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第2章〜H地区のある場所について〜⑨

ー/ー



 オレが、前のめりになって女性店主の話しに耳を傾ける一方で、同行した女子生徒は、冷静に店主に問いただす。

「大変興味深いお話しではあるんですけど……その海外のミステリー・ハウスと私たちや広報部の活動になにか関係があるのでしょうか?」

 天竹のストレートな質問を鷹揚な仕草で受け止めた店主は、

「あらぁ? アナタ達なら、すぐに気がつくと思ったのだけど……このウィンチェスター・ハウスの逸話は、なにかのお話しと似ているところが無い?」

と、質問に質問で返してくる。

 そう問いかけられて、あらためて、いま聞かされた話しの特長を整理する。

 ・呪われた屋敷
 ・女性主人
 ・一家の過去の行いから降りかかる災い

 これらのキーワードと共通する話しで、オレたちが知っているものは……。

 そこまで考えて、オレは「あっ!」と声を上げる。
 すると、同じくクラスメートもなにかを悟ったように、目にチカラが宿った。

()()()()()……いえ、『くだんのはは』」

 天竹が口にした言葉は、オレが気付いたことと同じ内容だった。

「祟りがあるとされる広大な屋敷、そこに住む富豪の女性主人、そして、屋敷に住む一家の過去の行いによってもたらされる災厄……私たちが追おうとしている牛女の伝承……と言うより、小松左京の『くだんのはは』との共通点が多いですね。――――――と言うより、いまのウィンチェスター・ハウスのエピソードが、すんなりと頭に入ってきたのも、『くだんのはは』という前提知識があったからでは無いでしょうか?」

 彼女がつぶやくように発した内容は、自分の認識とピタリと一致していた。
 それだけでなく、天竹が最後に指摘したことは、オレの考えには無かったことだが、

(言われてみれば、たしかにそのとおりだ……)

と、妙に説得力があった。

 ただ――――――。

 これまでの話しの内容から、店主が新しい心霊スポットの候補地として、どこかの廃屋を紹介してくれる、という訳でもなさそうだ。 女性店主の真意を汲み取れないオレは、彼女にたずねる。

「銃器メーカーに呪われたエピソードがあるのはわかりましたけど……それと、牛女の言い伝えがあるからって、それが、なにかオレたちの活動に影響するんですか? 第一、『くだんのはは』は、完全な創作だし、オレたちの撮影候補地には、幽霊屋敷なんて入っていませんけど……」

 オレが、そう指摘すると、店主は相変わらず、妖艶な笑みを浮かべながら応じた。

「えぇ、たしかに、今回は心霊スポット訪問の定番である幽霊屋敷は、候補地に入っていないわね。私は、このエピソードから、アナタ達の活動を通じて、知ってほしいことがあるの。そして、それが、私がアナタ達の活動に協力する理由でもあるわ」

「―――オレたちに協力してくれる理由、ですか……」

 ゴクリとツバを飲み込み、オウム返しのように問い返すと、店主は微笑んだまま、小さくうなずく。

「黒田くんは、これから広報部の中心となって活動を支える人材だろうから、言い伝えやウワサ話しがどんな風に広まるか知っておくことは必要でしょう? それに、天竹さんも文芸部で活動をしているということは、人の感情の機微を知っておくことは無意味では無いと思うのだけど?」

 なるほど――――――。

 このウィンチェスター・ミステリー・ハウスの一件は、オレたちに対する課題と関係しているということなのか。

「わかりました。それで、この問題の回答は、どんな風に示せば良いんですか? 宿題であるなら、提出をしなくちゃいけない、と思うんですけど……?」

 オレがたずねると、店主はクスクスと笑って、「フフ……真面目なのね」と、つぶやいたあと、

「『夏休みの友』ではないから、回答の提出は不要よ。こちらは、これまでのように、アナタ達の活動を通して、回答にたどり着いたのか否かを判断させてもらうだけだから……アナタ達は、自分たちの思うように活動をなさい」

と答えた。

 その表情は、穏やかに見えるものの、明確に回答を示すことを求められないことが、これほど恐ろしいものなのか、と感じさせられる。

「わかりました……」

 と答えるオレに対して表情を変えないままの店主は、「えぇ」と満足気に応じたあと、話題を変えるようにこんなことをたずねてきた。

「アナタ達の次の撮影場所は、『満地谷墓地(まんちだにぼち)』だったわね? ここには、古くから住んでいる住人が知り合いに居るの。その場所に伝わる言い伝えにも詳しいから、色々と話しをしてくれると思うわ。話しを聞いてみる気はある?」

「そうですね。可能であれば、ぜひ、お話しをうかがってみたいです」

 正直なところ、満地谷墓地(まんちだにぼち)よりも、 柔琳寺(じゅうりんじ)の住職もしくは責任者との取材交渉を一刻も早く進めてもらいたい、というのが本音ではあるのだが――――――(なにしろ、牛女の言い伝えに異様に執着している部員が我が広報部には居るのだ)。

 せっかくの店主の申し出を辞退するのも気が引けたので、オレは、彼女の言葉に誘導されるように、満地谷墓地(まんちだにぼち)周辺の歴史に詳しいという人物に事前取材を行うことになった。


