私の名前は田中健二。今年で45才。いわゆるアラフィフだ。
握手会を終えた私たち4人が喜びを分かち合っているころ、それを上階から見ている2人の影があった。。。
話を数分前に戻そう。
【その数分前、フードコート】「お母さん、今日は楽しかったね。」
「あなたと2人だけで、買い物なんて、いつ以来かしら?」
「お父さん、休日出勤で残念。」
「たまには、おとうさん抜きでも良いんじゃない?おとうさん、ショッピングモールでは、いつも別行動だし。」
「そうだね。」
私(ユイ)は、周りを見回す。
「今日は、空いてるね。」
「給料日前だからかな。」
「じゃあ、ゴミ捨ててくる。お母さん、待ってて。」
「あ、お願い。」
私はゴミを捨てに行った。
お母さんと合流して、買い物再開だ。
「そういえば、スタドリの握手会。今の時間じゃなかった?」
「そうね。上から見れるかな?」
「見てみようよ。お母さん。」
「そうね。」
私たちは、吹き抜けの所に行った。吹き抜けの下は広場になっていて、今日の今の時間は、スタドリの握手会をしているはずだ。
吹き抜けから下を除くと、広場がグルっとパーテーションで囲まれていて、中に長机が置いてある。そこに5人が並んで立っている。スタドリだ。
周りにはスーツを着た沢山のスタッフらしき人がいて、ファンらしき人たちが列を作っていた。
スタッフに呼ばれた人が一人ずつ、パーテーションの中に入って、握手をして、反対側から出るという流れのようだ。
「お母さん!あそこにスタドリがいるよ!」
「本当だ、遠目に見てもカッコいいわね。」
「マジプリには、負けるけどね。」ふと、出口の近くにいる4人に目が留まった。女性2人と男性2人。男性の1人はスーツ姿。あの人は。。。
「お父さん!?」
「え。こんなところにお父さんが居るわけないじゃない。」
「いや、あれ、お父さんだよ!間違いない。」
お父さんは、他の3人と話している。楽しそうだ。女性の一人は、この間の保険勧誘員の人に似ている。もしかして、Wデート?
「あれって、Wデートじゃないの?」
「いいえ。そんなはずはないわ。」
お母さんが、珍しく語気を強めて言う。でも、あれはお父さんだし、保険勧誘員の女性と一緒にいる。もう一組の男女も、おじさんと若い女性だ。Wデートに違いない。
「やっぱり、お父さん、クロだったんだよ。」
「そ、そんな。。。」
また、お母さんが泣きそうだ。マズイ。ここから離れよう。
と、その前に。
私はスマホで何枚か写真を撮った。
そして、お母さんの気持ちを落ち着けるために、カフェに入った。「お母さん、落ち着いた?」
「ええ。」
お母さんは、やっといつもの顔に戻っていた。
「もう、これは決定的だよ。今日こそ、お父さんを問い詰める。」
「わかったわ。」
「お母さん、辛いと思うけど、私はお母さんの味方だからね。」
「そうね。ユイ、頼りにしてるわ。」
「今回も、私が話するから、お母さんは聞いてて。」
「真面目なおとうさんだったのに・・・」
お母さんが、また、泣きそうだ。
「お母さん、気晴らしに、もう少し買い物してから帰ろう?」
「そうね。そうしましょう!」
私とお母さんは、夕方まで買い物を楽しんだ。
【一方、その頃】
私たち4人はフードコートで打ち上げをしていた。
さすがに今回は4人とも興奮気味で、話がいくらでも出てくる。
スタドリというアイドルを通して、私たちの絆は、間違いなく強くなっていると感じた。「やっぱり、直接触れ合うと、より身近に感じるよね。」
アヤ先輩も興奮気味だ。
「ユウくんの対応は、まさに神対応だったな。」
マサさんも顔を赤くしながら力説する。
「リーダーのコウくんが、やっぱり、流石リーダー!って感じだったな。」
ミドリさんが一番俯瞰でメンバーを平等に見てる気がする。
「初めての、しかも、こんなおじさんにも、ちゃんと対応してくれて嬉しかったですね。」
私も改めてメンバーそれぞれの良さを知った気がする。「ケンジくん、CD見せてよ。」
ミドリさんが言うので、サインを貰ったCDをテーブルの上に出した。
「ウワー!」
全員の歓声が上がる。
「やっぱり、リュウくんは達筆だね。」
「タクミくんは、子供っぽい字だな。」
「コウくんは、キッチリした字だ。流石リーダー。」
「ケンくんは、そつなく書いてる感じ。」
「ユウくんは、字まで輝いてるね。」
5人のサインの端には、なんと『ケンジくんへ』と書いてある。
「これ、ユウくんの字だ。ケンジくん、宝物じゃん。」
アヤ師匠に言われて、誇らしい気持ちになった。
「一生の宝物にします!!」
私たちは、夕方には解散して、それぞれ帰路についた。
帰りの電車は、方向が同じアヤ師匠と一緒だった。
「ケンジくん。ご家族は本当に大丈夫なの?」
「まあ、今のところは。。。」
「推し活のこと、ちゃんとオープンにした方が良いと思うよ。」
「そうですか。反対されるかもなぁ。」
「ケンジくんの熱意があれば、きっと伝わるよ。」
「はい。頑張ってカミングアウトします。」
「そうだ弟子よ。その意気だ!なんちゃって。」
「はい。師匠。頑張ります。」
そんな会話をしていた、その時。
我が家では、鬼の形相の2人が、待ち構えているのであった。。。