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鰭の魔女の話

ー/ー



 子供なんてめんどくさい~、しかも、言葉が通じない赤ちゃんなんてもってのほか。……と思ったら、なんだか、ちゃんが面倒を見始めた。そしてなぜか、ちゃんも。じゃあ、二人に任せちゃおう。そう思っていたのに。

「私、今日は街に行った後、土の中の人達と会ってくるから。ちゃん。赤ちゃんの事よろしくね」

 あしちゃんが出かける準備をしながら私に行った。え、今、あしちゃんは赤ちゃんをよろしくね、と私に言わなかっただろうか?

「待って、はねちゃんは?」
「はねちゃんは、空会に呼ばれてていないの。ほら、東で活発になっている呪術師たちの界隈があるでしょう。偵察に行ってくるんだって。帰りも遅くなるらしいから。ごはん待ちきれなかったらグラタンを温めて食べてね」

 あしちゃんが保冷庫を指さす。氷の魔法がかけられている箱には、凍らせてある非常食や冷たいお菓子などが入っている。

「待って。待ってよ。私、赤ちゃんの世話なんてできないよ」

 あしちゃんが大丈夫だよ~! と笑う。この赤ちゃんは結構しっかりしてるから、そう言いながら出て行ってしまった。

 私、ひれちゃんは物言わぬ子供と二人きりにされたのだった。いや、一人と一匹って言った方が正しいかな?

 白い猫脚のお風呂に浸かりながら、防水の魔法をかけた子供をゆらゆらあやす。確かに、この赤ん坊は泣きもせず、ただ水面で揺られているだけなのにニコニコと静かにしているのだ。

「……ていうか、あしちゃん。私じゃなくてこの子の事しっかりしてるって言わなかった?」

 ひれちゃんは憤慨した。私だって、赤ちゃんのお世話くらいできるわよ。

 手始めに、ご飯を食べさせてあげよう。朝、あしちゃんがこの子供にミルクをやっているのを見かけたが、もうお昼。お腹が空いているに違いないわ。

 部屋から水槽の足をごろごろ動かして居間へと出た。このお風呂ははねちゃんが車を付けてくれたので家の中を自由に動くことができる。

 テーブルには、あしちゃんがありがたいことに書置きしてくれた赤ちゃんのお世話の仕方の紙。

 もう、あしちゃんったら私のこと本当に信用していないわね……?

「えーっと、あれをこうして、これをこうして」

 ミルクを温めた後に、冷まさなくちゃいけなかったり、パン粥もすりつぶさなくちゃいけなかったり、やることがたくさん!

 それでも準備はまあまあ楽しかった。

「よーし、できたわよ!」

 慣れないことを終わらせて、赤ちゃんに話しかける。返事がない。いくら何も言わないからって言ったって、反応しないだなんて、失礼な子供ね……。当の赤ん坊は水面に浮かんでいた。

 静かになったと思ったら、溺れていたのだ。

「えっ、えっ、待ってどうしよう」

 慌てて水から引き揚げる。眠っているような赤子が先ほど揺らしてあやしていた時と同じように、声を上げない。でも、さっきまで赤かった頬っぺたは真っ白になっていた。

 人魚はこれくらいじゃ死なないけど、相手は人魚ではなくて人間。しかも、ちいさな子供。大人よりも力がなくて、頼りない。

 確か、溺れた人間の背中をばんばん叩くと復活するのではなかったかしら?

「ねえ、ちょっと、起きて。頑張ってちょうだい、起きて、起きて!」

 そう言いながら赤ちゃんの背中をとんとん叩く。小さな口から水が垂れた。しばらくそうしていると、呼吸ができるようになったのか、今まで何も言わなかった口から泣き声が溢れた。号泣。めっちゃ号泣。

