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それってあなたの妄想ですよね③

ー/ー



 Nさんもまた、Hさんに怒っているようでした。

Nさん
「俺は止めたんですよ? これは絶対ヤバいって霊媒師の先生が言ってたからって。で、わかったって言ったのに、なんかいつの間にか勝手に動画が更新されてて。俺は何も知らないっす」

伊沢さん
「いますぐ動画を消してください」

Nさん
「無理です。だって俺もう、配信活動やってないので。あいつとは縁切ったし、あのチャンネルの動画を勝手に削除したりもできません」

伊沢さん
「では、Hさんの連絡先を教えてもらっていいですか? 私から直接、彼に電話します」

Nさん
「いいですよ」

 彼はあっさりと電話番号を教えてくれました。普通、人の個人情報をそうやすやすと他人に教えたりはしないものですが、この時はそれだけNさんも怒っていたということなのでしょう。

 伊沢さんはお礼を言って電話を切って、それからすぐさまHさんに電話をかけました。

Hさん
「はい、Hです。どちらさまでしょうか?」

伊沢さん
「はじめまして、伊沢凪海霊媒師事務所の、伊沢というものです。先日、あなたのお知り合いのNさんから依頼を受けまして、○○ホテルに行った際の動画を鑑定させていただいたのですが」

Hさん
「あーはいはいはい! そのせつはどうもお世話になりました」

伊沢さん
「それで今回は、今配信している動画のうち、〇〇ホテルに関する二つの動画の件についてお知らせしたいことがあってお電話させていただいたんですが」

Hさん
「ほう」

伊沢さん
「あの二つの動画の両方に、危険なものがいくつも映っています。あれをそのまま配信してしまうと、動画を見た人のもとへ幽霊が飛んでしまう場合があるので消してほしいんです。あと、Hさん、あなた一人であそこへ行きましたよね? 悪いものが取り憑いている可能性があるので、今すぐお祓いをうけてください」

Hさん
「お祓い、ですか?」

伊沢さん
「そうです、今すぐお祓いを受けないと、最悪死ぬ可能性もあるので。動画も消してほしいです」

Hさん
「はあー、なるほど。動画を消さないと幽霊が見た人のほうへ飛んでいっちゃうし、僕はこのままお祓いを受けなかったら死ぬと、そういうわけですね」

伊沢さん
「そうです」

Hさん
「でもそれって、あなたの妄想ですよね?」

伊沢さん
「あ˝?」

 低い声が、彼女の口から出てきました。それを聞いた僕は思わず、ビクッと震えてしまいました。

Hさん
「いやいや、そうとも言えちゃうじゃないですか。やっぱりその、証拠とか実体験がないとなかなかそういう話って信じられないというか。これでまだ僕になんかあれば、あなたの話を信じる気にもなります。でも今のところ、体調に変化はありませんし、不調を訴えてきた視聴者もいないですし、ちょっと信じられないかなーって」

伊沢さん
「何かあってからじゃ遅いでしょ。動画を消してください!」

Hさん
「いや、好意で言ってくれてるのはわかるんですよ? でもあの動画けっこう再生回数伸びてて、根拠もなく消せって言われても消すのはなかなか無理なもんで。素人にはわからないかもしれないですけど。

 そうだ、こうしましょう。一か月以内に何かあったら、動画であなたに謝罪します。逆に僕に何もなければ、それはそれでよかったねってことで、それでいいじゃないですか」

伊沢さん
「はあ?」

Hさん
「まあ、そういうことで、ご忠告ありがとうございました」

 そこで通話が切れました。

 通話が終わったあと、彼女はわなわなと震えていました。そして、彼女が握っていたのは僕のスマホでした。彼女がそれを床に投げつけて破壊したりしないだろうかと、僕ははらはらしながら見ていました。

 しかし彼女は静かにスマホを僕に返しただけでした。

伊沢さん
「村山君」

「なんでしょうか?」

伊沢さん
「たぶん私にはもう、あいつに憑いたものは祓えないかもしれない」

「なんでですか?」

伊沢さん
「わからないけど、そんな気がしただけ。とりあえず、一か月経ったら、あいつが生きてるかどうかだけ確認しといて。場合によってはまた電話をかけるから」

 あれから一か月が経ちました。Hさんは、まだ生きています。それどころか、今や登録者数20万人超えの人気配信者となっています。しかもいつの間にやら、Nさんまで彼と一緒になって活動していました。

