「お帰りなさいませ。ロゼ様」
ジャックは右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出して一礼した。
「あぁ、ただいま。ジャック」
しゃがむように指示するとジャックはしゃがみこむ。首に両手を掛けるとジャックは手慣れた様子でロゼを抱き抱えた。
「貴様に抱かれていると落ち着く」
「何よりです。ロゼ様」
あの誓いの口づけを交わしあった日から一ヶ月。情け容赦無しの苛烈な教育により、ジャックは心身共にイケオジとなっていた。ロゼを座らせると紅茶を淹れる。洗練された淹れ方の紅茶には紅茶よりも薄い色の。陶磁器の色に重なり、金色に見える輪が縁に出来ていた。
「ゴールデンリング。茶葉が一流である事は言うまでもなく。淹れ方が完璧である証。素晴らしいぞジャック」
「光栄です」
胸に左手を当て、右手を後ろに回して一礼する。
「さて、ジャック。執事ごっこは仕舞いだ」
「お気に召しませんでしたか?」
「社交的な場で見せびらかす愉悦を味わうのならば悪くはない。だがな…」
近付くように指示するとジャックが寄ってくる。ほどよい距離のジャックのその顎を手で持ち上げるとロゼは頬に口づけをする。
「お父様は慕いはしない。私が慕うのだ」
「あぁ、そうだなロゼ」
ジャックはロゼの柔らかな頬を両手で包む。
「話したい事があるのなら言いなさいロゼ」
「ふふっ、ジャック。今日はギャングを壊滅させたぞ。社会のダニがまた減った」
「黒薔薇の執行者らしい行いだ」
間を置きつつ、ロゼが撫でている左手を残し、頬から手を離して頭を撫でる。
「黒薔薇には『永遠の愛』『永遠』などの永久を意味する花言葉がある。そう『永遠の死』さえも。そして、黒は他に染まる事なき色。薔薇は花の女王という称号を持つ。気高く気品溢れるロゼに。全てを内包するロゼに相応しい。誰が付けたか黒薔薇の執行者。これ以上の通り名は存在し得ない」
心からの賛美にロゼからは自然な笑みがこぼれていた。前までのロゼは悪戯な笑みや強気の笑みが多かったがジャックの前でだけ幼い笑みを浮かべるようになった。
「ジャック。貴様に言う事がある」
「何なりと」
「貴様の復讐を成す時が来た。礼には礼を尽くす。許容範囲のお父様になった貴様に何も返さず愛を捧げられるなどローゼンプラチナ・マリアンヌ・シュクレプーレの名が廃る。銃は持っているな?」
「肌身離さす持っているとも」
ジャックは無意識にループタイを握る。
「明夜に備えて…」
小さく息を吸ってから言う。
「添い寝しろ」
訓練されたジャックでもその宣言には驚いて撫でていた手を止める。
「同衾しろとは言っていないぞ?どうした?愛が父性ではなく異性に抱くそれになったか?」
怒気を含んだ声で詰めてくる。以前のように怒鳴っては来ないがもっと刺すような研ぎ澄まされた鋭さの怒りを感じる。
「…ロゼ」
「なんだ」
「不甲斐ない。所詮は許容範囲のお父様でしかない」
手を離し、両手で顔を覆う。
「どういう感情なんだ?」
「恥ずかしい…」
「この…」
ロゼは鞭を取り出して、頂点に達した怒りのまま振るう。
「大馬鹿がァァァァァァ!!!!」
―
痛む身体のまま、ロゼを抱き締めている。背を向けているが怒っている事は分かる。場所はベッド。添い寝はしている。
「いざしてみたらそうでもなかった」
「…鞭を食らいたいか」
「すまない…」
そう言いながらも小さな肩に顔を埋める。高貴な薔薇の香り。何度も嗅ぎ、主の香りだと脳が認識している香り。安らぎで寝てしまいそうになるがロゼはそれを察して声を掛ける。
「同衾ほど直球ではないが似たような言葉がある。夜伽。意味は女が男と共に寝るという意味もあるが寝ずの番という意味合いが多く辞書に載っている。つまり、何が言いたいかというと主よりも先に寝てくれるなという訳だ。それにお父様は私を寝かしつけてくれる」
