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section13「変わりはじめた朝のかたち」

ー/ー



 月曜の朝。
 雨上がりの空はやや曇っていたが、光はやわらかく、空気は思いのほか澄んでいた。
 いつものキッチンに最初に現れたのは、真吾だった。
 鍋に湯を沸かしながら、トースターにパンを入れる。
 以前よりも、手際に“誰かの分”を想定した余裕が加わっている。
 そこへ、晴がそっと入ってきた。
「……おはよう。早いね」
「晴さんも。今日、出勤?」
「うん。でも……今日は、少し楽しみでもある」
 真吾は少し驚いたように、湯気の向こうから晴を見る。
「何かあった?」
「昨日のこと、かな。……“またごはん一緒に食べよう”って言った自分を、ちょっと好きになれたから」
 真吾はパンの焼き上がりを確認しながら、ゆっくりと微笑んだ。
「それはすごく、いい変化だと思う」
「……ありがとう」
 二人の間に、以前より少しだけ短い沈黙が流れた。


 続いて現れたのは、瑞季と桜子。
「ねえねえ、駅前の演劇講座、まだ申し込みできたよ!」
「……ほんとに行くの?」
「うん。朝陽に背中押されたのもあるけど……“誰かと違うこと”をやるの、怖いけどちょっと楽しみで」
 瑞季はコーヒーフィルターに粉を落としながら、そっと言う。
「“自分の好き”を言葉にするのって難しいけど、行動した時点でそれが始まってるんだよね」
「うん……“始まってる”って感覚、やっと少し分かってきた気がする」
 その時、階段から駆け下りる音がした。
「おはよう! あ〜、今日も生きてるな〜!」
「うるさい」
 三人の声がそろった。
「……なんで朝からそんなにテンション高いの」
 みづきがコーヒーを受け取りながらぼそり。
「いや〜、なんか目覚めよくてさ。夢の内容は忘れたけど、すっごくいいことがあった気がするんだよな」
「……あんたは忘れてるのに、それが“いい夢”って分かるの?」
「感覚感覚。体が軽かったら、いい夢ってことでしょ!」
 そのやり取りを聞いていた朝陽がふっと笑った。
「いいね。“体感”で物事判断できる人、貴重」
「でしょ! って、褒められてんのかそれ」
「褒めてるよ。俺たちって、知らないうちに“答え”を探しすぎてるとこあるし」
 そこへ、雅樹が遅れて現れた。
 少し眠そうだが、表情はいつもより和やかだ。
「昨日、スケッチまとめてたら朝方になっちゃってさ。でも、今朝の光、なんかいいなって思って撮ったんだよね。これ」
 彼がスマホを差し出すと、そこには中庭に落ちた朝日と水たまりが映っていた。
 どこか“静かな始まり”を予感させる一枚。
「……きれい」
 桜子がぽつりとつぶやく。
「写真って、“自分が何を見てるか”が分かる気がしてさ。……最近、みんなの中にちゃんと目線を向けるようになったの、自分でもちょっと変わったなって思う」
「俺も」
 朝陽が静かに言う。
「“分析してた人間”から、やっと“見ようとしてる人間”になれた気がする」
「……あたしも、今日から“見られてもいい自分”でいたいかも」
 みづきがこっそり呟く。
 瑞季はそんな声を拾って、さりげなく言う。
「その感覚、大事にしてね。“見られる覚悟”って、思ってる以上に自分を支えるよ」


 トーストの匂い、コーヒーの湯気、カップが軽く触れ合う音。
 昨日よりも少しだけ軽く、少しだけ柔らかくなった朝の風景。
 誰かの気配を鬱陶しいと思っていた日々が、
 今では、その“雑音”の中に安心を見つけている。
 まだ、全員が“何かを成し遂げた”わけじゃない。
 でも、“昨日の自分よりちょっと前に進んだ”ことを、確かに感じられる朝だった。


 日常は、派手な変化よりも、
 こうした静かな“変化の連続”でできている。
 そしてそれは、必ず誰かの支えの中で起こっているのだと、
 この春の朝、彼らはゆっくりと気づきはじめていた。


