第四ゲーム。連勝数の途絶えた紫と共に、ベットしたチップ数は千枚。信一郎に配られた手札は七と四、特殊効果カードはその時が来るまで開きはしない。紫は五と三、それと特殊効果カード。ディーラー側が開示するのは先ほどと同じくエースであった。
先ほど意図的に狂人を演じた信一郎の影響もあり、攻めたコールをすることはしなかった。それは信一郎も同じであった。
「ヒット、無論一枚ね」
信一郎の元に渡った手札は、九。合計数字は二十であった。
「じゃあ、このゲーム初めての途中でスタンドね。手堅くいかせてもらおうかな」
紫は一枚ヒットを宣言し、渡った手札は信一郎と同じ九であった。合計数字は十七、通常であれば弱い手札であった。そのため、特殊効果カードを用いるか、このままヒット宣言するかの現状二択。劣勢に立たされていたのだ。
頬に手を置きながら、悩む紫であったが、その場で宣言したのはヒット。渡った手札は四。二十一の成立により、信一郎に勝利した。
「やるねえ、特殊効果も使わず。本当に運ゲーが得意なんだ」
「どれほど私が、この戦場で戦ってきたと思っているんですか」
不敵に笑む紫。そんな彼女の根拠しかない自信を裏付けるように、ディーラーの場はエースと五、合計数字が十七に満たないため自動的にカードを引き続ける。結果、次のカードを引いた瞬間、六が現れ合計数字二十二、バーストとなった。
紫の勝利となり、ベットした千枚の二倍、その払い戻しを行っているとき。信一郎が伏せていた特殊効果カードを開く。そこに書かれていた内容は、信一郎に『原初の英雄』らしからぬ、悪い笑みを浮かべさせるには十分なものであった。
「――基本的に、このカードに頼りすぎるのはどうかなとか思っていたけれど……これは結構面白そうだ」
そのカードを提示された瞬間、紫の表情が一変する。
「……おかしい、そんなカード……私は用意してないです」
「だろうねェ。なんかそんな気はする。ここまでルールを破壊する方へシフトするカードなんて、君がこのルールを作る時点で絶対に用意しない確証がある。『憎たらしい存在』が何となく臭うが――今回ばかりは感謝かな」
そこに記されていた文言は、掟破りも掟破り、それらを通り越したルールブレイカーであった。
「好きなルールを今後一生無効化、その代わりに一つの新たなルールを設定し、新たなカードゲームを提示できる」。そのカードによって、信一郎は一つの宣言をするのだった。
「じゃあ……決まっていたルールの内――ディーラーにまつわる物全てとイカサマコールについて……そして、絵札が封じられた現在のカード制限の完全無効化を、この場を以って宣言しようか」
それすなわち、通常ならゲームの取り仕切りを担当するディーラーを、本当の意味でディーラーだけの役職に徹させて、今まで絵札を禁じてきた、シックスアンダーを作り上げた者が完全有利となる特別ブラックジャックの終焉を命じたのであった。
「そうだなあ……新たなゲームを作る気はさらさらなかったが……この状況はこう命名するしかないだろうね」
信一郎が、ディーラーがいた場所に椅子を移し、二人のギャンブラーが向かい合う。
「――『一対一ブラックジャック』、ってのはどうだろうね」
現在チップ数は、紫二万二千五百枚、信一郎八千枚。勝負が大きく動き出した。
ルールは至極単純、これまでの特別なブラックジャック同様、プレイヤー同士で競い合うルールである。しかし、これまでと違う点はディーラーとは戦わず、さらに今まで扱ってこなかったジャックからキングまでの絵札が解禁される点にある。
まず、これまではある程度の『運』があれば、シックスアンダーを出すことはある程度可能な範囲内であった。それもそのはず、数の多いカードが圧縮され、低いカードを引く期待値がある程度高かったのだ。しかし、これがいつも通りのカードの並びを使用するとなったら、そんなことはまず言ってはいられない。
本来、シックスアンダーは連発されるようなものではない。レアリティの高い役であるからこそ、本来のルールで「出したら無条件でディーラーに勝利」と言われているのだ。
しかし、それだけでは終わらない。一対一ブラックジャックの本質はそこだけではなかった。
「――これまでの様子を見るに、トランプや特殊効果カードにイカサマをしていないことがよーく理解できた。そして……以前から思ってはいたが、アクションを起こす際に『癖』があることも。それを未然に防ぐためにも――スピード感溢れる戦いにしたいんだ。いいかな?」
「……それで、貴方が納得するのなら。貴方の提示したルール、そして新たなゲームにて……完膚なきまでに敗北させてあげましょう」
お互い、十五分の休憩時間を用意され、その間に使用ゲームが変わっていくのだった。