「えー、こわいー」

 この赤ん坊、しっかり者という割には、目を離すとすぐに死んでしまうらしい。ひれちゃんには荷が重すぎる。

 でも、今、この赤ちゃんが無事でよかったなんて、私はちょっと思ったのだった。赤ちゃんなんて、どうでもいいのに。

「これは、あしちゃんたちからあなたを預かってるから、心配してるだけなんだからね」

 そんな言い訳をしたが、しっかり身体を拭いて、着替えさせてやり、熱を測り、お水もご飯も食べさせて、今日は一日この赤ん坊に構うことになったのだった。

 子供がご飯を食べながら、くりくりした目で私を見る。この生き物は世話してやらないと死ぬのだと思うと、少し怖くて、でも私に依存しているようで少し可愛い。

「ひれちゃんが、赤ちゃんの面倒見れたんだ~ すごいすごい」
「よく死ななかったな」

 あしちゃんとはねちゃんが帰ってきて、私を褒めてくれた。

「私の手にかかれば、赤ちゃんのお世話なんてちょちょいのちょい~なんだから!」

 入浴の最中に殺しかけたのは赤ちゃんと私、二人だけの秘密だ。


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 子供なんてめんどくさい~、しかも、言葉が通じない赤ちゃんなんてもってのほか。……と思ったら、なんだか、《《あし》》ちゃんが面倒を見始めた。そしてなぜか、《《はね》》ちゃんも。じゃあ、二人に任せちゃおう。そう思っていたのに。
「私、今日は街に行った後、土の中の人達と会ってくるから。《《ひれ》》ちゃん。赤ちゃんの事よろしくね」
 あしちゃんが出かける準備をしながら私に行った。え、今、あしちゃんは赤ちゃんをよろしくね、と私に言わなかっただろうか?
「待って、はねちゃんは?」
「はねちゃんは、空会に呼ばれてていないの。ほら、東で活発になっている呪術師たちの界隈があるでしょう。偵察に行ってくるんだって。帰りも遅くなるらしいから。ごはん待ちきれなかったらグラタンを温めて食べてね」
 あしちゃんが保冷庫を指さす。氷の魔法がかけられている箱には、凍らせてある非常食や冷たいお菓子などが入っている。
「待って。待ってよ。私、赤ちゃんの世話なんてできないよ」
 あしちゃんが大丈夫だよ~! と笑う。この赤ちゃんは結構しっかりしてるから、そう言いながら出て行ってしまった。
 私、ひれちゃんは物言わぬ子供と二人きりにされたのだった。いや、一人と一匹って言った方が正しいかな?
 白い猫脚のお風呂に浸かりながら、防水の魔法をかけた子供をゆらゆらあやす。確かに、この赤ん坊は泣きもせず、ただ水面で揺られているだけなのにニコニコと静かにしているのだ。
「……ていうか、あしちゃん。私じゃなくてこの子の事しっかりしてるって言わなかった?」
 ひれちゃんは憤慨した。私だって、赤ちゃんのお世話くらいできるわよ。
 手始めに、ご飯を食べさせてあげよう。朝、あしちゃんがこの子供にミルクをやっているのを見かけたが、もうお昼。お腹が空いているに違いないわ。
 部屋から水槽の足をごろごろ動かして居間へと出た。このお風呂ははねちゃんが車を付けてくれたので家の中を自由に動くことができる。
 テーブルには、あしちゃんがありがたいことに書置きしてくれた赤ちゃんのお世話の仕方の紙。
 もう、あしちゃんったら私のこと本当に信用していないわね……?
「えーっと、あれをこうして、これをこうして」
 ミルクを温めた後に、冷まさなくちゃいけなかったり、パン粥もすりつぶさなくちゃいけなかったり、やることがたくさん!
 それでも準備はまあまあ楽しかった。
「よーし、できたわよ!」
 慣れないことを終わらせて、赤ちゃんに話しかける。返事がない。いくら何も言わないからって言ったって、反応しないだなんて、失礼な子供ね……。当の赤ん坊は水面に浮かんでいた。
 静かになったと思ったら、溺れていたのだ。
「えっ、えっ、待ってどうしよう」
 慌てて水から引き揚げる。眠っているような赤子が先ほど揺らしてあやしていた時と同じように、声を上げない。でも、さっきまで赤かった頬っぺたは真っ白になっていた。
 人魚はこれくらいじゃ死なないけど、相手は人魚ではなくて人間。しかも、ちいさな子供。大人よりも力がなくて、頼りない。
 確か、溺れた人間の背中をばんばん叩くと復活するのではなかったかしら?
「ねえ、ちょっと、起きて。頑張ってちょうだい、起きて、起きて!」
 そう言いながら赤ちゃんの背中をとんとん叩く。小さな口から水が垂れた。しばらくそうしていると、呼吸ができるようになったのか、今まで何も言わなかった口から泣き声が溢れた。号泣。めっちゃ号泣。
「えー、こわいー」
 この赤ん坊、しっかり者という割には、目を離すとすぐに死んでしまうらしい。ひれちゃんには荷が重すぎる。
 でも、今、この赤ちゃんが無事でよかったなんて、私はちょっと思ったのだった。赤ちゃんなんて、どうでもいいのに。
「これは、あしちゃんたちからあなたを預かってるから、心配してるだけなんだからね」
 そんな言い訳をしたが、しっかり身体を拭いて、着替えさせてやり、熱を測り、お水もご飯も食べさせて、今日は一日この赤ん坊に構うことになったのだった。
 子供がご飯を食べながら、くりくりした目で私を見る。この生き物は世話してやらないと死ぬのだと思うと、少し怖くて、でも私に依存しているようで少し可愛い。
「ひれちゃんが、赤ちゃんの面倒見れたんだ~ すごいすごい」
「よく死ななかったな」
 あしちゃんとはねちゃんが帰ってきて、私を褒めてくれた。
「私の手にかかれば、赤ちゃんのお世話なんてちょちょいのちょい~なんだから!」
 入浴の最中に殺しかけたのは赤ちゃんと私、二人だけの秘密だ。