 さらに厚かましいことに、”霊媒師に一か月後に死ぬと言われた”というテーマの動画と、”あれから一か月が経ちました”というテーマの動画をあげていました。

 彼はなぜ何事もなく生きているのか。その理由を、ある時彼女はこう説明してくれました。

伊沢さん
「もうね、取り憑かれてるってレベルじゃない。あの魔物があいつの魂に入り込んじゃってる。めったにないことだけど、あいつが魔物を無意識のうちに受け入れちゃってるのね。だからこそあの魔物はあいつの魂に入り込めた。

 あそこまで行くともう、狂気だよね。バズる動画を作るためだけに、魔物を魂の中にいれるとか、ありえない」

「なんで、その状態でもあいつ死なないんですか? 魂とか、食べられたりはしないんですか?」

伊沢さん
「あの魔物は今の状況を楽しんでるんだよ。あいつがやばい心霊スポットに行ってやばい動画を撮ってきて、みんながそれを見るじゃん? そうすると、わかる人には魔物のことがわかるし、あれが見える人には見えるから、あいつに魔物が憑いてるって騒ぎになるよね。その状況を楽しんでるんだよ。だから、もっと私を見てほしいって、そういう気持ちだよね。

 だから、今は食べられない。食べちゃったら、動画撮ってもらえなくなっちゃうから。

 でももっとやばいのが、廃墟にいる悪霊とか死霊を、その魔物がどんどん連れてきてるんだよね。だから、あいつの周りとか部屋の中、まじでやばいからね。死霊が多すぎて、あいつの姿とか真っ黒に見えるし、部屋の中も死霊だらけだもん。

 あいつの魂が喰われるのは、あいつが役立たずになった時か、死んだとき。どっちにしても、もう私にはどうにもできない。あいつごと魔物と死霊たちを焼いていいっていうんなら、やれるけどね」


