最初は相撲のようにぶつかり合ったものの、そこからは男同士、拳のやり取りが繰り広げられる。
互いに互いの顔面を殴り飛ばすも、力は若干狐川の方が上。しかし技術は清志郎が上。
それぞれがただ力任せに攻撃を加えるのではなく、的確に弱点を捉える。あるいは拳だけではなく蹴りも織り交えながらの、根性比べである。
通常なら、ある程度のブランクがあろうと清志郎が勝つものだろう、そう思うだろうが、狐川の膂力がかなりのレベルで卓越したものであったのだ。よくあるボディビルダーのような「見かけだけ」の筋肉ではない。
数多の戦いによって、何度も壊れ、何度も再生してきた「戦うため」の筋肉。清志郎が今まで戦ってきた者の中で、二番目に生身での拳が重たい存在であった。
しかし、伊達に清志郎も戦場を駆け抜けてきていない。力を振るう存在には何度も相対してきた。そのためのCQC。
乱打される拳を一部いなし、意表を突くように関節を決める。
確かに折った感覚があったのにも拘らず、狐川はもう片方の腕で無理やり直したのだ。しかもこれは関節を外したわけではない、それ以上の「骨を折った」状態から直したのだ。
「おいおい……ただの人間にしてはやりすぎじゃあねえか? 陸自でもそんな奴いなかったぞ」
「ド根性でどうにかした次第じゃ。極道の心意義さえあれば、このくらいどうとでもなる!」
「限度があるぞそれ!?」
しかもあろうことか、無理やり治した腕でありながら、今までと変わらぬ拳の威力が襲い掛かる。ガードを組みながらも、そのガードごと粉砕し清志郎を盛大に弾き飛ばす。
何とか勢いを殺しながら着地するも、そのタイミングを機と思った狐川は急速で迫りくる。
足元が酷くふらつく清志郎。そこに破壊力抜群の拳が迫る――――はずであった。
高速を超える神速のクロスカウンターが、狐川の腕をかすめ顔面に突き刺さる。
意図しないカウンターに、今度は狐川が派手に吹き飛ばされ厚いはずの壁を突き破る。
「少々騙すのは気が引けたが……『わざと』ふらついた。んで、確実に俺の顔面を狙うだろうから……そこを狙う腕に、そして顔面に。『一番いい角度かつ最高速度』で叩き込んだ。五十のオッサンの技量も、捨てたもんじゃあねえだろ」
しかし、鼻血やら口の中を切る出血こそすれど、戦闘不能にはならなかった。どころか、叩かれた逆の頬を自分でぶん殴り、ふらつきを無くした。
「――マジかよ。一番の良い角度ってのは……脳震盪待ったなしな一撃のことなんだけど?」
「目ェ覚ました咄嗟に逆の頬をブッ叩いて、脳挫傷程度にとどめておいた。ワシのワイルドさも、捨てたもんじゃあないじゃろ」
「本当だよ、陸自でもそこまでイカれた奴はいなかった。狐川、アンタに関しては……正直生半可なモンじゃあ戦闘不能にすらできなさそうだ」
どれほど卓越した戦闘技術を持ち合わせていようと、脳震盪を力技で解決するなど聞いたことがない。
だからこそ、お互い心が躍っていたのだ。
清志郎が、徹底的に状況判断能力に秀でており、そこに裏付けされた戦闘能力を持ち。
狐川が、一極道とは思えないほど恵まれた体格かつ生物として最高クラスの、
野性的な本能を持ち。
清志郎が未だ変身していないことからフルスペックを出しているわけではないが、互いに確信していたのだ。生身の存在でここまで戦えるのは、そういないと。
「――しかしよ、ワシゃあ今まで……素手で真剣にかち合ったことはない。大概、それ以外のモンで抗争はするもんじゃ。長らく欲求不満じゃったが……ワシは今ほどに欲を満たせるとは思わなんだ。ハナから裏切るつもりで教会なんぞに与したが、今この時のために、ワシは属したんやな」
静かに歩み寄っていく二人。互いに生傷が生まれ始める中、再び構え直して拳を合わせる。しかし今度は、乱暴に合わせるのではなく、新たな戦いが始まる前の儀式のように互いの手の甲を静かに合わせたのだ。
「……お、この作法を知っとるか」
「伊達に五十年生きてないんでね。戦いの前の――互いに敬意を表する証だったかな。俺は……ただこうしたいと思っただけだけど……それは狐川君も同様のようだ」
二人、静かに口角を上げると、逆の拳同士が勢いよくぶつかり合う。人体から生まれるはずのない轟音が、彼らの戦いのゴングであったのだ。