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第百九十一話

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 覚悟を決め立ち上がり、傍に脱ぎ捨てた白衣から、デバイスドライバー・シンとライセンス、そして見たこともないような分厚いライセンスを取り出した。
 辺りを見渡し、ある違和感を感じ取りながらそのライセンスを展開する。
「本当ならよ、これは本気の戦いにしか用いないもんだ。何なら、このフォームに変身するのは……それこそ現役ぶりだ。でも……このフォームは、疲労が段違いに大きいうえに、それほどに特別なもんだ。ありがたく思えよ」
 通称、マスターライセンス。核となるヒーローライセンスをマスターライセンス内蔵のスロットに装填し、そのエネルギーを十倍以上に膨れ上がらせ、物語の力を圧倒的にまで身にまとう。物語の力を借りて戦うのではなく、物語と共に戦う……いわば、『理論武装』の力である。
 手にしているマスターライセンスには、『新生百獣の王・狼王ロボ』。元々のロボの話をさらに発展させたもので、いわゆる「イフ」の力を纏うものである。
 本来ならシートンに狼王ロボの妻と称されたブランカを捕らえられ、囮かつ見せしめに絞殺されたことで、結果的に彼女を想っていたロボが冷静さを失い拘束された。その後かつての荒々しさを失いながらも、孤高さを失うことなく死んだ……そういった悲しいあらすじこそが通常の『狼王ロボ』だが、このマスターライセンスにしたためられた話は異なる。
 「イフ」、それすなわちブランカを喪わず、さらには人間の知恵を、力を超越した狼となったもの。彼は誰かを率いてその動物たちの軍を向かわせる……ということはなかったが、彼の凛々しく雄々しい姿に多くの動物たちが平伏し、背中だけを見てついていく。その結果、通常百獣の王と称されるライオンすら彼の後ろに付く、新たな百獣の王となったお話である。それこそが、清志郎のマスターライセンスに込められた物語の力であった。
「――行くぜ、狐川……一。お前は……本当にいい『極道』だ。だからこそ……送ってやる。前組長と――存分に酒を酌み交わしな」
「……!! ああ、清志郎さんも……いい奴だ!!」
 下腹部にドライバーを装着し、マスターライセンス内にライセンスを装填し、起動、及び展開。通常のライセンスと異なり、そのものがちょっとした小冊子のように大きいため、多少の威圧感を感じ取る。
『起動、新生百獣の王・狼王ロボ!! 傲岸不遜な人間を打倒し、新たな世界の頂点に君臨せし究極の獣王――ここに見参!!』
 ドライバー側面右側のプッシュ機構を即座に横展開、そこに鍵を差し込むようにマスターライセンスを荒々しく装填。装填されたマスターライセンスが、新たなプッシュ機構の代わりを果たすように。
 瞬時に、周囲にあらゆる動物たちのビジョンが現れる。しかし、これまでのものと違うのは、それらが鋼鉄で出来た装甲圧縮体ではないこと。しかし、清志郎の背後に雄々しく鎮座するロボは違った。超合金を思わせる寒色の輝きを放っており、全ての動物たちを雄叫び一つで統率する、それほどの大迫力を齎していた。
 さらに、辺りに絶対零度の冷気が満ち溢れ、動物たちが走り回る場全てが二度と解けない氷で覆われていく。しかしそれは動きを阻害するものではなく、それぞれが纏う鎧のようなもの。全て、これより降臨する王に仕える僕、あるいは騎士のように。仰々しい待機音と共に、清志郎の基本装甲が絶対零度の氷によって徐々に出来始める。
「――変、身!!」
 ライセンス型プッシュ機構とその逆、両側のプッシュ機構を激しく押し込み、腕を雄々しく広げ軽く俯く。
 すると動物たちが清志郎の周りに集い、ロボの雄叫びにより全ての動物たちが装甲のパーツへと変化、ロボとブランカも共に頷くと、清志郎のメイン装甲として形を変える。
 それぞれが意思を持ったように動き、一切の狂いなきようアシンメトリーの装甲へ。右側はロボとブランカを表す青と純白の狼、左側も大きな変化こそないものの、頭部装甲に動物たちのエッセンスが注入されていく。
The ultimate lone wolf king has joined forces with the strongest lone wolf!!(究極孤高の狼王が、最強の一匹狼と手を組んだ!!) イフスタイル・ユナイテッドウルフ!!』