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 Nさんもまた、Hさんに怒っているようでした。
Nさん
「俺は止めたんですよ? これは絶対ヤバいって霊媒師の先生が言ってたからって。で、わかったって言ったのに、なんかいつの間にか勝手に動画が更新されてて。俺は何も知らないっす」
伊沢さん
「いますぐ動画を消してください」
Nさん
「無理です。だって俺もう、配信活動やってないので。あいつとは縁切ったし、あのチャンネルの動画を勝手に削除したりもできません」
伊沢さん
「では、Hさんの連絡先を教えてもらっていいですか? 私から直接、彼に電話します」
Nさん
「いいですよ」
 彼はあっさりと電話番号を教えてくれました。普通、人の個人情報をそうやすやすと他人に教えたりはしないものですが、この時はそれだけNさんも怒っていたということなのでしょう。
 伊沢さんはお礼を言って電話を切って、それからすぐさまHさんに電話をかけました。
Hさん
「はい、Hです。どちらさまでしょうか?」
伊沢さん
「はじめまして、伊沢凪海霊媒師事務所の、伊沢というものです。先日、あなたのお知り合いのNさんから依頼を受けまして、○○ホテルに行った際の動画を鑑定させていただいたのですが」
Hさん
「あーはいはいはい! そのせつはどうもお世話になりました」
伊沢さん
「それで今回は、今配信している動画のうち、〇〇ホテルに関する二つの動画の件についてお知らせしたいことがあってお電話させていただいたんですが」
Hさん
「ほう」
伊沢さん
「あの二つの動画の両方に、危険なものがいくつも映っています。あれをそのまま配信してしまうと、動画を見た人のもとへ幽霊が飛んでしまう場合があるので消してほしいんです。あと、Hさん、あなた一人であそこへ行きましたよね? 悪いものが取り憑いている可能性があるので、今すぐお祓いをうけてください」
Hさん
「お祓い、ですか?」
伊沢さん
「そうです、今すぐお祓いを受けないと、最悪死ぬ可能性もあるので。動画も消してほしいです」
Hさん
「はあー、なるほど。動画を消さないと幽霊が見た人のほうへ飛んでいっちゃうし、僕はこのままお祓いを受けなかったら死ぬと、そういうわけですね」
伊沢さん
「そうです」
Hさん
「でもそれって、あなたの妄想ですよね?」
伊沢さん
「あ˝?」
 低い声が、彼女の口から出てきました。それを聞いた僕は思わず、ビクッと震えてしまいました。
Hさん
「いやいや、そうとも言えちゃうじゃないですか。やっぱりその、証拠とか実体験がないとなかなかそういう話って信じられないというか。これでまだ僕になんかあれば、あなたの話を信じる気にもなります。でも今のところ、体調に変化はありませんし、不調を訴えてきた視聴者もいないですし、ちょっと信じられないかなーって」
伊沢さん
「何かあってからじゃ遅いでしょ。動画を消してください!」
Hさん
「いや、好意で言ってくれてるのはわかるんですよ? でもあの動画けっこう再生回数伸びてて、根拠もなく消せって言われても消すのはなかなか無理なもんで。素人にはわからないかもしれないですけど。
 そうだ、こうしましょう。一か月以内に何かあったら、動画であなたに謝罪します。逆に僕に何もなければ、それはそれでよかったねってことで、それでいいじゃないですか」
伊沢さん
「はあ?」
Hさん
「まあ、そういうことで、ご忠告ありがとうございました」
 そこで通話が切れました。
 通話が終わったあと、彼女はわなわなと震えていました。そして、彼女が握っていたのは僕のスマホでした。彼女がそれを床に投げつけて破壊したりしないだろうかと、僕ははらはらしながら見ていました。
 しかし彼女は静かにスマホを僕に返しただけでした。
伊沢さん
「村山君」
「なんでしょうか?」
伊沢さん
「たぶん私にはもう、あいつに憑いたものは祓えないかもしれない」
「なんでですか?」
伊沢さん
「わからないけど、そんな気がしただけ。とりあえず、一か月経ったら、あいつが生きてるかどうかだけ確認しといて。場合によってはまた電話をかけるから」
 あれから一か月が経ちました。Hさんは、まだ生きています。それどころか、今や登録者数20万人超えの人気配信者となっています。しかもいつの間にやら、Nさんまで彼と一緒になって活動していました。
 さらに厚かましいことに、”霊媒師に一か月後に死ぬと言われた”というテーマの動画と、”あれから一か月が経ちました”というテーマの動画をあげていました。
 彼はなぜ何事もなく生きているのか。その理由を、ある時彼女はこう説明してくれました。
伊沢さん
「もうね、取り憑かれてるってレベルじゃない。あの魔物があいつの魂に入り込んじゃってる。めったにないことだけど、あいつが魔物を無意識のうちに受け入れちゃってるのね。だからこそあの魔物はあいつの魂に入り込めた。
 あそこまで行くともう、狂気だよね。バズる動画を作るためだけに、魔物を魂の中にいれるとか、ありえない」
「なんで、その状態でもあいつ死なないんですか? 魂とか、食べられたりはしないんですか?」
伊沢さん
「あの魔物は今の状況を楽しんでるんだよ。あいつがやばい心霊スポットに行ってやばい動画を撮ってきて、みんながそれを見るじゃん? そうすると、わかる人には魔物のことがわかるし、あれが見える人には見えるから、あいつに魔物が憑いてるって騒ぎになるよね。その状況を楽しんでるんだよ。だから、もっと私を見てほしいって、そういう気持ちだよね。
 だから、今は食べられない。食べちゃったら、動画撮ってもらえなくなっちゃうから。
 でももっとやばいのが、廃墟にいる悪霊とか死霊を、その魔物がどんどん連れてきてるんだよね。だから、あいつの周りとか部屋の中、まじでやばいからね。死霊が多すぎて、あいつの姿とか真っ黒に見えるし、部屋の中も死霊だらけだもん。
 あいつの魂が喰われるのは、あいつが役立たずになった時か、死んだとき。どっちにしても、もう私にはどうにもできない。あいつごと魔物と死霊たちを焼いていいっていうんなら、やれるけどね」