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第2章〜H地区のある場所について〜⑧

ー/ー



 7月25日(月)

 週が明けた日の午前中のこと。
 先の週末に訪問したのと同じように、オレは、祝川からほど近い場所にある亜慈夢(あじむ)古美術堂を訪れた。

 前回の訪問時と異なるのは、訪問者がオレ一人だけではなく、文芸部の代表者である天竹葵(あまたけあおい)が同行していることだ。

 夏休み中の午前中に時間を作ってもらうことや、緊張感を覚える場への訪問に誘うことについて、オレなりに気いながら声をかけたのだが、相手の女子生徒は、

「構いませんよ。先日は、私たちを花火に誘ってくれましたからね。私で良ければ、同行させてもらいます」

と、あっさりと了承してくれた。もっとも、

「それより、黒田くん。あなたは、私たち文芸部よりも、佐倉さんの気持ちに配慮してあげた方が良いですよ。昨日の撮影でも、彼女は思うところがあったようですから……」

という謎のアドバイスもオマケで付いて来たのだが……。

 そんな思慮深く、文化系方面の知識も豊富なクラスメートを伴って古美術堂を訪ねると、この日も妖艶な雰囲気をまとっている店主は、

「いらっしゃい。黒田くん、天竹さん。待っていたわ」

と、訪問を歓迎するような口調でオレたちを出迎えた。

 前回と同じく、ライブ配信した動画を確認してもらうと、店主は、

「今回も、特に問題は無いようね。ただ、次の場所からは、ちょっと気をつけなさい」

と、軽いアドバイスを添える。

 ただ、彼女に言われるまでもなく、自分の認識としても、次の訪問スポットは墓地でもあるし、なにより、亡くなったオレの父親が眠っている場所でもあるので、これまでのスポットとは、少し心構えが異なるのだ。

 しかし、女性店主は、動画の確認が終わると、そんなオレの心構えとは無関係なことを語り始めた。

「今日は、アナタ達ふたりに話しておきたいことがあるの」

「なんでしょうか? 私たちに話したいことって?」

 店主の言葉に、天竹が反応する。その問いかけには、

(どうして、自分を指名したのか?)

というニュアンスが含まれているように感じられた。
 
 その気持ちは、よく分かる。わざわざ、心霊スポット訪問の部外者に近い文芸部の女子生徒を指名して、古美術堂に呼び出された理由は、本人ではないオレでも気になるくらいなのだから。

 ただ、女性店主は、クラスメートの言外の意図には応えずに語りだす。

「二人に聞いてもらいたいのは、アメリカのカリフォルニア州にあるウィンチェスター・ミステリー・ハウスと呼ばれるお屋敷のことよ」

「それって、最初にオレたちがここを訪ねたときに話しをしていた屋敷のことですか? あと、ウィンチェスターって、壁にかけてある、あのライフル銃のことですよね?」

 オレは、最初の訪問時から気になっていた和風の作りの店内には似つかわしくない、壁にかけられた銃器を指さして質問する。

「えぇ、そうよ。良くわかったわね?」

 オレの問いに軽くうなずいて応えた店主は、件のミステリー・ハウスについてのエピソードを語りだした。
 その概要は、こんな感じだ。

 ウィンチェスター・ミステリー・ハウスは、アメリカ合衆国のカリフォルニア州サンノゼにある屋敷の名称で、いわゆる幽霊屋敷とされる観光建物だ。
 この屋敷は、かつて三十八年もの間、絶えず建設がつづけられており、呪われているという噂がある。屋敷はその昔、銃のビジネスで成功を収めた実業家で、ウィンチェスター・リピーティングアームズの二代目当主であるウィリアム・ワート・ウィンチェスターの未亡人、サラ・ウィンチェスターの個人邸宅であったが、現在は観光地と化している。

 二代目のウィリアム・ウィンチェスター夫妻の子は生後一ヶ月で死亡、ウィリアムも後を追うように日を待たずして死亡。その他にも二代目夫妻の周囲では良からぬ出来事が続いた。そのため、疲弊した夫人は、霊媒師に相談を行う。すると霊媒師は、こんなお告げを行った。

「続発する災いの根源は、あなたがたが製造する銃器で殺害された犠牲者の怨霊がウィンチェスター家を呪いにやってくるためだ。災いから逃れる方法はただ一つ。西部開拓ではウィンチェスター銃が多用されたので犠牲者が特に多い西部へ引っ越し、怨霊を鎮めるためにその家を拡張し続け、霊魂の居場所を作ってやるしかない」

 夫人は、すぐさま合衆国東部のニューヘイブンの家を売却。現在の屋敷がある西海岸サンノゼに引っ越した。
 
 サラが屋敷に引っ越し来てから、三十八年後に彼女が死亡するまでの間、毎日、屋敷の建設工事が続けられた。こうした続けざまの建設工事費は、およそ五五〇万ドルと見積もられている。

 屋敷はその巨大さと設計の基本計画が無いことで有名で、一般に信じられている話によると、サラ・ウィンチェスターは屋敷がウィンチェスター銃によって殺された人々の霊によって呪われており、それらが邸宅内で及ぼすと予想した霊障からいつでも逃れる為の隠し部屋・秘密通路をひたすら増築し続け備えておく事しか方法がないと妄執していたとされている。

 唐突に海外の幽霊屋敷の話しが始まったので、最初は、「なんの話しだろう……?」と、いぶかしく聞いていたのだが、その語り口の巧みさと、映画の西部劇でもおなじみのライフル銃を製造した銃器メーカーに、そんな、いわく付きのエピソードがあった、ということに興味がわき、オレは、いつしか身を乗り出して、女性店主に話しに聞き入っていた。