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 オレが、前のめりになって女性店主の話しに耳を傾ける一方で、同行した女子生徒は、冷静に店主に問いただす。
「大変興味深いお話しではあるんですけど……その海外のミステリー・ハウスと私たちや広報部の活動になにか関係があるのでしょうか?」
 天竹のストレートな質問を鷹揚な仕草で受け止めた店主は、
「あらぁ? アナタ達なら、すぐに気がつくと思ったのだけど……このウィンチェスター・ハウスの逸話は、なにかのお話しと似ているところが無い?」
と、質問に質問で返してくる。
 そう問いかけられて、あらためて、いま聞かされた話しの特長を整理する。
 ・呪われた屋敷
 ・女性主人
 ・一家の過去の行いから降りかかる災い
 これらのキーワードと共通する話しで、オレたちが知っているものは……。
 そこまで考えて、オレは「あっ!」と声を上げる。
 すると、同じくクラスメートもなにかを悟ったように、目にチカラが宿った。
「|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》……いえ、『くだんのはは』」
 天竹が口にした言葉は、オレが気付いたことと同じ内容だった。
「祟りがあるとされる広大な屋敷、そこに住む富豪の女性主人、そして、屋敷に住む一家の過去の行いによってもたらされる災厄……私たちが追おうとしている牛女の伝承……と言うより、小松左京の『くだんのはは』との共通点が多いですね。――――――と言うより、いまのウィンチェスター・ハウスのエピソードが、すんなりと頭に入ってきたのも、『くだんのはは』という前提知識があったからでは無いでしょうか?」
 彼女がつぶやくように発した内容は、自分の認識とピタリと一致していた。
 それだけでなく、天竹が最後に指摘したことは、オレの考えには無かったことだが、
(言われてみれば、たしかにそのとおりだ……)
と、妙に説得力があった。
 ただ――――――。
 これまでの話しの内容から、店主が新しい心霊スポットの候補地として、どこかの廃屋を紹介してくれる、という訳でもなさそうだ。 女性店主の真意を汲み取れないオレは、彼女にたずねる。
「銃器メーカーに呪われたエピソードがあるのはわかりましたけど……それと、牛女の言い伝えがあるからって、それが、なにかオレたちの活動に影響するんですか? 第一、『くだんのはは』は、完全な創作だし、オレたちの撮影候補地には、幽霊屋敷なんて入っていませんけど……」
 オレが、そう指摘すると、店主は相変わらず、妖艶な笑みを浮かべながら応じた。
「えぇ、たしかに、今回は心霊スポット訪問の定番である幽霊屋敷は、候補地に入っていないわね。私は、このエピソードから、アナタ達の活動を通じて、知ってほしいことがあるの。そして、それが、私がアナタ達の活動に協力する理由でもあるわ」
「―――オレたちに協力してくれる理由、ですか……」
 ゴクリとツバを飲み込み、オウム返しのように問い返すと、店主は微笑んだまま、小さくうなずく。
「黒田くんは、これから広報部の中心となって活動を支える人材だろうから、言い伝えやウワサ話しがどんな風に広まるか知っておくことは必要でしょう? それに、天竹さんも文芸部で活動をしているということは、人の感情の機微を知っておくことは無意味では無いと思うのだけど?」
 なるほど――――――。
 このウィンチェスター・ミステリー・ハウスの一件は、オレたちに対する課題と関係しているということなのか。
「わかりました。それで、この問題の回答は、どんな風に示せば良いんですか? 宿題であるなら、提出をしなくちゃいけない、と思うんですけど……?」
 オレがたずねると、店主はクスクスと笑って、「フフ……真面目なのね」と、つぶやいたあと、
「『夏休みの友』ではないから、回答の提出は不要よ。こちらは、これまでのように、アナタ達の活動を通して、回答にたどり着いたのか否かを判断させてもらうだけだから……アナタ達は、自分たちの思うように活動をなさい」
と答えた。
 その表情は、穏やかに見えるものの、明確に回答を示すことを求められないことが、これほど恐ろしいものなのか、と感じさせられる。
「わかりました……」
 と答えるオレに対して表情を変えないままの店主は、「えぇ」と満足気に応じたあと、話題を変えるようにこんなことをたずねてきた。
「アナタ達の次の撮影場所は、『|満地谷墓地《まんちだにぼち》』だったわね? ここには、古くから住んでいる住人が知り合いに居るの。その場所に伝わる言い伝えにも詳しいから、色々と話しをしてくれると思うわ。話しを聞いてみる気はある?」
「そうですね。可能であれば、ぜひ、お話しをうかがってみたいです」
 正直なところ、|満地谷墓地《まんちだにぼち》よりも、 |柔琳寺《じゅうりんじ》の住職もしくは責任者との取材交渉を一刻も早く進めてもらいたい、というのが本音ではあるのだが――――――(なにしろ、牛女の言い伝えに異様に執着している部員が我が広報部には居るのだ)。
 せっかくの店主の申し出を辞退するのも気が引けたので、オレは、彼女の言葉に誘導されるように、|満地谷墓地《まんちだにぼち》周辺の歴史に詳しいという人物に事前取材を行うことになった。