「絵本でも読むか?」
「大馬鹿。身を預ける娘を己の愛で慈しめ。眠るまでな」
罵られたが今までの怒りは含まれていない、分かっていない事を咎める言い方だった。
「…愛している、ロゼ」
何を言えばいいか分からずに口ごもったが最終的に口から放たれた言葉はそれだった。
「愛してるぞ。ジャック」
腹部に添えた手を撫でられる。
「ロゼ」
「どうした」
「ロゼは俺の手が随分と好きだな?」
「苦労と歳を重ねた異性の手。嫌いな訳がない。求めていたものの最低ラインがこれだ」
少し離れるようにしろと手をつつく。距離を取るとロゼが寝返りをうつ。やっと向かい合わせになったジャックとロゼ。先に行動を起こしたのはロゼ。呆然と横になっているジャックに抱き付き、その胸に顔を埋めた。
「心音。落ち着く」
「何度も聞いているだろうに」
ロゼの背に手を回し、そっと抱き締める。
「…お父様」
「ん?」
消え入るようなロゼの言葉。抱き締めているロゼを見ると一筋の涙が伝っていた。ロゼ、と声を掛けようとするが寝息を立てている事に気が付き、額に口づけをして目を閉じた。
―
「良い朝だ。ジャック」
囁き声で目が覚める。声の方に顔を向けると寝間着だが既に起床していたロゼが伸びをしていた。ジャックも起き上がろうとするがそれを制された。
「愛を返そう」
頬に口づけをされる。起きていたのか?と思うが暗殺者という職業柄、眠りが浅いのか。それとも感覚が鋭いのか。両方だろうなと自己完結してから起き上がった。
―
「夜まで何をしたらいい?」
「普通に過ごせ。身構えるだけ無駄よ」
ジャックがフライパンを振るいながら聞く。食事はジャックが専属で作っている訳ではなく日替わり制。ロゼが食事当番の日には山盛りのセロリとトマト入りのサラダが欠かせず、未だにジャックは苦悶の顔を浮かべているがそれはまた今度の話。
「覚悟もいらないのか?」
「ふん、最高の復讐は自身が幸福である事。知らんのか。鬼気迫る面よりも素知らぬ顔で過ごす。相手は何と腹立たしいと思うだろう」
「一理あるが知らなかった」
「死は救済とも言う。殺すという手段が最悪だとは限らんのだ」
「重みが違いますね。流石、黒薔薇の執行者様」
「賛美しろ。褒め飽きるという事はない」
ドヤ顔のロゼを見ながら焼きたてのソーセージを差し出した。
「上手く焼けているな。これはドイツから取り寄せたソーセージ。旨いぞ」
ロゼは皿の上を一回だけ仰いで香りを楽しんでいる。その後、ジャックはクロワッサンやサラダを置いていく。
「飲み物は?」
「ミルクだ」
「かしこまりました」
ジャックはロゼのグラスに牛乳を、自身のグラスにオレンジジュースを注いだ。エプロンを外して、ロゼと対面の席に座る。
「揃ったなら頂こう」
「どうぞ、お召し上がりください」
ロゼはソーセージにナイフを入れて、フォークで口に運ぶ。美しき所作を眺めているとふと、ジャックが疑問を口にする。
「ロゼは本物の令嬢なんだよな?」
「当然。シュクレプーレ家の令嬢とはこのロゼの事よ」
「無礼をお許しください。知らないというのもありますが大まかに800年前の家なんて…」
「うむ。そう畏まるな。滅んでいるぞ。一人娘が蒸発した家を誰が継ぐ」
「…。」
これ以上の踏み込むか悩んでいるとロゼはジャックの難しい顔を見て察し、出自を自ら語った。
「生まれた時にいたのはお母様とお父様のみ。兄弟はいない。お祖母様とお祖父様は鬼籍に入られていた。お母様はハッキリ言ってしまうが冷たい方。私をろくに愛す事なく早逝なされた。私が7歳の頃だ。お父様はお母様の態度に物申したくとも婿養子。家督ではあれども立場はお母様が上。何も言えない代わりに無償の愛を注いでくれた。お優しく、偉大なお方。大好きだ。一時も忘れた事はない。そんなお父様が私の前からお隠れになってしまったのか。賊だ。賊が我が家を滅茶苦茶にしたのだ。首謀者はお父様を妬んだ幼馴染みの貴族。成り上がる様が気に食わなかったらしい。卑しく下賤だ。高貴なる身分で浅ましい。妬み、殺戮という手段で頂に至ろうなど穢らわしい」