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 7月25日(月)
 週が明けた日の午前中のこと。
 先の週末に訪問したのと同じように、オレは、祝川からほど近い場所にある|亜慈夢《あじむ》古美術堂を訪れた。
 前回の訪問時と異なるのは、訪問者がオレ一人だけではなく、文芸部の代表者である|天竹葵《あまたけあおい》が同行していることだ。
 夏休み中の午前中に時間を作ってもらうことや、緊張感を覚える場への訪問に誘うことについて、オレなりに気いながら声をかけたのだが、相手の女子生徒は、
「構いませんよ。先日は、私たちを花火に誘ってくれましたからね。私で良ければ、同行させてもらいます」
と、あっさりと了承してくれた。もっとも、
「それより、黒田くん。あなたは、私たち文芸部よりも、佐倉さんの気持ちに配慮してあげた方が良いですよ。昨日の撮影でも、彼女は思うところがあったようですから……」
という謎のアドバイスもオマケで付いて来たのだが……。
 そんな思慮深く、文化系方面の知識も豊富なクラスメートを伴って古美術堂を訪ねると、この日も妖艶な雰囲気をまとっている店主は、
「いらっしゃい。黒田くん、天竹さん。待っていたわ」
と、訪問を歓迎するような口調でオレたちを出迎えた。
 前回と同じく、ライブ配信した動画を確認してもらうと、店主は、
「今回も、特に問題は無いようね。ただ、次の場所からは、ちょっと気をつけなさい」
と、軽いアドバイスを添える。
 ただ、彼女に言われるまでもなく、自分の認識としても、次の訪問スポットは墓地でもあるし、なにより、亡くなったオレの父親が眠っている場所でもあるので、これまでのスポットとは、少し心構えが異なるのだ。
 しかし、女性店主は、動画の確認が終わると、そんなオレの心構えとは無関係なことを語り始めた。
「今日は、アナタ達ふたりに話しておきたいことがあるの」
「なんでしょうか? 私たちに話したいことって?」
 店主の言葉に、天竹が反応する。その問いかけには、
(どうして、自分を指名したのか?)
というニュアンスが含まれているように感じられた。
 その気持ちは、よく分かる。わざわざ、心霊スポット訪問の部外者に近い文芸部の女子生徒を指名して、古美術堂に呼び出された理由は、本人ではないオレでも気になるくらいなのだから。
 ただ、女性店主は、クラスメートの言外の意図には応えずに語りだす。
「二人に聞いてもらいたいのは、アメリカのカリフォルニア州にあるウィンチェスター・ミステリー・ハウスと呼ばれるお屋敷のことよ」
「それって、最初にオレたちがここを訪ねたときに話しをしていた屋敷のことですか? あと、ウィンチェスターって、壁にかけてある、あのライフル銃のことですよね?」
 オレは、最初の訪問時から気になっていた和風の作りの店内には似つかわしくない、壁にかけられた銃器を指さして質問する。
「えぇ、そうよ。良くわかったわね?」
 オレの問いに軽くうなずいて応えた店主は、件のミステリー・ハウスについてのエピソードを語りだした。
 その概要は、こんな感じだ。
 ウィンチェスター・ミステリー・ハウスは、アメリカ合衆国のカリフォルニア州サンノゼにある屋敷の名称で、いわゆる幽霊屋敷とされる観光建物だ。
 この屋敷は、かつて三十八年もの間、絶えず建設がつづけられており、呪われているという噂がある。屋敷はその昔、銃のビジネスで成功を収めた実業家で、ウィンチェスター・リピーティングアームズの二代目当主であるウィリアム・ワート・ウィンチェスターの未亡人、サラ・ウィンチェスターの個人邸宅であったが、現在は観光地と化している。
 二代目のウィリアム・ウィンチェスター夫妻の子は生後一ヶ月で死亡、ウィリアムも後を追うように日を待たずして死亡。その他にも二代目夫妻の周囲では良からぬ出来事が続いた。そのため、疲弊した夫人は、霊媒師に相談を行う。すると霊媒師は、こんなお告げを行った。
「続発する災いの根源は、あなたがたが製造する銃器で殺害された犠牲者の怨霊がウィンチェスター家を呪いにやってくるためだ。災いから逃れる方法はただ一つ。西部開拓ではウィンチェスター銃が多用されたので犠牲者が特に多い西部へ引っ越し、怨霊を鎮めるためにその家を拡張し続け、霊魂の居場所を作ってやるしかない」
 夫人は、すぐさま合衆国東部のニューヘイブンの家を売却。現在の屋敷がある西海岸サンノゼに引っ越した。
 サラが屋敷に引っ越し来てから、三十八年後に彼女が死亡するまでの間、毎日、屋敷の建設工事が続けられた。こうした続けざまの建設工事費は、およそ五五〇万ドルと見積もられている。
 屋敷はその巨大さと設計の基本計画が無いことで有名で、一般に信じられている話によると、サラ・ウィンチェスターは屋敷がウィンチェスター銃によって殺された人々の霊によって呪われており、それらが邸宅内で及ぼすと予想した霊障からいつでも逃れる為の隠し部屋・秘密通路をひたすら増築し続け備えておく事しか方法がないと妄執していたとされている。
 唐突に海外の幽霊屋敷の話しが始まったので、最初は、「なんの話しだろう……?」と、いぶかしく聞いていたのだが、その語り口の巧みさと、映画の西部劇でもおなじみのライフル銃を製造した銃器メーカーに、そんな、いわく付きのエピソードがあった、ということに興味がわき、オレは、いつしか身を乗り出して、女性店主に話しに聞き入っていた。