表示設定
表示設定
目次 目次




第百九十九話

ー/ー



 レイジーの装甲は、実に和装そのまま。しかしその中にも近代、あるいは近未来の技術が取り入れられている、和洋折衷の体現者であった。アメリカ生まれの彼女であったが、日本の文化は何より大好きなため、ある種本人の意向が反映されているのかもしれない。
 その仮説を裏付けるように、赤や朱色など、様々な暖色にてカラーリングされた、男物と女物の豪華絢爛な着物モチーフな紋様が記されている。若干甲冑をメカメカしくしたようなデザインが特徴的である。ところどころに金の装飾が施されているものの、必要最小限に抑えられている。ひもじい民草に金銀財宝をばらまく、噂に違わぬ義賊としての一面が反映されたものであった。
 さらに、頭部装甲も中々の凛々しさであり、唐草模様が軽度ではあるがサイドにあしらわれており、覆い隠された口元には、煙管≪キセル≫を思わせる装飾。そこから何をたしなむでもないが、煙が常時出ているため遊び心も十分であった。
 全体的に暖色な理由は、彼が釜茹でになった時をイメージして力を開花させたからこそ。そのため、頭部装甲から脚部装甲に至るまで、超合金を思わせるような硬質材料を用いた魔力装甲であったが、端々に炎が揺らめくような、消えてしまいそうな危うさを持ち合わせていた。実際はそんなこと、本人の命が尽きる場合以外有り得ないのだが。
「しっかし……ひっさしぶりだ。しばらく生身で戦い続けてきたからさ……君たちにも明かしたことはないし、そこん所は大きなアドバンテージゲットだ」
 肩慣らしと言わんばかりに腕を大きく回し、久しぶりの英雄としての戦いの前に準備運動を重ねていたのだ。そしてそのタイミングを好機≪チャンス≫だと考えた一人が、レイジーに突っ込んでいく。手には怪人の歪んだ魔力によって強化された忍び刀、たった一振りのみ。
『しゃらくせえ、正面突破一択だろ!!』
 徐々に肥大化し、筋骨隆々という言葉以上が必要になるほどの、丸太のような腕を全力で振るい、刀を圧し折る勢いでレイジーに迫る一人。
 しかし。レイジーはそれをたった一撃で地面に叩きつけた。しかも、超高温の炎を纏った、愛以外に込められたものはない、研ぎ澄まされた拳骨であった。その男は頬に焼け焦げた拳の跡をありがたく貰い、その一撃で脳を完全に揺さぶられ、完全に意識不明の重体となったのだった。
「さ、次は?」
 不敵に笑むレイジー、そんな彼女の鼻っ柱を折るべく、幹部の四人以外がレイジーに特攻していくのだった。
 四方八方だけでなく、視界の内の死角すら網羅する、刃の応酬。しかしそれらが完全に彼女を取り囲む前にその場を跳躍。
 すぐさま追い立てる一行であったが、しかし。一切の狂いなく愛情こもった拳骨が与えられていく。怪人化でタフネスが圧倒的に上昇しているのにも拘らず、たった一撃で勝負を終わらせるレイジー。幹部四人は静かにその構図を見ているだけであった。
 だが、強者はそれだけでは終わらない。高みの見物をしていた幹部三人が、一瞬にして拳骨を叩き込まれ呆気なくダウン。辺りに熱風が吹き荒れる。
「――頭目。アンタ……ベース能力は炎か」
「そのとーり。下手やってると――すぐ死ぬよ」
 レイジーにとっては、中身が元大人だろうと、まだ更生余地のある子供のようであった。それでも救えると、心から脅せばどうとでもなると思ったのだ。
 子供に還りたい願望があるなら、それは死に対して圧倒的な恐怖心を抱く根源的欲求が巣食う以外には特にない、歪んだものは根底には存在しない。

 そんな思い込みが、レイジーの完全なる油断であったのだ。

 殴り飛ばしたはずの幹部三人が、液状化しながら藤吉に集結していく。そのまま装甲越しに殴り飛ばさんと、乱暴な拳を繰り出す。