ジャックが口を挟む。
「…殺されたのか?」
「私を庇ってな。200年近く焼き付いていたよ。お父様が賊に斬られて逝く姿が。残りはどういう記憶で生きてきたか?幸福だった頃の記憶を追憶して来た。フィルムならば擦り切れている程に。だが、お父様の最期の言葉は忘れん。『私の希望、ロゼ。生きてくれ』私を見ろ。愚直に生きているだろう?800年。子供の私に意味を持って生きろという事など理解など出来んのだ」
少し待てのポーズをする。
「どうした」
「蒸発という事は消えた。そして、不老の魔術。俺が察するに…禁忌か?それで家を継ぐ価値がないと消えたのか?」
「ふむ、惜しいと言ってやろう」
ジャックの頭にはてなが浮かんでいる。ロゼは傾聴せよという意味を込めて、デコピンを食らわした。額を押さえるジャックを無視して話を続ける。
「私は元より魔術の才があったのだ。それと速読。たかが速読と侮るなよ。魔導書を一日に60冊の本を読める程の速さだ。貴様に伝わるように言うならば辞書並みの厚さの書物を60冊。凄かろう」
「よくそんな量を理解して頭に入っているな?」
「天賦の才よ。読み、学ぶ。そういった努力もあるが知識を溜め込む頭は天賦の才という他にあるまい」
ロゼは褒め言葉を口にしようとしたジャックを制して話を続ける。
「そう、背に刻んだ魔術の数々は私の純粋なる魔術の知識よ。誰にも頼らず。ただ、お父様の望みである生きろという言葉を実行するがままのな」
またジャックが待てのポーズをする。
「なんだ」
「不老。つまりは老いない。老いないだけで死なない…?無知の極みだが不老不死と何が違う?」
「私は心臓を刺されたら死ぬぞ。そう、外因性ならば容易く死ぬ。食事を欲するのは趣味ではない。生命維持に欠かせん。野菜が好きは本心だが病で死ぬ事なく健康でいたい為に摂取している。老いないが強みなだけで人並みの耐久性という訳だ。不死にはなりきれんかったのだ」
ジャックは何故?という顔をしている。
「不死は禁忌だ。それこそ、悪魔や吸血鬼などの上位存在と契りを結ばねばならん。外道の生命などお父様が望まんと当時の私は思ったのだ」
「結局は?」
「酷な事を聞く。良かろう。外道だったよ。外道でなければ…」
ずっと悲しそうな微笑みをたたえていたが一瞬で目付きが鋭くなる。
「黒薔薇の執行者になどなっていない」
「暗殺者に…か。やはり、復讐の為に?」
ロゼは頷く。
「不老となった私は私物を全て売り払い、それを元手に裏社会との関わりを築いて、殺しや拷問の知識を得た。たまに実践もこなした。最初は下手なもので巻き込まれた不憫な子供のフリをしてその場を何度も何度も乗り越えてきたよ。10年でまともな暗殺者に。それ以降は腕利き。50年を過ぎた辺りで伝説になったな」
またまた待てのポーズをする。
「んー!」
「怒らないでくれ。子供の姿でどうやって仕事…いや待て、実践と言っただけで仕事とは…」
うんうん唸るジャックに再びデコピンを食らわしてから話を続ける。
「魔術の才があると言ったろう。大人の姿になるなど不老の魔術に比べたら容易い」
ロゼは指を鳴らす。瞬時に優美で麗しい成人女性の姿になっていた。
「…美しい」
自然と賛美の言葉を口にしていた。ロゼは癪に障ったのかすぐに元に戻った。ジャックは名残惜しそうにしている。
「貴様に…鞭を…くれてやる…」
立ち上がり、鞭を取り出して怒るロゼを窘めながら、ジャックは椅子から滑り落ちながら後退りつつ口を開く。