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 月曜の朝。
 雨上がりの空はやや曇っていたが、光はやわらかく、空気は思いのほか澄んでいた。
 いつものキッチンに最初に現れたのは、真吾だった。
 鍋に湯を沸かしながら、トースターにパンを入れる。
 以前よりも、手際に“誰かの分”を想定した余裕が加わっている。
 そこへ、晴がそっと入ってきた。
「……おはよう。早いね」
「晴さんも。今日、出勤?」
「うん。でも……今日は、少し楽しみでもある」
 真吾は少し驚いたように、湯気の向こうから晴を見る。
「何かあった?」
「昨日のこと、かな。……“またごはん一緒に食べよう”って言った自分を、ちょっと好きになれたから」
 真吾はパンの焼き上がりを確認しながら、ゆっくりと微笑んだ。
「それはすごく、いい変化だと思う」
「……ありがとう」
 二人の間に、以前より少しだけ短い沈黙が流れた。
 続いて現れたのは、瑞季と桜子。
「ねえねえ、駅前の演劇講座、まだ申し込みできたよ!」
「……ほんとに行くの?」
「うん。朝陽に背中押されたのもあるけど……“誰かと違うこと”をやるの、怖いけどちょっと楽しみで」
 瑞季はコーヒーフィルターに粉を落としながら、そっと言う。
「“自分の好き”を言葉にするのって難しいけど、行動した時点でそれが始まってるんだよね」
「うん……“始まってる”って感覚、やっと少し分かってきた気がする」
 その時、階段から駆け下りる音がした。
「おはよう! あ〜、今日も生きてるな〜!」
「うるさい」
 三人の声がそろった。
「……なんで朝からそんなにテンション高いの」
 みづきがコーヒーを受け取りながらぼそり。
「いや〜、なんか目覚めよくてさ。夢の内容は忘れたけど、すっごくいいことがあった気がするんだよな」
「……あんたは忘れてるのに、それが“いい夢”って分かるの?」
「感覚感覚。体が軽かったら、いい夢ってことでしょ!」
 そのやり取りを聞いていた朝陽がふっと笑った。
「いいね。“体感”で物事判断できる人、貴重」
「でしょ! って、褒められてんのかそれ」
「褒めてるよ。俺たちって、知らないうちに“答え”を探しすぎてるとこあるし」
 そこへ、雅樹が遅れて現れた。
 少し眠そうだが、表情はいつもより和やかだ。
「昨日、スケッチまとめてたら朝方になっちゃってさ。でも、今朝の光、なんかいいなって思って撮ったんだよね。これ」
 彼がスマホを差し出すと、そこには中庭に落ちた朝日と水たまりが映っていた。
 どこか“静かな始まり”を予感させる一枚。
「……きれい」
 桜子がぽつりとつぶやく。
「写真って、“自分が何を見てるか”が分かる気がしてさ。……最近、みんなの中にちゃんと目線を向けるようになったの、自分でもちょっと変わったなって思う」
「俺も」
 朝陽が静かに言う。
「“分析してた人間”から、やっと“見ようとしてる人間”になれた気がする」
「……あたしも、今日から“見られてもいい自分”でいたいかも」
 みづきがこっそり呟く。
 瑞季はそんな声を拾って、さりげなく言う。
「その感覚、大事にしてね。“見られる覚悟”って、思ってる以上に自分を支えるよ」
 トーストの匂い、コーヒーの湯気、カップが軽く触れ合う音。
 昨日よりも少しだけ軽く、少しだけ柔らかくなった朝の風景。
 誰かの気配を鬱陶しいと思っていた日々が、
 今では、その“雑音”の中に安心を見つけている。
 まだ、全員が“何かを成し遂げた”わけじゃない。
 でも、“昨日の自分よりちょっと前に進んだ”ことを、確かに感じられる朝だった。
 日常は、派手な変化よりも、
 こうした静かな“変化の連続”でできている。
 そしてそれは、必ず誰かの支えの中で起こっているのだと、
 この春の朝、彼らはゆっくりと気づきはじめていた。