 相手とは違い、装甲を纏っているから大丈夫。そんな当たり前に、本能で恐怖を感じ取ったレイジーは、上体をひどく反らし避ける。
 その無防備となった胴体に踵落としを繰り出すも、仰向けで倒れ、即座に横に転がって回避。
 しかし、その回避した時の隙を見逃すはずもなく、咄嗟に迫り拳のラッシュを叩き込む。
 何とか全てを防ぎきるも、その衝撃に違和感を抱いたのだ。
「――なんで、変身もしていないのにここまでの身体出力があるの?」
「単純だろ、今飲みこんだ奴らは……既に死んでる。アンタ……しっかり『現実逃避』してるのな」
「……え、え――え??」
 覚えていない。ただ、本能で記憶を封じ込めているだけ。
 忍者たちがどれほど優れた技術を保有していようと、表面上の傷や軽い病気はどうとでもなるが、重大な病気に関してはどうしようもない。ある程度のサバイバル技術はあっても医療免許を持っているわけではないのだ。
「――ほの花も、瞳も、秀次(ヒデツグ)も。皆死んだ。普通なら喜ぶはずの事実に絶望しやがって、とんでもねえ軟弱者だった」
 別に無い記憶を武器に戦っているわけではない。それはレイジーの反応から理解できるだろう。
 遡ること数か月前、三人はどこからか齎された重病かつ奇病により、三人とも不審死を遂げていた。自身の管理不行き届きを嘆いたレイジーは、自分自身に絶望しながら、「二度とこのようなことが無いように」と鋼の精神と共に子供たちと向き合った。
 しかし、待ち受けていたのは今生きる子供たちの九割が元大人であること。
 三人が、重病や奇病などではなく、自身がこうなった経緯を知ったゆえの自殺であること。厳密に言うならば、それぞれがそれぞれを殺したのだが、あくまでそれは同意の上で。英雄に殺害される以外に、あの十殺場で殺される以外に流転の呪いを回避するには……同種に殺されることだった。
 ただ、藤吉はそれすら利用した。己の出力を上昇させるために。自分の願い、自分の夢を叶えるために、
「俺はこの三人の力を継承したのさ。成長する余地ってのを、現支部長に具現化してもらった。今までアンタが見ていたのは、実体はあってもそこに命はない、ただの死体以下の何かだ。あるはずの無いヤツを作り出す人体形成技術は――この県の十八番だからな?」
 全ては、レイジーを蹴落とした存在による悪意の塊。フラッシュバックを起こさせることで、ここで彼女を殺す算段であったのだ。
「もうアンタは……何も成すことのできない無能な存在だ。頭目と慕っていたのは形だけ、あるいは現実逃避し始めた軟弱な輩だけ……結局は、アンタは全てを知りながら何も是正することが出来なかったんだよ」
 藤吉が手にしているのは、チーティングドライバー。誰かの絶望を希求し続ける、究極の性悪から齎された悪意そのもの。それを元に、恩知らずが眼前の元頭目に手を掛けんとしていたのだ。
「アンタは……俺が感謝と殺意持って、悔いの残るように殺してやる。俺らの楽園を、アンタらの正義マンでありたい一意で崩されてたまるか」
 ドライバーを装着し、あるライセンスを手に取る。そこに描かれていたのは、浦島太郎の意匠が施されていたのだ。
『認証、欲に塗れた男、浦島太郎――竜宮城にて暮らし続けることを決めた男は、あらゆる欲に身を任せることとなる……』
 ドライバー側面から挿入すると、辺りに満ち始めるのは蛤の幻覚が生み出す靄。一息に吸い込めば、下手な麻薬など嗤えてしまうほどに快楽を味わえる成分が満ちている。
「――変身」
『Crunch The Story――――Game Start』