「大人だろうが少女だろうがロゼはロゼ!そうだろう?」
「大人になった瞬間に鼻の下を伸ばしおってからに…っ!」
「ロリコン初老が下僕でいいのか?」
「良くない。穢らわしい」
一発だけ鞭を入れると、何事もなかったかのように席に戻り、ミルクを口にする。背を擦りながら、ジャックは席に座る。
「復讐はいつやり遂げたんだ?」
「殺しを覚えてから5年でだよ。一刻も早く殺したかった。人生の絶頂に絶望を叩き込むなど考え及ばん。何度でも言う。憎しみに駆られた"子供"。それなりでも殺す力を得たのならば心中さえも覚悟のうちで身体に爆発物を付けれるだけ付けて、オーバーテクノロジーだった銃火器を持てるだけ持ってな」
再度、ジャックが待てのポーズをする。
「なんだ!」
「落ち着いてくれ。オーバーテクノロジーって事は?拳銃というかマシンガンとかそんなのだろ?人間がそんなものをどうやって持ってくるんだ?」
「未来人がいた。訳あり未来人。裏社会は存外広いぞ」
ジャックは唖然としている。何でもありか?と唸る。
「私も驚いたが事実だ。『生きやすそうな時代がここでね。タイムパトロールに見つかったら歴史改変という大罪でしょっぴかれるがまあ、この程度ならとやってるんだな』と言っていたぞ」
何とも言えないという渋い顔をするジャックを無視して話を続ける。
「それからは虐殺だ。屋敷の人間を殺してやった。怒りのままにな。老若男女、罪の有無何も問わずに」
ロゼが虐殺を品がないと言っていたのは実体験かと納得しつつ、話を聞く。
「元凶が死んでいたとしても暴力を振るってから気が済むまで斧でバラバラにしていたよ。全身血濡れの自身が血溜まりに映った姿を見て正気に戻った。痕跡を消す為に身体の爆発物を全部使って更地にしてやったよ」
「元凶共々全て葬ったのか。忌々しきもの全て」
「そう。復讐なんて虚しいというが私は笑った。一日中、声が枯れるまで。反動で二週間の間は虚無に苛まれていたがな。何を目標に?となったが第二、第三の私を生まなければいいという考えが浮かんで殺しを続けた。だが、殺しなど高尚なものかと自問自答したがもう引き返せない私は一家惨殺もした。老若男女問わずに殺す仕事。自棄と正気を繰り返していた。根本は狂っていたんだ。お父様との記憶と生きろという言葉がなければとうの昔に自害を選んでいる」
ジャックは生きろという言葉は呪いなのではと口にしかけたがそんな事を言ったらやっと分かってきたロゼが遠くに行ってしまう。そんな気がして口をつぐむ。ロゼは察したのかジャックの元へ歩む。
「言え、その言葉を。ナイフだろうと賛辞だろうと喜んで受け取ろう」
ジャックは首を横に振った。
「素直なジャックが好みだと言っただろう。貫くなら貫け。持ち上げるなら持ち上げろ。恐怖心などないぞ」
歩みを進めて顔を覗き込むロゼ。どうしても言わせたいらしいがジャックは断固拒否して、とある条件を口走った。
「俺の復讐が済んだら言ってやる」
そして、沈黙が場を支配した。ジャックは口を押さえる。これは所謂、死亡フラグ。なんて事を、と真っ青になる。最悪を回避したつもりが結局別の最悪を引いたと。ロゼはなんて事ないと笑う。
「楽しみにしているぞ」
それだけ言うと長話で冷めた朝食を口に運んでいく。
―
「ジャック、銃は持ったな?」
「不備はありません」
ロゼの黒薔薇の執行者としての仕事。実物は初めて目にする。そして、復讐に終わりを告げる。心臓の鼓動が早い。涼しい顔をしろと言われても難題を容易く言ってくれるなとなっていた。
―
ジャックがマフィアと出会ったのは金がなく、食事すらまともに買えず、空腹で死にかけていた頃。このままひもじく死んでいくのかと段ボールを齧っていたら身なりのいいスーツの男に声を掛けられた。
