土曜の夜。
シェアハウス《casa-sora》のダイニングに、持ち寄りの料理が次々と並べられていく。
「うわ、豪華じゃん!」
優真の声が響くと、雅樹がグラタン皿をテーブルに置きながら答える。
「見た目だけはね。中身はいつも適当」
「いやいや、それがいいんだよ。俺もカレー作ったけど、味は保証しないからな!」
「それ、保証しないって前提で食わせるつもりか?」
真吾が苦笑しながら皿を並べる。
「まあ、鍋を焦がさなかっただけで今日は合格点」
瑞季はパスタサラダのボウルを持ち、淡々と告げた。
「私は“火を使わないレシピ縛り”でこれ。文句は受け付けない」
「むしろ一番信頼できそうなんだが……」
みづきが、マフィンを慎重にテーブルに並べながらぽつり。
「……スイーツ枠が私って時点で、すでにこの企画がカオスな予感するんだけど」
「カオス上等!」
優真が拳を上げる。
「この場に“何でもアリ”って空気があるの、ちょっと楽しくなってきたな」
その言葉に、少し遅れてきた桜子が照れくさそうに参加する。
「私、サンドイッチ作ったんだけど……ちょっと具の量バラバラかも」
「それでいいよ。“不揃い”ってのは、それだけで“その人らしさ”になる」
朝陽の言葉に、桜子が驚いたように笑う。
「……ありがとう」
そして最後に、晴がホットプレートで焼いたチーズオムレツを持ってきた。
「形が崩れちゃって……見た目は悪いけど、味は保証する」
「じゃあ逆に安心だな」
真吾が頷きながら言う。
料理が出揃い、テーブルの上は色とりどりの皿で埋まった。
雅樹が立ち上がって、軽く手を打つ。
「じゃ、始めますか。“第一回、casa-sora飯会”!」
「カンパーイ!」
全員の声が重なり、グラスやマグが軽くぶつかる音が響いた。
会話は自然に、少しずつ転がり始めた。
「これ、誰作ったの?」
「え、それ私! 本当は別の味にするつもりだったけど……」
「その“想定外”が、むしろうまいっていうか」
「意図とズレてても、気づかないから安心して!」
笑い合いながら、互いの料理を口にするその姿は、すでに“住人”ではなく、“仲間”と呼べるほどの近さになっていた。
「……不思議だよね」
瑞季がぽつりと呟く。
「最初は、“人の気配に疲れそう”って思ってたのに。いざこうして並んでると、思ってたより疲れない」
「距離、測りすぎると逆に迷子になるよね」
みづきが続けた。
「人と一緒にいるって、別に“完璧に理解し合う”ことじゃないんだなって、最近思う」
「うん。共通の空気を吸うだけで、少しずつ気持ちが重なることもある」
朝陽が頷く。
真吾が静かにスプーンを置いて言った。
「こういう時間、……必要だったのかもな。俺たち全員に」
その言葉に、誰も否定しなかった。
「じゃあ……次も、やろっか」
ふと口にしたのは晴だった。
皆が彼女の言葉に視線を向けた。
「また、来週でも、来月でも。こうやって集まって、少しずつ話せる時間、続けられたらいいなって」
「さんせーい!」
優真が誰より早く手を挙げる。
「なにげに、晴がそう言ってくれるの、ちょっと嬉しいわ」
「……私だって、変わるんだから」
微笑む晴の言葉に、空気がふっとやわらぐ。
誰かと食事をすること。
それは、一緒に“今ここにいる”ことを分かち合う行為。
テーブルを囲んで交わされた言葉と、
同じ鍋から分け合った料理が、
彼らの中の“距離”を静かに縮めていった。
この夜、彼らは“ひとつの居場所”を共有し始めていた。