section02「部屋割りと、はじまりの距離感」
ー/ー「とりあえず……自己紹介でも、しますか」
晴が提案したのは、シェアハウス《casa-sora》のリビングに集まった初日の夜だった。
四角いローテーブルを囲む形で、8人はそれぞれ微妙な距離をとりながら座っていた。
誰からともなく目線が交差し、数秒の沈黙が流れる。
「んじゃ! 俺からいくか!」
やっぱり最初に飛び出したのは、優真だった。
「優真! 二十歳! 今は大学やめて、いろいろ挑戦中! エネルギーなら自信あるし、ここで面白いこといっぱい起こしたいと思ってます! よろしくー!」
元気よく頭を下げると、瑞季がそっと口元に手を当てて小さく言った。
「……イベントの司会か何か?」
「ほめ言葉と受け取った!」
「いや、皮肉だったけど」
「ナイス! 打たれ強さもアピールポイントに追加だな!」
「……うるさいのだけはホントに間違ってないよね」
みづきがぼそっと呟く。
それに反応して、次に声を上げたのは雅樹だった。
「じゃ、次いい? 俺は雅樹。旅人ってほどじゃないけど、国内外あちこち回ってアート作品作ってる。普段は写真も撮ってるよ。ここでは“流れに身を任せる人”としてよろしく」
「いいなー、“旅してる人”って響き。憧れるわ」
朝陽が興味津々で乗ってくる。
「朝陽。大学で心理系の勉強しながら、デザインの仕事も手伝ってる。人の話を聞くのが好きで、よく“観察しすぎ”って言われる。……今も誰が緊張してるか、だいたい分かる」
「へえ、誰が?」
「たとえば……みづきさん。手のひら、ちょっと湿ってるでしょ」
「……すご。……で、何それ、ドヤ顔?」
「わりと得意分野なんだ」
「……ま、嫌いじゃないけど」
みづきが軽く肩をすくめたのを見て、朝陽が小さく笑う。
その様子を見ていた晴が、そっと自分の番を受け取るように言った。
「……私は晴。本名は“ハル”だけど、読み方は“はる”。人と関わるのは好きなんだけど、ちょっと不器用だから……失敗しないように、すごく慎重になっちゃう。……仲良くなれたら嬉しいです」
その誠実な声に、場が少し和らぐ。
「うんうん、わかる〜」
桜子が頷きながら言った。
「私も似てるかも。熱意はあるんだけど、肝心なときに怖気づくというか……前に出るの、実は苦手で。でも、ここでは……なんか変われる気がしてるんだ」
「その“変われるかも”って気持ち、すごく大事だよ」
真吾がうなずきながら口を開く。
「真吾です。情報工学系のエンジニアやってて、基本的に地味だけど、目標に向かってコツコツ進むのは得意です。……たぶん、部屋の電気系統、誰よりも詳しい」
「よっ! 頼れる裏方!」
優真が拍手する。
「頼られるのは好きだけど、過度な期待は勘弁な」
最後に、瑞季がため息まじりに名乗った。
「瑞季。普段は小さな出版社で編集の仕事してる。……初対面は苦手。できれば最初の数日は放っておいてくれるとありがたい。気配は薄くしたい派」
「逆に言えば、なじんだら最強なタイプだな」
雅樹がさらっと補足する。
「……かもね。慣れたらそこそこ喋るよ」
こうして、8人の自己紹介がひととおり終わった。
その場の空気は、最初よりずっとやわらかくなっていた。
優真が伸びをしながら立ち上がる。
「さてとー。そろそろ、部屋割りでも決めるか!」
「もう決めたのかと思ってた」
みづきが言う。
「いや、それは民主的にいこうと思って。みんなに選ばせてあげるよ、俺の隣以外を!」
「……じゃあその隣、確定で避けるね」
瑞季が即答。
「わっ、いきなりの不人気!!」
笑いがこぼれる。その瞬間、バラバラだった8人が、わずかに“ひとつ”の集団になったように感じられた。
この距離感から、少しずつ何かが始まっていく——その予感だけが、確かに春の夜に息づいていた。
