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終末世界にて

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一人になりたい。誰だってそんな日がある。俺は醜悪な悪魔。悪魔という者は世界を移動する事が出来る。故に人類が滅びた世界という終わった世界に来る事も可能だ。歩いても歩いても誰もいない。動物は俺の存在に怯えて逃げていく。とことん孤独だ。砂埃が少しだけ混じった風、青々とした草の香り。俺を醜いと蔑む者も強烈に愛してくる者もいない静かな世界。空間どころか世界丸ごとの孤独を独占出来る。支配者気分。まあ、何もないから虚しいのだが。魔術書を取り出して、雨を降らせる魔法の文字列に手袋越しでなぞるとポツポツと顔に水滴が当たる感覚を感じる。だんだん勢いを増していき、陽の光が遮られ、暗くなっていく。本をしまうと濡れるのを厭わず、歩く。癖毛がペタンとなる。片目が髪で隠れているのだがその髪が普段よりも髪に張り付く。黒のスーツが、黒手袋が雨を吸って重い。革靴に泥が付く。そんな状態さえも俺は好きだ。

建物に入って、黒手袋を乾いた物に交換してから魔術書を取り出して、晴れになる魔法の文字列をなぞる。雲が散っていき、陽の光が辺りを照らす。雨上がり特有の香りが鼻腔をくすぐる。太陽に近い場所に行こうと建物内を上がっていく。2階分の階段を登った所でふと、横を見るとピアノがあった。気になってそこまで歩いていく。滅んだ世界の代物だというのに綺麗で鍵盤に触れると軽やかな音がした。弾きたい。そう思って、気の赴くままに鍵盤に指を走らせる。脈絡のない自由な旋律。鳥が集まってくる。この観客の為に一曲弾こうかと思ったがまあいいかとなって指を離した。鳥達は去っていった。媚びうる人間より分かりやすい。ピアノに背を向けて、再び屋上まで向かう。

温かい。大の字になって寝転ぶ。服は適当に乾けばいいと思いながら日の温かさを全身で感じる。そういえば、雨上がりでコンクリートが濡れていて、背中がびしょ濡れになったが気にしない。俺は目をつぶる。恥も外聞もない。気の抜けた姿でいても誰も何も言わない。そもそも誰もいないのだから。俺は眠る。心地良い。意識が蕩けていく。どれぐらい経ったのか。寒いという事は夜なのだろうと目を開ける。満天の星空が広がっていた。ここにもしるべになる星はあるのだろうかと思いを馳せる。あろうがなかろうがしるべを辿る者はいない。ただ、輝くだけ。それもいい。何もかもに理由を求めるなど疲れるだけだ。さて、リフレッシュも出来た。仕事をしよう。職務をこなせぬ悪魔はすぐに抹消される。厳しい世界なのだから。俺は立ち上がって、指を鳴らす。

終わった世界に知的生命体はいなくなった。それでもその世界には時が流れていく。彼がいようがいまいが変わらずに。




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一人になりたい。誰だってそんな日がある。俺は醜悪な悪魔。悪魔という者は世界を移動する事が出来る。故に人類が滅びた世界という終わった世界に来る事も可能だ。歩いても歩いても誰もいない。動物は俺の存在に怯えて逃げていく。とことん孤独だ。砂埃が少しだけ混じった風、青々とした草の香り。俺を醜いと蔑む者も強烈に愛してくる者もいない静かな世界。空間どころか世界丸ごとの孤独を独占出来る。支配者気分。まあ、何もないから虚しいのだが。魔術書を取り出して、雨を降らせる魔法の文字列に手袋越しでなぞるとポツポツと顔に水滴が当たる感覚を感じる。だんだん勢いを増していき、陽の光が遮られ、暗くなっていく。本をしまうと濡れるのを厭わず、歩く。癖毛がペタンとなる。片目が髪で隠れているのだがその髪が普段よりも髪に張り付く。黒のスーツが、黒手袋が雨を吸って重い。革靴に泥が付く。そんな状態さえも俺は好きだ。

建物に入って、黒手袋を乾いた物に交換してから魔術書を取り出して、晴れになる魔法の文字列をなぞる。雲が散っていき、陽の光が辺りを照らす。雨上がり特有の香りが鼻腔をくすぐる。太陽に近い場所に行こうと建物内を上がっていく。2階分の階段を登った所でふと、横を見るとピアノがあった。気になってそこまで歩いていく。滅んだ世界の代物だというのに綺麗で鍵盤に触れると軽やかな音がした。弾きたい。そう思って、気の赴くままに鍵盤に指を走らせる。脈絡のない自由な旋律。鳥が集まってくる。この観客の為に一曲弾こうかと思ったがまあいいかとなって指を離した。鳥達は去っていった。媚びうる人間より分かりやすい。ピアノに背を向けて、再び屋上まで向かう。

温かい。大の字になって寝転ぶ。服は適当に乾けばいいと思いながら日の温かさを全身で感じる。そういえば、雨上がりでコンクリートが濡れていて、背中がびしょ濡れになったが気にしない。俺は目をつぶる。恥も外聞もない。気の抜けた姿でいても誰も何も言わない。そもそも誰もいないのだから。俺は眠る。心地良い。意識が蕩けていく。どれぐらい経ったのか。寒いという事は夜なのだろうと目を開ける。満天の星空が広がっていた。ここにもしるべになる星はあるのだろうかと思いを馳せる。あろうがなかろうがしるべを辿る者はいない。ただ、輝くだけ。それもいい。何もかもに理由を求めるなど疲れるだけだ。さて、リフレッシュも出来た。仕事をしよう。職務をこなせぬ悪魔はすぐに抹消される。厳しい世界なのだから。俺は立ち上がって、指を鳴らす。

終わった世界に知的生命体はいなくなった。それでもその世界には時が流れていく。彼がいようがいまいが変わらずに。


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