 一歩歩くだけで、圧倒的な威圧感と爆発的なほどの冷気が押し寄せる。周りの影響を一切気にせず、全てを凍てつかせる。これまでの英雄の卵たちが変身し、怪人たちと戦ってきた出力をあざ笑うかのように、次第に魔力の影響が蓬莱エリアを飛び越え波及する。
「――久々だ。これほど生身が傷ついた状態で変身することも久しぶりだ……このフォーム自体に変身するのも実に久しい。だから……一瞬で終わらせる」
 即座にドライバー両端を押し込んで、魔力をさらに増幅させていく。辺りに先ほど装甲となった動物たちが新たな鋼鉄のビジョンとなり全員集合する。ロボとブランカのみいないが、清志郎がその現身となっているため、多くの動物たちを統率し、氷結の力を纏わせ向かわせる。
 さらに両端を押し込み、それら鋼鉄のビジョンたちの全エネルギーを左足に集中させていく。
『超絶必殺承認!! 氷狼極蹴撃・葬送(アイシクル・ウルフェンズ・レクイエム)!!』
 数多くのエネルギーの奔流。それを纏った飛び蹴りが、狐川の顔面を捕らえる――――はずだった。
 狐川の頬をかすめ、直撃したのは今にも後ろから襲い掛かろうとした林であった。あろうことか、男の勝負に水を差そうとした不届き者であったのだ。
「――さっきから気づいてはいた。元あった場所に転がってない死人同然の存在がいなかったんだ。激しい拳の打ち合いの中で、轟音鳴り響いていた中で。バラした銃をせっせと組み立てていたんだろ? この金の欲に負けたクソ卑怯者が」
 普通なら怪人に向けるはずの技を、一切の情け容赦なく林に向かって打ち放った。それほどに怒りを買っていたのだ。
「……最初、お前が居なかったら……俺は狐川を送ってやるつもりだった。男同士の正々堂々とした勝負を――終わらせるつもりだった」
 蹴りの勢い、そして魔力の奔流による推進力によって、林が堅固な壁を突き破り自身の身に起こる異変を叫ぶ間もなく自覚し始める。
 コンマ五秒で四肢が完全に凍てつき、
 一秒で体の各機能が失われ、
 一コンマ五秒で思考を保ったまま完全氷結、
 二秒で空気中にて解けるように完全崩壊。
 二コンマ五秒でその場に耳をつんざくほどの大爆音が響き渡り、
 三秒で轟音を残し、当人がいた証すら全て消し去った。
「この技は……ある種の有情に溢れた技だ。破壊力を優先するなら……もっと別の奴がある。ただそれをこの場でぶっ放すのは……いささか問題があるんでな」
 即座に変身を解除し、狐川に背を向ける清志郎。準備を整え、この先へと進むために脱ぎ捨てた白衣とTシャツを回収していた。
「それより……この力やっぱり疲れるね……馬鹿みたいに強い代わりにエネルギー滅茶苦茶に持っていく……オッサンになった後初めて変身したからキッツいわ……」
 倒れそうになる清志郎であったが、そこを支えるのは狐川。その目には、自身の思い通りにならなかった悲しみと、自身の詰めの甘さと、清志郎の強さに圧倒されていた思いが詰まっていた。
「……悪かった、狐川。お前さんを――送ってやれなくて。もう体がオッサンだからよ、未来あるお前さんと違ってな。最近鍛えてねえのがモロに響いてんだわ」
「馬鹿言え。清志郎さん……アンタ、本当に格好いいよ。俺なんかを……思ってくれてさ」
 その場に立ち込める、しんみりとした空気感。それは、単純に死にたいと思った自分が死ななかったことに由来するものではない。最後まで、狐川との正々堂々とした勝負を望んだからこそ、林に激昂し力を扱ったのだ。通常なら、好機と悟ってそのままに力を振るうだろう。
「――本当は、そこまで強かったんだな……アンタ。生身であんだけ張り合えて……英雄になったらそこまでの力持っているだなんて……すげえよ」
「馬鹿言え、一般人(パンピー)同然の組員ワンパン出来るお前さんに、何言われても皮肉にしか聞こえないっつーの」
 疲労感に満ち溢れた状態の清志郎は、狐川の肩を借りながら通路の先へと向かう。しかし、狐川も疲弊しきっていた。素手でのハイレベルな殴り合いによって人間としての回復能力が完全に落ちていたのだ。
 双方、完全にダメージの蓄積によって通路に倒れ込むような形で眠ってしまった。脳が無意識に「寝れば回復する」という確証を得たため、倒れ込んで数秒後には二人ともいびきをかいて眠ってしまった。
 そこに現れるのは、蛇使組構成員。『教会』に属しながら『教会』に反旗を翻す存在であるため、そそくさと二人を連れグレープの外へ向かいだした。
