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現実は残酷

ー/ー



僕の目の前で人が死んだ。それは突然。信号無視のトラックが横断歩道に突っ込んで来た。僕はボーッとしており、他の歩行者が歩き出してから数十秒遅れて歩みを進めた。もし、人混みと共に歩いていたらと思うと胃の内容物がせり上がってくる。そう、目の前は凄惨たる光景。鳴りやまないクラクション、前がぐしゃぐしゃに潰れたトラック、真っ赤なアスファルト、人間だったもの、人体の一部。見ていられなくて背を向けてから盛大に吐き出す。つまらないと思っていた日常がこんなにも恋しくなるとは
「(これは派手にやったね。運転手が過労で心筋梗塞を起こさなければこの事故は起きなかったのに。御愁傷様)」
誰だ?こんな悍ましい光景を見ても動揺もせず淡々としているのは。見渡しても、警察や救急に連絡したりする人々や凄惨さに耐えられずにパニックを起こして逃げる人々しか見えない。それに冷静に考えたら何故、運転手が死んでいる事をこの声の主は知っているんだ?
「(悔いがあろうとも現世にいてはならないよ。魂達。お別れの時間だ)」
大鎌を持って、真っ赤なアスファルトを歩く人影を見た。黒のキャップを被った赤髪に片目がぱっつん前髪で隠れているブカブカのパーカーに黒のマフラーで口を覆った性別の分からない存在。あんな異常なものが歩いているのに誰も気にしない。そして、大鎌で連想される存在。
「しに…がみ?」
聞こえはしないであろう声量で呟いたのだが赤髪はピタリと立ち止まり、此方を凝視している。
「ヒッ…」
「(僕の姿が見える人間か。生者だと久しいね。僕の意思まで伝わっているらしいし。なら、警告しようか)」
今までとは比にならないハッキリとした"声"が脳裏に響く。
「(背を向けろ。死神の仕事を視認するんじゃないよ。こんなに波長が合うと引き込まれる。生きたかったら絶対に振り向くな。目を塞ぐんだ。分かったね)」
迫力のある声に背を向け、強く目をつぶる。事故さえもが夢でありますように。自身の吐瀉物の香りと血肉の香りがそれはないと否定してくる残酷な場所だった。

寒い。春の陽気であんなに暖かかったのに。学生鞄から何か羽織るものを取り出して、着用したい位には寒い。それに人生で一度も聞いた事のない様な嘆きが聞きたくもないのに耳に入る。
「なんで死んだ?」「どうして」「お腹の赤ちゃん…赤ちゃんは?」「儂の帰りを待つ婆さんがいるんじゃ…あやつは一人で生きていけん…認知症なんじゃ…帰らないと…」「ママ?パパ?僕はここだよ?なんで泣いてるの?」
「(静粛に。皆様は事故で亡くなりました。現実を見なさい。さぞ悔しいでしょうがここにいてはいけない。世界と死は理不尽なものなのです)」
嘆きの声がつんざく程に強く、大きくなる。やめてくれと耳を塞いでも脳に直接聞こえてきて、胃液がせり上がり、また気分が悪くなる。
「(サヨウナラを皆様に。理に逆らう事なかれ)」
風を切る音が何度も聞こえると気温が元に戻り、声も消えた。胃液を吐き出してから、もう終わっただろうと現場を見ると5メートルはある死神が様々な色の魂を白骨化した巨大な手に抱えて消え行く所だった。フードからはらりと髑髏の顔に落ちた赤髪で奴だと分かったが大鎌を背負い、黒のローブを纏った白骨の姿。人間がイメージする通りの死神の姿を見て、僕は気を失った。
「(見るなって言ったのに。いや、伝えただったね)」
途切れる意識の中で伝わった意思は夢現。本当に伝えていたのかは知る由もない。

「天田君?天田君!?」
声を掛けられて目覚めると真っ白な天井。それと看護師さんと友人の姿だった。
「良かったー!目覚めてくれて!酷い事故だったけど巻き込まれてなくて良かった」
腕に温かい水の粒の感触かする。友人が流した涙が落ちていた。
「本当…に…良かったっ!」
ほっと一息つくと脳裏に嘆きの言葉とあの死神の姿が過る。気分が悪くなり、えずく。
「大丈夫!?」
「藤宮さん。天田さんは心に深い傷を負っているの。心配は分かるけども療養させてあげて」
看護師に連れられて、藤宮は病室を後にする。一人きりになってから強く思う。
「生きていてよかった」






