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section15「居場所は、誰のために守るものか」

ー/ー



 その晩、(casa-sora)の空気は、どこかしんと静まっていた。
 灯の訪問から数時間が経っても、誰もリビングに集まらなかった。
 部屋の灯りは点いている。生活音も聞こえる。
 でも、その“つながり”はどこかで切れてしまったように、互いを気にしながらも、誰も言葉にしなかった。


 優真の部屋。
「“楽しい家です!”ってさ……誰に向かって言ってたんだろ」
 小さな声でつぶやいたあと、枕に顔を埋めた。
(俺、外の人に“この家の良さ”を見せたかったわけじゃないんだよ)
 外にどう見えるかより、自分たちが“どう感じていたか”が大事だったはずなのに——
 気づけば、笑顔を“作っていた”。
(このままじゃ、あの時間まで全部“演技”になっちまう)
 その想いが、胸の中で小さく疼いていた。


 みづきの部屋。
 ノートパソコンを閉じ、うつぶせのまま机に突っ伏す。
(“大丈夫そうな私”を演じてるなって、自分で思ってた。けど、今日のあれは……もう、“自分を守る”ってレベルじゃなかった)
 みづきは思う。
 自分は“観察する側”にいたはずだった。
 なのに、気づけば“見られる”ことにおびえ、“型”に逃げていた。
(……演じないと、守れないと思ってた場所が、今はちょっとだけ違う気がしてたのに)
 唇を噛み、ノートを閉じる。
 本当に書きたいことは、まだ言葉にならなかった。


 真吾の部屋。
 キーボードに手を置いたまま、真吾はしばらく動けなかった。
(“記事になる”ってことが、こんなに空気を変えるなんて)
 彼はずっと、人との距離の“安全地帯”を保ってきた。
 でも、この家ではそれを少しだけ緩めてみたつもりだった。
(……やっぱり、外の目が入った瞬間、緊張するんだ)
 だけど——
「じゃあ、その空気は“誰が戻すんだ”って話だよな」
 小さくつぶやいて、そっと席を立つ。


 その頃、リビングに一人だけ現れたのは朝陽だった。
 彼は無言でダイニングテーブルの真ん中にノートを一冊置いた。
 表紙には、こう書かれている。
「casa-sora 日誌」
 ——“今日の自分と、この家のこと”
 彼は開いたページに、ボールペンで数行だけ記した。
 202X年4月・晴れ
 自分の言葉を、誰かに届けるためじゃなくて、
 自分のために書いてみようと思う。
 今日、少し嘘をついた。
 明日は、少しだけ本音で笑えますように。
 書き終えた彼は、ペンをそっと添えてページを閉じた。
「……回していこう。誰かが“今ここにいる”って、残せるように」
 ちょうどその時、階段のきしむ音がした。
 振り返ると、晴がパジャマ姿で立っていた。
「……なにしてたの?」
「ちょっとだけ、明日の準備」
「それ……みんなに見せるの?」
「見てもいいし、見なくてもいい。書いてもいいし、書かなくてもいい。ただ、“ここにいてもいい”って気づける場所になったら、それでいいなって」
 晴は少し考えたあと、テーブルに近づき、ノートに手を添えた。
「……書いてみてもいい?」
「もちろん」
 その日から(casa-sora)には新しい“伝言板”が生まれた。
 それは、声にしにくい言葉や、心のざわめきを記す小さなページ。
 何も言わずに読んで、
 何も言わずに笑って、
 何も言わずに“またここに戻ってくる”ための、確かな存在。


 誰かの目線が入っても、
 揺らいでも、
 そのたびに“自分たちの居場所”を確かめ直していけるなら——
 この家は、きっと、壊れない。



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 その晩、《casa-sora》の空気は、どこかしんと静まっていた。
 灯の訪問から数時間が経っても、誰もリビングに集まらなかった。
 部屋の灯りは点いている。生活音も聞こえる。
 でも、その“つながり”はどこかで切れてしまったように、互いを気にしながらも、誰も言葉にしなかった。
 優真の部屋。
「“楽しい家です!”ってさ……誰に向かって言ってたんだろ」
 小さな声でつぶやいたあと、枕に顔を埋めた。
(俺、外の人に“この家の良さ”を見せたかったわけじゃないんだよ)
 外にどう見えるかより、自分たちが“どう感じていたか”が大事だったはずなのに——
 気づけば、笑顔を“作っていた”。
(このままじゃ、あの時間まで全部“演技”になっちまう)
 その想いが、胸の中で小さく疼いていた。
 みづきの部屋。
 ノートパソコンを閉じ、うつぶせのまま机に突っ伏す。
(“大丈夫そうな私”を演じてるなって、自分で思ってた。けど、今日のあれは……もう、“自分を守る”ってレベルじゃなかった)
 みづきは思う。
 自分は“観察する側”にいたはずだった。
 なのに、気づけば“見られる”ことにおびえ、“型”に逃げていた。
(……演じないと、守れないと思ってた場所が、今はちょっとだけ違う気がしてたのに)
 唇を噛み、ノートを閉じる。
 本当に書きたいことは、まだ言葉にならなかった。
 真吾の部屋。
 キーボードに手を置いたまま、真吾はしばらく動けなかった。
(“記事になる”ってことが、こんなに空気を変えるなんて)
 彼はずっと、人との距離の“安全地帯”を保ってきた。
 でも、この家ではそれを少しだけ緩めてみたつもりだった。
(……やっぱり、外の目が入った瞬間、緊張するんだ)
 だけど——
「じゃあ、その空気は“誰が戻すんだ”って話だよな」
 小さくつぶやいて、そっと席を立つ。
 その頃、リビングに一人だけ現れたのは朝陽だった。
 彼は無言でダイニングテーブルの真ん中にノートを一冊置いた。
 表紙には、こう書かれている。
「casa-sora 日誌」
 ——“今日の自分と、この家のこと”
 彼は開いたページに、ボールペンで数行だけ記した。
 202X年4月・晴れ
 自分の言葉を、誰かに届けるためじゃなくて、
 自分のために書いてみようと思う。
 今日、少し嘘をついた。
 明日は、少しだけ本音で笑えますように。
 書き終えた彼は、ペンをそっと添えてページを閉じた。
「……回していこう。誰かが“今ここにいる”って、残せるように」
 ちょうどその時、階段のきしむ音がした。
 振り返ると、晴がパジャマ姿で立っていた。
「……なにしてたの?」
「ちょっとだけ、明日の準備」
「それ……みんなに見せるの?」
「見てもいいし、見なくてもいい。書いてもいいし、書かなくてもいい。ただ、“ここにいてもいい”って気づける場所になったら、それでいいなって」
 晴は少し考えたあと、テーブルに近づき、ノートに手を添えた。
「……書いてみてもいい?」
「もちろん」
 その日から、《casa-sora》には新しい“伝言板”が生まれた。
 それは、声にしにくい言葉や、心のざわめきを記す小さなページ。
 何も言わずに読んで、
 何も言わずに笑って、
 何も言わずに“またここに戻ってくる”ための、確かな存在。
 誰かの目線が入っても、
 揺らいでも、
 そのたびに“自分たちの居場所”を確かめ直していけるなら——
 この家は、きっと、壊れない。