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足の魔女の魔法

ー/ー



 私が魔法を習得することを最後まで渋っていたのは足の魔女だった。

ちゃんとちゃんは教えてくれたよ?」
「もー、あの二人ったら!」

 ちゃんは怒っていたけれど、もう後の祭り。私はすでに鰭の魔法と羽の魔法を使って、洗濯をする係になっていたのだから。

 うっかりしたことに、あしちゃんはそのことを知らなかったらしい。だから私が洗濯物を洗って乾かしているところに出くわしたあしちゃんは驚いて本当にひっくり返っていた。

 あしちゃんが私に魔法を教えたくない理由は、危ないからだと説明した。この世界は小さい頭を持つ者、旧いものにとって住みずらい場所になってしまったのだと。

「魔法が使えるという事は、それだけ目立つし、その力を狙ってあなたを狙ってくる奴が出てくるかもしれないのよ。私たちの魔法は強い。私はあなたを危ないところに身を置いてほしくないのよ」

 私をソファーに座らせ、その隣にあしちゃんが座る。私を抱き寄せて説得するあしちゃんの身体は、いつでも台所で暖かいご飯を作っているからだろう、温かくていい匂いがする。

「私も魔法は危ないと思う」
「でしょう?」

 あしちゃんがわかってくれたかと言うようにうなずいた。

「でも、私は正しい使い方をすれば魔法は危なくないことも知ってるよ。それを教えてくれたのはあしちゃん達でしょ?」
「そうだけど……」

 そう、私は知っている。自分の力を制御するには、自分の内面をコントロールしなくちゃいけないことを。静かに、平常の中に、自分が正しく思い描けることの中に魔法は存在している。その思い描いた魔法を暴走させないためには、さらに凪いだ心が必要だということも。

 三人の魔女はそれぞれ個性的で強大な力を持っているけれど、その力に驕ることなく手元に引き寄せられる分だけの、自分で持てる分だけの魔法を持って生活しているのだ。持ちすぎても、持たなすぎても生活できない。それは、簡単なようで、少し難しい。

 それを私があしちゃんに伝えると、彼女は観念したように、それから優しく微笑んで私に言った。

「ナギは私たちが思っているよりもずいぶん大人になったのね」
「ここまで育ててくれた三人の魔女のおかげでね。……それに、せっかくだから私、鰭の魔法と、羽の魔法と足の魔法の全部を使えるようになってみたいの」

 私の熱意に根負けしたあしちゃんは私に足の魔法を教えてくれた。ひれちゃんの魔法ほど華やかではなく、はねちゃんの魔法ほど強力でもない。でも、私はその魔法を良く知っていた。

 あしちゃんの魔法は土に根差した魔法だ。かまどの火を起こす魔法、ご飯を美味しく作る魔法、水をきれいにする魔法、病気を治す魔法。生活を送るために必要な衣食住。それを整えるのが足の魔法。

「火を起こすときは、乾いたものがいるけれど、乾きすぎていてもいけない。燃え広がるから」
「じゃあ、風を元にするのはどう?」
「羽の魔法と組み合わせるってこと?」

 あしちゃんが驚いて聞き返してきた。

「あまり燃えそうになったら、鰭の魔法ですこし空気を湿らせるの」

 足の魔法を教わり、使うことで私はこの三つの魔法はそれぞれ相対するものではなく、協調する物なのだと知った。

 それは、この家の三人の個性的な魔女が一緒に暮らしても、のんびりとした心地よい時間が流れているのと、似ていると思う。

「なに~? なんだか楽しそうなことをしてる~」

 ゴロゴロと猫脚に車輪のついた浴槽を動かしながら、部屋からひれちゃんが這い出してきた。私とあしちゃんが風から火を起こすのを見て野宿に便利~と気だるそうに言った。実際、ひれちゃんが森の中で野宿することはしないと思うが、彼女にも足があったならば四人で森でハイキングをすることもできたかもしれなかった。

