよ怪しげな雰囲気が漂うようになってきた。
 県道の南側から現地に向かうと、巨大な岩の前には、「左へ」という指示が書かれた大きな看板とともに、「ブリンカーライト」と呼ばれる中央分離帯などでよく目にする縦型の黄色い点滅ライトが目に入る。
 上下のライトが点滅を繰り返す二灯式の照明が明滅を繰り返すようすは、寂しく儚げで、心霊スポットと呼ばれるに相応しい気配をいやでも感じ取ってしまう。
 これまでと違って、男子のみ三人となった参加人数の少なさが、その想いをより一層、強くさせた。
 時刻は、午後7時30分――――――。
 周囲がすっかり暗くなるのを待って、オレと壮馬は、最後となる予定のライブ配信をスタートさせる。
「こんばんは、竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号です」
「ホーネッツ2号です」
「ヨツバちゃんの『クローバー・フィールド』との合同企画『夏の心霊スポット・ツアー』も、いよいよ最終回。今回は、県内|最恐《さいきょう》の心霊スポットして知られる|兜山《かぶとやま》の裏側にある夫婦岩にやってきました」
「ここは、これまで訪問してきたスポットの中でも、特に異様さを感じるね」
「そうだな……数日前にも下見に来たんだが……昼間でも、一目で異質な空気が感じられたもんな」
「というわけで、万が一のことを考えて、ヨツバちゃんには、今回の訪問は遠慮してもらったんだけど――――――」
「その選択は正解だったかもな。今までと違って、ここは街中でもなければ、自動車や二輪車以外となると交通手段も限られてしまうな……」
 オレは、バスの運行ダイヤを調べてくれていた緑川の言葉を念頭に返答する。
 鉄道に限らず公共交通機関の情報に詳しいクラスメートからは、
「夫婦岩の最寄りのバス停、「柔琳寺《じゅうりんじ》南口」と「柔琳寺《じゅうりんじ》」の土日のダイヤだと、午後8時半に最終のバスが出るから、歩いて帰りたくなければ、それまでに配信を終えておく方が良いと思う」
と、事前にアドバイスをもらっていた。
 その時間までに無事(?)に配信を終えて、バスで光陽園の駅に戻れば、午後10時までには、自宅のマンションに帰り着いているだろう――――――。
 そんなことを考えながら、|柔琳寺《じゅうりんじ》南口のバス停の方面から、カメラには映らない照明係の緑川の先導を頼りに、オレと壮馬は夫婦岩に向かって歩みを進める。
 鉄橋そばの踏み切りから、市民プール併設の公園、そして、夜中の墓地での撮影と暗がりでの動画配信にも慣れてきているつもりではあったが、さまざまなウワサと怪談が飛び交うこの場所は、やはり、これまでと比べても緊張感がケタ違いだ。
「この場所での体験談や目撃談は、どんなものがあるんだったっけ?」
 親友から自撮り棒を受け取って、撮影役を引き受けたオレは、壮馬にたずねる。
 すると、前回と同じように胸ポケットからスマホを取り出した友人は、心霊系のサイトにアクセスして、怪談の内容を紹介しはじめる。
「色んな話しが入り混じっているんだけど……ここは、怪異の目撃談が段違いに多いね。この岩の前では、白い着物姿の女の人、男の人、赤ちゃんを抱いた若い女性などを見たという話、白い人影が見えたので避けようとしてハンドル操作を誤り事故を起こしたという話、深夜この岩の裂け目から女性の生首が浮かびあがるという話、この岩には目のような模様があって、その模様と目が合うと事故を起こすなんて話もあったり、この大岩にまつわる怪談は調べればいくらでも出てくるみたいだ」
「そんなにバリエーションがあるのか……まさに、怪談のオールスター勢揃いって感じだな。でも、そもそも、夫婦岩は、どうしてここまで有名になったんだ?」
 オレがたずねると、壮馬は、別のページを表示させながら返答する。
「うん……近隣の神社のブログには、こんな内容が掲載されていたよ」
 その内容を抜粋すると、こんな感じだ。
・昭和13年のH地方を襲った大水害で市内界隈も大きな打撃を受けた。復興計画が持ち上がった時に、これを機に従来の県道を拡張しようということになり、拡張工事が行われた。その時、県道通過予定地の真中を占拠していたのがこの夫婦岩だった。当然、県道通過の妨げとなるこの夫婦岩は爆破するという事に決定される。
・爆破の準備は進められ、いよいよ明日爆破作業という日、突然今回の工事に携わっている工事主任が急死した。あまりに突然の事に、これはタタリに違いないということになり爆破作業は急遽中止。以来、誰もが祟りを恐れて夫婦岩を撤去しないようになった。
・しかし、数年後、そんなものは迷信だと言って、夫婦岩の撤去作業を申し出た建設会社の人間が居たが、その人物も、爆破作業の前日に急死してしまう。
・また、撤去作業を計画した県担当者が二人つづけて病気になり、結局は夫婦岩の周辺の整備のみで終わってしまったという話もある。
・さらに、戦後、日本に駐留していたGHQ(連合国軍最高司令部)が軍事物資の輸送用にこの道路を整備しようとしたが、その時にも怪事が起き結局この岩は撤去できなかった。
・市内周辺の土木事業者の方々の中でも、不慮の事故が起こるこの夫婦岩の工事については祟りがあるので請け負いたくはないという声が多い。
 そこまで内容を読み上げた壮馬は、フッと笑みをもらしながら、つぶやく。
「これが、触らぬ神に祟りなしってヤツなのかな?」
 そして、口角を吊り上げながら、こう付け足した。
「まあ、今日は、その『触らぬ神』に実際に触れてみよう、と思うんだけど……」