一対一ブラックジャックのルールは、大雑把には先ほどと大体一緒の物。
しかし、信一郎によって変更されたルール、追加されたルールは少なからず存在する。
一・カードはジョーカーを覗いた全五十二枚。
二・ディーラーとの勝負は存在せず、プレイヤー同士の戦いとなる。二十一に近い方の勝利となり、合計数字が同数であった場合は枚数の多い方、あるいは手札の最大数字によって勝敗が決まる。
三・スピード感あふれる勝負のため、ベット上限金額は先ほどよりも上昇し、連勝した際の上限額も上昇する(二千枚、五千枚、一万枚の順)。思考時間も制限を設ける。
四・通常は互いの手札が見えた状態であったが、一切見えない状態となる。
五・イカサマ指摘成功時の金額上昇(五千枚から五万枚に)。
六・特別ルールとして、相手の持つ手札によって最終的に成立した合計数字を的中させると、無条件で五万枚獲得できる。それをそのまま上限額とは別にベットすることも可能。
七・相手の動揺を誘うために、会話をすることは自由。
以上が追加、変更ルールの数々。現行のブラックジャックから、プレイヤー同士で殴り合うために進化した、騙し合いのゲームである。
二人、向かい合った状態でディーラーからトランプを二枚、特殊効果カードを一枚ずつ受け取り、一対一ブラックジャックが始まる。お互いに上限額二千枚を賭け、勝負開始。
信一郎の手札は、九とキング。合計数字は十九であり、定石通りならここでスタンドをする。しかし、信一郎はそんな状況でも勝負師として生きる覚悟を決めていたのだ。伏せられていた特殊効果カードの効果内容を一瞥すると、不敵に笑んで宣言する。
「一枚を、ダブルダウンで」
その言葉とともに、二千枚ベット金額に上乗せ。それと共にカードを一枚だけ受けとる。そのカードは、三。合計数二十二となり、通常ならバースト。しかし、信一郎には考えがあったのだ。
紫は、信一郎の瞳を見物するように、一つ大きな息を吐く。
「――何ですか、ずいぶん自信ありげではないですか」
「まあね。もしかしたら私はブラックジャックかもしれないよ?」
ブラフを仕掛ける信一郎であったが、紫はそれに易々と乗っかるような存在ではなかった。
「ヒット、一枚です」
カードを受け取った紫は、信一郎と共に即座にカードを開示する。それぞれ合計数二十二と二十五。その場にあったのは、合計数字が二十一をオーバーしたもの同士であった。
「あれま、お互いにバーストしちゃったね。んじゃ引き分けってことで」
「……多分ですが、特殊効果カードが――同じでしたね」
二人同時タイミングで表にした特殊効果カードの中身は、お互い「自分の手札がバーストしている際にのみ発動可能、相手がバーストでない限りそのゲームに無条件で勝利する。バースト同士の場合は
引き分けとなる」というものだった。
「このカードもまた……私は作った覚えがありません。一歩間違ったらすぐに終わる、何とも末恐ろしいカードを用意するものです」
「ちなみに、これは先ほどの休憩時間に私が仕込んどいた奴。ブタがブラックジャックに勝てるだなんて――ロマンじゃあないかな」
得意げに笑う信一郎をよそに、そんな勝つも負けるも紙一重な勝負を楽しむ信一郎に、少々ながら畏怖の感情を抱いていた。引き分けだったため、チップ数の増減は無かった。
続く第二ゲーム。お互いに上限二千枚をベットし、トランプ二枚と効果カード一枚が伏せて渡される。
紫の手札は、実に強かった。合計数十あるいは二十となるエースと九の組み合わせ、そこに効果カードである「手札の合計数字に一をプラスする」というもの。すぐさまカードを提示しようとした瞬間、そんな内心沸き立つ彼女を、信一郎が穏やかな笑みを浮かべながら見つめていたのだ。
「――何ですか、貴方は既婚者でしょう」
「まあね。亡くなってしまったが、最愛の妻以外に相手は作らない主義でね。意外と一途なんだ、私」
実に和やかな話題をしていた二人であったが、信一郎は満面の笑みで呟いた。
「紫さ、そのカード使ったら二十一になるでしょ」
動揺こそ一切しない。あくまでブラフ、当て勘で数字を宣言し、心の弱い者の視線を少しでもずらし、確定させるための人心掌握術の初歩。一切視線も心もブラすことなく、にこやかに笑って見せた。
「――だとしたら、どうなんですかね」
信一郎の言葉の刃をかいくぐりながら、特殊効果カード発動を宣言。これにて二十一の成立。今からでも開示した方が彼女にとって有利であったが、それほどの焦りを見せた瞬間に数字を宣言される。じっくりと追い詰めることに決めた。
しかし。そんな紫の手の内を分かっているかのように、信一郎はその場で手札を開示。初手で、エースとジャックが手元に来た結果、ブラックジャックが成立していたのだ。
「特殊効果カードを使用した時点で、一手使用した。その時点で、君は負けていた。ハナから成立していた私に、どう足掻いても敵わなかったのさ。それに……結局私の『当て勘』は合っていたみたいだし……どんなもんよ」
払い戻しは二千枚の三倍返し、六千枚によって信一郎の手持ちは当初の一万枚に戻る。紫は二千枚失い、合計二万五百枚。
ここから、信一郎の反撃が始まったのだった。