私の名前は田中健二。今年で45才。いわゆるアラフィフだ。
アヤ師匠に
「家族の為を思うなら、推し活のことは正直に話した方が良い。」
と言われてしまった。
私は、決意を固めた。家族に推し活のことを話そう。そして、認めてもらおう。愛しい我が家は、もうすぐだ。気合を入れろ。ピンポーン。「ただいま。」
「おかえりなさい。」廊下を真っすぐ進んで、扉をもう一つ開ければ、ダイニングだ。
私は、覚悟を決めてドアを開けた。すると、、、鬼の形相の2人が並んでダイニングテーブルに座っていた。
私の覚悟と気合は、あっという間に風船のように萎んでいった。「お父さん。座って。」
「は、はい。」
ユイがこちらを睨む。
「はい。ビール。」
妻が、ドンっと缶ビールを置く。
私は、ビクッとして妻を見る。
ビールに手を伸ばすが、上手く持てない。
何とかして栓を開け、ビールを無理やり流し込む。
グハッ、ゲホゲホッ。
・・・むせてしまった。
「『いつもの』は言わないの?」
「ご、ごのひどぐちのだめにいぎてるな・・・。」
むせながらなのでうまく言えない。
「お父さん。今日は単刀直入に話します。」
「は、はい・・・。」
ユイが口火を切る。
「今日、ショッピングモールにいたでしょ?」
!?
ばれてる!!
「は、はい・・・。」
ユイがスマホを取り出す。
そこには、上階から下の階を撮ったであろうアングルの写真。
そして、私たち4人の姿が写っている。
「いい歳のオッサンが、Wデートって何なの!?」
「ダ、Wデート?いや、これは違うんだ!!」
「違わないよ。オッサン2人と若い女2人。どう見たってWデートじゃん!」
「これは、違うんだ!友達だよ。と・も・だ・ち!」
「休日出勤って、家族に嘘までついて?」
「そ、それは・・・。」
ユイの権幕に圧倒されてしまう。でも、ここで言わなければ、誤解されたままだ。覚悟を決めろ!ケンジ!!「申し訳ない!!」
私は頭を下げた。
「ついに、認めたね。」
ユイが満足げに言う。
「い、いや。違うんだ。これはWデートなんかじゃなく。。。」
「何よ。」
「【推し活】なんだ!!!!!!」
一瞬、空気が凍ったのを感じた。「推し活~!!??」
「テレビの歌番組で初めてStar☆Dreamを見たときに、スタドリを初めて知って、センターのユウくんのキラキラした眩しさに完全にノックアウトされてしまったんだ。それから私は、スタドリのことを調べて、ライブがあることを知った。今まで仕事一筋、家族一筋で来た私が、急に推し活なんて、許してもらえないと思った私は、君たちには内緒にすることにした、今にして思えば、最初からオープンにしておけば良かったと反省している。初めて行ったライブで、今日ショッピングモールで会っていた3人と初めて知り合った。アヤさんとミドリさん、そしてマサさん。みんな良い人だ。それから、私たちは、スタドリ仲間の友達になった。セカンドシングルのリリースイベントに行ったり、握手会に行ったり、スタドリの勉強会をしたり。こんなおじさんが推し活?と思うだろうけど、私は真剣だ。君たちに嘘をついていたことは謝る。でも、推し活は認めてほしい。お願いだ。頼む!!!!」私は一気に捲くし立てた。
黙って聞いていた妻が口を開いた。
「わかりました。今まで趣味らしいものが無かったあなたが、初めて見つけた熱中できることですもの。私は認めます。」
・・・妻が、分かってくれた!!
「推しの尊さは、私も良く分かってる。お父さん、推し活、頑張って。」
・・・ユイも分かってくれた!!
私は、うれしい気持ちと、申し訳ない気持ちで、涙を堪えることが出来なかった。妻よ、娘よ、すまん!そして、ありがとう!!「あなたも苦しかったでしょう。推し活は認めるけど、ほどほどにね。」
「はい。わかったよ。」
わだかまりが解けてホッとした。
「そうかー。お父さんにも、推しができたかー。一緒に推し活頑張ろうね。」
ユイには心配をかけてしまった。ここまで親のことを考えてくれるとは・・・。本当に自慢の娘だ。
こうして、妻と娘の公認を受けた私は、気兼ねなく推し活に励めることになった。もちろん、家庭が一番であることは変わらないが。
セカンドシングルをリリースした、スタドリは、テレビや雑誌への露出が増え、だんだんと人気に火が付いてきた。地元釜田のライブハウスもライブ開催日は連日満員で、プラチナチケットになっていた。そんなとき、2,000~3,000名クラスのライブハウスを会場とした全国ツアーが決まったのである!!
アヤ師匠、ミドリさん、マサさん、私の4人は、釜田の隣町、樺崎にあるライブハウス「クラブテッタ」のチケットを無事にゲットすることが出来た。天井に配置されたサイコロ型ミラーボールが特徴の大規模ライブハウスだ。この全国ツアーは、スタドリにとって、飛躍のきっかけになることは間違いない。私は、彼らが遠い存在になってしまうようで、少し寂しくもあった。