 のろのろと燃えている日を見たのかはねちゃんが慌てて空から降りてきた。

「いくら外とはいえ、火をこんなに大々的に焚いたらあぶないだろう!」

 眉を吊り上げて怒ったものの、その火がどうやって現れたものかを聞いて、さらに驚いていた。まさか、風から火が生まれるだなんて思いもしなかったから。

 その夜は私が起こした火で温めたご飯を四人で食べて、三つの魔法を学んだ記念日にした。


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 私が魔法を習得することを最後まで渋っていたのは足の魔女だった。
「《《ひれ》》ちゃんと《《はね》》ちゃんは教えてくれたよ?」
「もー、あの二人ったら!」
 《《あし》》ちゃんは怒っていたけれど、もう後の祭り。私はすでに鰭の魔法と羽の魔法を使って、洗濯をする係になっていたのだから。
 うっかりしたことに、あしちゃんはそのことを知らなかったらしい。だから私が洗濯物を洗って乾かしているところに出くわしたあしちゃんは驚いて本当にひっくり返っていた。
 あしちゃんが私に魔法を教えたくない理由は、危ないからだと説明した。この世界は小さい頭を持つ者、旧いものにとって住みずらい場所になってしまったのだと。
「魔法が使えるという事は、それだけ目立つし、その力を狙ってあなたを狙ってくる奴が出てくるかもしれないのよ。私たちの魔法は強い。私はあなたを危ないところに身を置いてほしくないのよ」
 私をソファーに座らせ、その隣にあしちゃんが座る。私を抱き寄せて説得するあしちゃんの身体は、いつでも台所で暖かいご飯を作っているからだろう、温かくていい匂いがする。
「私も魔法は危ないと思う」
「でしょう?」
 あしちゃんがわかってくれたかと言うようにうなずいた。
「でも、私は正しい使い方をすれば魔法は危なくないことも知ってるよ。それを教えてくれたのはあしちゃん達でしょ?」
「そうだけど……」
 そう、私は知っている。自分の力を制御するには、自分の内面をコントロールしなくちゃいけないことを。静かに、平常の中に、自分が正しく思い描けることの中に魔法は存在している。その思い描いた魔法を暴走させないためには、さらに凪いだ心が必要だということも。
 三人の魔女はそれぞれ個性的で強大な力を持っているけれど、その力に驕ることなく手元に引き寄せられる分だけの、自分で持てる分だけの魔法を持って生活しているのだ。持ちすぎても、持たなすぎても生活できない。それは、簡単なようで、少し難しい。
 それを私があしちゃんに伝えると、彼女は観念したように、それから優しく微笑んで私に言った。
「ナギは私たちが思っているよりもずいぶん大人になったのね」
「ここまで育ててくれた三人の魔女のおかげでね。……それに、せっかくだから私、鰭の魔法と、羽の魔法と足の魔法の全部を使えるようになってみたいの」
 私の熱意に根負けしたあしちゃんは私に足の魔法を教えてくれた。ひれちゃんの魔法ほど華やかではなく、はねちゃんの魔法ほど強力でもない。でも、私はその魔法を良く知っていた。
 あしちゃんの魔法は土に根差した魔法だ。かまどの火を起こす魔法、ご飯を美味しく作る魔法、水をきれいにする魔法、病気を治す魔法。生活を送るために必要な衣食住。それを整えるのが足の魔法。
「火を起こすときは、乾いたものがいるけれど、乾きすぎていてもいけない。燃え広がるから」
「じゃあ、風を元にするのはどう?」
「羽の魔法と組み合わせるってこと?」
 あしちゃんが驚いて聞き返してきた。
「あまり燃えそうになったら、鰭の魔法ですこし空気を湿らせるの」
 足の魔法を教わり、使うことで私はこの三つの魔法はそれぞれ相対するものではなく、協調する物なのだと知った。
 それは、この家の三人の個性的な魔女が一緒に暮らしても、のんびりとした心地よい時間が流れているのと、似ていると思う。
「なに~? なんだか楽しそうなことをしてる~」
 ゴロゴロと猫脚に車輪のついた浴槽を動かしながら、部屋からひれちゃんが這い出してきた。私とあしちゃんが風から火を起こすのを見て野宿に便利~と気だるそうに言った。実際、ひれちゃんが森の中で野宿することはしないと思うが、彼女にも足があったならば四人で森でハイキングをすることもできたかもしれなかった。
 のろのろと燃えている日を見たのかはねちゃんが慌てて空から降りてきた。
「いくら外とはいえ、火をこんなに大々的に焚いたらあぶないだろう!」
 眉を吊り上げて怒ったものの、その火がどうやって現れたものかを聞いて、さらに驚いていた。まさか、風から火が生まれるだなんて思いもしなかったから。
 その夜は私が起こした火で温めたご飯を四人で食べて、三つの魔法を学んだ記念日にした。