 これにより蓬莱エリアからも、誰もフルボディエリアに進む者は現れなかったのだった。



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 覚悟を決め立ち上がり、傍に脱ぎ捨てた白衣から、デバイスドライバー・シンとライセンス、そして見たこともないような分厚いライセンスを取り出した。
 辺りを見渡し、ある違和感を感じ取りながらそのライセンスを展開する。
「本当ならよ、これは本気の戦いにしか用いないもんだ。何なら、このフォームに変身するのは……それこそ現役ぶりだ。でも……このフォームは、疲労が段違いに大きいうえに、それほどに特別なもんだ。ありがたく思えよ」
 通称、マスターライセンス。核となるヒーローライセンスをマスターライセンス内蔵のスロットに装填し、そのエネルギーを十倍以上に膨れ上がらせ、物語の力を圧倒的にまで身にまとう。物語の力を借りて戦うのではなく、物語と共に戦う……いわば、『理論武装』の力である。
 手にしているマスターライセンスには、『新生百獣の王・狼王ロボ』。元々のロボの話をさらに発展させたもので、いわゆる「イフ」の力を纏うものである。
 本来ならシートンに狼王ロボの妻と称されたブランカを捕らえられ、囮かつ見せしめに絞殺されたことで、結果的に彼女を想っていたロボが冷静さを失い拘束された。その後かつての荒々しさを失いながらも、孤高さを失うことなく死んだ……そういった悲しいあらすじこそが通常の『狼王ロボ』だが、このマスターライセンスにしたためられた話は異なる。
 「イフ」、それすなわちブランカを喪わず、さらには人間の知恵を、力を超越した狼となったもの。彼は誰かを率いてその動物たちの軍を向かわせる……ということはなかったが、彼の凛々しく雄々しい姿に多くの動物たちが平伏し、背中だけを見てついていく。その結果、通常百獣の王と称されるライオンすら彼の後ろに付く、新たな百獣の王となったお話である。それこそが、清志郎のマスターライセンスに込められた物語の力であった。
「――行くぜ、狐川……一。お前は……本当にいい『極道』だ。だからこそ……送ってやる。前組長と――存分に酒を酌み交わしな」
「……!! ああ、清志郎さんも……いい奴だ!!」
 下腹部にドライバーを装着し、マスターライセンス内にライセンスを装填し、起動、及び展開。通常のライセンスと異なり、そのものがちょっとした小冊子のように大きいため、多少の威圧感を感じ取る。
『起動、新生百獣の王・狼王ロボ!! 傲岸不遜な人間を打倒し、新たな世界の頂点に君臨せし究極の獣王――ここに見参!!』
 ドライバー側面右側のプッシュ機構を即座に横展開、そこに鍵を差し込むようにマスターライセンスを荒々しく装填。装填されたマスターライセンスが、新たなプッシュ機構の代わりを果たすように。
 瞬時に、周囲にあらゆる動物たちのビジョンが現れる。しかし、これまでのものと違うのは、それらが鋼鉄で出来た装甲圧縮体ではないこと。しかし、清志郎の背後に雄々しく鎮座するロボは違った。超合金を思わせる寒色の輝きを放っており、全ての動物たちを雄叫び一つで統率する、それほどの大迫力を齎していた。
 さらに、辺りに絶対零度の冷気が満ち溢れ、動物たちが走り回る場全てが二度と解けない氷で覆われていく。しかしそれは動きを阻害するものではなく、それぞれが纏う鎧のようなもの。全て、これより降臨する王に仕える僕、あるいは騎士のように。仰々しい待機音と共に、清志郎の基本装甲が絶対零度の氷によって徐々に出来始める。
「――変、身!!」
 ライセンス型プッシュ機構とその逆、両側のプッシュ機構を激しく押し込み、腕を雄々しく広げ軽く俯く。
 すると動物たちが清志郎の周りに集い、ロボの雄叫びにより全ての動物たちが装甲のパーツへと変化、ロボとブランカも共に頷くと、清志郎のメイン装甲として形を変える。
 それぞれが意思を持ったように動き、一切の狂いなきようアシンメトリーの装甲へ。右側はロボとブランカを表す青と純白の狼、左側も大きな変化こそないものの、頭部装甲に動物たちのエッセンスが注入されていく。
『|The ultimate lone wolf king has joined forces with the strongest lone wolf!!《究極孤高の狼王が、最強の一匹狼と手を組んだ!!》 イフスタイル・ユナイテッドウルフ!!』
