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第百九十四話

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 第三ゲーム。一つの仮説に至った信一郎の手札は、二と三。特殊効果カードについては一切見ないようにしていたため、ただ手札を揃えることに集中することにしたのだ。紫の手札は五と四。ディーラーは、初手で明かされている手札はエースであった。
「――特殊カード、使わないのですか?」
「まあね、何だろう……これ使わなくても揃えられる気がするんだ。あくまで――勘だけどね??」
 そう語る信一郎は、なんと初手で六枚を一息にヒット宣言。紫ですらしなかった破天荒なプレイングに、平静を保ち手櫛をしていた彼女は、ほんの少し目を見開く。
「ちょっと(きみ)の真似をしてみようと思ってね……実際にどうなるのか、って実験さ」
 そうして配られた手札は、案の定バーストする。それぞれ九、七、二、五、四、一で、合計数字は三十三。このまま特殊効果カードを確認して、何もなければこのゲームにおいて信一郎の敗北は確定するのだが――信一郎はそのカードを紫に向かって見せたのだ。
 普通なら、こういった特殊能力のあるカードを開示すると、自分が不利になる未来以外見えないのにも拘らず――信一郎の表情は、どこか挑戦的であった。
「ねえねえ、紫。今このカードに『なんて書かれている』??」
「――何のつもりかしら?」
「いやね、ワンチャンこのカードに細工している可能性もあったからさ。コールしてよ、なんて書いてあるか」
 そこで告げられたカード内容は、「手札のうち、自分の好きな枚数トラッシュする」というもの。それを聞いて、信一郎は満面の笑みで今引いたカードの内四枚、一と二、四と五を全てトラッシュ。合計数字は二十一でフィニッシュとなった。
 紫のヒット枚数は、先ほどまでの強気なものと違い、一枚ずつのコールとなった。
「――なに、あろうことか世界的に著名なギャンブラーが……やること『積み込み』だった訳? イカサマの中でもずいぶん古典的じゃあないかな。立地条件もそれに適しているわけだし……これはあくまで五千枚目当てでもあるが――違うかな?」
「それに関しては、違うと……はっきり明言させてもらうわ」
 信一郎が言葉によって状況を惑わす中、紫に渡ったカードは九。合計数字は十八であり、普通の戦略ならここでスタンドを選択することが最善。ディーラーがエース持ちではあるが、ここで役を立てないとバーストの危険性が付きまとう。
 しかし。紫は一切の迷いなくもう一枚増やす選択を取る。その結果。
 渡ったカードは三。二十一の成立により、お互いの勝負はドロー。ディーラーの場はエースと七であったため、合計数十八。ディーラーには勝利したものの引き分けのため、連勝数はリセット。チップの増減は無かった。紫が二万千五百枚、信一郎が八千枚であった。
 だが紫の発言から、何かしらの細工(イカサマ)を施していることが確定し、信一郎の中で一歩進歩した瞬間であった。

 次のゲームの準備をしている中、信一郎は紫の様子をじっと観察していた。
 だが、特に変わった様子はない。カードの順番を自分勝手に組み替える、傀儡のプログラミングを行っている可能性もあったが、第三ゲームの信一郎の予想外ともいえる動きによって、その古典的イカサマはバレる危険性が孕むため、仕込む確率は大いに低い。下手を打って五千枚渡すよりも、手堅く勝利を掴み既存の勝利ボーナスである二倍金をつかみ取るのが先決である。
 どちらにせよ、何かしらの物理的なイカサマを仕込むのは、信一郎の読めなさを考えるに非常に難しい。望むほどのリターンが来ない可能性の方が圧倒的である。
(特殊効果カード、それに関しても確認したが結局のところシロ。咄嗟にカードがすり替わっている、効果内容が変わっているだとかはなさそうだ。現に――あのカードに感じるものは無かった。魔力の一片たりとも感じられなかった)
 そうなってくると、一見嘘のような仮説ではあるが現実味を帯びてきたのは、『本当に運がいい』という可能性。
 もし積み込みを行っていた場合、先ほどわざと紫がシックスアンダーを組めないように六枚ヒットを宣言した時、もう少しリアクションを取るはず。しかし、彼女の反応は『ルール的に無駄な行為を行った』信一郎に対して驚いているようであった。
「――失礼、ディーラーさん。トランプの内容を全て見せてもらってもいいだろうか」
 あくまで確認のために、意思なき傀儡であるディーラーから渡された四十枚のトランプ。そこには、一切の魔力を帯びている様子はない。魔力で動いている傀儡が触れた分だけの、実に些細なものは感じ取ることが出来るが、それがイカサマに関係しているとは到底思えなかった。
 さらに、カードの並びにも一切の規則性は感じられない。カードが配られる順番は信一郎、紫、ディーラーの順番であったが、それぞれ二枚ずつ配り、先ほどのような掟破りな複数枚ヒットしたとしても……必ず二十一の成立やシックスアンダーが確定で成立するわけではない。
(しかも、このカードに触れても一切狼狽える様子が無い。こりゃあトランプもしっかり外れだ。私もそう思ってはいたが……タネは一切仕込まれていない)
 マジシャンが観客等に最初に触らせる、あからさまに怪しいもの。しかし、そこには決まってタネは仕込まれていない。万が一、不用意にタネに触れられたらマジック自体がおじゃんとなってしまうためである。今回もそれと同じ。
(――ってことは……『本当に運がいい』説が有力かも。こりゃあ面白くなってきた)
 デッキをディーラーに手渡しながら、再び席に着く信一郎。二人の間には、静かに火花が散っていた。