晴が提案したのは、シェアハウス《casa-sora》のリビングに集まった初日の夜だった。
四角いローテーブルを囲む形で、8人はそれぞれ微妙な距離をとりながら座っていた。
誰からともなく目線が交差し、数秒の沈黙が流れる。
「んじゃ! 俺からいくか!」
やっぱり最初に飛び出したのは、優真だった。
「優真! 二十歳! 今は大学やめて、いろいろ挑戦中! エネルギーなら自信あるし、ここで面白いこといっぱい起こしたいと思ってます! よろしくー!」
元気よく頭を下げると、瑞季がそっと口元に手を当てて小さく言った。
「……イベントの司会か何か?」
「ほめ言葉と受け取った!」
「いや、皮肉だったけど」
「ナイス! 打たれ強さもアピールポイントに追加だな!」
「……うるさいのだけはホントに間違ってないよね」
みづきがぼそっと呟く。
それに反応して、次に声を上げたのは雅樹だった。
「じゃ、次いい? 俺は雅樹。旅人ってほどじゃないけど、国内外あちこち回ってアート作品作ってる。普段は写真も撮ってるよ。ここでは“流れに身を任せる人”としてよろしく」
「いいなー、“旅してる人”って響き。憧れるわ」
朝陽が興味津々で乗ってくる。
「朝陽。大学で心理系の勉強しながら、デザインの仕事も手伝ってる。人の話を聞くのが好きで、よく“観察しすぎ”って言われる。……今も誰が緊張してるか、だいたい分かる」
「へえ、誰が?」
「たとえば……みづきさん。手のひら、ちょっと湿ってるでしょ」
「……すご。……で、何それ、ドヤ顔?」
「わりと得意分野なんだ」
「……ま、嫌いじゃないけど」
みづきが軽く肩をすくめたのを見て、朝陽が小さく笑う。
その様子を見ていた晴が、そっと自分の番を受け取るように言った。
「……私は晴。本名は“ハル”だけど、読み方は“はる”。人と関わるのは好きなんだけど、ちょっと不器用だから……失敗しないように、すごく慎重になっちゃう。……仲良くなれたら嬉しいです」
その誠実な声に、場が少し和らぐ。
「うんうん、わかる〜」
桜子が頷きながら言った。
「私も似てるかも。熱意はあるんだけど、肝心なときに怖気づくというか……前に出るの、実は苦手で。でも、ここでは……なんか変われる気がしてるんだ」
「その“変われるかも”って気持ち、すごく大事だよ」
真吾がうなずきながら口を開く。
「真吾です。情報工学系のエンジニアやってて、基本的に地味だけど、目標に向かってコツコツ進むのは得意です。……たぶん、部屋の電気系統、誰よりも詳しい」
「よっ! 頼れる裏方!」
優真が拍手する。
「頼られるのは好きだけど、過度な期待は勘弁な」
最後に、瑞季がため息まじりに名乗った。
「瑞季。普段は小さな出版社で編集の仕事してる。……初対面は苦手。できれば最初の数日は放っておいてくれるとありがたい。気配は薄くしたい派」
「逆に言えば、なじんだら最強なタイプだな」
雅樹がさらっと補足する。
「……かもね。慣れたらそこそこ喋るよ」
こうして、8人の自己紹介がひととおり終わった。
その場の空気は、最初よりずっとやわらかくなっていた。
優真が伸びをしながら立ち上がる。
「さてとー。そろそろ、部屋割りでも決めるか!」
「もう決めたのかと思ってた」
みづきが言う。
「いや、それは民主的にいこうと思って。みんなに選ばせてあげるよ、俺の隣以外を!」
「……じゃあその隣、確定で避けるね」
瑞季が即答。
「わっ、いきなりの不人気!!」
笑いがこぼれる。その瞬間、バラバラだった8人が、わずかに“ひとつ”の集団になったように感じられた。
この距離感から、少しずつ何かが始まっていく——その予感だけが、確かに春の夜に息づいていた。
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