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第二百話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 レイジーの装甲は、実に和装そのまま。しかしその中にも近代、あるいは近未来の技術が取り入れられている、和洋折衷の体現者であった。アメリカ生まれの彼女であったが、日本の文化は何より大好きなため、ある種本人の意向が反映されているのかもしれない。
 その仮説を裏付けるように、赤や朱色など、様々な暖色にてカラーリングされた、男物と女物の豪華絢爛な着物モチーフな紋様が記されている。若干甲冑をメカメカしくしたようなデザインが特徴的である。ところどころに金の装飾が施されているものの、必要最小限に抑えられている。ひもじい民草に金銀財宝をばらまく、噂に違わぬ義賊としての一面が反映されたものであった。
 さらに、頭部装甲も中々の凛々しさであり、唐草模様が軽度ではあるがサイドにあしらわれており、覆い隠された口元には、煙管≪キセル≫を思わせる装飾。そこから何をたしなむでもないが、煙が常時出ているため遊び心も十分であった。
 全体的に暖色な理由は、彼が釜茹でになった時をイメージして力を開花させたからこそ。そのため、頭部装甲から脚部装甲に至るまで、超合金を思わせるような硬質材料を用いた魔力装甲であったが、端々に炎が揺らめくような、消えてしまいそうな危うさを持ち合わせていた。実際はそんなこと、本人の命が尽きる場合以外有り得ないのだが。
「しっかし……ひっさしぶりだ。しばらく生身で戦い続けてきたからさ……君たちにも明かしたことはないし、そこん所は大きなアドバンテージゲットだ」
 肩慣らしと言わんばかりに腕を大きく回し、久しぶりの英雄としての戦いの前に準備運動を重ねていたのだ。そしてそのタイミングを好機≪チャンス≫だと考えた一人が、レイジーに突っ込んでいく。手には怪人の歪んだ魔力によって強化された忍び刀、たった一振りのみ。
『しゃらくせえ、正面突破一択だろ!!』
 徐々に肥大化し、筋骨隆々という言葉以上が必要になるほどの、丸太のような腕を全力で振るい、刀を圧し折る勢いでレイジーに迫る一人。
 しかし。レイジーはそれをたった一撃で地面に叩きつけた。しかも、超高温の炎を纏った、愛以外に込められたものはない、研ぎ澄まされた拳骨であった。その男は頬に焼け焦げた拳の跡をありがたく貰い、その一撃で脳を完全に揺さぶられ、完全に意識不明の重体となったのだった。
「さ、次は?」
 不敵に笑むレイジー、そんな彼女の鼻っ柱を折るべく、幹部の四人以外がレイジーに特攻していくのだった。
 四方八方だけでなく、視界の内の死角すら網羅する、刃の応酬。しかしそれらが完全に彼女を取り囲む前にその場を跳躍。
 すぐさま追い立てる一行であったが、しかし。一切の狂いなく愛情こもった拳骨が与えられていく。怪人化でタフネスが圧倒的に上昇しているのにも拘らず、たった一撃で勝負を終わらせるレイジー。幹部四人は静かにその構図を見ているだけであった。
 だが、強者はそれだけでは終わらない。高みの見物をしていた幹部三人が、一瞬にして拳骨を叩き込まれ呆気なくダウン。辺りに熱風が吹き荒れる。
「――頭目。アンタ……ベース能力は炎か」
「そのとーり。下手やってると――すぐ死ぬよ」
 レイジーにとっては、中身が元大人だろうと、まだ更生余地のある子供のようであった。それでも救えると、心から脅せばどうとでもなると思ったのだ。
 子供に還りたい願望があるなら、それは死に対して圧倒的な恐怖心を抱く根源的欲求が巣食う以外には特にない、歪んだものは根底には存在しない。
 そんな思い込みが、レイジーの完全なる油断であったのだ。