 一歩歩くだけで、圧倒的な威圧感と爆発的なほどの冷気が押し寄せる。周りの影響を一切気にせず、全てを凍てつかせる。これまでの英雄の卵たちが変身し、怪人たちと戦ってきた出力をあざ笑うかのように、次第に魔力の影響が蓬莱エリアを飛び越え波及する。
「――久々だ。これほど生身が傷ついた状態で変身することも久しぶりだ……このフォーム自体に変身するのも実に久しい。だから……一瞬で終わらせる」
 即座にドライバー両端を押し込んで、魔力をさらに増幅させていく。辺りに先ほど装甲となった動物たちが新たな鋼鉄のビジョンとなり全員集合する。ロボとブランカのみいないが、清志郎がその現身となっているため、多くの動物たちを統率し、氷結の力を纏わせ向かわせる。
 さらに両端を押し込み、それら鋼鉄のビジョンたちの全エネルギーを左足に集中させていく。
『超絶必殺承認!! |氷狼極蹴撃・葬送《アイシクル・ウルフェンズ・レクイエム》!!』
 数多くのエネルギーの奔流。それを纏った飛び蹴りが、狐川の顔面を捕らえる――――はずだった。
 狐川の頬をかすめ、直撃したのは今にも後ろから襲い掛かろうとした林であった。あろうことか、男の勝負に水を差そうとした不届き者であったのだ。
「――さっきから気づいてはいた。元あった場所に転がってない死人同然の存在がいなかったんだ。激しい拳の打ち合いの中で、轟音鳴り響いていた中で。バラした銃をせっせと組み立てていたんだろ? この金の欲に負けたクソ卑怯者が」
 普通なら怪人に向けるはずの技を、一切の情け容赦なく林に向かって打ち放った。それほどに怒りを買っていたのだ。
「……最初、お前が居なかったら……俺は狐川を送ってやるつもりだった。男同士の正々堂々とした勝負を――終わらせるつもりだった」
 蹴りの勢い、そして魔力の奔流による推進力によって、林が堅固な壁を突き破り自身の身に起こる異変を叫ぶ間もなく自覚し始める。
 コンマ五秒で四肢が完全に凍てつき、
 一秒で体の各機能が失われ、
 一コンマ五秒で思考を保ったまま完全氷結、
 二秒で空気中にて解けるように完全崩壊。
 二コンマ五秒でその場に耳をつんざくほどの大爆音が響き渡り、
 三秒で轟音を残し、当人がいた証すら全て消し去った。
「この技は……ある種の有情に溢れた技だ。破壊力を優先するなら……もっと別の奴がある。ただそれをこの場でぶっ放すのは……いささか問題があるんでな」
 即座に変身を解除し、狐川に背を向ける清志郎。準備を整え、この先へと進むために脱ぎ捨てた白衣とTシャツを回収していた。
「それより……この力やっぱり疲れるね……馬鹿みたいに強い代わりにエネルギー滅茶苦茶に持っていく……オッサンになった後初めて変身したからキッツいわ……」
 倒れそうになる清志郎であったが、そこを支えるのは狐川。その目には、自身の思い通りにならなかった悲しみと、自身の詰めの甘さと、清志郎の強さに圧倒されていた思いが詰まっていた。
「……悪かった、狐川。お前さんを――送ってやれなくて。もう体がオッサンだからよ、未来あるお前さんと違ってな。最近鍛えてねえのがモロに響いてんだわ」
「馬鹿言え。清志郎さん……アンタ、本当に格好いいよ。俺なんかを……思ってくれてさ」
 その場に立ち込める、しんみりとした空気感。それは、単純に死にたいと思った自分が死ななかったことに由来するものではない。最後まで、狐川との正々堂々とした勝負を望んだからこそ、林に激昂し力を扱ったのだ。通常なら、好機と悟ってそのままに力を振るうだろう。
「――本当は、そこまで強かったんだな……アンタ。生身であんだけ張り合えて……英雄になったらそこまでの力持っているだなんて……すげえよ」
「馬鹿言え、|一般人《パンピー》同然の組員ワンパン出来るお前さんに、何言われても皮肉にしか聞こえないっつーの」
 疲労感に満ち溢れた状態の清志郎は、狐川の肩を借りながら通路の先へと向かう。しかし、狐川も疲弊しきっていた。素手でのハイレベルな殴り合いによって人間としての回復能力が完全に落ちていたのだ。
 双方、完全にダメージの蓄積によって通路に倒れ込むような形で眠ってしまった。脳が無意識に「寝れば回復する」という確証を得たため、倒れ込んで数秒後には二人ともいびきをかいて眠ってしまった。
 そこに現れるのは、蛇使組構成員。『教会』に属しながら『教会』に反旗を翻す存在であるため、そそくさと二人を連れグレープの外へ向かいだした。
 これにより蓬莱エリアからも、誰もフルボディエリアに進む者は現れなかったのだった。