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 第三ゲーム。一つの仮説に至った信一郎の手札は、二と三。特殊効果カードについては一切見ないようにしていたため、ただ手札を揃えることに集中することにしたのだ。紫の手札は五と四。ディーラーは、初手で明かされている手札はエースであった。
「――特殊カード、使わないのですか?」
「まあね、何だろう……これ使わなくても揃えられる気がするんだ。あくまで――勘だけどね??」
 そう語る信一郎は、なんと初手で六枚を一息にヒット宣言。紫ですらしなかった破天荒なプレイングに、平静を保ち手櫛をしていた彼女は、ほんの少し目を見開く。
「ちょっと|紫《きみ》の真似をしてみようと思ってね……実際にどうなるのか、って実験さ」
 そうして配られた手札は、案の定バーストする。それぞれ九、七、二、五、四、一で、合計数字は三十三。このまま特殊効果カードを確認して、何もなければこのゲームにおいて信一郎の敗北は確定するのだが――信一郎はそのカードを紫に向かって見せたのだ。
 普通なら、こういった特殊能力のあるカードを開示すると、自分が不利になる未来以外見えないのにも拘らず――信一郎の表情は、どこか挑戦的であった。
「ねえねえ、紫。今このカードに『なんて書かれている』??」
「――何のつもりかしら?」
「いやね、ワンチャンこのカードに細工している可能性もあったからさ。コールしてよ、なんて書いてあるか」
 そこで告げられたカード内容は、「手札のうち、自分の好きな枚数トラッシュする」というもの。それを聞いて、信一郎は満面の笑みで今引いたカードの内四枚、一と二、四と五を全てトラッシュ。合計数字は二十一でフィニッシュとなった。
 紫のヒット枚数は、先ほどまでの強気なものと違い、一枚ずつのコールとなった。
「――なに、あろうことか世界的に著名なギャンブラーが……やること『積み込み』だった訳? イカサマの中でもずいぶん古典的じゃあないかな。立地条件もそれに適しているわけだし……これはあくまで五千枚目当てでもあるが――違うかな?」
「それに関しては、違うと……はっきり明言させてもらうわ」
 信一郎が言葉によって状況を惑わす中、紫に渡ったカードは九。合計数字は十八であり、普通の戦略ならここでスタンドを選択することが最善。ディーラーがエース持ちではあるが、ここで役を立てないとバーストの危険性が付きまとう。
 しかし。紫は一切の迷いなくもう一枚増やす選択を取る。その結果。
 渡ったカードは三。二十一の成立により、お互いの勝負はドロー。ディーラーの場はエースと七であったため、合計数十八。ディーラーには勝利したものの引き分けのため、連勝数はリセット。チップの増減は無かった。紫が二万千五百枚、信一郎が八千枚であった。
 だが紫の発言から、何かしらの|細工《イカサマ》を施していることが確定し、信一郎の中で一歩進歩した瞬間であった。
 次のゲームの準備をしている中、信一郎は紫の様子をじっと観察していた。
 だが、特に変わった様子はない。カードの順番を自分勝手に組み替える、傀儡のプログラミングを行っている可能性もあったが、第三ゲームの信一郎の予想外ともいえる動きによって、その古典的イカサマはバレる危険性が孕むため、仕込む確率は大いに低い。下手を打って五千枚渡すよりも、手堅く勝利を掴み既存の勝利ボーナスである二倍金をつかみ取るのが先決である。
 どちらにせよ、何かしらの物理的なイカサマを仕込むのは、信一郎の読めなさを考えるに非常に難しい。望むほどのリターンが来ない可能性の方が圧倒的である。
(特殊効果カード、それに関しても確認したが結局のところシロ。咄嗟にカードがすり替わっている、効果内容が変わっているだとかはなさそうだ。現に――あのカードに感じるものは無かった。魔力の一片たりとも感じられなかった)
 そうなってくると、一見嘘のような仮説ではあるが現実味を帯びてきたのは、『本当に運がいい』という可能性。
 もし積み込みを行っていた場合、先ほどわざと紫がシックスアンダーを組めないように六枚ヒットを宣言した時、もう少しリアクションを取るはず。しかし、彼女の反応は『ルール的に無駄な行為を行った』信一郎に対して驚いているようであった。
「――失礼、ディーラーさん。トランプの内容を全て見せてもらってもいいだろうか」
 あくまで確認のために、意思なき傀儡であるディーラーから渡された四十枚のトランプ。そこには、一切の魔力を帯びている様子はない。魔力で動いている傀儡が触れた分だけの、実に些細なものは感じ取ることが出来るが、それがイカサマに関係しているとは到底思えなかった。
 さらに、カードの並びにも一切の規則性は感じられない。カードが配られる順番は信一郎、紫、ディーラーの順番であったが、それぞれ二枚ずつ配り、先ほどのような掟破りな複数枚ヒットしたとしても……必ず二十一の成立やシックスアンダーが確定で成立するわけではない。
(しかも、このカードに触れても一切狼狽える様子が無い。こりゃあトランプもしっかり外れだ。私もそう思ってはいたが……タネは一切仕込まれていない)
 マジシャンが観客等に最初に触らせる、あからさまに怪しいもの。しかし、そこには決まってタネは仕込まれていない。万が一、不用意にタネに触れられたらマジック自体がおじゃんとなってしまうためである。今回もそれと同じ。
(――ってことは……『本当に運がいい』説が有力かも。こりゃあ面白くなってきた)
 デッキをディーラーに手渡しながら、再び席に着く信一郎。二人の間には、静かに火花が散っていた。