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僕の目の前で人が死んだ。それは突然。信号無視のトラックが横断歩道に突っ込んで来た。僕はボーッとしており、他の歩行者が歩き出してから数十秒遅れて歩みを進めた。もし、人混みと共に歩いていたらと思うと胃の内容物がせり上がってくる。そう、目の前は凄惨たる光景。鳴りやまないクラクション、前がぐしゃぐしゃに潰れたトラック、真っ赤なアスファルト、人間だったもの、人体の一部。見ていられなくて背を向けてから盛大に吐き出す。つまらないと思っていた日常がこんなにも恋しくなるとは
「(これは派手にやったね。運転手が過労で心筋梗塞を起こさなければこの事故は起きなかったのに。御愁傷様)」
誰だ?こんな悍ましい光景を見ても動揺もせず淡々としているのは。見渡しても、警察や救急に連絡したりする人々や凄惨さに耐えられずにパニックを起こして逃げる人々しか見えない。それに冷静に考えたら何故、運転手が死んでいる事をこの声の主は知っているんだ?
「(悔いがあろうとも現世にいてはならないよ。魂達。お別れの時間だ)」
大鎌を持って、真っ赤なアスファルトを歩く人影を見た。黒のキャップを被った赤髪に片目がぱっつん前髪で隠れているブカブカのパーカーに黒のマフラーで口を覆った性別の分からない存在。あんな異常なものが歩いているのに誰も気にしない。そして、大鎌で連想される存在。
「しに…がみ?」
聞こえはしないであろう声量で呟いたのだが赤髪はピタリと立ち止まり、此方を凝視している。
「ヒッ…」
「(僕の姿が見える人間か。生者だと久しいね。僕の意思まで伝わっているらしいし。なら、警告しようか)」
今までとは比にならないハッキリとした"声"が脳裏に響く。
「(背を向けろ。死神の仕事を視認するんじゃないよ。こんなに波長が合うと引き込まれる。生きたかったら絶対に振り向くな。目を塞ぐんだ。分かったね)」
迫力のある声に背を向け、強く目をつぶる。事故さえもが夢でありますように。自身の吐瀉物の香りと血肉の香りがそれはないと否定してくる残酷な場所だった。

寒い。春の陽気であんなに暖かかったのに。学生鞄から何か羽織るものを取り出して、着用したい位には寒い。それに人生で一度も聞いた事のない様な嘆きが聞きたくもないのに耳に入る。
「なんで死んだ?」「どうして」「お腹の赤ちゃん…赤ちゃんは?」「儂の帰りを待つ婆さんがいるんじゃ…あやつは一人で生きていけん…認知症なんじゃ…帰らないと…」「ママ?パパ?僕はここだよ?なんで泣いてるの?」
「(静粛に。皆様は事故で亡くなりました。現実を見なさい。さぞ悔しいでしょうがここにいてはいけない。世界と死は理不尽なものなのです)」
嘆きの声がつんざく程に強く、大きくなる。やめてくれと耳を塞いでも脳に直接聞こえてきて、胃液がせり上がり、また気分が悪くなる。
「(サヨウナラを皆様に。理に逆らう事なかれ)」
風を切る音が何度も聞こえると気温が元に戻り、声も消えた。胃液を吐き出してから、もう終わっただろうと現場を見ると5メートルはある死神が様々な色の魂を白骨化した巨大な手に抱えて消え行く所だった。フードからはらりと髑髏の顔に落ちた赤髪で奴だと分かったが大鎌を背負い、黒のローブを纏った白骨の姿。人間がイメージする通りの死神の姿を見て、僕は気を失った。
「(見るなって言ったのに。いや、伝えただったね)」
途切れる意識の中で伝わった意思は夢現。本当に伝えていたのかは知る由もない。

「天田君?天田君!?」
声を掛けられて目覚めると真っ白な天井。それと看護師さんと友人の姿だった。
「良かったー!目覚めてくれて!酷い事故だったけど巻き込まれてなくて良かった」
腕に温かい水の粒の感触かする。友人が流した涙が落ちていた。
「本当…に…良かったっ!」
ほっと一息つくと脳裏に嘆きの言葉とあの死神の姿が過る。気分が悪くなり、えずく。
「大丈夫!?」
「藤宮さん。天田さんは心に深い傷を負っているの。心配は分かるけども療養させてあげて」
看護師に連れられて、藤宮は病室を後にする。一人きりになってから強く思う。
「生きていてよかった」