「良い仕事がある」
そうしてやった仕事は運び屋。前金代わりにもらったパンと水を胃に流し込んで、初仕事をこなした。同じような仕事をこなしていき、懐が食うだけなら困らない程になった頃にジャックに罪を擦り付け、新たに得たシマで商売をするという話を聞き、ジャックは正面から突っ込んでいき、文句を口にすると顔を切られてから、銃弾を腹部に受けた。そして、ゴミ山の上に投げ捨てられていたという訳だ。
「(使い捨ての死に損ないがお前達を破滅させる。覚悟しろ)」
ジャックがループタイを握っているのをロゼは見逃さなかった。
―
舞う。可憐に。飛び散る血は彼女を彩る紅。動揺する下っ端の叫びなど耳に入らない。洗練されたその動きに言葉を失って立ち尽くすジャック。得物はジャックに突き付けたナイフ。ダガーというらしく諸刃の短剣だという話を一ヶ月の生活の中の雑談で聞いていた。フリルのついたスカートが宙をひらめく度に蝶の羽ばたきの様に見えた。黒い蝶。蝶には死のイメージがつきまとうそうだがスカートと同じくフリルがついた広がった袖口、雑談で聞いたがベルスリーブというらしい。それが広がり、ヒラヒラと靡くと死体が増えていく様は最初にロゼが口にした死神という単語も相応しい。制圧し終わったロゼに声を掛けられて、ハッとする。
「まだまだ序盤だぞ。それとも…」
ロゼはクククと笑う。
「小僧には刺激が強かったか」
素直に頷くとそうかそうかと返答が帰って来た。確かに死とは縁遠い人生を送ってきた。友人などいなかった為に見送った事もない。親の面など知らない。それに殺しの現場など見慣れている訳がない。恐怖、不快感、混乱などが襲ってくると思ったがロゼの動きに心を奪われていた為になんて事はない。死体を踏みつけていても何も感じない。
「才能あるかもしれんぞ」
次の部屋に踏み込む前にロゼから一言。殺しの技術を学んでロゼの弟子になるのが相応しいのかとも思ったがそれは違うなと瞬時に思った。考えているうちにロゼは駆けており、既に2つの死体が出来上がっていた。
―
「死に損ないが生きていた?馬鹿!それよりも黒薔薇の執行者を仕留めろ!」
「数を揃えても…すぐにやられていきます!」
「逃走経路を…」
「駄目です!設備は把握され、蟻一匹すら逃げられません!」
「ぐぅ…あの伝説を雇うなんて…あの薄汚い負け犬がっ!何があったというのだ!」
「!ボスをまも…」
連絡係の首が飛ぶ。
「ご機嫌麗しゅう」
ロゼがスカートを持ち上げて、一礼する。銃を向けられるが全く怯んでいない。
「撃たないんですの?」
フフフと嗤う。圧倒的な強者の存在にジャック以外の存在は恐怖して動けない。
「俺の事は覚えているか?この顔の傷。忘れた事はなかった」
「使い捨ての駒など…覚えてい…いない!」
「そうか」
ロゼが舞うとあっという間に死体が4つ出来上がった。
「貴方だけですわ」
ロゼはスカートから投げナイフを取り出して、投擲する。飛んでいくナイフは的確に四肢を貫く。
「ジャック、構えろ」
胸元からデリンジャーを取り出すと、両手で構えて、狙いを定めた。
「眉間と心臓だ」
「ま、待ってくれ!金だろう?そうだろう?」
二人とも何も答えない。
「深呼吸をして、感覚を狙う事に。殺すという断固たる意思で撃て。喚き声などに一切耳を傾けるな」
ジャックは深呼吸をする。過去を回想し、コイツさえいなければと復讐心を強めるがコイツがいなければロゼと出会う事もなかったなと思うと笑いが込み上げてきて、大きく笑った。
「ジャック…?」
流石のロゼも急に笑い出したジャックの姿に動揺を隠せない。そんなロゼの顔など見る事もなくジャックが発した言葉はこれだった。
「数奇な巡り合わせに感謝を。復讐に鉛弾を」
ジャックの放った弾丸は眉間と心臓をキチンと撃ち抜いた。