 殴り飛ばしたはずの幹部三人が、液状化しながら藤吉に集結していく。そのまま装甲越しに殴り飛ばさんと、乱暴な拳を繰り出す。
 相手とは違い、装甲を纏っているから大丈夫。そんな当たり前に、本能で恐怖を感じ取ったレイジーは、上体をひどく反らし避ける。
 その無防備となった胴体に踵落としを繰り出すも、仰向けで倒れ、即座に横に転がって回避。
 しかし、その回避した時の隙を見逃すはずもなく、咄嗟に迫り拳のラッシュを叩き込む。
 何とか全てを防ぎきるも、その衝撃に違和感を抱いたのだ。
「――なんで、変身もしていないのにここまでの身体出力があるの?」
「単純だろ、今飲みこんだ奴らは……既に死んでる。アンタ……しっかり『現実逃避』してるのな」
「……え、え――え??」
 覚えていない。ただ、本能で記憶を封じ込めているだけ。
 忍者たちがどれほど優れた技術を保有していようと、表面上の傷や軽い病気はどうとでもなるが、重大な病気に関してはどうしようもない。ある程度のサバイバル技術はあっても医療免許を持っているわけではないのだ。
「――ほの花も、瞳も、|秀次《ヒデツグ》も。皆死んだ。普通なら喜ぶはずの事実に絶望しやがって、とんでもねえ軟弱者だった」
 別に無い記憶を武器に戦っているわけではない。それはレイジーの反応から理解できるだろう。
 遡ること数か月前、三人はどこからか齎された重病かつ奇病により、三人とも不審死を遂げていた。自身の管理不行き届きを嘆いたレイジーは、自分自身に絶望しながら、「二度とこのようなことが無いように」と鋼の精神と共に子供たちと向き合った。
 しかし、待ち受けていたのは今生きる子供たちの九割が元大人であること。
 三人が、重病や奇病などではなく、自身がこうなった経緯を知ったゆえの自殺であること。厳密に言うならば、それぞれがそれぞれを殺したのだが、あくまでそれは同意の上で。英雄に殺害される以外に、あの十殺場で殺される以外に流転の呪いを回避するには……同種に殺されることだった。
 ただ、藤吉はそれすら利用した。己の出力を上昇させるために。自分の願い、自分の夢を叶えるために、
「俺はこの三人の力を継承したのさ。成長する余地ってのを、現支部長に具現化してもらった。今までアンタが見ていたのは、実体はあってもそこに命はない、ただの死体以下の何かだ。あるはずの無いヤツを作り出す人体形成技術は――この県の十八番だからな?」
 全ては、レイジーを蹴落とした存在による悪意の塊。フラッシュバックを起こさせることで、ここで彼女を殺す算段であったのだ。
「もうアンタは……何も成すことのできない無能な存在だ。頭目と慕っていたのは形だけ、あるいは現実逃避し始めた軟弱な輩だけ……結局は、アンタは全てを知りながら何も是正することが出来なかったんだよ」
 藤吉が手にしているのは、チーティングドライバー。誰かの絶望を希求し続ける、究極の性悪から齎された悪意そのもの。それを元に、恩知らずが眼前の元頭目に手を掛けんとしていたのだ。
「アンタは……俺が感謝と殺意持って、悔いの残るように殺してやる。俺らの楽園を、アンタらの正義マンでありたい一意で崩されてたまるか」
 ドライバーを装着し、あるライセンスを手に取る。そこに描かれていたのは、浦島太郎の意匠が施されていたのだ。
『認証、欲に塗れた男、浦島太郎――竜宮城にて暮らし続けることを決めた男は、あらゆる欲に身を任せることとなる……』
 ドライバー側面から挿入すると、辺りに満ち始めるのは蛤の幻覚が生み出す靄。一息に吸い込めば、下手な麻薬など嗤えてしまうほどに快楽を味わえる成分が満ちている。
「――変身」
『Crunch The Story――――Game Start』